927: 弥次郎 :2022/06/01(水) 22:26:09 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS 短編集「サンマグノリア共和国戦線、異常なし」
Part.7 遅いか、ようやくか
- 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4中継基地 食堂
「じゃーん」
昼食時、部隊内で集まった際に、セオト・リッカがスケッチブックで見せたのは、人と豚をミックスさせ軍服を着せたようなキャラクターだった。
着ているのは当然サンマグノリア共和国軍の軍服で、しかもそれは女性用であった。ズボンではなくタイトなスカートであることからうかがえた。
「Follow me!」と吹き出しでしゃべっていることから考えると、どうやら指揮官らしい。
「どうしたの、セオ」
「みんなも聞いているでしょ、噂」
「……ああ、アレか」
セオの言わんとすることをライデンは察した。
そう、この基地で訓練を受けているエイティシックス達の中では噂となっていることだ。
サンマグノリア共和国軍から来たハンドラーが、自分たちに交じって訓練を受け、時には合同で訓練を行うことがあるという。
それについて興味半分で聞いてみたところ、その返答は否定も肯定もしないもの。
そして、誰かがサンマグノリア共和国軍人---壁の内側に籠っているはずの白系種(白豚)がいるのを見たというのだから、噂は瞬く間に広がった。
背びれ尾びれがついて瞬く間に広がったそれは、もはや止めることもかなわないほどに広まっている。
「そ、しかもその指揮官役の軍人、自分から名前とかを名乗ったんだって。15歳で階級は少佐で元ハンドラーって」
「それでこんなイラストにしたの?」
「悪趣味ね……」
「これくらいは許されるでしょ」
セオの言葉に、誰もが反論できない。ここにいるほぼすべてのエイティシックスが、白豚に遺恨はある。
それがすでに10年近くも前の事であり、もうどうしようもないものとは理解していても、良い感情を抱けないのは確かだ。
形こそ違えども、失ったり、奪われたり、あるいはなくしてしまったり、置いて行かれてしまったり。
残っているエイティシックス達が事実上最後の世代であり、レギオンの停止前に払底さえしかねない
「セオ君、ちょっと言いすぎじゃないかしら?」
「でも、今更な話でしょ。僕としては、ギルフォード少佐の方がよほどいいよ」
「狐の隊長さんより?」
いつもと変わらぬ穏やかな、しかし、鋭いアンジュの言葉に、セオの動きは一瞬止まった。
そして、しばし迷って項垂れつつ言い返す。
「……それはずるくない?」
「今更かもしれないけど、そういう人が来たってことは受け入れるべきでしょう?」
「地球連合の影響を受けて、か……今更、と思わなくはないけどよ」
ライデンとしても、それは複雑であった。
彼は、白系種の良い面も悪い面も見たことがある人間だった。先日自分をかくまってくれていた老婆と再会したばかりである。
それだけに、今更とは思うことはあるが、動く人間が出たのかということは、なんとも奇妙な感情が湧く。
(まあ、期待はできるかもな)
地球連合が認めたのだからと、そう思うくらいの余裕はライデンにはあった。
928: 弥次郎 :2022/06/01(水) 22:27:01 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
Part.8 葬儀屋の静かなる日々
世界は、何年振りかの静寂に満ちていた。その感覚に、シンは少し戸惑いを覚えていた。
常日頃聞いていたレギオンの声を遮断する道具を与えられたのは少し前の事。
そして、今日は最終的な処置を施す日であり、先ほど完了したばかりであった。
『気分はどう、ノウゼン少尉?』
処置室からガラスのはめ込まれた向こう側、オペレーター室にいるブレンヒルトの言葉がマイク越しに届く。
しばし瞬きをして、耳を澄ませ、それでもレギオンの声が聞こえないことを確認して、シンは返答を返す。
「……とても、しずかです」
『そう、成功したみたいね』
『手ごたえはあったからな。あとは……オンオフできるかだ』
そして、もう一人分の男の声がする。ルルーシュ・ランペルージという、ブレンヒルト曰く「専門家」の人物だ。
先ほどまで、処置の際にシンと顔を合わせていた人物であった。確か、「処置」の際には彼と目を合わせ---
(……何をしたんだ?)
その処置の時の記憶が、なぜだかすっぽり抜け落ちている。
思い出そうとしても、まるで記憶の手がかりさえ浮かんでこない。
『……大丈夫かしら?』
「問題ありません。ただ、記憶が……」
『それについては処置の副作用だ。そうしなければ、君の異能を制御できるように変化させるのは不可能だったからな』
「変化……?」
その問いかけに、ルルーシュは一つ頷いた。
『そうだ。君の異能に干渉し、変化させ、危険性を取り払った。
まあ、ここについて長々と説明しても君には理解が難しいだろうが、その際に記憶が欠落しているだけだ』
『ちゃんとそれ以前の記憶はあるかしら?』
「ええ……」
自分の名前、これまでの経歴、忘れたくても忘れられないこと、忘れないと決めていること。どれもが浮かんでくる。
欠落しているのは、処置の瞬間とそこからしばらくの間の記憶だ。
『なら、あと確認すべきはオンオフの切り替えができるかどうかね。これについては、ノウゼン少尉が意識してやってもらわないと分からないわ』
『何かしらのルーチンを組むのがいいだろうな。スイッチのオンオフを切り替える際に、何か動作をすることで異能を制御しやすくした方がいい』
「ルーチン、ですか」
『ああ。能力を解放する際の、何かしらのスイッチとなる動作だ』
『あなたの場合はあれよね、こう……』
『それに触れるな!』
ぎゃーぎゃーとやかましくなったオペレーター室をしり目に、シンはベットの上で天井を見上げぼんやりと考える。
あの時から、自分は変わった。多くの人と知り合い、異能と折り合いをつけ、戦う術を学んでいる。
(でも……)
やることは変わっていない、そう思うのだ。
ブレンヒルトとも相談して、探してもらっているのだ、兄を。兄を基にした羊飼いを。
それをやらなければ、いくら変わっても一歩を踏み出せないと。自分がそこから先に進めないのだと。
それに、この異能との付き合いもそうだ。きっかけは語るまでもない。
けれど、これが縁を結んでもいる、とブレンヒルトには言われていることだ。首を覆うスカーフなどその典型例だと。
一番最初に配属された部隊の戦隊長のアリス・アライシュが託してくれたもの。彼女からもらった、大切なものだ。
(ルーチン、これにするか)
自然とそう思えた。一先ずそれを伝えることにして、シンは声をかけた。
929: 弥次郎 :2022/06/01(水) 22:29:05 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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短いですが、動きを少々。
ルルーシュとブレンヒルトは口喧嘩をする程度の仲ですねぇ
最終更新:2023年07月10日 20:20