210: 弥次郎 :2022/06/04(土) 22:50:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鶸たちの囀り」3



《細かいのは省略して、ネックとなる問題点はたった一つだ。それが決定的に問題だ》

 その問題とは何か?根本的且つ決定的な問題を、ドナルドは口にする。

《地球連合では過度な内政干渉ができない》

 そう、地球連合は救援に来ただけであり、その範疇を超えてノイリャナルセ聖教国の内情に手や口を突っ込めない。

《何かしらの大義名分を得ているならばともかく、それもなしにやるのは問題がありすぎる。
 まして、今回の件は一国の中でも複雑に利害関係が絡み合っている》

 地球連合ノイリャナルセ聖教国派遣群。
 ノイリャナルセ聖教国政府---あちらの言い方で言えば聖教府。
 そして、ノイリャナルセ聖教国における軍事を担う組織であり血族の集まりである神戟。
 現状のプレイヤーはこの3者だ。現状の所、他国はノイリャナルセ聖教国に口出しをしてこない。
正確に言うならば口を出したり外交を積極的にしようとする国がいない、というべきであろうか。
それの原因も、ノイリャ聖教とそれに付随する神戟というシステムに由来するのだから、如何に面倒に思われているかが窺える。
他国ではその在り方を理解しがたいものとしてとらえ、教国ならぬ狂国とまで呼ばれているのだから。

《だからこそ、地球連合としては勧告をするのが限度だ。
 聖教府と神戟の両方が現状に対して互いの意見を忌憚なく交わし合い、決裂を避けてもらわなくてはならない》

 それが、最重要目標だ。
 それに頷いたのは宗教担当のアンネリーセであった。

《神戟に関しては、重要ポストが血族によって世襲制となっていますので、影響力のある血筋から代表者を募ることができれば可能と思われます》
《まあ、そうなっている以上、代表者を話し合いの場に引っ張り出せればいいのは楽だな。聖教府の方は?》
《聖教府に関しましても、やはり重要な役職が基本的には世襲や決められた一族による持ち回り制ということもあり、代表者を集めればよいかと》

 ただ、問題なのはノイリャ聖教で定められる序列だ。
 職業・婚姻・居住などは家門や門地あるいは血統に縛られている。
 加えて、カーストにも似た絶対的な宗教による階層が存在し、上から下へと命令は絶対性を以て下されている。
両者の代表が雁首を揃えて話し合ったところで、根本には差が生じているわけで、対等な話し合いとなるのは両者が望んだ時のみだ。
即ち、聖教府が下層のカーストである神戟の嘆願や要請を余計な口出しと捉えれば無視してしまって問題ない。
逆に、神戟も己の領分たる戦いの分野においては聖教府に対してある程度の優先権を持ち、そこのパワーバランスは複雑だ。
 つまり、忌憚なく話し合い、確実性があり実効性の伴う変化を期待するのが難しいということになるのだ。
互いの立場や境遇などがただでさえ違うところに、それを補強して、話し合いを妨げる要素でいっぱいということ。

《結局はノイリャ聖教が足を引っ張る。システムそのものが、システムの問題の解決を妨害している》

 ドナルドは、総員の意志を代弁して、大きくため息をついた。
 そう、結局は堂々巡りだ。システムの運用で生じた問題を解決するのに、システムそのものが邪魔となる。

211: 弥次郎 :2022/06/04(土) 22:50:57 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

《できることと言えば、聖教府の意見と神戟の意見をこちらで別個に集め、それの折衷案をそれとなく出すだけだ。
 働きかけを行い、話を聞き、互いが動くのを待つしかない》
《時間がかかりそうですね……》
《事実上のタイムリミットは、神戟がすりつぶされるまで。
 そして、神戟としては文字通り最後まで戦う覚悟で固まっている。
 こちらとの共闘自体に文句はなく、ありがたいと思ってはいるのだろうが……それでもどこかで不満は出る。
 さらに言えば、共闘していても戦力が消耗しないわけじゃない》
《他方で、聖教府では一般教徒の徴兵も検討しており、サンプル提供したAI兵器や無人機の開発を進め、神戟を強化することを考えている。
 一応の味方となりうるのは、両者のはざまに立つ軍需産業関連の聖教宮・鍛治殿・兵杖塔のみ》

 その組織については、すでに誰もが知っている組織だ。

《あの無人機の開発元、か。用意しろと言い出したのが神戟というんだから恐ろしい話だ》
《だからこそ、聖教府に対しては表向きAIが未完成の無人機という体裁をとっていたのだろうな。
 報告すれば、押し切られた担当者も言い出した神戟もまとめて処罰を受けかねない》

