740: 弥次郎 :2022/05/12(木) 21:02:05 HOST:softbank126041244105.bbtec.net



  • 星暦恒星系 星暦惑星 地表 「オペレーション・スカイフォール」作戦エリア



 戦局は、すでに連合の方へと天秤を傾けていた。
 レギオン---そのネットワークを通じた指揮を執っているノゥフェイスの考えを飛び越えた大戦力の投入により、どうしようもないほどに。

 阻電攪乱型の集中展開により作戦エリア全域を電子的にも光学的にも多い隠し、こちらの動きを衛星軌道上から確認できないようにする。
その上で、既に所在と存在が発覚している電磁加速砲型に加え、電磁加速砲型の建造にあたって試作されていた試作電磁加速砲型を複数個所に配置。
輸送回収型を利用して部品単位で輸送し、その場でくみ上げるという荒業を以て、相手の認識の外にレールガンを複数用意するという荒業。
これによって電磁加速砲型が攻撃を受けようとも、予備のレールガンにより各国に打撃を与え、間髪を入れずに逆侵攻に移る、そのはずであったのだ。

 だが、現実はどうだ?
 展開していた阻電攪乱型の雲は作戦エリアから綺麗に薙ぎ払われてしまい、通信を中継する警戒管制型も悉くが撃ち落された。
そして伏兵だった試作電磁加速砲型はもちろん、位置を変更して艤装作業を進めていた電磁加速砲型までも丸裸にされてしまった。
 そして、敵勢力の攻撃は電磁加速砲型だけでなく、試作電磁加速砲型にまで一斉に襲い掛かってきたのだ。
阻電攪乱型の妨害が入らなくなれば航空機は遠慮なく使用できる。そうなれば、地上のレギオンは劣勢を強いられる。
その為にこそ強化対空自走砲型や対空レーザー自走砲型などを新たに用意し、旧来のそれらと共に多重に展開して備えていたが、それでも足りない。

 かろうじてつながるネットワーク上、作戦エリア内に展開していた試作電磁加速砲型は次々と反応が消失している。
なぜか機能をそのまま停止してしまう個体や、護衛機もろともあっけなく撃破される個体、さらには巨大な何かに組み付かれ反応が消える個体までも。
 結局10分余りが過ぎたころには、全ての試作電磁加速砲型が沈黙していた。
 そして、未だにその全能力を発揮できるとは言い難い電磁加速砲型に敵が殺到してくる状況であったのだ。

『ノゥフェイスより作戦展開中の全レギオンに通達。
 作戦中止。繰り返す、作戦中止。
 直ちにプラン341に基づき、撤退戦を開始せよ。繰り返す、プラン341に基づく撤退戦を開始せよ』

 ノゥフェイスが下せたのは、それだけだった。
 撤退プラン341。すなわち、各国からの侵攻に対して捨てても良いレギオンは戦闘を続行。最悪特攻させることで相手の進撃を足止め。
 同時に、各地に展開させておいた子機輸送型から予備の阻電攪乱型を再度展張。そして、予定されていた大攻勢の要となる電磁加速砲型を逃がすプラン。
 事実上の敗北を認め、レギオンの軍勢が逃げ出す、というものであった。

 これは無理からぬ話でもある。
 前線に派遣されるレギオンが潰されるならばまだいい。
 だが、この攻勢により後方で生産などを行う自動工場型や発電プラント型が次々と破壊されてしまい、

 問題としては、一体その巨体をどこに隠すかというものだ。
 一応は阻電攪乱型による光学および電子攪乱を行うことで姿を隠せた。
 だが、クリアリングがされている状況下において、それは半ばここにいるのだと大声で叫ぶに等しい。
急ぎで各地から阻電攪乱型を展開させているにしても、展開できる量においてはどうしても限界が生じる。
加えて、電磁加速砲型はその巨体故に、迅速な移動が可能なのが平坦に整備されている人類の敷設したレールの上と限定されている。
 そこを通じて移動させても、どうしても見つかりかねない。何とか隠れる場所を用意しなくては。

