485: 弥次郎 :2022/05/28(土) 22:51:26 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS 短編集「飛び立つ者たち」


Part.1 姉/奇跡の代償


  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 1941年8月9日 扶桑皇国横須賀 「シティシス」技術工廠 執務室


 盛夏。暑さや盆という風習など関係ないとばかりに、シティシスの活動は続いている。
 そもそも、相手がそれを考慮してくれないのだから、こちらもそうせざるを得ないのである。
 幸いにして、シティシスの本部の施設内は基本的に空調が効いており、容赦のない日差しと湿気からある程度逃れることはできている。

 だが、それでも喫緊の問題から逃れることは難しい。
 暑さに対してエアコンを稼働させればよいのとは違い、この手の問題は根本解決が難しいからである。
 それは、シティシスのトップであるリーゼロッテが部下の一人に任せていた魔眼持ちのウィッチの事であった。
扶桑皇国のウィッチには魔眼を持つウィッチが多い、とは誰の言葉か。しかし、事実としてシティシスに研修に来るウィッチには該当者が多い。
宮森しおりの例を挙げるまでもなく、シティシスではその手の魔眼の扱い方やコントロール技術について教授を行っていた。
 そして、問題のウィッチの名前は雁淵孝美。魔眼を持つだけでなく、戦闘センスや技量が優れているということからシティシスでの錬成を目的に派遣されてきたウィッチだ。

「覚醒魔法『絶対魔眼』……ね」

 元々持っているネウロイのコアを見抜く魔眼をさらにブーストさせることによる強力無比な固有魔法。
 要するに防御に回している魔力を攻撃や機動に回すことで通常を超えた力を発揮できるというものだ。

「反動でぶっ倒れる、どころで済む話ではないか」

 強力だが使いすぎれば命にまで係わると、リーゼロッテはそう判断せざるをえなった。
 本人からの聴取では、もろ刃の刃という意味が強い最後の切り札とのこと。
 しかし、敢闘精神旺盛な彼女は先陣を切って飛び込んで行く性格だ。そういう立ち位置ならば自然に発動する機会も増えていくのが当然。
未だ幼い彼女の肉体にその反動が蓄積するのは無理からぬ話であろう。恐らく、何かのはずみで魔力の反動が直接彼女を襲うことになる。
今ならばともかく、未来で彼女がどうなるかは想像だに難くない。

(ならば、カリキュラムというよりは休養とケアが必要だ)

 これまでに使った分の反動を抜いてやることが第一。
 第二にやるべきは、彼女に蓄積する反動をどうにか緩和する対策を打つことだ。言い含めた程度でウィッチの行動を縛れるとは思っていない。
前者は比較的簡単だが、後者はやや難しい。実際に魔法を使わせてそのデータをとり、ここを離れてもどのようにケアをすればいいかの方法を構築する。

(あとは……負荷を軽減する装置の一つでも作ってやるか)

 今試作段階にある補助機関の簡易型でもあれば、とパソコンを起動する。
 ここにいられる期間が短いウィッチなのだから、出来ることはしてやりたい。それが、異世界の後進達のためにリーゼロッテのできることだった。






 後のことであるが、これらの対策はオーバーロード作戦に参加した雁淵孝美の命を救うこととなった。
特に撤退戦における激戦で固有魔法を多用した彼女は大きく疲弊し、補助装置抜きには死んでいたかもしれないと言われるほどに自らに負荷をかけた。
とはいえ、五体満足で帰還し、療養だけで済んだのは奇跡的であり、彼女に渡されていた保護装置のお陰であった。
 しかし、奇跡は二度も続かなかった。502JFWに派遣される予定だった彼女は、その道中でついに被弾。しばしの戦線離脱を余儀なくされた。
それがきっかけで、とあるウィッチの、勇敢なウィッチとなる戦いが幕を開けるのだが、それはまた別な話である。

486: 弥次郎 :2022/05/28(土) 22:53:00 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

