776: ホワイトベアー :2022/05/31(火) 21:00:25 HOST:sp110-163-12-168.msb.spmode.ne.jp
大陸×ワルパンネタ 第17話 出撃 
1937年1月1日 バイカル基地

シベリアの上空で激しい激戦が行われている一方、戦線の後方に位置しているバイカル基地、その施設内に存在する大学の講義室を思わせるブリーフィングルームは今や闘志と戦意で溢れていた。
シベリア上空の戦況は当初の予想より芳しくなく、作戦計画よりも早期の出撃ということだが、そんな事は関係ないとばかりに、この場にいる全員が最後のブリーフィングの内容に意識を集中させながら、飛び立つ瞬間を今か今かと待ちかねている。

「隊長、ようやくですね」

「ああ、ようやくだ」

隣に座っていたウォーウルフ2、井上文乃大尉ことフミが周りに聞こえない程度の声で囁いてくるので、同じく小声で返してやる 。

このバイカル航空基地よりもさらに後方、日本領南扶桑半島の北部に位置しており、EACO軍総司令部と今作戦の司令本部が置かれている漢城航空基地からの出撃命令は即座にこの基地で待機している戦争狼達に知らされていた。

ようやくだ。今までの、味方が死闘を繰り広げているのをただ眺めているだけだった苦難の時間もようやく終わりを迎え、心の底から訪れる事を臨んでいた/臨んでいなかった出撃の時が近づいている。

このブリーフィングが終われば、北郷中佐を含めた彼女たちは特務中隊とともに戦場の最前線に飛び立つのみだ。

「それでは、最後に本作戦を指揮する北郷中佐から1言お願いします」

早く終わらせろという無言のプレッシャーを一身に浴びながら、今まで作戦内容や状況を説明していた参謀から誘いがきた。
これほどの闘志と戦意の坩堝のあっても平常に落ち着いてブリーフィングを行えていた人間ゆえに胆力が相当あるな。
そんな馬鹿げた考えを浮かべながら席を立ち、壇上まで移動して室内を見回す。部下達の戦意に満ちた目が、全て私をこちらを見ていた。
彼女らに何を言えばいいのか? そんな事は決まっている。

「敵の数は我々の予想を超えている。我々が負うことのなる苦難はこれまででも最大のものだろう。だが、最後に勝つのは私達だ。 言うべきことはそれだけだ」

わずか1分にも満たない言葉。
北郷の口調は、この場にいるものを奮い立たせるような激励ではない。恐怖を紛らわせる為の鼓舞でもない。
まるで友人に電車の行き先を告げるかのような、今日の晩御飯の内容を告げるかのような、ただの事実の確認であった。

北郷が口を閉じると同時に、席に座っていた魔女達が何の合図もなしにほぼ一斉に立ち上がることで彼女に『そのとおりだ』と答える。

彼女らにとって敵がどれだけ強大であるか、敵がどれだけ多勢であるかなど対して関係ない。恐怖心がないわけではないが、それでもこの程度の事で怖気づく者などこの場には居ない。
何故なら、例え自身が死んでも隣の戦友たちなら、彼女らの視線を集める目の前のボスなら最後に勝利を掴んでくれると知っているから。
最後に勝つのは自分達であることを確信しているからだ。

そこに狼たちと特務中隊の違いはない。

北郷の目の前の魔女たち、その顔には一切の恐怖心は見えず、ほのかな緊張と絶対的な自信だけが映っていた。

本当に、私にはもったいない部下達だ。

今まででも参加したことのない規模の作戦で、しかも、私達の行動次第で作戦の成否を決する。そんな重い責任を背負っても負の感情を一切表に出さずにいられる部下達を前に、何度目かはわからないが心のそこからそう思う。
だが、それを口にすることはもちろん、態度に表すこともない。何故なら、その評価は彼女らを貶めることになるから。

