228 :earth:2012/02/17(金) 23:42:40
久しぶりに短編のネタ投下です。尤も明るい話とは言えないのでご注意を。
『アリゾナの風景』
『史実』世界においてアリゾナ州には日系人強制収容所が作られ、そこに多数の日系人が収容され辛酸苦難を味わった。
この世界においてはそのようなことは起こらなかったが、『歴史の修正力』ともいえる力がそれに近い光景を現出させることになる。
「全く歴史とは皮肉なものだ」
一人の新聞記者が車の外に広がる『その』光景を見て痛ましそうな顔をして呟いた。尤もその呟きが聞こえたのか
前側の運転席に居た運転手兼通訳が話しかけてくる。
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。しかし彼らが何時、外に出れるのだろうな?」
「無理でしょう。カリフォルニアも余裕があるわけではないですし。ましてこの国は難民なんて面倒見切れませんよ。
それに東部風邪(
アメリカ風邪のこと)に感染しているかも知れない連中ですから」
「そうか」
「まぁここに収容された連中はまだ幸運ですよ。食事も寝るところもある。ここじゃ、それがあるだけでも儲けもの。
市民達はむしろ感謝して欲しいとさえ思っているでしょう」
「……そうだな」
彼の前、いや正確に言えば彼が乗る車の外には希望を失ったような顔で、その日暮を余儀なくされている旧アメリカ人達がいた。
(これが歴史を改変した結果、か……)
アリゾナ共和国。かつて『加墨戦争』(他にも呼び名はある)で戦場となり、深い傷跡を残したこの国は戦後もその後遺症に苦しんだ。
このためアリゾナ共和国政府はカリフォルニア政府に対して持続的な支援を求めた。
勿論、カリフォルニア政府も余裕があるはずがなかったが、アリゾナが混乱するとアメリカ風邪の封じ込めに支障が出ることが判っていた
ので乾いた雑巾を振り絞るように支援を行った。当然、カリフォルニア共和国の後ろ盾である日本帝国もこれに続いた。
「これ以上、西海岸を混乱させるわけにはいかないでしょう。全ての元凶を守るために予算を組む破目になるとは……」
急激に拡大した勢力圏の防衛と開発に忙しい日本帝国政府の某高官はそうぼやきつつも、アリゾナ共和国の梃入れを行った。
しかしその梃入れと引き換えにアリゾナ共和国はカリフォルニアの防壁であることを要求された。そしてその結果、この地は
東部から押し寄せるアメリカ風邪、そして難民達への防波堤となったのだ。
「さて、どんな記事を書けばいいのやら」
枢軸国の圧政、飢え、さらに病魔から逃れるため、そして『かつての』自由な国アメリカの残滓を求めて押し寄せる元アメリカ人。
そしてそれを厄介者として排除、あるいは隔離する元アメリカ人達。その光景はお世辞にも見ていて愉快とは言えなかった。
北米、かつてアメリカ合衆国と呼ばれた国のあった領域に何時安穏が訪れるか、それは誰も判らなかった。
最終更新:2012年02月21日 20:32