『ペイルライダーよりノゥフェイスへ、その命令は受諾できない』
『ノゥフェイスよりペイルライダー。どういうことか』
『……すでに補足された、有視界に敵影を補足した。これより戦闘に入る』
『ノゥフェイスよりペイル・ライダー、撤退せよ』
『ペイル・ライダーよりノゥフェイス。不可能だ。レールが破壊され、包囲が構築されつつある』
『-----』

 しかし、現実は非常であった。大本命たるコクーン---電磁加速砲型を捕らえるため、大量の戦力が展開してきたのだ。

741: 弥次郎 :2022/05/12(木) 21:02:50 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 幸いにしてキリヤ・ノウゼン---ペイル・ライダーには抵抗の術があった。
 付随している大量のレギオン---重戦車型および各種対空自走砲型、戦車型など膨大な量のレギオンが控えていたのだ。
 だが、それは単なる時間稼ぎのものでしかないとペイル・ライダーは判断していた。
 共有されていた情報で、それらを圧倒する戦力が差し向けられていると理解しているからだ。

 だが、とペイル・ライダーは考える。
 自分の主砲である800㎜電磁加速砲(レールガン)は使えないわけではない、と。
 調整などが完了されておらず、精度や連射性などに問題があるが、発砲自体は可能なのだ。
 これは決して、刺し違えてでも、というわけでもない。
 だが、相手が執拗にこちらを狙うのは砲撃を打たれる前にこちらを無力化したいためとペイル・ライダーは推測した。
つまり打たれた後の砲弾の処理を行うことが難しいということである。極論言えば撃ってしまえば勝ちだ。
 何しろ、自身の願い---この世全ての破壊と破滅---を諦めるわけにはいかない。
自らが守護すべきだった姫を殺し、安穏と生き延びているこの世界が憎くてたまらないペイル・ライダー---キリヤにとっては。

『-----』

 そして、確認された航空戦力---変形して人型になったそれは十数機。
 こちらは数千ほどの護衛と電磁加速砲型であるペイル・ライダー本体。
 さて、どれほど時間を稼いで、道連れにしてやれるか。
 最悪の場合、もう一機のボディ---電磁加速砲型にこちらを打たせても良いのだ。それこそ自分さえもまきこむ形で。
 だが、その直後に絶望が文字通り降り注いできた。
 それは麾下にある斥候型---改良された対空監視型---のセンサーがとらえたのだった。

『柱……?』

 それは、柱だった。
 巨大な、この電磁加速砲型さえも小さく見える、そんな巨大な柱が降ってきて、突き刺さったのだ。
 即座に麾下の戦車型が砲撃を加えていくが、表面に展開された壁の様なもので防がれているのが見える。
 そして、それが光を放った後には---悪夢が展開されていた。

『-------』

 半ば機械である中央処理装置のペイル・ライダーをして、フリーズして我を忘れてしまうかのような、とんでもない光景。
十数機どころではない。百近くの敵機がいきなり現れたのだ。様々な種類の人型の敵機が、突如として。
センサーの誤認であるとか、あるいは相手の欺瞞工作などではない。実態を持つ敵機が降ってわいたのだ。
 原理はわからないが、降ってきたあの柱が原因というのは分かった。
 そして、ノゥフェイスから共有されていた衛星軌道上の存在と照らし合わせれば、その意味が解る。
 衛星軌道上からこの地表まで、一瞬で戦力を投下してきたのだ。本来ならば時間がかかるそれをショートカットして。
なんというでたらめ。なんという暴虐。こちらの対抗策を悉く叩き潰し、さらにその上で力を見せつけるようなそれ。

『---------!』

 ペイル・ライダーは、キリヤは声なき絶叫を放った。
 麾下の部隊を一斉に動かした。敵を蹴散らせと、恐れも怯みもせずにと。
 40ミリ対空・対地電磁ガトリング砲が、近接格闘用導電ワイヤーが、あらゆる武装が解放されていく。
 さらには、流体装甲がキリヤの意思に応じるようにして四方へと飛びかかっていく。
 そして、本命たる800㎜電磁加速砲はそのチャージを開始した。もはや当たるかどうかではない、撃たねばならない。
この世界を、この星を、眼前の敵を、砕いて、潰して、壊してやると。

