178: 弥次郎 :2022/05/26(木) 00:20:00 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「Hyde&Exorcise」2


  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 グラン・ミュール内 第一区 上空


 現地時間星暦2147年4月7日。
 装備の調整と準備が長引いたことにより若干の延長を挟んで、秘匿作戦である「ハイドナイト」は決行された。
現地時間の2時ごろ、人々が眠りにつき、対空監視の甘くなる時間を狙っての空挺降下から始まったのだった。

(っ……もうこの時点で!)

 高高度からの降下用装備---霊的な防御も含めたそれを纏うブレンヒルトは、重力にひかれて接近してくるおぞましい世界を認識していた。
 その世界は白だ。ただし、何もなくていくらでも書きこめる白紙という意味合いでの白というわけではない。
 他の色を絶対的なまでに拒絶し、何にも染まることを許さないという意味での白であった。
 清廉で、清潔で、無欠に思えるそれは、しかし、色とは全く違う汚さや醜さで飽和していたのだった。
 身にまとう防御礼装がすでに稼働している、しかもかなり強力に動いていることから、それの異常さもうかがえるというものだ。
 まったく、これが全く無意識に作られた人工の地獄とは信じがたい話だ。

(想像力を飛び越えてきたわね……)

 そんなことを考えている間に、高度は人の視認できる領域に入り始めた。
 夜間とはいえ光の眩しい第一区に突入する関係上、このままでは光に照らされる可能性がある。

『各員、規定高度に到達したわ。光学迷彩を起動』

 「レークイヴェム・オーケスタ」の精鋭部隊は、その声を合図に環境追従型熱光学迷彩を起動した。
 刹那の間に、その姿は光学視認からは消え失せ、同時に対空レーダーなどからも逃れるものとなる。
 同時に着地に備えて姿勢制御を行う。パラシュートなどでは目立ちすぎることから滑空翼を有するそれで緩やかに減速。
さらには魔術によって速度を削っていきながら、目標の建造物へと接近していく。

(さて……)

 そして、目標としていた地点---第一区の高い建物の屋上へと、総勢40名が着陸に成功した。
 遮音結界と振動を抑制する結界を張り巡らせたことで、その衝撃と音は全くと言っていいほど外に漏れなかった。
 稜線に隠れた後は光学迷彩を解除し、終結する。空挺のための装備を外す。
 しかし、顔を覆うマスク一式だけは決して外しはしなかった。そこだけが、通常の空挺降下のそれとは違っていた。
何しろ、ここに来た時点ですでに分かりやすいほどに、不浄と負の念で満たされているのだから。

『気分はよくありませんね、隊長……』
『ええ。けど、ここはまだ入り口にすぎないわ。ともあれ、ここから先は防護マスク着用必須よ。
 予定通りここにベースを設営して装備の受領。人払いも忘れずに行って』
『了解』
『ベース専属に4名と、交代要員6名を置いておくわ。
 残りは3つの班に分かれ、予定通りに行動を開始』
『了解しました……重装備コンテナ、来ます』

 その声とともに、上空から遅れて投下されてきた重装備類が到着する。
 除霊用の個人装備の中でも重武装に該当するそれらは、今作戦の要であった。
何しろ、このサンマグノリア共和国内の状況なのだから、いくら防御を固めても足りないことはなく、想定されるレベルは早々にないレベル。
ブレンヒルトもコンテナに格納されていた鎮魂の曲刃を取り出し、状態のチェックを行う。
 十分もしないうちに総員の準備が整ったのを確認すると、ブレンヒルトは改めて合図を出す。

『さて、行くわよ』

 そして、精鋭たちは10人ずつの隊に分かれ、一斉に動き出す。
 闇夜に紛れ、気配と姿を消し、存在を隠しながらの極秘作戦。それが始まったのだ。

180: 弥次郎 :2022/05/26(木) 00:20:54 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 「ハイドナイト」の人員が使うステルス装備は2種類存在する。
 まずは一つに、空挺降下時にも使用した科学的な知見に基づく熱光学迷彩だ。
 そしてもうひとつが、魔術的なモノ。人の無意識に働きかけ、注意力を散漫にさせ、行動を誘導する。
意識をしていなければ人間とは案外周囲をよく見ていないもので、それを誘発させることになるのだ。
だから、なんとなくその魔術的ステルスを使う人間が行く道や方向にはいこうという気が湧かなくなり、あるいはちょっと油を売りたくなるのである。
そういった意味でのステルスの二重。これにより、姿も見えずわずかな痕跡に誰も意識を向けることのない存在が出来上がるのだ。

(私たちの担当エリアは、死者の多いエリア。なぜ、この共和国第一区という中心地にそれが感知されたのかも、調査対象……)

 鎮魂の曲刃を持つブレンヒルトが部隊長を務めるのも、その調査が目的だ。
 かなりの嘆きと憤り、怒り、苦しみというものが積み上がっているのが感知されたのだ。それを読み解くには死者の魂と対話するしかないのだ。
 首都のど真ん中でそんなことが起こっているというのは尋常ではあるまい。革命が起こった旧フランスではあるまいし。
あの時代は、資料によれば特S級の事案---ヤーナムの遺物がかかわっていた可能性も示唆されている。
それ故に人は狂気に飲まれ、狂乱のままに動き、多くの血を流した。その結果、当時のフランスはナポレオンの時代の終焉までかなり裏表が入り乱れたのだ。