最後に司会役であった参謀が終了を宣言して、ブリーフィングは終了する。

ふと窓の外に視線を移すと、煌々と輝く太陽の下で、雲一ない大空になびく日章旗がその目に映った。

777: ホワイトベアー :2022/05/31(火) 21:01:53 HOST:sp110-163-12-168.msb.spmode.ne.jp


ブリーフィングルームではああは言い切ったものの、格納庫を部下達を率いて戦闘脚に向かって歩いていると、改めて自身の責務の重さを、私の行動が彼女達を、いや彼女たちだけではなく東アジアに暮らす人間の今後に大きく影響する事を強く自覚してしまう。
どうして、まだ二十歳程度の若造でしかない私がこんな責任を負わなければならないんだと言う気持ちがないと言ったら嘘になるし、自分のせいで誰かが死ぬことに恐怖心がないと言っても嘘になる。
無論、この程度の心の乱れを表に出すような真似をするほどヤワではないし、こうした経験が初めてと言うほどウブでもないが、それでもこうした雑念が頭を行来していた。

(だめだな、今は作戦の事だけを考えなければならないのに。)

雑念を振り払おうとすると、ふと肩を掴まれた。こんなことをする人間は我が隊には一人しかいないが、確認のためにそちらに目をやると案の定フミがいた。彼女は私の隣に移ると、拳を作り自分の胸を2回叩く。

わずか十数秒にも満たないやり取りであり、そこに言葉はない。ゆえに彼女の表したい事と私が受け取った内容は違うかもしれない。だが、私にはそれだけで十分だ。
駐機されている戦闘脚の前につく頃には思考から雑念はすでに消え去っていた。

「始動!」

戦闘脚を装備した後に発したその言葉と同時に、使い魔の特徴を出現させて魔導エンジンを始動させ、魔導プロペラを展開、それを回転させていく。
私だけではない、この格納庫にいる第1中隊の部下達が履く戦闘脚の魔導プロペラも一斉に回転を始めていた。

「左右魔導エンジン、異常なし。魔導プロペラ回転数異常なし。右および左ラダー異常なし」

エンジンを始動後は規定されたチェックリストを整備員とともに念入りに確認していく。

「慣性航法術式異常なし、警告灯異常なし、衝突防止灯異常なし」

現在、シベリアの上空で行われている決戦に参加する将兵の命運をかけた作戦だ。機材の不調など許されない。それが原因での作戦の失敗等という事は絶対にあってはならない。

暫しの時間のあと、全チェックリスト内容を確認し終えた。全員異常なしだ。
それを確認しだい、発信ユニットから武器が展開される。出てきた武装は、今では少々力不足が叫ばれる12.7mm機関銃に変わる新たな主力兵装として登場した20mm機関砲だ。ベルト給弾式で350発の弾薬が初期装填されている。

男性でも持つことが手一杯になるであろう、それを私は片手で持つ。身体強化術式様様というべきか、体感では大した重さに感じない。

チェックリスト確認時に合わせて拡張収納システムへの弾薬等の搭載も進められており、それが終了するのを確認した整備員の一人がホワイトボードで兵装の種類と数を知らせてくれる。

空軍所属の整備兵ということもあって少し心配していたが、しっかりと日本海軍航空魔導部隊の規定通りの量、大型ネウロイ相手でも10体程度ならば少なくとも弾切れに困ることはないだけの弾と予備武装を搭載してくれていた。

これでようやく一連の出撃の準備が完了し、それを知らせるために整備員向けてサムズアップする。

778: ホワイトベアー :2022/05/31(火) 21:02:31 HOST:sp110-163-12-168.msb.spmode.ne.jp

「ウォーウルフ1よりタワー。ウォーウルフ第1中隊全機チェックリストに異常なし。出撃準備を終えた。」

『バイカルタワーよりウォーウルフ、了解した。第5番待機所への侵入を許可する。位置に付き、待機せよ』

「ウォーウルフ1了解した。移動し、待機する」

誘導員の指示に従ってハンガーから戦闘脚を纏った魔女達が待機場まで移動する。魔力の温存のために、今だに発進ユニットに搭載されたままの状態でだ。
暫しの時間のあと魔導インカムから男性の、この基地の管制塔にいる航空管制官からの指示が聞こえてくる。