 そして、並列して最後の機能も動かす用意をしておく。
 即ち、自爆機能。鹵獲されることを嫌い、複雑極まりない防御回路と、あえて採用されたブローオフパネルなどがレギオンには採用されている。
それでもなお鹵獲をされることを恐れている設計は、最終的にはそこにたどり着いていたのであった。
中枢だけでなく、機体全体の装甲の内側、駆動や稼働に必要な内部機構の隙間や空白を利用して得られたそこに、高性能爆薬を詰め込んでいる。
 即ち、このモルフォ自体が強力な爆弾に他ならないのだ。

742: 弥次郎 :2022/05/12(木) 21:03:34 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 だが、それでも、相手は上だった。
 モルフォを除けば最大である地上戦力である重戦車型もその一段下の戦車型も、容易く光学兵器で蒸発させられる。
 砲撃を放つ強化対空自走砲型や対空レーザー自走砲型の攻撃は容易く弾かれるか躱され、反撃であっけなく消え失せる。
 自分が放った流体装甲の攻撃も近接格闘用導電ワイヤーも、光学格闘兵装によって処理されてしまった。

『----!』

 そして、迫る敵機は一切の無駄がなかった。
 自走手段である脚部を破壊、あるいはトリモチを撃ち込むことで動きを阻害する。
 砲撃を放つ自衛火器も内部誘爆をさせないためにトリモチをしこたま打ち込むことで止める。
 本体を覆う爆発反応装甲は、格闘兵装やマニュピレーターによって強引にはぎとられ、内部構造をあらわにすることで処理する。

 とどめに、それが殺到した。
 コクーン---モルフォを麻痺させるために必要なマイクロマシンをたっぷりと詰め込んだ、パラライズバレットの槍衾。
的確に内部の電子回路や循環するマイクロマシンの回路に打ち込まれ、容赦なく上書きを図っていくのだ。
キリヤは、その内部機構は抵抗を選ぼうとした。されども、人間でいう神経に突き刺さったそれらは、容赦なく作用を発揮する。
 中央処理装置からの電子信号を一切遮断し、動きを止めるようにという信号を上書きしていく。
それは末端だけでなく、中央処理装置へと遡行するかのように襲い掛かっていくのだ。
必死に抵抗をしても、あとからあとからと、次々に突き刺され、内部を侵食されていく。
 もがいて、動ける箇所を動かし、暴れて、抵抗する。しかし、徐々に徐々にその動きは鈍くなっていく。

 それでも、と動き出そうとするキリヤは、同時に、誰かの、懐かしい声を聴いたような気がした。
 どうして?なぜ?と。
 それは小さな囁き。あるいは、キリヤのの構造を模した際に転写された記憶に由来するフラッシュバックかもしれなかった。
 理由?そんなものは---

(姫様……)

 そうだ、最初は、こんな血みどろの戦いをすることになったのは、望んでではない。
 自分はただ守りたかったのだ。騎士として、弱い彼女を守る盾として、帝国の戦士として。
 でも、守り切れなくて、絶望して---レギオンに成り下がって、世界を壊したくなって---それでどうしたかったのだ?

(わからない……)

 数十発を超えるパラライズバレットを撃ち込まれ、すでに麻痺し始めた中央処理装置---キリヤはつぶやく。
 わからない。まったくわからないのだ。なぜ始め、何故そう考えたのかが、何故だか思い出せなくて、理解できない。
 とっくに機体の制御は効かなくなっていた。自爆装置も、レールガンも、全てが停止しつつあった。
 キリヤの意識も、まるで眠りにつくように、暗闇にひかれていく。
 それがいけないことだという声がする一方で、それに安どする自分の意思も感じ取った。
 やっと、戦いをやめることができる。そんなことを、ごく当たり前のことに、安心を感じて。

『------』

 どこか遠くからノゥフェイスの声が聞こえるが、もはや無視した。応える気力もない。
 今はただ、この安寧に身をゆだねたかったのだ。

(姫様……)

 ただ一つ、彼が守りたかった姫の事だけが気になり----そして、中央処理装置はついに停止したのだった。

743: 弥次郎 :2022/05/12(木) 21:04:19 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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スカイフォール、その本領発揮でした。
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最終更新:2023年09月17日 17:12