341: 弥次郎 :2022/06/05(日) 22:45:07 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鶸たちの囀り」4


  • 星暦恒星系星暦惑星 ノイリャナルセ聖教国 現地時間星暦2147年3月14日 白紙地帯



 白紙地帯。
 火山活動によって噴き出す火山灰による日光の遮蔽。それに伴う気候の変化。あふれ出す溶岩とそれに伴い噴き出す重金属。
当然ながらそんな悪条件の重なっている環境は植生も何もなく、生物が生活する余地もなく、当然ながら人も立ち入ることが難しい。
伊達や酔狂で白紙地帯と呼ばれているのではない。人類の版図に入ったことがなく、さらには火山灰で真っ白。まさしく白紙の世界なのだ。

 しかして、それはあくまででも生物に対してのものであった。
 端的に言えば、そういった悪環境をものともしないならば生存するのにふさわしい環境とさえ言えた。
 そう、ノイリャナルセ聖教国に襲い掛かったギアーデ帝国の無人兵器「レギオン」はこの白紙地帯を拠点としているのだ。
機械の体である以上、多少の支障をきたすことはある。だが、逆に言えばそれだけなのだ。
むしろ、人類がたやすく踏み入ってくることがない土地ということで、ノイリャナルセ聖教国を担当するレギオン達にとっては理想的とさえ言えた。
ここを拠点に、資源を集め、組み立て、送り出す。敵の妨害を受けることのない環境から、敵国を一方的に攻撃できる強みがあった。
 例えて敵が攻め込んで来ようとも、環境で優位であり、数でも質でも勝るレギオンは撃退してきたのだ。

 だが、それはすでに終わっていた幻想であった。
 そして今日もまた、地平の彼方から地面埋め尽くすような集団が押し寄せてきたのだった。
それは、膨大な数という暴力という、これまではレギオンのみがもっていた強みを同じく発揮していた。
加えて言うならば、レギオン以上の多様性という戦力を備え、質でも上回る暴力の集団だった。

 火山地帯用にチューンがなされているMTとガードメカによる尖兵がまずは漸進してくる。
 火山灰---端的に言うところの火山からの噴出物の一種であり、直径2mm以下の岩片から構成されるそれ---の満ちた空間を何ら問題なく突っ込んでくる。
何しろ、それらに人は乗っていない。生命維持装置もなにも不要であり、レギオン同様に機能を優先できる。

 侵入が斥候型により探知された時点でレギオン側は当然のように攻撃を開始していた。
 水平線の向こう、長距離砲兵型や近接狩猟型の持つロケット砲が火を噴き、あるいは長距離砲が砲弾を送り込んでくる。
これまで行われてきた侵攻に対するレギオンの対処としては、ひどくテンプレート的だった。

『長距離砲兵型の反撃を確認、予め斥候型を配置していたか』
『いつも通りだな』
『ああ、生じる結果もな……』

 そんな声がしたのは、最前線からさらに後方、しかも上空の航空母艦のオペレーターの集う指揮管制室だった。
 膨大な数の無人機は自律判断を行うAI---フォーミュラブレインシステムを搭載している。なのでオペレーターは軍団としての動きを指示してやるのだ。
戦術的・戦略的な判断を下すAIというのも存在するのだが、フェイルセーフ的な意味合いもあり、人間のオペレーターというのは常に使われてきた。
 そして、オペレーターたちの観測画面には、これまでの戦闘と同じようなレギオンの攻撃に対する対処のログが流れていく。

『R2BW SHCHIT群、Eフィールドによる防空開始』
『発射点を確認……前回よりさらに数を乗せてきたな、4割増しとは豪勢な話だ』
『次いで接近する機影を確認……これは自走地雷、か?』

 光学観測されたそれは、舞い上がる火山灰なども相まってやや不鮮明。けれども、差異が確認された。
 自走地雷というからには自走する点は同じだ。人の形を模した不気味なマネキンなのだが、それはこれまでと違った。

『サイズが大型化、そして地面を這いつくばるような四足歩行か…』
『動きはさすがに遅いから、このまま排除も…まさか!』

342: 弥次郎 :2022/06/05(日) 22:46:18 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 すぐにそのオペレーターは防御態勢の続行を指示し、フォーミュラブレインもまた、同様の判断を下した。
大型化し四足歩行に切り替えた自走地雷。明らかに頑丈なこちらの兵器を想定して改良をしたものであろう。
 だが、それはある意味では設計思想から離れるものだ。人に紛れることで被害をもたらす、あるいは戦車などに取り付きやすくするための小型化。
そうであるはずなのに、なぜ大型化して無理やり速力をあげたのか?その意味は?

