116: 弥次郎 :2022/05/24(火) 23:00:35 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「Hyde&Exorcise」
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 旧東部戦線 旧前線基地 「レークイヴェム・オーケスタ」拠点
現地時間星暦2147年3月28日。
かつて、エイティシックスという烙印を押された人々の生活していた共和国の前線基地。
すでに居住者であったエイティシックス達は軒並み引っ越してしまい、あとは空になった施設だけが残されているだけの空間。
グラン・ミュールの迎撃砲の射程内ということで、誤射を嫌った地球連合軍はここに戦力は置くことはなく、そのまま放置されている状態であった。
グラン・ミュールの内側に籠る共和国にしてみれば、エイティシックス達の面倒を見る必要がなくなったので、それは歓迎するものであった。
豚への餌や豚の生活に必要な電力もただではない、ということである。それを他国が肩代わりするならばその分だけ国内に余裕が生まれるということだ。
そんなこともあり、共和国政府も軍も、すっかりその旧前線基地への興味を失っていたのであった。
元より監視というのも半ば惰性で行われているものであり、豚と接することが減って喜んだ人間もいたほどに。
しかし、それはある意味で地球連合にとって、地球連合の裏側の人間にとっても歓迎すべきものであったのだ。
監視の目もなく、地球連合の表の戦力も底には駐留しておらず無人の場所。そこであれこれを行うのは好都合ということである。
そして、この旧東部戦線跡地で一体何が進められているかと言えば、工事であった。
それも生半可な工事ではない。地下での大規模工事であった。
地上に設営が進む大規模な魔法陣---サンマグノリア共和国のグラン・ミュールを囲い、霊の浄化を行うものとは違うもの。
即ち、蠱毒となっているグラン・ミュール内部に働きかけて、悪いものを地下から抜き取ろう、というわけである。
地下に浸透した怨念や霊たちを引き抜くことができればいいのであまり大規模な工事とする必要性は乏しい。
最も、引き抜く範囲がかなり広く、尚且つ長年放置された霊たちを供養する方が大変なのは確かでもある。
(これだけでも厄介なのに、さらに内側に行かなきゃならないなんて……)
そんな工事が地下で進んでいる様子をモニター越しに観察するのはブレンヒルト・シルトであった。
彼女はこのサンマグノリア共和国の唯一の領土であるグラン・ミュールの地下と外側で進む工事にはあまり関与していない。
設計や企画などの段階では関与しているが、実際に行っているのは無人機やアンドロイドたちであるからだ。
加えて、彼女の本命はもっと危険度の高い任務、すなわちグラン・ミュールへの直接侵入と除霊任務なのだから、この程度のことで手を煩わせる必要はない。
時折上空から偵察機で観察するだけでも、この土地のまずさはありありと伝わってくるのだ。
最も、連日の除霊活動のおかげで、だいぶマシになっていることも確かである。
「あと1週間余り……か」
予定されている作戦決行日---グラン・ミュールへの直接侵入任務は一週間余り後だ。
今眼下で進む地下回廊の構築工事はあと20日もすれば浄化設備との連結が完了し、グラン・ミュールの浄化を開始する。
だが、その前にやるべきなのは内部に残る強力な霊の排除である。精鋭部隊が忍び込み、目星のついているエリアの浄化を行うことになっている。
その為に、「レークイヴェム・オーケスタ」からは精鋭が選び抜かれ、さらには極東系のオカルト関係者も同道することとなっている。
ただ、およそ1週間後の予定なのは、地球連合の表の戦力が「オペレーション・スカイフォール」の準備で多忙な隙をつくためだ。
117: 弥次郎 :2022/05/24(火) 23:01:42 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
とはいえ、前哨作戦を含めてもオペレーション・スカイフォールで稼げる時間は短い。
前段階はもう始まっており、作戦当日は1日で終わるし、一番稼げても作戦完了後の処々の後始末の時間のみ。
その間にことをすまさねばならないのだ。スピードと確実性、そして夜間であろうと明るい内部での隠密性が重視される。
(そして……)
ブレンヒルトの目は、用意されている重装備や強力な概念礼装のリストに向けられる。
内部は控えめに言って地獄。そこに突入するメンバーは、通常の行動に付随するものだけでなく、強力な装備の使用が許可されている。
量産品でもグレードの極めて高いものか、あるいは量産を度外視したハイエンド品が使われることになる。
それこそ、鎮魂の曲刃に及ばなくとも一品モノを保有する技能者を投入するという力の入れようだ。
ただ、一つ気になっているのが、上空からの霊視索敵によって発見された重度汚染地域が、第一区をはじめとした中心地に集中していることだった。
上空から多角的に観測した結果でも、特にひどいのは中央に該当する第一区。すなわち、政治経済軍事あらゆる国家の中枢と呼べる場所に集中している。
無論、そこに人が多く生活しているため、というのはあるだろう。人が密集して生活すれば、それだけ負の念も濃縮される。
だが、それを差し引きしても、あまりにも集中しすぎているのだ。強制収容所や旧前線基地や戦闘エリアでもあるまいに。
だが、ブレンヒルトは経験則としてこの手のことをよく理解している。
およそ300年ほど前に革命が起こったことで共和制に移行したというこのサンマグノリア共和国。
その国民の情緒や国民性については現在はユーラシア連邦に含まれている旧フランスのそれが参考となるだろう。
まして、レギオンとの戦いが始まって序盤で大打撃を受けた直後に、革命ともいえる大統領令第6609号に基づく戦時特別治安維持法を施行した国だ。
その際に発生した騒ぎや狂乱などは、あるいは戦争で荒れた国民の心理が生贄を求めて行動した結果は想像だに難くはない。
文字通りの、感情を鎮めるための生贄。国家という怪物が満足するまで貪った結果の、後始末。
(あまり、考えたいことではないわね)
裏の世界に身を置けば、如何に人間がお題目を掲げながらも汚いかを、醜いのかを理解できてしまう。
表という世界の反対にいるからこそ、表のことをよく理解できるとはなんという皮肉だろうか。
「覚悟は……しておいた方がよさそうね」
作戦前の心理的負担を軽減するカウンセリングは真剣に受けたほうがよさそうだと、ブレンヒルトは思う。
長く生きているとカウンセリングがあまり意味をなさないことも多いのだが、同時に、長く生きているが故の予感があるのだ。
今回の潜入作戦にとんでもないものが待ち受けているのではという予感が。自分はともかく他の隊員などが無事である保証もない。
だから---
「?」
そこで、ふいに自分の膝の上に重みを感じる。
それは、使い魔の黒猫だった。いつの間に入ってきたのか、それとも考え込みすぎていたのか。
ともあれ、やることは一つだ。
『ブレンヒルト…?わ、ちょっと、ギャーッ!?』
一先ず、無粋なタイミングで自分の思考の邪魔をした黒猫を、窓から投げ捨てることにしたのだった。
118: 弥次郎 :2022/05/24(火) 23:02:41 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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いよいよ、作戦決行と相成ります。
最終更新:2023年07月10日 20:14