367: ホワイトベアー :2022/05/18(水) 21:01:32 HOST:sp1-72-1-245.msc.spmode.ne.jp
Muv-Luv Alternative The Melancholy of Admirals 第14話

ドイツ民主共和国第2代大統領、アルフレート・シュトラハヴィッツはアルテス・シュタットハウスを再利用した大統領府に設けられた執務室にて酷い頭痛に襲われていた。

その理由は眼の前の男、唾棄すべき機会主義者であり、共犯者であり、同好の士であり、自身と共に東ドイツの民主主義の英雄と歌われている元ドイツ民主共和国国家保安省武装警察軍中佐にして現ドイツ民主共和国外務大臣であるハインツ・アクスマンから齎された情報である。

「つまり、何か? 日米はBETAの着陸ユニットを鹵獲するために敢えて防衛網に穴を開けてBETAを地球に招き入れ、その責任を西欧諸国になすりつけた・・・と。そういうのかね」

同席していた国防大臣であるフランツ・ハイムは震える声でアクスマンが齎した情報の内容を確認する。
今、この場にいるのは非公式ながらドイツ民主共和国の政治指導を担っている4閣僚会議を構成するアルフレート・シュトラハヴィッツ大統領、フランツ・ハイム国防大臣、ハインツ・アクスマン外務大臣、モナ・ニッケルン財務大臣の4人。それゆえに外では言えないようなことも言うことができる。

「その可能性が極めて大きいと言うことです。国防大臣もおわかりかと思いますが、まるで女神に愛されたような奇跡の連発です。これを偶然と片付けるのは無理があるでしょう。
ああ、合わせて言えばジョンブルも一枚噛んでいるでしょうな。何せ連中、ECTSF計画からの脱退とF-35の導入を内々に決定したとのことですので」

情報を知らされたときには、内心で(本国の連中やりやがった!)と頭を抱えて叫びまくっていたアクスマンであるが、今では何時通り何処か他人を馬鹿にしたような口調と態度を装う程度には落ち着きを取り戻し、「何を当たり前の事を聞いているんだ」と言わんばかりに答えた。
アクスマンの報告は続く。

「実際に既に欧州連合は日米の要求を拒否し、逆に自作自演は辞めるように求める抗議文とBETA着陸ユニットを国連に引き渡すようにと非難声明を非公式にながら上げております。これに対して日米の世論は激怒、今や西側諸国は欧州連合と日米およびその友好国に二分されております」

今回の事態を受けてフランスと西ドイツ、イタリアを中心とする欧州連合は、日米に対して猛烈な非難と抗議を行っている。これに日米の世論は激怒し、西欧諸国への経済的な優遇の撤回を発表するなど欧州と日米の対立は強まっていた。

「問題は、これを受け我々がどうするか・・・か」

司会役であるアルフレート・シュトラハヴィッツ大統領の言葉に一同が暫し沈黙する。
今後東ドイツはどう動くべきか・・・。
それを話し合う為に今回の臨時4閣僚会議が開かれている。
はじめに切り出したのはアクスマンであった。

「表向きはフランスの人工衛星の起こした事故による日本本土へのBETA着陸ユニットの漂着というのが今回の事件の事実です。
ドイツ民主共和国の外交を預かるものとしては西欧諸国に迎合すれば、今は親東ドイツ感情が強い日米両国の世論が反転すると断言しましょう。」

「東ドイツの財政を預かる身としても日米との対立は望ましいと言えません。現在の東ドイツの経済の発展は日米から齎される安価な資源大前提です。何より、我が国の国家予算の大半を賄う国債の最大購入国は日米です。日米の援助なしでは我が国の経済は崩壊します。無論、西欧諸国との対立もまた望ましいわけではないですが。二者択一しかないのでしたら日米一択です」

アクスマンの言葉に唯一の女性参加者であるモナ・ニッケルン財務大臣も続く。
彼女は唯一革命に参加せずにこの場に参加しているメンバーであるが、それこそ彼女の経済センスの高さを証明している。政治的な信頼性の高さもだ。

彼女の言葉は何ら間違っていない。東ドイツが革命の混乱から早期に経済を立て直し、大軍拡と経済体制の変革を維持できているのは日米からのレンドリースなどによる莫大な援助や投資、それに東ドイツ企業を日米の企業が西欧資本から防衛してくれているからだ。
日米におんぶにだっこ状態の東ドイツが日米の敵対心を買うことは経済的、財政的には自殺でしかない。