『バイカルタワーよりウォーウルフ1へ。1番滑走路への侵入を許可する。位置に付き、待機せよ』

「ウォーウルフ1からバイカルタワー、了解した誘導路を移動する」

管制塔とのやり取りのさなかに私を誘導していた誘導員が発信ユニットのロックを解除し、親指を上げて誘導準備良しを意味するサムズアップをしてきた。こちらも移動準備良しという意味を込めてサムズアップで返す。
そして、ロックの解除された発進ユニットから機体を切り離し、誘導員の誘導に従って1番滑走路を目指して移動を開始する。

『バイカルタワーよりウォーウルフ2へ。1番滑走路への侵入を許可する。位置に付き、待機せよ』

『ウォーウルフ2了解。誘導路移動後、位置に付き待機する』

誘導路を進んでいるさなか、魔導インカムから管制塔と相棒のやり取りが聞こえてくる。
そして、後ろから魔導エンジンの音と魔導プロペラの空気を切り裂く音が移動してくるのがわかる。

空を見上げると別の滑走路から大隊の部下達や臨時に編入された特務中隊のウィッチ達が迷いなく大空へと飛び立っていた。

誘導路を出て滑走路のスタート位置に到着する。後ろにはウォーウルフ2を初めとした第1中隊の隊員たちも続いてくる。

「ウォーウルフ1からバイカルタワー。一番右滑走路にて離陸準備完了。」

『バイカルタワーからウォーウルフ1へ離陸を許可する。高度1200mまで急上昇せよ。』

準備完了を伝えると即座に離陸許可が下りる。

「ウォーウルフ1からバイカルタワー、離陸許可を確認した。高度1200mまで急上昇する」

タワーからの指示を復唱すると同時に、魔導エンジンをフルスロットルにし、発進支援術式の補助を受けながら思いっきり滑走路を走っていき、空へと飛び立つ。

後ろではフミや中隊の隊員達が私の後に続くように次々と離陸をしており、短時間で全員が空に上がった。
この頃には他の滑走路から離陸していたウォーウルフ隊のウィッチ達や特務中隊のウィッチ達も全員空に上っており、足に機械仕掛けの箒を身につけた魔女達が私を戦闘に編隊を組んでいく。臨時編入された特務中隊がいるはずなのに、まるでそれを感じさせないスムーズな空中機動だ。

編隊を組み終わると、狼達とそれに護られた魔女達はネウロイとの戦いの為に、一同は西を目指して進んでいった。

779: ホワイトベアー :2022/05/31(火) 21:03:11 HOST:sp110-163-12-168.msb.spmode.ne.jp
以上になります。wikiへの転載はOKです。
ウォーウルフ2の名前は井上文乃、愛称はフミとすることしました。
それに合わせて、流石に原作の19歳で中佐の 地位には日本軍じゃあつけんので、北郷中佐の年齢いじりました。


以下簡単なプロフィール

名前:井上 文乃
年齢:22歳
所属:大日本帝国海軍第1航空魔導大隊第1中隊
CS :ウォーウルフ2
階級:大尉
使い魔:日本狼

大日本帝国海軍第1航空魔導大隊に所属している航空ウィッチ。コールサインはウォーウルフ2、すなわち北郷のウィングメイトを務めている。ニックネームはフミ。

北郷とは軍学校の同期であり、軍学校所属する前からの旧友で、軍に志願した理由は本人曰く北郷に一目惚れしたからとのこと。
一見すると軽い雰囲気を纏う女性で、部隊内では普段からジョークで周囲を和ませるムードメーカーとしての地位を確立しているが、冷静な判断力と状況分析能力を有しており、航空ウィッチとしての技量は超一流、昇進してアグレッサー部隊への異動を毎年打診されれる程である。 
さらに、大隊を指揮する北郷に変わりウォーウルフ隊第1中隊を指揮することも多く、指揮官としても優れた才を示している。

ただし、北郷を侮辱される場合は熱くなりやすい傾向にあり、たびたび北郷に諌められることがある。 

昔に傷を負っていたところをお持ち帰りして治療して以降、懐かれた日本狼を狼としており、一部からは北郷よりもウォーウルフの名前が似合う女性として知られている。

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最終更新:2022年06月03日 23:51