『自走する炸薬の群れか!』

 そして、その自走地雷目掛け、長距離砲兵型の砲撃が直撃し、搭載された高性能爆薬が連鎖で爆発。
通常よりも強力な炸裂が発生して、防御用MTの一種であるR2BW SHCHITが展開するEフィールドに突き刺さった。

『……映像回復。これは、すごいな』
『しかもやられたな、こいつは』

 前方、MT隊の進路上は巨大な爆発が起こったことにより、地面は深くえぐられている。
一体何倍の炸薬を詰め込んでいたのか、あるいはどれだけの数をぶつけてきたのか。地面に大穴が空き、まるで塹壕のようになっているのだ。
あるいは前進してくるMTに対する落とし穴というべき深さまで掘られているのだった。砲撃の集中でこれだけのことをしてきたのだ。
 これは、二つの意味を持っていた。

『二重の罠。直撃すればこれまで通り以上の攻撃を。外れたとしても、進路妨害になる』
『長距離砲兵型にとってみれば友軍の位置情報はよくわかるから外しはしない、か。あれこれとやってくれるな、レギオンは……』

 だが、オペレーターたちは問題としなかった。

『この程度では止まってやらんよ』
『火山灰を吸い込まないように防御スクリーン展開、よし』
『いけ』

 そう、この程度の穴など飛び越えられるのがMTなのだ。
 装脚型のMTでも、跳躍などはできるし、空挺降下などもを想定したスラスターなどは備えているので飛び越えられる。
とはいえ、動きが鈍重なファ=マラスなどに対しては有効な戦術であることも確かだ。さらに先ほどの自走地雷ならぬ自走炸薬への狙撃爆破は耐えられない。

『こっちからもお返しだ』

 なればこそ、前衛を形成された塹壕を飛び越えさせている間に、こちらも反撃する。
 標的となるのは長距離砲兵型。狙うのはこの白紙地帯に適合した六脚型に換装したナースホルンF236型の砲だ。

『撃て』

 遠慮会釈のない砲撃。しかも、上空に居座る観測機からの情報を交えながらの精密砲撃だ。
如何に装脚による陣地転換の素早さがあるといっても、動きが丸見えでは何ら意味がない。
 そして、オペレーターたちの合図の元、ナースホルンたちの砲撃は順次開始された。
 それらは、寸分たがわずレギオンの長距離砲兵型を順次撃破していく。確実に刈り取り、砲撃被害を減らしていくのだ。
 しかしながら、それだけでレギオンは止まるような弱い相手ではない。

『レギオン前衛、前進してきていますね』
『こっちの動きが一時緩んだ隙を狙ったかな』
『確実でしょう。この自走炸薬と合わせ、足止めしている間に近接戦でこちらを包囲殲滅を狙うつもりかと』

 ああ、とオペレーターの一人はモニター上のレギオンの動きを見ながら頷く。
 複雑に入り乱れたレギオン側の塹壕、そしてそこに飛んでくるロケット弾による弾幕は、少なからず足止めを果たす。
その間に、レギオンの斥候型・近接狩猟型・戦車型などが前進し、有意なポジションを獲得するつもりなのであろう。
 事実として、効力射ではないはないにしても、砲撃や射撃は飛んでくる。塹壕を飛び越えている戦力にとっては脅威だ。

『だから』

 と、オペレーターは笑う。

『想定通りだ。控えていた神戟達からすれば、包囲陣を敷こうとしている間抜けな横っ腹が丸見えだろう』

 即ち、狩りの時間だ。

343: 弥次郎 :2022/06/05(日) 22:47:41 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 そして、地球連合軍とレギオンの激突を存在を隠匿しながら確認していた軍団がいた。
 ノイリャナルセ聖教国軍第二機甲軍団「イ=タファカ」。

『地の定めと護国の誇りの元に---「イ=タファカ」全軍攻撃開始せよ。
 遥か彼方より来たりし友邦に報いよ。我らの戦いを為すのだ。彼らの挺身に恥じぬ働きを』

 トトゥカ聖一将の合図とともに、それは一斉に動き出した。
 レギオンが包囲陣を作るのを待って動き出した、神戟の逆包囲部隊である。
 そう、自走炸薬の攻勢という予想外の手を打たれはしたが、戦場の全体の流れは何一つ変わっていなかった。
地球連合軍の尖兵が前進し、危険な長距離砲兵型などを排除し、尚且つ敵を誘引。意図的に包囲される。
そしてそこを外側から「イ=タファカ」がさらに包囲して、退路を断ち、さらに集中砲火を浴びせるのだ。