368: ホワイトベアー :2022/05/18(水) 21:02:05 HOST:sp1-72-1-245.msc.spmode.ne.jp
「セイヴァー・ジャンクションもあってポーランドのビスワ川絶対防衛線は当面の間持ちこたえるだろうが、それが突破された場合は我が国のオーデルナイセ要塞陣地が最前線となる。その防衛計画は西欧諸国の戦力も前提としてはいる。ではあるが・・・」

フランツ・ハイム国防大臣は言葉に詰まってしまう。

軍部の問題は経済や外交よりもさらに深刻である。
国家人民軍はポーランドが撃破された場合、欧州連合軍、米軍、アイスランドの在欧州日本軍を中心とした国連軍の三軍と共同してオーデルナイセ要塞陣地の防衛に当たる予定であった。

しかし、今回の事件により日米は大幅な在欧州軍の削減を発表。一応、再編された日本陸軍欧州軍の一部と米陸軍第7軍が東ドイツに進駐しているが、戦力としては心もとない。純粋な戦力としてのみ考えると欧州連合と積極的に対立は避けたい。

かと言って欧州連合に迎合できるかというとそれも難しい。何せ、現在の国家人民軍の重装備は日米からの供与品もしくは日米の装備をライセンス生産したものであるし、財務相も言った通り日米は東ドイツの軍事費を含めた国家予算を賄う国債を買ってくれている。日米の援助はBETAと戦う上で必要不可欠だ。

「ニッケル財務大臣に聞きたいのですが、日米の援助や支援なしに軍事費を捻出するのは可能ですかな?」

「革命前の様に全経済活動に統制をかけ、軍事中心の経済体制へ移行、さらに欧州連合から追加で現在の日米の支援の半分程度の支援を得られれば可能です。」

アクスマンの質問ににこやかに事実上不可能だとニッケル財務大臣は答えた。
事実上、日米に濡れ衣を被せられて優遇措置の解除を喰らった現在の西欧諸国には、東ドイツを相手にそこまでの支援をする余裕は存在しないだろう。
何より、東ドイツの大多数を占める大衆がシュトラハヴィッツ政権を認めているのは、自由化もそうだが経済の発展で豊かに成れていると実感できているからだ。
それが崩れれば大衆の支持は一気に崩れ、政権の維持は難しくなる。

「外務大臣、明確にどちらにも言質を取らせずに、双方との関係を維持することは可能かね?」

「完全には難しいですなぁ。しかし、多少、欧州連合加盟国との関係悪化を許容して良いと仰られるなら、このアクスマン。大統領閣下の御命令を見事に果たしてみせしましょう」

シュトラハヴィッツの問いかけに何処までも尊大に、そして芝居がかった態度でアクスマンは答える。

東ドイツの勝算は十分にある。
幸いにして日本の中枢である夢幻会会合は西欧は悪役にしたて上げているが、欧州防衛最終ラインである東ドイツに対してはその限りではない。むしろ、日米の救うべき対象として持ち上げている。
そこにアクスマン率いる東ドイツ外務省と旧国家保安省のロビー活動や積極的な対日対米広報活動も合わさり、表向きは日米に協調して西欧諸国を非難しなくても、依然として日米の世論の対東ドイツ感情は高い好感度を維持できるだろう。

そして、外相として西欧諸国の要人との間に築き上げたパイプとシュタージュファイルの存在があれば、西欧諸国の動きに東ドイツを巻き込ませない事はあまり難しくはない。表向きは西欧諸国の面子を潰さずにいることもできる。

本来なら、こう言う悪巧みは辻さんの専売特許なのだがなぁ
そう内心では思いながら、どうしたら自分と日本の利益を最大限に引き出せるか、アクスマンの頭は急速に回転していく。

「では、今回の件は日米、欧州連合どちらにもつかずに中立を維持するという方針で構わないかね」

シュトラハヴィッツの声に、皆が頷いた。

余談であるが、この会議後に撤退をする機会を誤った国防大臣が、大統領と外務大臣の娘自慢を延々と聞かされるという毎度恒例の行事が発生したが、それはまた別の話である。

369: ホワイトベアー :2022/05/18(水) 21:02:38 HOST:sp1-72-1-245.msc.spmode.ne.jp
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最終更新:2022年06月03日 23:31