462: 弥次郎 :2022/05/19(木) 19:50:06 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鮮血女王の戯れ」



  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4中継基地 第3シミュレーションルーム


 サンマグノリア共和国の東部に展開している地球連合軍のFOBは、大きく前進していた。
 オペレーション・スカイフォールの際に大規模な侵攻を行い、圧倒的多数のレギオンの撃滅に成功したことによるものだ。
前線に展開されていただけでもおよそ百万近く、さらには後方に展開していた自動工場型や発電プラント型の撃破にも成功している。
無尽蔵ともいえる数を繰り出してくるレギオンとはいえ、これだけの被害を受ければその補填はただではできない。時間を要するのだ。
合わせる形で、地球連合はFOSおよびFOBの前進を開始。後方となったFOBらを中継基地や補給基地とすることでこれを支える形を作った。
これは東部方面に限った話ではなく、全方位での話であった。旧共和国の領土を奪還し、縦深をより深くしていく。
共和国にとってみれば近年まれにみる、というより、開戦以来となる大進撃であった。

 無論、そんなことを共和国民は知らない。知らされない。知ろうともしない。
 流される軍の広報という名のプロパガンダだけを耳にし、飽和する真実のみを受け止めるのみ。
 外の世界のことを、すでにつながって久しい他国や地球連合のことなどニュースの端に乗ることさえもない。
端にレギオンが攻めてきていないことを報道し、これまでの戦闘で消耗したレギオンが消極的になっているなどと発表するのみだった。
少なくとも、壁の中にいる一般市民などにとってはそれで十分だったのだ。

 しかし、地球連合や星暦惑星各国からの要請---もはや恫喝であるそれ---により、自ら動きだした人間がいたのも確かであった。
その要請を見てこのままではいけないと考えていたもの、エイティシックスに押し付けた体制をよしとしないもの。
あるいはその立場ゆえに一般の知らないことを知ることとなり既存体制に疑問を抱いたもの。少ないとはいえ動きはあった。

 そして、星暦惑星現地時間の星暦2147年4月27日。
 その行動者の一人にして筆頭と言えるヴラディレーナ・ミリーゼ少佐は現在シミュレーションルームでシミュレーターに籠っていた。
何をしているかと言えば、ごく単純。訓練である。仮想の戦場の中をKMFのサザーランドで動き回り、レギオンと戦っているのである。

「ふぅ……ふぅ……来た!?」

 レーダーとセンサーの情報から、曲がり角からレギオンの斥候型と近接狩猟型の存在を感知。数は合計で7機。
 先んじてレーナの操るKMF「サザーランド」の構えたアサルトライフルの付属グレネードランチャーからグレネードが発射される。
レギオンたちが曲がり角を曲がって顔を出したタイミングをドンピシャで狙ったそれは、うまく近接狩猟型を排除することに成功する。
 だが、先頭を切ってきた近接狩猟型が盾となったのか、後続の近接狩猟型2機と3機の斥候型は無傷のままに突っ込んできて、射撃を放ってくる。

「危ない……!」

 無事な個体が爆炎から飛び出してきたのを感知した瞬間、レーナの手は操縦桿を倒し、その射線から逃れた。
ランドスピナーが即座に回転をはじめ、機体を後退させる。距離をとりながら狭い道路上をいっぱいに使って回避運動。
距離を置いて、曲がり角の方へと進む。同時に、アサルトライフルは追いかけてくるレギオンに向かって発砲された。

463: 弥次郎 :2022/05/19(木) 19:51:04 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

狙うのは胴体。そここそが、装脚により正面投影面積を小さくして立ち回るレギオンを狙うならば最もあてやすい箇所である。
当然、被弾率が最も高くなることは考慮されており、装甲は厚く設計されているのも事実である。
 だが、相手がそういう備えをしているならば、こちらにも備えありだ。装填されているのはAP弾。固め打ちすれば装甲を貫通できる。

「動きが速い……!」

 しかし、レギオンもさるもので、射撃に捕らわれないように回避運動をしながら、不気味な動きで距離を詰めてくる。
 斥候型は撃破できたとは言え、近接狩猟型はその高周波ブレードを振りかざし接近してくる。

(なら……)

 レーナは直撃を狙うことを諦めつつ、角を後ろ向きに曲がって曲がり角の向こうに逃げ込んだ。
 相手が追い付くのは数秒とかからないだろう。うかうかしていると距離を詰められて高周波ブレードによってバッサリやられる。
 だから動きは連続だ。グレネードランチャーをリロード。ついで周囲の建造物をスキャンし、頑丈そうなものをピックアップ。
それを見つけると、そこに近づきながら胸部からスラッシュハーケンを放って撃ち込んだ。そして、そのまま跳躍する。