Part.2 朱の翼、明星へ



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地時間1941年8月23日 扶桑皇国 横須賀 上空



 横須賀の潮風を感じながらの飛行は、とても心地よかった。
 殊更に湿気と温度に晒される地上に立っているよりも、こうして上空で飛んでいる方が涼しく、おまけに爽快感があった。

『気持ちいわねー』
『全くその通り……地上の暑さにはかなわないわー』

 吉野香子が僚機である西野エリと宮森しおりと合わせての現在行っているのは編隊飛行。
 頭部に装着されているバイザーに示されるルートを通りつつ、浮かんでいる標的バルーンを分担しながら排除していく訓練だ。
とはいえ、この程度は通信機で会話しながらも行える程度には難易度は低いものでしかないのも事実。
ある程度動くとはいえバルーンは反撃してこないし動きも単調であるから、このくらいは余裕ではある。

『それに、この訓練機もすごいしね……』

 エリは自らの足に装着されているストライカーユニット「CMA-S1132 アイビス」に視線を送りながら感嘆の息を漏らす。
 元々は宮菱重工業 零式艦上戦闘脚をベースとしているそれは、扶桑のウィッチにとってはなじみ深いものであった。
 しかし、そこにシティシスの---ひいては連合の技術や設計能力などが導入されたことにより、素の段階でスペックが向上しているのだ。
何しろ、西暦換算で1941年の工業精度と、それから大雑把に150年以上は先の地球連合とでは雲泥の差が存在している。
科学や工業の発展というのは、過ぎた年数に比例するのではなく累乗に合わせる形なのだ。
つまり、技術的限界に突き当たっている壁を容易く超えて製造されているのがこの「アイビス」なのだった。

『でも変わった名前だよねぇ……アイ、ビス?』
『リベリオンの言葉らしいけど、モチーフなのは扶桑の鳥らしいけど……』

 エリはふとその言葉を漏らす。
 機体のペットネームというか、愛称というものがつくことはままあるらしいのだが、なんとなくしっくりこないのだ。

『でも、地球連合からきている組織なんだから、外国の言葉で名前を付けてもおかしくないでしょ…』
『いやいや、扶桑のウィッチとしてはさ?なんかこう……!?』

 その時、レーダーに反応。急速に接近してきた。
 三人のウィッチはおしゃべりを中断し即座に散開。三方向からの射撃が行えるように構えた。
 相手の速度はとびぬけて速い。『アイビス』の全力よりも、はるかに速いのだ。その情報が即座にわかるのも、バイザーに内蔵された分析装置のおかげだ。

『何!?』
『IFFは……友軍!』
『でも撃ってきた!回避運動!』

 だが、即座にその射撃に反応してそれぞれが回避を行いつつ、反撃を放った。
 並行や垂直方向だけではない、三次元的な回避運動で相手に的を絞らせず、尚且つ相手を包囲する動きだ。
 それを見越してか、相手は空中での飛行軌道を複雑なものにして的を絞らせない。
 ついでに、通信をつなげてきた。

『ひとつ教えておこう。アイビスとは、扶桑皇国の言葉で言えば朱鷺を意味する』
『ヴェルクマイスター教官!?』
『退屈そうに見えたからな、少し相手をしてやろう』

 そして、三機の射撃の間を一気にストライカーユニットを装着したリーゼロッテが通り抜けた。
 まさしく疾風怒濤というか、風の如く突き抜け、一瞬で高度の優位をとってきた。

『さあ、行くぞ!』
『っ!』

 突如として始まった模擬戦。
 されど、3人はひるまない。この程度は経験してきたことだ。
 それに、単なる飛行訓練だけではつまらないと思っていたところもあるのだ。

『いくわよ!』
『ええ!』
『今度こそあてるんだから!』

 そして、シティシスの三羽烏は一斉に飛びかかっていった。

487: 弥次郎 :2022/05/28(土) 22:53:31 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっと久しぶりにF世界のSSを。
星暦世界のSSにちょっと詰まってしまったので…
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最終更新:2023年08月24日 22:28