773: 弥次郎 :2022/05/18(水) 19:45:07 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

日本大陸 日本大陸連合ネタSS 「その境目」



「つまるところは、定義づけの問題ということになります」

 日本国---通称列島日本の国会議員、自衛隊高級将校や背広組、あるいは各省庁の官僚や大臣などを前に、そのプレゼンターは言葉を紡いだ。

 その場は、通称漆黒世界が列島日本へと売り込みを検討している同世界の「バイオロイド」についてのプレゼンスの場。
先だって行われた通称日米枢軸世界の自動人形のプレゼンスと同じく、軍用バイオロイドの生産を行う企業からの営業マンが来ているのであった。
「アマクサ」、正式名を「アマクサ生体科学統合工業株式会社」、それが漆黒世界の日本において軍用バイオロイドのシェアを持つ企業だった。
より上位の企業---というか抱え元として天草財閥というのが存在しているのであるが、それに関しては割愛しよう。

 すでに、バイオロイドのプレゼンスについては完了している。そのスペック、要求される予算、運用上の注意事項などを伝え終え、質疑応答の時間である。
 だがその中で問題視されたのが「バイオロイド」という存在そのものであった。
 バイオオーガンという、生きた部品を組み合わせ、構成される生きた人形。
 限りなく人間に近く、しかして、決定的に違うその存在をめぐっての倫理的な問題が提議されたのであった。
生きている兵器を、部品を、人の一部と言っても過言ではないそれを使うことに問題があるのでは?と。
そんな列島日本側からの問いかけに対し、アマクサの営業マンは平然と答えた。

「倫理的・哲学的な問いかけとなりますが、それはどこからが人間で、どこからが部品か?となるのですよ」

 こちらを、とスクリーン上に表示されたのはバイオロイドの概念図。特に生体臓器を含む内部構造を含んだ情報を含んだものだ。

「御覧のように、当社のバイオロイドの脳は複合・複層型電子演算モジュールと、それを遠隔補助・誘導するシステムにより構成されます。
 生物の脳構造---とりわけ判断能力などに優れる哺乳類のそれをベースとして、再現されているのが特徴となります。
 ですが、これは生物と言えるでしょうか?」

 アマクサに限らず、他のバイオロイドの頭脳は多くが複合・複層型電子演算モジュール構造を採用する。
それは人間を含む哺乳類のそれを参考に、本能的な行動を司るモジュールと理性や知性を働かせるモジュールを組み合わせることにより構成されている。

「バイオオーガンというものに至りついた時、我が国をはじめ、多くの人類国家は議論を重ねることとなりました。
 皆様方が今ぶつかっているような『一体どこからが人間であり、どこまでが部品なのか』という問題に」

 その結果は、ほどなく出てきたのだ。

「我々は一つの回答に至りついたのです。すなわち、客観視される主観を持ちうるかどうか、という答えに」
「それの有無が、生物と非生物の境目、だと?」

 返答はイエスだった。

「例え話をしましょう。
 メアリー・シェリーの創作『フランケンシュタイン』。これはフランケンシュタイン博士が死体を集め、繋ぎ合わせて、生者を作り出すという物語です。
 そして、このフランケンシュタインの怪物は理想の人間とはならず、名前の通りおぞましい怪物となった。
 では同じようなことをして、本当に生者となりうるでしょうか?」
「それは……ノーでしょう。死者の肉体を集めてつなぎ合わせても生物として動くわけがない」
「その通りです。彼に倣ってバイオオーガンによって人間の臓器を再現し、脳構造も作り上げてくみ上げても、それは動きはしない。
 無論外部から信号などを入力することによって動かすことはできますが、これはあくまでも動くだけ。『それ』が自ら動き、判断することはないのです」
「つまり、外から見て主体性を持つことがないバイオロイドはどれほど精巧であろうとも。人ではない、と?」
「その通りです。
 魂、魂魄、アストラル、霊魂、精神……ほかにいくらでも言い方はありますが、それの有無こそが重要であると判断しました。
 いずれは自己完結型の独立AIによる機械生命体の誕生もありうるでしょうが……それはまだ先の話です」
「そんな曖昧なもので……」
「AIを、人間のような実用的な判断能力を持つAIを作ったことのない方々に言われても、正直なところ、痛くもかゆくもありませんな」

