605: 弥次郎 :2022/05/20(金) 21:07:07 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鮮血女王の戯れ」2
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4中継基地 面談室
星暦惑星現地時間 星暦2147年5月19日。
サンマグノリア共和国軍から出向してきた軍人たちの訓練が始まってからおよそ一月が経過した。
軍人としての最低限の座学や教養などが身についているということもあり、彼らは早期にパイロットやオペレーターとしての専門職化に移行した。
元々即戦力化を急がれていたので、最低限の知識などを持っていることは非常にありがたい話であったのだ。
加えて、フェルドレスやMTあるいはKMFと言った兵器は習熟させるのが容易かったこともある。
発揮できる性能という意味では低いかもしれないが、それだけハードルも低く、要求される技能も低かったわけである。
必然的に要求される技術レベルやインフラのレベルに関しても低くなり、現地の星暦惑星各国が導入しやすくなったこともプラスとなった。
こういった事情から、訓練開始から1か月の時点で、サンマグノリア共和国軍人たちは個人の能力や適性に合わせた戦力を割り当てられることとなった。
現状の地球連合軍の編成は機動兵器部隊を中核とする諸兵科連合ということもあり、現地雇いのエイティシックス達も合わせ、いくらでも仕事の場は用意できた。
そして、他の軍人同様、訓練や適性検査を経たレーナは呼び出しを受け、面談を受けることとなった。
これまでの訓練や検査などの結果からどういった選択肢があり、どこを選択するのかを、教官や専門家の意見を合わせて決定するためだった。
「前線指揮官、ですか」
結果を統合したデータを開示されて出てきたのは、その役職であった。
麾下の部隊を率いて前線に赴き、直接戦闘よりも指揮管制を主眼に行い、効率的な部隊運用を行う指揮官。
第二の候補となっているのが無人機のオペレーターというのだから、根本的に指揮官に向いているというべきか。
「はい。ミリーゼ少佐はハンドラーとして訓練を受け、実戦を経験されてきました。
それを鑑みれば、無理からぬ話ではあります」
「即戦力としての配備を希望されていることを考えれば、そちらの方面の訓練に重点を置き、それ以外の割合を減らすことをお勧めします」
「そう、ですか」
レーナとしては少なからず不満というか、残念に思うことだった。
これまでは指示を出すだけで、直接戦闘に関わることはなかった日々を送っていた。
戦場で戦うエイティシックス達のことを表面上でしか知らず、それに気が付かずに過ごし続けていた。
故にこそ、前線に赴いての戦闘に従事することをレーナは考え、希望していたのだ。
「パイロットとしての適性がないとは言いませんが、要求されるところまで仕上げることを選んだ場合、どうしても時間がかかります。
ミリーゼ少佐は未だに体は成長期を迎えたばかりであり、仕上がるのを待った方がいいのは医学的にも間違いありません」
「有人機のパイロットというのは、それに加えて要求される水準が高いのも事実です。
即戦力となることを望んでいらっしゃいますが、それでは質が追い付かないということになります」
加えて、と対面する軍人はこうも言った。
「エイティシックス達もまた企業連合の現地徴用兵という形で雇用、有人機戦力として運用されていますが、些か彼らは学が乏しい。
現在も教育などを行っておりますが、機種転換や戦闘状況が一変していることもあり、地球連合の指揮下ではその能力を活かしきれない可能性があります」
「そこで、私に彼らの指揮をとれ、と?」
「一つの試みでもあります。
ミリーゼ少佐は共和国軍在籍時にも精力的にハンドラーとして活動なさっていることは承知しております。
こういっては失礼かもしれませんが、彼らのことを少なからず理解している少佐ならば、うまくいくのではと、そう期待しているのです」
その言葉に、少し唇をかみしめてしまう。
連合の言い方に悪意があるわけではないのは理解している。
606: 弥次郎 :2022/05/20(金) 21:08:06 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
それでも、ほとんどエイティシックス達のことを知らぬままに、自分の理想だけに依っていた自分がそれをできると言われても、複雑だ。
これからやるということはできなくもないだろう。だが、彼らはすでにエイティシックスという頸木を逃れている。
そんな彼らが、果たして彼らから多くを奪った白系種の指示の元で動いてくれるだろうか?と考えてしまう。
彼らは彼らの理由で戦っている。そんなところに、自分が自分だけの理由で勝手に相乗りしても良いのかと。
その迷いは顔に出ていたか、あるいは想定済みか。
面談を行っている軍人の一人が問いかけてきた。
「彼らに対し、思うところがありますか?あるいは、自らがこれまでやってきたことを恥じているのでしょうか?」
「……はい」
レーナは深くうなずいた。
思い当たるところがあるどころではない。これまで自分が、ハンドラーとして死なせてきたのだから。
そうでなくとも、悪意がないとはいえ、心ない言葉をかけてしまったり、あるいはそういう態度で接してきたのは事実。
そんな自分が、今更どのような顔をぶら下げて彼らと接し、同じように指揮をすればいいのであろうか?