「くっ……」

 レーナの体を覆うパイロットスーツ、そしてコクピットに備えられた搭乗者保護機構が体にかかる負荷を逃がす。
それでも、如何せんレーナの体はどうあがいても15歳の少女のものでしかなく、デスクワーク主体の彼女にとっては
 しかし、サザーランドのコンピューターはレーナの望んだとおり、スラッシュハーケンでブランコの要領で飛びあがり、建物の上まで一気に飛び上がった。
その最中にベストなタイミングでスラッシュハーケンの刃を抜いて巻き取って回収を済ませ、見事に着地を決めた。

「音響センサーは……来た!」

 そして、自分が逃げ込んだ横道にレギオンが飛び込んできて、停止するのを確認した。
 相手からすれば、突然相手の姿が消えたのだから戸惑いもするだろう。

(その隙が……ねらい目!)

 そして、レーナのサザーランドは空中へ飛び出す。
 完全に不意を突いて建物の上から相手を見下ろす状態。レギオンとて陸上兵器の一種で、上部装甲は薄くなってしまう。
設計上、戦車などを相手取ることを想定した場合、被弾するのは水平方向からがメインとなるわけである。
よって、トップアタックを仕掛ければ、被弾面積も大きくなり仕留めやすい。

「ええい!」

 そして、アサルトライフルが火を噴く。
 ほんのわずかな跳躍の時間の間に、マガジンを一気に打ち切った。残存していた5機のレギオンは、徹甲弾により一瞬でハチの巣にされてしまった。
反撃しようとロケットランチャーや重機関銃がこちらを向いていたが、撃つよりもレーナのサザーランドが姿を隠す方が速い。
 爆発音はきっちりと5個分。つまり、付け回されていたレギオンは撃破することができたのだ。
 それを確認し、一息をつきながらアサルトライフルのリロードを済ませ、ファクトスフィアを展開しつつ次の敵を探す。
広域センサーよりも索敵範囲は狭いものの、指向センサーはより遠くを、より正確に検知できる。
 そしてその情報が入ってきた瞬間---レーナは全力でペダルを踏みこみ、操縦かんを倒していた。

464: 弥次郎 :2022/05/19(木) 19:51:59 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 刹那に、砲弾が、155㎜という大口径榴弾が30㎞彼方から降り注いだ。
 長距離砲兵型の、その圧倒的な射程を活かした射撃だ。着弾数から言って複数機から打ち込まれているし、ある程度追尾されている。
 かろうじて回避の間にあったレーナのサザーランドは、次の建物の屋上に飛び移り、崩れる前に次の建物へと移っていく。
迂闊に足を止めれば鴨打にされる。その認識があったから、数百メートルは移動することを選んでいた。

(あの斥候型……撃破される直前に情報を伝達したのでしょうね)

 操作を連続しながらも、レーナはその長距離砲劇の理由を推測した。
 長距離砲兵型はあくまでも長距離砲を搭載したレギオンにすぎない。どこに敵がいるかを発見する能力は斥候型に依存しているのだ。
そうなれば、補足され続ける限り、こちらが一方的に射撃を食らうことになる。
 対処法はいくつかある。長距離砲兵型へカウンタースナイプをするか、斥候型を潰すか、あるいは姿を隠すかだ。
 あくまで有視界戦闘の装備のサザーランドでは反撃できない。だが、幸いにして砲撃の方向はわかっているので、そちらに姿をさらさなければいいだけだ。

(音響センサーの情報を統合して……)

 斥候型特有の軽い---それでもバイクくらいはあるが---足音から敵の配置を特定する。
 そして、その隙間を縫うように移動を開始しようとして、飛び込んできた重低音に動きを止める。

「!」

 重低音の重々しい音が一つ、それより少し軽い音が二つ。
 ライブラリーで検索をかければヒット。コンピューターは戦車型と軽戦車型と推定した。

(しまった……)