774: 弥次郎 :2022/05/18(水) 19:45:59 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 その返答に、誰もが口をつぐむしかない。
 そう、彼我の技術差は歴然としている。実用的なロボットやアンドロイドを開発し運用する世界と、未だに空想の域を出ない自分たちなのだから。
 誰もが沈黙を選んだのを確認し、営業マンは続ける。

「では、人間の赤ん坊は?受精卵から派生・分裂を重ね、やがて赤ん坊となります。
 一体いつ頃からが人間で、いつごろまでが単なる細胞の塊か、論じたことは?」
「それは……」
「あるいは、脳に損傷を負って昏睡状態にある人間でもいいでしょう。
 果たして脳の何%が活動を維持していれば生者で、何%以下ならば死者と定義しますか?」

 その問いかけには、誰も応えられない。
 列島日本だけではない、この世界においても未だに議論を待つ段階であるからだ。

「生者と死者、そして人を模したものの境目。
 そこについて、我々は一定の定義の線を引いております。『21gの境界線』とも呼んでおりますがね。
 無論のこと、これらは常に議論され、検証され、理論や倫理などに基づいて更新を続けています」

 そして、と端的な結論を告げる。

「人の臓器を……ええ、人から取り出したものを使うのならばそれは非合法であります。
 ですが、人工的に再現されたものであるならば問題はないと結論は出ております。ああ、バチカンも承認済みですな」
「つまり、そちらの倫理観では問題がない、と?」
「はい。だからこそ、冒頭の、貴方方の倫理観の問題になります。
 バイオロイドの導入と運用において、この倫理的な問題は否応なしについて回ります。
 これを支える技術は一つ間違えばいくらでも悪用が聞くものです。それを悪用せず、最初の目的に終始できるかと、そういう問題なのです。」
「うむむ……」

 これには誰もが顔をしかめるしかない。
 コストがやや割高だが、事実上のIOPの独占となることを嫌っての、対抗馬としての選考入り。
勿論、それありきではなかったとはいえ、ここまでハードルが高いものとなるとは思わなかったのだ。

「技術的なこと、実戦的なことをお教えすることは、我々アマクサとしましては、ご依頼があれば提供できます。
 ですが、その倫理観や道徳、観念的な問題に関しましては、長い自助努力をお願いしたいのです」

 営業らしからぬ、極めて消極的な言葉だ。
 それに対して、閣僚の一人が問いかけた。

「貴社は……他の世界の企業に便宜を図っているのですか?」
「いえ?IOPのことは存じ上げておりますが、公正な判断をしたまま、事実を述べたままです。
 仮にIOPの自動人形を採用するとしても、同じような技術的・倫理的な問題は付きまとうでしょう。
 ただ、わが社は……そしてわが国では、特にそれを重視していると、そういうことになります」
「消極的過ぎるという節がみられますので、邪推せざるを得ませんでした。失礼を」
「いえ。こうして異世界に営業を展開する、というのはリスクが付きまとうものですから。
 カスタマーと販売者という良い関係でありたいものですが、我々も利益を求め、またトラブルなどを回避したいのですよ」

 消極的というよりも、他人事なのだ。その理解が、列島日本の側には生じた。
 他国へ、異世界へと業務を展開することで得られる利益とリスク、その天秤を見ているのだと。

「日本列島政府・国民・自衛隊にとって、今だけでなく未来にとっても良き選択をお祈り申し上げます」

 そして、アマクサの営業マンが一礼することで、そのプレゼンは終わるを迎えたのであった。

775: 弥次郎 :2022/05/18(水) 19:47:04 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
漆黒世界だと倫理だの道徳だのリスクだのがしつこいくらい重視されます
まあ、是非もないよね?

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最終更新:2022年05月31日 00:40