危険度は下がっているとはいえそこは戦場であり、命の危険の伴う場である。そこで自分が耐え切れなくなったら、また死なせてしまうことになる。
「ですが、少佐は彼らの覚悟もご存じのはず。だからこそ、我々は他国の批難も受ける覚悟で、彼らを雇用しています。
我々とて、彼らを命のやり取りをする場に送り出すことは本来ならば避けたいと考えていました。
それに、本来ならばミリーゼ少佐も、まだ15歳という少女兵なのです。身の丈を超えた大役を担わせるのも我々にとっては問題と考えています」
言われて、ハッとするしかない。
自分は最年少だ、秀才だと周りに言われ、それでも弱冠15歳という年齢を以て少佐という階級にまで上り詰めた。
自分よりも一回りも二回りも年齢が上の人間を差し置いて、功績をあげ、軍の中で昇進を重ねてきていた。
だが、それは傍から見れば異常ということであり、エイティシックスのような事情もないのにその地位にいること自体がおかしいのだ。
「ミリーゼ少佐のその精神性やあり方は評価すべきものと考えます。
しかし、同時にこうともいえる。今一度現実と現状と、そして自らの希望に合わせて、柔軟に変化すべきだ、とも」
「……柔軟に、ですか」
エイティシックス達が戦場で迷うことが無いようにエスコートする役目を担う前線指揮官。
有人戦力のそれらを補佐し、導き、時には指示を下し、目的を達成させることを担う人材。
それが無ければ、助かる命も助からないということも十分にあり得る話であったのだ。
その役目を地球連合の人間以上にこなせるかもしれない人材を利用する、というのは少なからず両親が痛む。
さりとて、こうして共和国から出奔するようにして来た彼女の意思を無碍にするなど、それこそ無体であり、残虐とさえ言えるだろう。
だからこそ、レーナのつぶやきに応じるように、一つの提案をしてみる。
「はい。四の五の言ったところで、物事は始まりません。
一度、彼らと戦場で轡を並べて戦うというのも、一つの経験となるのではないでしょうか?」
「……」
「無論、実際に戦場でなくとも、シミュレーションでも構いません。
そのうえで、判断をしても遅くはないでしょう」
「……そう、でしょうか?」
「はい。急ぎではありませんので、選択は慎重に行った方がよろしいかと」
そして、面談はこれまでとしましょう、という言葉とともにレーナの今後を決める面談は終了となった。
次回は1週間後。それまでに必要なスケジュール変更やメンタルケアなども並行して行われることとなる。
迷いを持ちながらも、レーナは退席していった。
607: 弥次郎 :2022/05/20(金) 21:08:40 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
「あくどいことをしているよ、全くを以て」
面談を行っていた、企業連合でもトップ企業にあたるローゼンタールから出向してきたジークムント・ヒルシュピゲールは、そう漏らした。
地球連合軍麾下に出向するにあたって少佐を拝命する彼は、後方勤務を主軸とする官僚軍人だ。ブルーカラーというよりはホワイトカラー。
企業連合の現地徴用兵となっているエイティシックス達の処遇を決め、手を回している人物の一人。
そして、彼は地球連合に出向してきたサンマグノリア共和国の人々の身の振り方や処遇にもかかわる人物であった。
「それは、エイティシックス達を出汁としたことか?それとも、彼女の思考を誘導したことについてか?」
「全部だ」
同僚であり、付き合いの長い友人でもあるフランツ・ブリーゼマイスター大尉の問いかけに、言葉短くもジークムントは答えた。
「そういうもの、と割り切ってはいても、人の判断に関わるってのは、生きた相手を思い通りに動かしているようでね」
「誘導を受けていない人間など、どこにもいないさ。
教育やしつけ一つでさえも、それは誘導や強制の側面を持つ。もっと言えば洗脳だ」
「フランツはずばずば言うじゃないか…」
「ジーク、お前は考え込みすぎだ」
そういってから、フランツは深くため息をつく。
「これでかれこれ何度目だ?