 一先ずビルの稜線に隠れるようにして、レーナはコクピット内で歯噛みをした。
 敵機に補足されないように、それこそ、KMFでは機動力を生かして側面や背後をとるか、大型火器を用いることで対処する大型種を回避してきた。
 だが、動きを止めすぎたようだ。一つのエリアを中心に動いていれば、やがて進撃速度の遅い戦車型などが押し寄せてくるのは明白だ。
逃げに徹すれば、遮蔽物などをうまく利用すれば、友軍の支配地域にまで後退することはできる。
 だが、どうしてもKMFの駆動には音が伴う。激しい戦闘が起こっているわけではない現状において、KMFの駆動音はそれはよく響くだろう。
そうなれば、戦車型はともかくとして、機動力に優れる軽戦車型は追撃を仕掛けてくる可能性は高い。
基本的に寡兵である以上、あまり多くの集団で寄り集まって戦うのは逆に包囲されやすい。
迂闊に姿をとらえ続けられれば、それこそ長距離砲兵型などのいい的となることだろう。

(だからこそ、機動戦、ということですね)

465: 弥次郎 :2022/05/19(木) 19:52:53 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 単に動け、ということではないと素直に理解できたのは、レーナがハンドラーであり、部隊運用という俯瞰的な視点を持っていたからであろう。
 そして、直近の課題はここ戦闘エリアからの速やかな離脱。敵は複数以上。事実上包囲状態、こちらは孤立。

(状況はよくありませんね)

 後方からの援護砲撃を狙うのもいいが、火力が強すぎるのも問題だ。
 如何せんKMFというのはその大きさなどから防御力は高いとは言い切れない。下手をすれば援護砲撃で吹っ飛ばされかねないのだ。
 よって、交戦を可能な限り避けつつ、同時に離脱を第一義としなくてはならない。それを実行するには---

「行きましょうか」

 そして、レーナは一気に操縦桿を倒した。
 それは、大胆にも広い通りに飛び出す直線ルート。スラッシュハーケンを手ごろな高さの建造物に撃ち込んでの、振り子の要領での加速を行ったうえでだった。

 着地と共に、ランドスピナーを全開。トップスピードで逃げ出す。
 こちらを斥候型や近接狩猟型が補足したのを音響センサーなどでとらえるが、あえて無視する。
一々相手にしているのでは、こちらにいくら武器弾薬があったところできりがない。
あくまでも一個の機動兵器、人型の騎兵と捉えるべきユニットで無駄に戦闘を行う必要性は乏しいのだ。

「ん!」

 ただ、一応の反撃はする。斥候型に補足され続ければ、また155㎜榴弾砲のお世話になることになるのだし。
そうでなくとも、優先撃破目標の存在を斥候型が補足すれば、それがすぐにやってくるからだ。

(軽戦車型……!)

 早くも一機、こちらに追従してきた。なんとも素早い対応だ。
 こちらがいることを前提に探していたとはいえ、それでも驚くべき速さだ。
 即座にグレネードランチャーを連発する。狙いはおおざっぱでいいので炸裂弾を2発と、斥候型の群れにジャミング弾を2発。
発生する爆炎とECM効果をもたらすスモーク。それは、レギオンの視界やセンサーを一時的にでも阻害する。
その効果を確かめる前に、レーナは前進を選んだ。ポイントはすでに目をつけてある。残っていたグレネードランチャーを連射。
おまけにアサルトライフルも撃ち込んでやって地面を砕いていき、そして、KMFの自重を込めて、一気に突っ込む。

「っ!」

 想定通り、抜けた。レーナの視界は一気に暗く染まる。
 そこは、地下に張り巡らされている鉄道網のトンネルの中だ。KMFがギリギリ通過できるレベルの。
 比較的深度の浅いそこに、先ほどの長距離砲兵型の砲弾が直撃し、それを覆うコンクリートなどの構造物が薄くなっていたのを発見したのだ。
馬鹿正直に地表を行く必要はなく、また、対空砲撃を受ける可能性のある構造物を伝う必要などない。
 その肉体的なハンデや経験不足から操縦技術に劣るレーナが、自らを生存させるために磨いた技術こそが、それだった。
 斯くして、シミュレーションにおいてレーナ機は見事に戦闘エリアからの離脱に成功。
 撃破数こそ多くはないものの、周辺環境を生かした立ち回りについては高い評価を得ることとなった。

466: 弥次郎 :2022/05/19(木) 19:54:07 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
訓練を頑張るレーナさんの様子を3話くらいで予定しております。

467: 弥次郎 :2022/05/19(木) 19:58:24 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
誤字修正を…致命傷でした

462
×何をしているかと言えば、ごく単純。訓練である。仮想の戦場の中をMTのナースホルンで動き回り、レギオンと戦っているのである。
〇何をしているかと言えば、ごく単純。訓練である。仮想の戦場の中をKMFのサザーランドで動き回り、レギオンと戦っているのである。
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最終更新:2023年08月23日 23:14