892: 弥次郎 :2022/05/22(日) 20:58:42 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鮮血女王の戯れ」3
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4中継基地 面談室
星暦惑星現地時間 星暦2147年5月26日。
前回の面談から1週間がたち、レーナの進路決定がなされることとなった。
面談したのは前回同様にジークムントおよびフランツ両名であり、決定書を手渡すこととなった。
「ミリーゼ少佐の希望は通りました。これより前線指揮官としてのカリキュラムに変更となります」
「前回の演習のことは驚きましたが……まあ、あれはあれでショック療法だったのではと」
「その件につきましては、申し訳ありません……」
恐縮するレーナに、ジークはしかし悪感情を抱いていない。
「ミリーゼ少佐の性格からも、むしろそうすることは想定できていましたので。
ええ、まさかあそこまでオープンにやるとは思いませんでしたが」
「謝罪に関してはあの時にたっぷりと頂きましたし……結果的には、〈キュクロプス〉…シデン・イーダ大尉たちとも一応は和解できましたからね」
ただ、とジークは釘をさしておくことも忘れない。
一応はうまく収まったから注意のみに終わるのだが、一つ間違えば問題となっていたのだから。
あの後はエイティシックス達からは文句も言われた。まあ、一応レーナからの事情説明に納得はしていたようだったが、それはそれだ。
「あれは一歩間違えば大惨事になりかねないことでした。
ミリーゼ少佐の感情などを考えれば無理からぬ話ですが、問題であったことはお忘れなく」
「はい」
とはいえ、言うことを我慢できない人間性こそがレーナの善性の一端であり、そういう人間だからこそ連合は出向を認めたのである。
試験的に指揮をさせてみることによる能力の査定などもやる必要があったのだし、隠し通すにも無理があったのは確かだ。
つまるところ、責任は両方にあり、片方だけを片方が一方的に攻め立ててよいというわけではないということになる。
「ともあれ……ミリーゼ少佐が真摯に向き合う姿勢を示したというのはエイティシックス達にとっては悪い話ではないでしょう。
彼らも理解を示していたように、共和国にも見るべき人間はいるということですし」
「その通り。では、話を戻すとしましょう。
前線指揮官、それも現行のMTやKMFを有人機無人機問わず指揮し、加えて自分の機体での戦闘もこなすという、非常に多忙な職となります。
これまでは指揮官とパイロットの訓練を別個に行っていましたが、これを同時にやってもらうこととなります」
「はい」
改めて聞くと、無茶な頼みをしたものだとレーナ自身も思う。
指揮官としての技能はともかく、パイロットとしての能力はお世辞に言っても高くはない。
それは年齢的肉体的なことに限らず、経験が乏しいからという問題が付きまとっていることだ。
これから訓練を重ね、その上で場数を踏むことによって着実に改善していくことは可能であるが、それは時間が必要となることだ。
「とはいえ、ミリーゼ少佐のパイロットとしての技能を鑑みるに、何らかのケアは必須といえます」
「うっ……」
「まあ、ミリーゼ少佐がまだパイロットを始めるには早すぎる年齢で、尚且つ訓練期間が短いのですから当然です」
それは事実だと言われても、ぐさりと刺さるものがあるのも事実だ。
「とはいえ、全く備えがないわけではありません。ミリーゼ少佐がパイロットとして習熟を待つのも時間がもったいないですからね」
「…そんな、都合の良いことができるのですか?」
「はい。実際に見ていただき、ついで試乗してみるのがよろしいでしょう」
レーナのタブレット端末に書式一式が転送されてくる。
「ミリーゼ少佐。この後はすぐに第五格納庫の方へお願いします。
現地で担当者が割り当ての機体について説明を行いますので」
「了解しました」
敬礼と共にレーナは部屋から送り出されることになった。
また一歩、最前線へと不可逆的に近づく、そんな音が扉の閉まる音に重なって聞こえた。
893: 弥次郎 :2022/05/22(日) 20:59:21 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
- 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4中継基地 第5格納庫
銀色にも近い白、それに交じる流麗なる金色、そしてアクセントの赤。
戦場には不釣り合いと思えるほどに、その巨人は華麗であった。
味方によっては華奢とさえ言える、どことなく女性的な、あるいは性別の垣根を超えたかのような造形。
しかしそれは、決して頼りなさとイコールになっていない。むしろ、余計なものを切り落とし、洗練させているとさえ言えるかもしれない。
何しろ、レーナをして、その造形は彫像や彫刻を思わせるような優美さと力強さが両立しているのだ。
自分の搭乗機となる、と紹介されたそれがカバーの陰から現れた時のレーナの反応は、あえて語るまい。
「それでは、紹介を始めましょうかね……」
そして、レーナの機体に専属となると自己紹介してきた整備士長のサイ・ラーズ曹長はその機体データを表示しながらも、紹介を開始した。
「IFX-V303V ガウェイン・ミラージュ。こちらはミリーゼ少佐専用にカスタマイズされています。
元々は地球連合の恒星系内に出現した巨大惑星『融合惑星』に転移してきた国『神聖ブリタニア帝国』が開発したKMFをベースとしています。
ミリーゼ少佐が訓練で用いていたサザーランドと出所は同じですね」
「サザーランドと同じ…」
「まあ、これは資料でも閲覧してもらえますが、ブリタニア帝国の存在した世界ではこのKMFというのが主兵力となっております。
元々は陸上兵力、現代の騎兵というポジションで運用される兵器でした。その後は空・海・宇宙とその範囲を広げています。
まあ、それはさておき……」
咳ばらいを一つしたサイは本題に入った。
