373: 弥次郎 :2022/05/27(金) 21:47:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「Hyde&Exorcise」4


  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 グラン・ミュール内 第一区 共和国工廠特別技術開発局 最下層


 任務を終え、ここにいたという痕跡の抹消を行いつつあるブレンヒルト率いる部隊は、撤収に入り始めた。
多くの痕跡が他のものと入り混じってごまかされるとしても、普通ならばありえない人間が入った痕跡はそこかしこに残る。
 まして、このような機密の高い場所に入り込んだのだ、何か一つ痕跡が残っていれば大騒ぎとなりうる。
 だから着実に、一番奥の部屋から順々に証拠を隠滅していく。監視カメラやセンサーなどの欺瞞も忘れない。
こういう場所だから、意外なところに隠して配置してあったりする者なのだ。
 そして、そんな撤収作業が行われる中で、ブレンヒルトは突如として沸いた問題に直面していた。

『まさか、ここに人が残っていたなんてね……』

 そう、誰もいないかに思えたこの施設内に人が残っていたのだった。
 その人物、白系種の20代の男性は拘束して動けないようにしている。
 元々気を失った状態で発見されていたのであるが、目を覚まされても厄介なので催眠状態で眠らせてある。

『生体スキャンを潜り抜けたというの?』
『そりゃそうですよ……この人、死にかけですから』
『原因は……まあ、そういうことでしょうね』

 すっかり弱り切って横たわっているその人物は控えめに言っても死にかけている。
 保護結界の中に入れておかなければそのまま死んでしまったであろうほどに。それがどれほどかと言えば、生体スキャンから逃れるほどだ。
まさしく生と死の間をふらついていたわけであって、ある意味ではしょうがないとさえいえる。
 では、なぜこの男性は、白系種であるにもかかわらずここで死にかけていたのか?

『平たく言えば霊感などがある人だった、と。それで亡霊たちにストレスや物理・精神的干渉を受けてしまった……』
『逃げ出そうとしていたようですが、外部からロックがかけられており脱出ができなくなっていました。
 恐らく、昼間は大人しかった霊たちが、この時間でも白系種がいると知って大挙して押し寄せたのでしょう』
『ぞっとしないわ……』

 その男性は必死逃げようとしたのだろう。部屋は大きく荒れ、ドアなどはこじ開けたり壊そうとしたりした跡がうかがえる。
それに加え、手や足にも明らかに逃げ出そうとして必死になった跡がうかがえる。
想像を絶する恐怖だろう。電気も明らかに外的要因で通電がカットされた部屋の中に閉じ込められ、ひたすらに耐えていたのだから。

『いかがします?』
『……これはもう表の事案じゃない。裏の事案と判断するわ。
 彼は保護・回収して事情を聴くわ。C班を中心に彼が自力で脱出したように見せかける工作をしておいて。
 HQからは?』
『シルト隊長の意見を尊重するとの返答がありました』
『よかったわ……』

 見捨てることにならなくてよかった、とブレンヒルトはため息をついた。
 無論、彼を見なかったことにしてここに放置しても構わない話ではある。
 だが、あらぬ噂が立てられてしまう---幽霊などがここに出る、という噂が立つのはよろしいことではないのだ。
だから、工作を施して、誰かに意図的に閉じ込められたであろう彼が幸運にも自力で脱出し、姿をくらましたというストーリーを読み取らせた方がいい。

(この国にも、そういう方面で感知能力のある人間がいる……まさか、この地獄にいきあたるとはね)

 同情はする。されど、この共和国の坩堝の中で安寧を貪る白豚という時点で、だいぶ同情ポイントは下がっていた。
 北欧の女は点数の厳しいのである。殊更に女から男への評価などフィンランドの極寒よりも厳しいのだ。
 ともあれ。

『撤収よ』

 ここでやるべきは完了した。あとは消え去るのみだ、ゴーストの如く。

374: 弥次郎 :2022/05/27(金) 21:48:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 グラン・ミュール内 第一区上空 輸送機「カラドリウス」 ブリーフィングルーム



 ブレンヒルトの率いるシルト隊の任務、共和国工廠特別技術開発局の浄化・鎮魂・除霊は、一つのトラブルを除き恙なく完了した。
まあ、それが意図的に閉じ込められていた霊感持ちの白系種の保護というものでなければ、もっとよかったのであるが。
その他の隊、サンマグノリア共和国大統領府と国軍本部を担当した部隊も規定通りの仕事をこなすことに成功している。
 そして現在、輸送機「カラドリウス」はグラン・ミュール上空から退避しつつあり、拠点への帰投を開始していた。

『とはいえ、サンマグノリア共和国の汚染度合いが劇的に変化したかと言えばそうでもないのだがなぁ…』

 デブリーフィングルームに設置されたモニターの向こう、F世界に駐留しているリーゼロッテ・ヴェルクマイスターは深くため息をついた。
 そう、特にひどい建造物とその周辺をターゲットに除霊などを実行に移したのは事実だ。そのために直接潜入と言う手もリスクも承知で使った。
それによって、異界化の進行を抑え、滞留していた怨霊による害を抑止できた。汚染度合いを周辺地域で下がったのが確認された。
 だが、やったことは氷山の一角を3つだけ潰したに過ぎないのである。
 サンマグノリア共和国のグラン・ミュールの内側に山ほどあるポイントの内の、たった3つでしかないのだ。
これからより時間と労力をかけることで、内部をより良い状況にもっていかなくてはならないのである。

