4: 弥次郎 :2022/06/02(木) 22:46:08 HOST:softbank126041244105.bbtec.net


憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鶸たちの囀り」



  • 星暦恒星系星暦惑星 ノイリャナルセ聖教国 聖都 テシャ・ラテ宮殿 個室



 今日も今日とてドサ回りだったな、といかつい体の男は、迎賓館でもあるテシャ・ラテ宮殿の極上の部屋の、これまた極上な寝具の上で思う。
地上方面軍ノイリャナルセ聖教国派遣軍の総司令官であるドナルド・ベクターは、今日もまた赴任した国の聖都に呼ばれ、歓待を受けていた。
一国を担当する軍隊の総司令官ともあれば、この手の政治的なモノを含んだ仕事があるのは理解している。
 だが、聖教国のお歴々が軍人だけでなく政治家や宗教関係者がぞろぞろとあいさつに来てコネを作ろうとしてくるものだから苦労した。
殊更に宗教というものがこの国の大きなウェイトを占めているということもあり、普通の国の倍は押し寄せてきたのだ。
 そうである国というのはわかってはいたが、地雷を踏みつけないように気を使う必要もあったので、疲労度は殊更に大きかった。

(とはいえ、だ)

 そういう茶番をこなすことで得られた情報もある。
 自分の護衛という名目で、多くの人間をここ聖都に引き入れることができたことも大きいのだ。
 無論、それとなく自分は見張られているのは理解している。だが、その危険を冒してでも、という価値はあった。
恐らく優秀な部下たちならば、自分が時間を稼いでいる間に多くの情報を---懸念されているレベルの問題の真偽を確かめているであろうし。

(この国、きな臭いな)

 ドナルドは別段NTなどではない。
 だが、そういう「臭い」には敏感だった。腐敗の匂い、後ろめたいことがある隠しごとの匂い、あるいは秘めた悪意の匂い。
まだNTやイノベイターと言った存在が明らかになる以前、人間同士の策謀や陰謀が飛び交う世界を知るドナルドだからこそ、それを感じ取れた。
 そして、その裏付けをNTや非正規工作員などを放って調べさせたのだ。それはこの聖教国でその「臭い」に気が付いた次の日から。
つまり、すぐさまそれに気が付いて、今日まで調査を続けさせていたのだ。ついでに言えば、今も続けさせている。

 ただ、表立って通信などをすれば、会話やら会議を大っぴらにやっては、自分にさえも悪意を向ける人間の目に留まる可能性がある。
ドナルド自身の見立てでは、先だっての戦力の供与式典においても顔を合わせたヒェメルナーデ・レェゼ聖二将あたりだ。
 幼子であるが、そのくせ悪意を隠すのがうまい。筋金入りだ。自制心が強いのは宗教関係だからか。
 しかし、所詮は幼子のポーカーフェイス。歴戦の自分までもごまかせるほどうまくはない。

「さて、寝るか……」

 あえて、口に出す。聞こえるようにだ。
 ここの「掃除」は完了してある。だが、どういう方法で監視しているかなど分かったものではない。
 思考を読み取ってくるかもしれないし、あるいは通信の傍受を試みるかもしれないのだ。
 なれば、とドナルドは寝具に収まると自然な動作で首筋にデバイスを装着し、同時に頭全体を布で覆い隠す。
デバイスは拡張した通信を可能とする機材であり、布はNTやイノベイターの能力をある程度は遮断するものでもある。
 準備は整った。
 寝ぼけたふりをやめ、むしろ意識を覚醒させていくドナルドは、意識だけの操作でクローズド・ネットワークへアクセスを開始した。

5: 弥次郎 :2022/06/02(木) 22:46:52 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

《コンタクト:スタート》

《量子暗号通信回線、接続》

《生体認証開始:ドナルド・R・ベクター:生体反応・アストラルパターン・パスワード:合致:認証完了》

《限定ネットワーク:セクション:星暦恒星系星暦惑星:西方地域:ノイリャナルセ聖教国》

《loading…》

《クローズド・ルーム:341》

《認証番号:確認》

《接続を認証します》

 横になった状態のドナルドは、しかし、ARとして脳の視覚野に認識される画面を見つめていた。
 一般に地球連合では、義体化や電脳化などを経ても、オープンネットワークへの直接接続は禁止されている。
過去の事件---プロトタイプネットワークシステム、通称“プロト”の暴走事件が根本的な原因だ。
加えて、電脳汚染を引き起こしかねないバグやプログラムの断片、あるいはウィルスなどの存在もあり、かなり限定しているのが特徴だった。
 逆に言えば、一定の入り口だけに限定したクローズドネットワーク内ならば極めて安全に、尚且つ機密性も維持できるということであった。

《またせたな、各員》

 今夜の参加者は合計で50名余。
 指示は出していたが、多忙故に参加できない日が続いていた

《お待ちしておりました、ベクター少将》
《お久しぶりですね》
《ちょうどいい区切りなので、報告がしたかったです》

 歓迎の言葉を受けながらもドナルドは返事を返しつつ、総員に問いかけた。

《さて、中間報告などはある程度受けていたが……どんな具合だ?》
《ええ、順調すぎるほどです。この国の良きも悪しきも、どうやっても痕跡は残ります》
《少々以上に厄介な相手でしたがね……》
《建前と本音……というか実情の温度差は酷いものでしたよ》
《必然的な破滅と言えますね、これは》

 返答は様々だ。だが、いずれも共通していることは、どれもが決して良い報告ではないということであろうか。
直接顔を合わせているわけではないのであるが、言葉のイントネーションやら何やらでわかることも多い。
 では、と電子ネットワーク上で声をあげる。時間をかけて調査が行われたこの国の、裏も表も含めた要素について。

《報告を開始してくれ。このきな臭い、聖なる国にはふさわしくないであろう、この国の本当の実情ってやつをな》

 寝たふりをしているために穏やかな呼吸をしながらも、しかし、ドナルドは鋭い言葉をネットワーク上にはなった。
 夜はまだ始まったばかり。
 地球連合の来訪と共同戦線の構築に伴ってこの国があらわにした、表にはなっていないこと。
 レギオンにより周辺国との間で隔絶され、そうであるがゆえに行われたことが、密かに露になろうとしていた。

6: 弥次郎 :2022/06/02(木) 22:48:02 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
唐突ですが、ノイリャナルセ聖教国編スタートとなります。
設定がほとんど出ていないから適当にやるしかなかったのじゃ…

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最終更新:2022年06月03日 23:09