後ろめたいとか、内心ストレスになっているならカウンセラーに吐き出せ。
俺は都合よくお前の愚痴を聞いてやれるほど暇ではないんだがな」
「それはそうかもしれんが……」
ともあれ、とジークムントはラップトップパソコンを操作する。
「ミリーゼ少佐の合意も取ったなら、実際に彼女とエイティシックス達をシミュレーションでマッチングさせる」
「いきなりか?」
「いや、まだ顔合わせはしない。あくまでも偶然を装った形だ。互いの素性をいきなり知っても、幸福になるとは限らないしな」
その手回しはすぐに行う。彼女のカリキュラムのスケジュールは把握できているので、そこにうまくかみ合わせてやるだけだ。
ただ、合意がしてあるとはいえ、彼女がその状況でうまく対応できるであろうかと、そう考えてしまうのだった。
「彼女も、少なからず傷を負っている。彼女のメンタルケア担当者にも確認をとってあることだ。
あの人間性でオペレーターをやるのは、まして人間ではない部品扱いの兵器の指揮管制だ、心理的負担は大きいだろう」
「……ある種の戦争神経症、あるいはPTSD。旧世紀にあった、無人遠隔操作兵器のオペレーターに見られた兆候か」
「そうだ。通勤中が最も死にやすいなどというジョークもあるくらい、戦場と日常が精神的に同じ水平線上に置かれる。
まだ自覚症状などはないとしても、少なからず彼女の精神や判断能力に影響を及ぼしていることは否定できない」
「言わないのか?」
608: 弥次郎 :2022/05/20(金) 21:09:20 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
その問いかけをしたフランツも答えは理解していた。
そう、PTSDの兆候があるというならば、後方に下げ、精神的な療養を施すのが必要かもしれないのだ。
ただでさえサンマグノリア共和国というのはグランミュール内という閉鎖環境の中での逼塞を強いられている。
その中でプロパガンダやサンマグノリア共和国にとって都合の良い情報に晒され、しかしその真実を知っているというのは、とても大きなストレスだろう。
「だが、それを彼女が受け入れられるか、という問題になる。
問題があるということを指摘することで問題が大きくなりうるならば、伏せておくのも一つの手だろう。
ケアを行うのは認知療法だけではないわけだしな」
「今は戦場から遠ざける方が逆効果というわけか」
「そういうことだ。ベクトルこそ違えども、出向してきたサンマグノリア共和国軍人はエイティシックス達同様に戦場に居場所を求めている」
それは贖罪か、それとも罰を求めてか。いずれにしても、良い兆候とは言い難いのかもしれない。
それらを含め、ジークは持論を述べる。
「それが責任感や倫理観、あるいは道徳観念からくるものであるからこそ、なおのこと強い。
人の悪意や本能に負けるものと思われがちでも、理性も理性で厄介なものだからな」
「人間というのは、厄介だな……」
「ELSと融合していると、そう思える?」
「いや、ELSと融合しているからこそ、だな。脳量子波は余計な情報を受け取ってしまうこともあるが、自分の客観化には役立つ」
ともあれ、とフランツは言う。
「彼女を嗾けたならば、相応に尻拭いはしてやるんだな」
「勿論さ」
ジークはサムズアップを返す。子供の年齢である彼女を助けるのも、いい歳を重ねた大人の役目なのだから。
そして、5日後のシミュレーション演習において、レーナはエイティシックス達を指揮管制することになった。
その際に、彼女なりに悩んだ結果であろうが、白系種であることをいきなりカミングアウトしてからひと悶着あったのだが、それはまた別の話である。
その思い切り過ぎた行動にジークの胃がダメージを受けてしまったのも、またおまけというべきか。
609: 弥次郎 :2022/05/20(金) 21:10:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
レーナは……うん、カイエの言葉を借りればアレですからね……だから暴走しちゃってもしょうがないね。
610: 弥次郎 :2022/05/20(金) 21:15:56 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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「だが、それを彼女が受け入れられるか、という問題になる。
問題があるということを指摘することで問題が大きくなりうるならば、伏せておくのも一つの手だろう。
ケアを行うのは認知両方だけではないわけだしな」
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「だが、それを彼女が受け入れられるか、という問題になる。
問題があるということを指摘することで問題が大きくなりうるならば、伏せておくのも一つの手だろう。
ケアを行うのは認知療法だけではないわけだしな」
最終更新:2023年08月23日 23:14