『砲撃開始!』

 そして、「イ=タファカ」に供与されているKMFの一種「機甲砲二式ファル=ジャノ」の150㎜砲が一斉に火を噴いた。
戦列を並べ、その六本の足を以て大地に踏ん張った異形のKMFは、その火力を一切の遠慮を持たずに解き放ったのだ。
長距離砲兵型と同等かそれ以上の砲撃の嵐は、当然ながら包囲を形成しつつあったレギオンの群れに突き刺さる。
普通ならば壁を務める地球連合側にも被害が及ぶであろうが、生憎とEフィールドを抜くには至らない。
それに、そんな友軍誤射をするような間抜けは存在しないのだ。

『続けて、前衛部隊、前進せよ』

 そして、次の矢が放たれる。
 先頭を切るのは、機甲砲二式ファル=ジャノ同様に地球連合軍から供与されているKMF「機甲丙二式改 デュ=マスラ」だ。
砲撃力こそ劣るものの、火力はレギオンを駆逐するのに十分なアセンブリで、尚且つ他を超える機動力がある。
散発的な攻撃をその機動力を以て交わし、潜り抜け、決戦距離に持ち込んで攻撃を叩き込むのだ。
リニアガンが、40㎜機関砲が、あるいはロケットランチャーが火を噴いていく。
 さらに、彼らが前線をかき回し、小型のレギオンの排除を進めている間に本命が到着する。

『我らの切っ先として、務めを果たせ!』

 ノイリャナルセ聖教国のフェルドレスたる「ファ=マラス」の到着だ。
 120㎜砲という大火力が、それを運搬するファ=マラスにとって煩わしい自走地雷や近接狩猟型の縛りを受けず、自由に放たれていく。
もはや入れ食い状態だ。戦車型のスペック上においては確かにファ=マラスに優位を持っている。
さりとて、挟み撃ちにされ、どこを向いても敵だらけという状況を完全に覆せる性能差ではない。
 砲撃、そして着弾と炸裂。戦車型がまた一機、また一機と順々に撃破される。ファ=マラスに無論被害は出るとしてもその差は明白だった。

『「イ=タファカ」に負けるなよ!』

 そして、連合も戦力を投じていく。
 前衛のガードメカたるR2BW SHCHITを飛び越え、近接戦闘型のナースホルンF237型やVACが躍り出たのだ。
 徐々に徐々にと、レギオンの軍勢は挟み撃ちにされてすりつぶされていく。これには溜まらず、レギオンも撤退する動きを見せていく。
地球連合軍を包囲していたレギオンは「イ=タファカ」による挟み撃ちを受けた。しかしそこにはどうしても包囲しきれない位置が存在する。
 だから、レギオンは後方からの指示のもとそこからの撤退を試みる。

『そう動くよな、当然』

 だが、そうはいかなかった。
 その動きはとっくに見越されていたのだ。それこそ、戦場の設定や戦術行動を決めた時点から。
 隊伍が完全に乱れ、相互援助も何もなくなったレギオンに対してぶつけられたのは、上空からの攻撃。
この火山灰の降る環境に合わせたスーパーシミターの解き放った、大量の誘導爆弾の数々であった。
それらは、最早逃げ場も何もないレギオンの群れに降り注ぎ、規定通りの仕事をこなした。

 この戦闘により、レギオン防衛に出動させた万単位の個体を喪失。
 その後に行われた綿密な戦場の清掃により、レギオンの残骸は消失。
 白紙地帯に駐留するレギオンは再び出血を強いられることとなり、攻勢に出る余力をさらに削り取られることとなったのであった。

344: 弥次郎 :2022/06/05(日) 22:48:40 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
現実編ですねぇ。
ノイリャナルセ聖教国駐留軍は、こうした間引き作戦を断続的に行うことでレギオンの数を漸減。
そして、時々TMSを主力とする浸透部隊によって自動工廠型などの排除を行っておりますね。
レギオン、ピンチです。

もうちょっとしたらノイリャナルセ聖教国編は終わりとする予定ですね。
この後はまた政治的な話になるかと思われます。

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最終更新:2022年06月15日 15:03