「ミリーゼ少佐のポジションが前線指揮官……無人機及び有人機の両方を指揮管制し、麾下の部隊と共に戦うというので、これに合致する機体です。
元々はガウェインという機体がそういう運用をされたほか、それの発展機がそのように運用されたこともあって、極めて適合しています」
「指揮管制に向いている、ですか?」
「はい。あれですねぇ、指揮管制のための設備とシステム・機材一式がコクピットの中に綺麗に収まっているようなものですよ」
「あれだけの設備が……」
レーナが経験したことがあるのは、共和国の指揮管制システムと、地球連合の標準的なそれの二種類だ。
後者の方がより多くの情報を処理し、より多くの部隊を管制するために開発されていることは分かっていたが、それが押し込まれているのか。
建物に設置されるようなそれらを、まとめて機動兵器のコクピットに押し込み、あまつさえそのまま戦わせようと思った理由は理解しがたいが。
「もう一つのベース機となった機体…ああ、こちらはワンオフハイエンド機でしたが、そのパイロットはこういったそうですよ。
『王が自ら動かなければ、部下はついてこない』と」
「王、ですか…」
「ふんぞり返るだけが上に立つ人間じゃないと、自ら規範を示して率いろと、そういうことなんでしょう。
まあ、私は所詮は又聞きなので何とも言えませんがね」
ともあれ、と説明を長々するよりも、とサイはレーナを促した。
「どうぞ、コクピットの方へ。資料とにらめっこしているだけではわからないこともありますからね」
背部にあるサザーランドと似たような、しかし独自の形状を持つコクピットブロックに上がるための昇降車がレーナを待ち受けていた。
「はい」
レーナは、意を決してそれに乗り込んだ。
昇降車で昇り、開けられていたハッチから入ったコクピット内は、案外広い。
無論、機動兵器に乗せるコクピットブロックという縛りがある関係から指揮管制室よりは狭いが、サザーランドよりは広かった。
手足をある程度伸ばし、自由に動かしたりする余裕がある。操縦桿、メインコンソール、フットペダルなどもサザーランドと同じだ。
水平方向だけでなく機体下部や上方も一枚のモニターで見渡せる全天周囲モニターの亜種を使っているのはわかる。
894: 弥次郎 :2022/05/22(日) 20:59:51 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
だが、変更点が見受けられた。大きなモニターがいくつも増設されているのだ。明らかに周囲を観測するためではない。
むしろこの配置から考えるに、コクピットに座った人間が無理な姿勢変更など行うことなくモニターの情報を見て処理できるようにと考えられている。
『こちらラーズです。ミリーゼ少佐、聞こえますでしょうか?』
「はい、問題ありません」
『では一先ずシステム立ち上げをお願いします。渡してある起動キーと、声紋・網膜認証が必要ですので。
やり方自体はサザーランド同様なのでお願いします』
「はい」
立ち上げを行うと、サザーランドの時とは違うOSが立ち上がり、ついでに補助システムも起動したことを告げる表示が出る。
(戦闘・戦術運用支援AIシステム「エルビス」……)
そのシステムの名は、希望。厄災を収めた箱の底に残っていたモノの名を冠するシステム。
「認証を完了。メインシステム、通常モードを起動」
『了解しました、少佐』
「えっ!?」
音声入力システムによりメインのシステムの表示を命じたレーナは、その予想だにしていなかった返答の声に変な声をあげてしまった。
そのことに若干羞恥を覚えつつも、同時にその声が聞いたことがある、というか日常的に聞いている声だと即座に理解できた。
「貴方ですか、リーガルリリー……」
『お察しの通りです、少佐。不肖リーガルリリー、戦場でもお供させていただきます」
『気が付きましたか、少佐?』
サイからの通信に、レーナは問いかける。
「曹長、これは……」
『詳しいところはリーガルリリーさんに聞いてください、と言いたいところですが、一応説明をします。
ミリーゼ少佐は指揮能力などはありますが、操縦経験などが乏しく、この機体の操縦をしながらの指揮は難しいと判断しました。
指揮官機である以上真っ先に狙われることは確実でありますし、そうなれば部下も道連れという形になってしまいます。
そこで、補助役となるAIに操縦をサポートさせ、搭乗者である指揮官が指揮に集中できるようにと設計されています」
『そして、そのAIとして私リーガルリリーがインストールされることとなりました。
私のボディはあくまでも物理的な器にすぎません。その気になればKMFにも、MTにも、あるいはMSにもインストールされることが可能なのです』
『そして、少佐を戦場でサポートするのに最もふさわしいのは、少佐とこれまでに行動を共にしていたアンドロイドの誰かがふさわしいと判断されました。
最も情報蓄積量が多いのは、専属の4名でしたので。そして、彼女たちには機動兵器操縦やその援助を行うシステムをインストールを済ませ、準備しました』
「もう……」
なんて用意周到なのか。
だが、おかげで気が楽になったのも確かだ。見ず知らずの人間やアンドロイドよりも、知っている相手の方が安心する。
相手もこちらのことをよく知っているからこそ選ばれているようであるし、そういう意味でも信頼できる。
命のやり取りを行う場、戦場であるならば、一瞬の油断が死につながるのだから。
「改めて、よろしくお願いしますね。リーガルリリー」
『はい、少佐』
そうして、レーナは愛機となるガウェイン・ミラージュ Type-Vとの邂逅を終えたのであった。
895: 弥次郎 :2022/05/22(日) 21:00:25 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
レーナさん視点、一区切りです。
実はレーナさんの専属のアンドロイドの名前をつける時にリーガルリリーと名付けたのは何となくだったんですよねぇ。
ですが、よもや二期のエンディングのアーティストが「リーガルリリー」だったとは……これも運命か。
次のお話はブレンヒルトさんたちオカルト関係者の暗躍です。
最終更新:2023年08月23日 23:15