『では……ブレンヒルト、卿の隊で保護した白系種の男性についての報告を頼む』
「はい」

 一応、報告書自体は送信してあり、共有されていることでもある。
 だが、ここで改めて口頭で説明して情報を確認し合うことが必要と判断された。
 何しろまさかの不測の事態と言う奴だったのだから、これは避けえないものだった。

「保護した男性はシモン・コクトー。年齢は24歳。性別は男性。人種としては典型的な白銀種。
 役職は共和国工廠特別技術開発局の拡張型パラレイドデバイス研究開発班の班員で、今年配属されたてほやほやの新米研究員です」

 ブリーフィングルームの壁にかけられたモニターに、保護された男性の情報が映し出されていく。

「経歴については省略します。問題なのは、彼がどのようにしてあの状況に陥ったかですので」

 一つ咳ばらいをすると、ブレンヒルトは説明を続けた。

「彼をメモリースキャニングにかけたところ、当日の彼の行動が確認されました。
 彼はその日は通常勤務。そして、業務終了時に先任研究員2名に呼ばれ、最下層の実験室に連れていかれました。
 彼の記憶によれば、最下層の実験室---彼が保護された部屋の整理を手伝ってほしいとのことでした。
 それが、罠だったようです」

 スライドが切り替わり、実験室の内部の写真とそのドアのアップの写真が映った。

「彼が室内に入り作業を始めた時点で、彼ら以外は最下層にはほかに人はいませんでした。
 そして、先任2名は彼を部屋に置き去りにして外部から部屋のドアをロック。さらには最低限の電源のみを残して電力供給をカットしました。
 これにより、コクトー研究員は室内に閉じ込められてしまい、助けも呼べない状態に陥ったようです」
「いびりやいじめか、これは……」
「通常ならば、これは翌日になれば発覚することでした。
 ですが、問題だったのは彼がいわゆる霊視などができる体質だったことでした」

 つまり、人がいなくなり、霊魂などが騒ぐ時間になった時、彼はこの世の地獄を見た。
 これまで見る機会のなかった、自分の勤め先に存在していた全く予測しえない世界を。

375: 弥次郎 :2022/05/27(金) 21:48:54 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

「そこからはご想像の通り。
 パニックになって逃げだそうとするも、それは叶わず。
 そして、騒いだことで他の霊を招いてしまい、白系種ということもあって攻撃的な霊に精神・肉体的員攻撃を受けました。
 結果、心身にダメージを負った状態となり、動きが停止。生死の境目をさまようこととなり、生体スキャンを潜り抜けました」
『そして保護された、か。不幸なのか幸運なのか、よくわからんな』
「まったくです」
「その後は?」

 促され、ブレンヒルトはその後の処置を説明した。

「一先ず彼の身柄は眠らせた状態で回収、医療班に預けてあります。
 肉体面の治療はすぐにできますが、精神的な面での治療には時間がかかることが予想されています。
 また、霊的な攻撃を受けたことによる影響も鑑みなければならないので、このまま連合が保護という形とする予定です」
『図らずも目撃者となったわけだからな。後始末は?』
「状況を改ざんし、彼が自力で脱出したという偽装を施しました。
 ただ、彼自身はそのまま行方不明、ということになるでしょう」
『新人いびりにしては悪質すぎやしないかね……』

 そうため息をつくリーゼロッテ。その所作は美しく、少々幼いことを差し引きしても色気たっぷりであった。
 だが、誰もが無表情に、あるいは読まれるにように最大限の努力しながら、内心突っ込む。

(あなたがそれを言いますか!)

 何があったかは割愛する。
 一つ言えることは、リーゼロッテは甘ちょろいところはあるが、基本実力主義とをとっていることである。
 それはともかく。

『ともあれ、処々の細かい問題は卿らに任せる。
 私の方からは支援を送り込むこと、ついでに外側から偉そうに指示を飛ばすくらいしかできないからな。
 即座に周辺状況に斟酌することなく封印をするような状況ではないが、特異性だけで言えば特A級だ。
 今後も気を抜くことなく対処を実施してほしい』

 そう、特A級。
 これの上がヤーナムだとか芦名だとか、そのくらいの危険度を誇る場所しか存在しないという時点で、ここが如何に危険かが分かろうというものだ。
このクラスとなれば、霊的な素質を持たない一般人であろうとも肉体的・精神的な影響は避けえないのが特徴だ。
もしかしなくとも、このサンマグノリア共和国のアレな状況というのは、この霊的なものも大いに絡んでいるかもしれないのだ。

『諸君らの健闘に期待する……ぬ?いかんな、これで切る』

 通信が切れる直前、何かすごい音がしたような気がしたが---総員がスルーした。
 アレに突っ込みすぎると自分さえも危うくなると、総員が理解していたのだ。

「それでは、次回以降の潜入スケジュールですが……」

 何事もなかったかのように司会進行役は話を進めていく。
 ここには、とてもよく訓練された人員がそろっているのであった。

376: 弥次郎 :2022/05/27(金) 21:49:28 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
これにて一区切りです。

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最終更新:2023年07月10日 20:19