87: 弥次郎 :2022/06/03(金) 21:22:13 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鶸たちの囀り」2
電子上の会議は、まずは報告から始まった。
諜報組織---オシント・シギント・テキントおよび非正規手段による情報収集を行う組織が主体だった。
無論のこと、諜報組織でなくとも諜報の真似事や情報収集を行うことは当然であったが、ともかくそこからの報告が一番となった。
《諜報部のキーリです。
まず、ベクター少将の方から指示されていました、神戟(テシャト)の件を報告します。
端的に言いまして、少将の懸念は見事に当たっておりました》
《---やはりか。続けろ》
《は。合同訓練やMTなどの供与戦力の教導任務、あるいは聞き取り調査を行い、その結果を統合し、分析にかけました。
その結果、神戟の構成人口は……このようになっております》
表示されたグラフは、端的に言えば低いピラミッド型であった。
男女の垣根なく、年齢が上なほど数が少なく、一部ではほぼ0に近いところまで存在する。
一部では高齢者---50代や60代以上の層は健在ではあるが、それは例外的と言えるものであった。
恐らく軍役に耐えられない、最早名誉職や引退済みの高齢者というのは推測に難くない。
《神戟の構成員のおよそ80%が年齢が20代以下の若年層で占められております。
30代はかろうじて10%を維持していますが……払底は目前です。原因は言うまでもなく、レギオンとの戦いの影響かと》
《開戦時の神戟の人口は?》
《ある程度推定値ですが、こちらに》
グラフに、別な色で別なピラミッドが重なる。
高さ自体はさほど変化はない。問題なのは---
《事実上、40代や30代、現在のピラミッドでは絶滅している層が存在していると、そういうことになります》
《役目に殉じたか、最後まで。おのれの役目に》
《そういうことと思われます》
《これは、敬意を払うべきであるな……》
しばしの黙とうの時間が流れたのち、ドナルドは切り替えて続ける。
《だが、このままでは問題だな。救援するにしても、相手の軍が払底数歩手前とは……》
《ですが、まだ幸運だったかもしれません》
別の軍人が、メイ・レイーズ技術少佐が発言する。
《それはどういうことだ、レイーズ技術少佐?》
《人口問題にも関係することですので、ノイリャナルセ聖教国の軍事組織が用いる、主力兵器フェルドレスについて報告します。
こちらも、このノイリャナルセ聖教国の実情を反映させたものが配備されていることが確認されました。
ベクター少将の推定していた通りの、ですが》
人口ピラミッドを映していた画面が横にずれ、今度は大型の戦車砲を有するフェルドレスの画像や三面図が表示される。
《こちらが現行の主力を担うフェルドレス「機甲五式 ファ=マラス」です。
2代前の主力機から大きく設計変更がされており、その特徴は御覧の通りです》
《正面装甲どころかエンジンや弾薬庫までも、構成のほぼすべてが搭乗者を保護するための盾か》
《お察しの通りです。我々の歴史で言えば、旧世紀の戦車においてみられた設計思想の一つに酷似しております。
2代前の主力機機甲三式では、他国のフェルドレスと類似したレイアウトでしたが、機甲四式からは現在の方式に変更になっています。
その時期は、ちょうど当時の40代や30代の層がほぼ払底した時期と重なることが確認されています》
つまり、と技術的な観点からもその設計変更の意味は分かる。
《神戟の数が減ってきたことに危機感を覚え始めたノイリャナルセ聖教国政府による指示だそうです。
既存のフェルドレスでは性能差や数の不足もあり、神戟達が死んでいく。故に設計変更が命令されたということです》
《実際のところ、効果はあったと言えるか?》
《想定される状況下においては有効です。敵を正面に捕らえ続ける限りならば、大破しても搭乗者は脱出が可能です。
最も、防衛線ならばともかく、白紙地帯での長時間の人員の生存に関しては厳しい、と言わざるを得ませんが》
《他国のようにPSを使えればよかったのかもしれんが……無い物ねだりだな》
88: 弥次郎 :2022/06/03(金) 21:23:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
そして、表情を少し曇らせ、レイーズはつづけた。
《技術部の方で行われた交流では、こちらの無人機について技術的な提供をもらいたいという声がありました》
表示します、という声とともに、別なフェルドレスの三面図が表示された。
《これは……》
《これまた、大きく設計を変えたな》
《機甲七式という名称で、これまでのフェルドレスよりもかなり小型化を進め、生産性などを求めた形です。
被弾面積---正面投影面積を極限まで減らし、ついでに使用する資材を減らし、完全自律ではなくファ=マラスの指揮の元動くという売り文句でした》
でした、という過去形。報告を行っている技術少佐の声の厳しさが、その現実の酷さを物語る。