 しかし、その現状は変化しつつあると発言したのはレイーズだ。
 何しろ彼女自身が聖教宮・鍛治殿・兵杖塔の技術者と協力して開発を進めているのだから。

《ですが、現状はAIの開発とそれに適合した形への設計変更を進めています。
 無論、AI兵器の賛否については神戟側に意見を聞かねばなりませんが……》

 そう、戦うことで一般教徒を守る矜持と誇りを持つ彼らが、果たしてAIというものを受け入れるかどうか未知数なのだ。
 最悪の場合---

《開発した戦力が拒絶され、挙句に暴走されても困るからな。こちらに武器を向けかねない》

 そうなれば、レギオンと争う前に、人間同士の争いとなる。
 殊更、宗教を主軸とする国家においては地球の歴史を振り返れば散々起こってきたことでもある。

《そう。そして、俺の考えるに最大の爆弾が……ヒェメルナーデ・レェゼ聖二将だ》

 その理由は、諜報部が調べた彼女の経歴にある。
 軍団長を率いる家に生まれ、開戦時に家族を自分以外レギオンに殺されている。
 レギオンに果敢に立ち向かう聖女。悲しみを乗り越え、若いながらもノイリャ聖教に従い、神戟として戦う。
他国の軍で言えば中将にあたる階級を拝命し、一個軍団を率いているというのは驚愕すべきことでもある。

《綺麗すぎる、そういうことですか少将?》
《ああ。言葉を変えれば、出来すぎている。プロパガンダだってもうちょっとごまかすぞ》

 NT達も彼女に不可解な感情を感じ取っていたのだ。
 義務感と、同時にすさまじい憎悪を。それは、レギオンと戦わねばという意志と、その身さえも焼き尽くすような強すぎる悪意。
しかもその悪意はレギオンだけに向いておらず、むしろ国家全体に向いているとまで断言されたのだ。

212: 弥次郎 :2022/06/04(土) 22:52:14 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

《最も、確証がないのも事実。ともすれば彼女から直接聞きだすしかない。
 だがそんなことはやりたくはない話だ。土足で相手の心に踏み入るなど、気分が悪い》

 よって、とドナルドは通達した。

《諜報部は引き続き聖教府および神戟の調査を進めろ。特に、あのヒェメルナーデ・レェゼ聖二将について詳しく。
 家族を失ったという状況についてが最優先事項だ。これはプライバシーにも関わるから慎重にな》
《了解です》

 続けて、アンネリーセを筆頭とした渉外部に指示が飛んだ。

《バウスコール渉外官は、無人兵器に対する意識調査をお願いします。
 表向き歓迎はされてはいても、どこまで信用できるのか疑問ですので。
 特に、重要な役職にいる人員を重点的に》
《わかりました。ここも宗教が絡みますので、慎重に行います》
《頼みます。こちらでも、方向性は違えどアプローチを試みて情報収集を行いますので》

 次に技術部。

《技術部は今のところは提供されている有人機の方を優先してくれ。
 また、無人機のことについては神戟にあまり不自然にならない程度に隠して、開発を進めてくれ。
 当面の間は供与したMTやKMFなどで時間を稼ぐことができる。その間に、このまま進行させるかどうかの判断をしたい》
《はい。聖教府からの戦力の要求については、こちらでもなんとか遅らせるよう努力してみます。
 神戟の意見や立場を尊重したい、と伝えても構いませんか?》
《むしろ伝えてやってくれ。我々を経由しなければ、案外聖教府も神戟の実態を知り得ないのかもしれない。
 立場上報告などはされているのは確かだろうが、それ以上となるのは制約が課されるだろうからな》

 ややげんなりした返答を受けながらも、ドナルドは続ける。
 今度は総員に対しての、派遣群を任されている立場からの指示だ。

《情勢ははっきり言えば複雑怪奇だ。
 相手もこちらの出方を窺っているのは間違いない。覗き込まれていることを各員忘れるな。
 以上だ、解散》

 そして、ドナルドの意識は急速にネットワークから離脱していく。
 恐らくだが、明日から動き出せば当然ノイリャナルセ聖教国も反応が返ってくるであろう。
それらを観測し、観察し、精査することで、相手の考えや動きを予測し、この派遣軍全体の動きの参考としなくてはならない。
 こちらから動けば、相手の動きも加速する。より忙しくなるなと、ドナルドはそう予感していた。

213: 弥次郎 :2022/06/04(土) 22:53:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ノイリャナルセ聖教国についてあんまりにも描写されていないので、こちらで適当に設定をでっち上げることにしました。
公式ではないので悪しからずー

次からは現実世界での話に持ち込みたい……持ち込む(気合)
ヒェルナのエミュが難しいんだよなぁ…

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最終更新:2022年06月15日 15:01