(けれど、あれは長い時間をかけての蓄積の結果……ここまで急激ではなかったはず)

 そう、白系種以外を迫害する政策が実行され、このグラン・ミュールによる防衛体制が構築されてからまだ10年と経っていないのだ。
 フランス革命に至るまでには裏の策動があったとはいえ、時間がかかったことは言うまでもないこと。
このサンマグノリア共和国に比較すれば長い時間と積み重ねがあったからこその歴史に残る事象として残っているのだ。
 無論のこと、これが雪崩式に悪化したという線も考えられるが、このグラン・ミュールは地脈としてのポテンシャルがとびぬけているわけでもないのだ。
人が自然と集まり、首都となり、今もなお国家の残りを受け入れることになっている土地なのだから、相応に「格」は高い。
だからと言って、これほどの現象を引き起こせるかと言われると、首をかしげるしかないのだ。

(あるとするならば……人的な要因)

 建物の上を飛び越えていくブレンヒルトは、思考を加速させていく。
 ここで人が多く死ななければならないような何か、それこそ、嘆きが今になっても喧騒のように残り続けるような何かが起こされたということになる。
 そして、それが起こるような何かとは?という推測は、作戦前から行われていて、ある程度候補を定めていた。

『ここね……』

 サンマグノリア共和国の首都リベルテ・エト・エガリテ。
 そこの一角にあるのが、共和国工廠特別技術開発局。RMIの管轄下にあり、通常の兵器とは肌色の違うものを開発している。
 エイティシックス達の証言と実演によってその存在が明るみになった、極めてオカルト的にも興味深い技術。

(パラレイドデバイスの開発拠点……)

 ある人種がもつ固有のテレパスに近い能力を人為的に再現し、あらゆる科学的な妨害の影響下でも通信や情報共有を可能とするシステム。
阻電攪乱型の影響さえもなく、前線のプロセッサーとハンドラーを結び、指揮管制を可能とするための画期的な発明ということ。
 こういう言い方をすると失礼ではあるが---どう考えてもきな臭いどころではない話だ。

181: 弥次郎 :2022/05/26(木) 00:21:32 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 テレパスに始まるその手の異能というのは、C.E.世界においても表の為政者や研究者によって研究されたことはいくらでもある。
 だが、それらは裏の存在を表の力で再現しようとした結果、多くは失敗に終わるか、荒唐無稽な理論で無用な浪費を招くだけに終わっている。
それは裏の勢力が密かに潰したり妨害したりといったことをしたことも関与しているが、根本的に科学とオカルトが違う領域だったことに由来する。

 だが、それはあくまでもC.E.世界での話となる。
 もしも人為的にその手のテレパスを再現しようとしたら?
 人種に関係なく今もサンマグノリア共和国において運用されているそれらは果たして綺麗に生まれてきたものであろうか?

(それは絶対にありえない)

 人間ではありえないような跳躍でもって、ブレンヒルトらはその建物の塀やら何やらを軽々と飛び越える。
隣の建造物からの距離がそれなりにあるのだが、そんなことはお構いなしに、だ。

『……地下、ですね』
『ええ、死者の念が地下にたっぷり染みついているわ』

 カタカタと、鎮魂の曲刃が震えている。驚きか、興奮か、怒りか。これだけの魂に驚きを隠せないようだ。

『あれだけ便利なシステムが、そんなに綺麗に且つ都合よく生まれてきている時点でおかしかったのだから……やはりというべきね』
『インプラント施術も行われておりましたからね。そんなもの、如何に医療技術に優れているというこの国でも、一朝一夕で出来るはずがない。
 公式記録によれば、開発が始まったのはレギオンの侵攻が始まってからですから』
『そこから急速に実戦配備が進んで今もなおアップデートをしている……考えられることは一つね』

 屋上に総員10名が着地。
 素早くクリアリングと監視カメラなどの存在がないかの確認が行われ、出入り口に素早く殺到する。

『人体実験。被検体はおそらくエイティシックス達。人間でないと規定すれば、人の倫理観(タガ)は容易く外れる』
『ほぼそれでしょうね……』
『そして、証拠はここにあると……開きました』

 電子ロックがされているが、その程度は容易く開けられる。オカルト関係者と言えど、その手の電子戦能力も求められるのだから。
 そして室内突入の準備を整え終えたところで、ブレンヒルトが改めて通達する。

『改めて確認だけど、私たちの存在は存在していないわ。
 痕跡を残さず、物証も残さず、誰にも接触しない。あるいは接触したとしても忘れさせるなどしておくこと。
 非公式の作戦で、尚且つ裏の私たちの関与は存在してはならない。分をわきまえること……何があってもよ』
『……了解』
『承知』
『……行くわよ、覚悟を決めて』

 ポイントマンがドアを慎重に開け、クリアリングをし、足を踏み入れる。
 HQへと目標の建物への侵入を報告しながらも、ブレンヒルトらは突入を開始した。
 まさしく、地獄への入口へと飛び込んで行くがごとく。

182: 弥次郎 :2022/05/26(木) 00:22:34 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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最終更新:2023年07月10日 20:17