《実際、無人機としての開発は進められていました。AIの研究自体も。
ただし、制御機構---搭載されるAIやそのAIを管制するシステムに関してはお粗末そのもの。
これの完成に他国を頼るというのは間違った選択ではありません。我々としても異存はありませんでした》
《まあ、そうであろうな……》
《無人機の根幹であるAIを他国に頼るのは国防上どうかと思うが……》
《それでも主力機そのものを完全に依存するよりはましだろう。まして、》
《はい。ですが、それは売り文句の通りならば、です》
つまり、それは。
《サンマグノリア共和国で見られたパラレイドデバイスの様なものもなしに、阻電攪乱型の飛び交う戦場でどうやって無人機を誘導するのか。
短距離通信ならば妨害されにくいという話ではありましたが、確実性に乏しい。
そして、少しばかり設計を見直した結果、その種が割れました》
一息入れ、レイーズはその事実を吐き出す。
彼女の操作で、そのフェルドレスの一角、機体下部のスペースが色付けされる。
AIの搭載スペースと設計上計画されている空間。大人の兵士には狭すぎる空間だ。しかし---
《子供です。正面投影面積を削り、機体を小型化したことでコクピットの大きさは必然的に小さくなる。
けれど、子供ならば?神戟でもまだ残っている10代かそれ以下の層の兵士ならば?その体の小ささも相まって、入ることは可能でしょう》
《待て、つまりそれは……》
《おそらく無人機としての開発を進めたのは事実。されども、間に合わなければ神戟の子供を投じる構え。そういうことと推測されます》
しばしの沈黙が下りた。
ネットワークの向こう側、現実世界では、参加者がそれぞれ反応をしていることであろう。
それがネットワークに乗らないようにシャットアウトモードになった参加者が多いことから窺える。
《しかし、レイーズ技術少佐。それをしたら、神戟は……》
《ええ。そうなれば、神戟の次の世代が消えうせます。子供がいなくなれば、次世代の神戟は0となります。
そしてそのまま神戟というシステムさえ崩壊することとなるでしょう。彼らが引き継いできた軍事技術や知識もろとも》
それは国家としての自殺だ。抵抗ができなることよりはましであっても、それに匹敵する。
もしも神戟がいなくなる寸前となった場合、果たしてどうするつもりだったのか。
素人に軍事は難しい。ましてや、レギオンという戦力と戦うのだから、熟練の兵士や指揮官が必要となるだろうに。
《私個人としては----この機体がそういう形で制式に採用され、投入される前に介入ができて、よかったと思います。
技術部としては、この機甲五式の改良とAIの開発に協力をすることで、自衛力強化を図っていくことを検討しております》
《……なるほど。レイーズ技術少佐の言う幸運というのはこれのことか》
《はい。無人機という触れ込みで投入された機構七式と共に戦線に赴いていたかもしれない、ということです。
我々は知らされていなかったと言えばそれまでですが、少年兵の動員に積極加担したというそしりを避けえなかったかと》
89: 弥次郎 :2022/06/03(金) 21:23:45 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
まったくだ、と電子上でドナルドはため息をつく。
サンマグノリア共和国のエイティシックス達のことがあるので真っ向から否定はしにくいのだが、それでも10代以下の子供まで予定していたとは。
それだけ切羽詰まっていたということであり、教義に殉じていた精神に驚嘆すべきなのか。
《よもや、サンマグノリア共和国と同じようなことをやりかねなかった国がいたとはな……》
《あくまで未遂にすぎない、そこは区別すべきだぞ?》
《ああ。とはいえ、その寸前までいっていたことは忘れてはならん。
血を流すことを疎み、拒絶する宗教が理由とはいえ、ここまでやるかと…》
ガヤガヤとする中で、しかし、レイーズの言葉は続いた。
《無論、神戟の壊滅はノイリャナルセ聖教国の望むところではありませんでした。
人材払底の前に、神戟と同じように戦える人材を用意する計画も進んでいたようです》
《待て、殺人やら流血を忌み嫌う宗教でそれができるのか?ただでさえ、解釈で何とか神戟を用意したようなものだぞ?》
《それについては、宗教担当の私から》
声をあげたのは、渉外部の一員であり、このノイリャナルセ聖教国との折衝で設立された宗教担当部の文官であるアンネリーセ・バウスコールが手を挙げた。
《こちらも宗教関係者……権威のある指導者などに話を伺って、ある程度の聖教国の視点や言い分は確認できました》
《一体、どういうことなんだ?》
会議に出席している誰もの疑問を代表して口に出したドナルドに、アンネリーセは端的に答えた。
《要するに、解釈の問題なのです。教義は別段絶対に変更を許さない、金科玉条のモノではない。
そもそも、現に神戟を容認しておりますしね》
《む、確かに……》
《ノイリャ聖教の教えにおいては流血と戦いを禁ずるもの。
されど、これは厳密な解釈をすれば、対人を想定したものであるのです》
《対人を……?》
《はい。細かい経緯は省略しますが、要するにこの地域特有の環境の厳しさにおいて人間同士が相争うことを避けるための戒律なのです。
ひっくり返せば---相手が純然たる人間や国家という集団ではない場合においては、それは戒律に引っかからないと、そういうことになります》
これはノイリャ聖教の関係者からのヒアリングの結果です、と付け加える。
それを受けてドナルドは頷きを作った。
90: 弥次郎 :2022/06/03(金) 21:24:44 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
《なるほどな。レギオンのみを標的とする、一般的な教徒により編成された穴埋め部隊。
相手は「無人機」であり「人ではない」という解釈をすれば、レギオンはいくら撃破しようがそれは流血でも殺人でもない。そういうことか》
《しかし、一般教徒の反応が怖いところですね……》
《だが、国家としてみれば神戟が払底することも、それにより自国の防衛能力がなくなることも避けたい。
宗教の戒律のせいで戦えなくなりました、大人しく死んでください、とは言えんだろうな。
生きていたい、死にたくないというのは一般的な生存本能なのであるし》
そもそも、神戟というシステムを作り出す程度には解釈が柔軟であり、教条主義的な要素が少ない宗教なのだ。
国家として、宗教として成立する観点においてはどうやっても暴力は避けえないものなのだ。
警察組織や治安維持組織だって、いくら言葉を飾ったところで暴力装置の一環であるのは否定できない。
そういった教義の解釈の変更があったからこそ、今の神戟が存在し、ひいては開戦以降のノイリャナルセ聖教国を守ってきたのだ。
それが必要だったからこその解釈と血族による結束なのだから、それは非常に画期的だったとさえ言えるであろう。
《ただし、問題は当然ながら発生します》
《状況が切迫しているとはいえ、ここで解釈を変更してしまうことをめぐっての、内部の争いか》
ドナルドは呻いた。
これは既存の、地球の宗教でも教義や神話への解釈やその実行に伴って争いが起きていたことだ。
時としてそれは国家の垣根を超えた争いの種となり、あるいは国家を真っ二つに割るような凄惨な争いになったこともある。
《はい。これはあくまでも聖教国の政治面の、神戟ではない側の意見の話となります。
推測ではありますが、神戟からすれば何百年と血と争いを引き受け、民からそれらを遠ざけるために努力していた。
そこに誇りや矜持といったものを持っているのは明らかでした》
《つまり、そこでいきなり一般教徒からも徴兵を開始して動員すれば……》
《彼らにとっては、教義を裏切る行為であり、自らの存在意義を否定されたと、そう捉えるでしょう。
一定の敬意や配慮がされているとはいえ、やはり神戟の立場は一般的な教徒からすれば低く、決定権は神戟には半ばない》
《強制されたら……最悪クーデターか》
《彼らにとってみれば、教義を恣に勝手に解釈する一般教徒に見えるでしょう。
反発はおそらく避けえないものとなるのではないかと》
ぐしゃぐしゃと、意識だけでドナルドは頭をかくしかない。
厄介どころではない話だ。下手をすれば自分たちの行う戦力供与や共闘さえも敵視されかねない。
そこも合わせ、腹を割って意見交換をしておかなければならないかもしれない。政府だけでなく神戟相手にも、だ。
加えて、その神戟にはきな臭い少女と呼べる年齢の将官がいる。あからさまに腹に一物抱えている。
あれともやり合いながら宗教という地雷原を突破しろと言うのか。
《政治家は無茶を言うものだな》
ともあれ、その対策は練らなくてはならないのだ。
共同で戦う国の内ゲバの可能性を警戒しながら、その余力を以てレギオンと戦うなど御免被りたいところだ。
まだレギオンが弱いことが、今の段階での救いであろうか。できるだけ早くに解決したいと、ドナルドは切に願った。
91: 弥次郎 :2022/06/03(金) 21:26:26 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wikiへの転載はご自由に。
電子会議編と言った方がいいのかなこれ…
とりあえず、ヒェルナとかの出番は作る予定です。
どうやっても、彼女がラスボスになりそうで…
101: 弥次郎 :2022/06/03(金) 22:29:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
遅れましたが修正お願いします
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でした、という過去形。報告を行っている技術少佐の声の厳しさが、その
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でした、という過去形。報告を行っている技術少佐の声の厳しさが、その現実の酷さを物語る。
最終更新:2022年06月03日 23:53