504: 弥次郎 :2022/06/07(火) 21:10:06 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「鶸たちの囀り」5
- 星暦恒星系星暦惑星 ノイリャナルセ聖教国 現地時間星暦2147年3月15日 ノイリャナルセ聖教国北部戦線 第2FOS
ほのかに火山灰の飛んでくるFOSは最前線ほどではないにしても、遮蔽に覆われている。
具体的には、物理的な防護壁を兼ねる備えたドーム状の障壁に、テラフォーミングや命の壁に使われるフィールドが幕を作る。
これにより、物理的な砲弾を弾くほか、その隙間から取り込まれる日光や外気を浄化し、火山灰やガスなどが入ってこないように内部環境が維持されている。
加えて、ドーム内の環境を維持するための機構も稼働しており、内部はまさしく他の惑星であるかのような過ごしやすい環境が構築されているのだった。
これらに加え、メインドームの外側には別な役割を持つドームがいくつも並び、あるいは建造物が並ぶ。
即ち、陸上艦艇のような大型の艦艇や兵器などが収まるメンテナンスドーム、あらゆるものを生産する工廠を備えるファクトリードーム。
あるいは、人の居住を優先とし、この過酷な環境の中にあってはまさしくオアシスと呼べる正常な空気や水で満たされた都市ドーム。
即ちこここそが、人が適さぬ環境である白紙地帯ギリギリに設営されている、人類の最前線基地であった。
そして、その都市ドームの一つにあるレストランの貸し切りフロアでは会談が行われていた。
地球連合軍からは、前線視察も兼ねて自らの麾下にある部隊を率いて間引きに参加していたドナルド・ヴィクター少将ら。
相手となるのはノイリャナルセ聖教国軍第二機甲軍団「イ=タファカ」を率いるトトゥカ聖一将とその部下たちだ。
こうして並ぶとノイリャナルセ聖教国側の参加者の若さが際立つ。トトゥカ聖一将は言うまでもなくギリギリ20代だ。
そして20代と見える世代が構成の過半を占めている状態であり、役職が血筋や家門で決まるとはいえ、上位将校までもが若いのは、相応の理由が窺えた。
そしてここには現在、ノイリャナルセ聖教国の聖教府の聖者たちはいない。意図的に参加させていないのだ。
食事をしながらの会談ということで、各々の前にはノイリャ聖教の戒律に従った料理が並べられており、各種もてなしの準備は整えられていた。
しかし、招待された側であるトトゥカ聖一将らはよく理解していた。これが単なる慰労などのためのものではない、ということを。
彼らとて心得ているから、自ら切り出すことはしない。ただ、地球連合側のアプローチを待った。
「さて……」
食事をしながらの会談が始まってから、程よく時間が過ぎたころ、ついにドナルドは切り出した。
「トトゥカ聖一将、よろしいでしょうか?」
「はい」
誰もが食事の手を止め、食器を一時置いた。
水を飲み、のどを潤し、これから始まるであろう重要な話し合いに備えるのだ。
「連日のレギオンとの間引き作戦に協力を頂き感謝を申し上げる。
その上で、今後のことを、ノイリャナルセ聖教国や神戟のことを含めた 未来の話をしたいと、そう思うのです」
505: 弥次郎 :2022/06/07(火) 21:11:24 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
そして切り出されたのは、その兵器についてであった。
「無人機ですか」
「生まれ、育ち、神戟としての職務を果たせるようになるのと、レギオンとの戦いで数が減り続ける速度では後者が当然ながら速い。
神戟の平均年齢がレギオンとの生存競争の中で下がり続けているのは我々も理解しているところであります。
遠からず、神戟は致命的なところまですり減らされてしまい、ノイリャナルセ聖教国は自らを守る術を失う。
その前に聖教府は地球連合の運用する無人機を取り入れ、神戟を補う戦力として用いたいと考えているそうです」
ただ、と言葉を区切る。
「これはあくまでも打診の段階であり、我々としては返答を保留しております」
「それはまた如何なる理由で?」
「単純です」
一息入れて、ドナルドは断言した。
「これはあくまでも聖教府や聖者たちの意見でしかありません。
戦いを担い続けてきた血族、家門の人々の意志を抜きに決定してよいこととは我々は捕らえておりません」
「……」
その沈黙は、ドナルドの意志を推し量るものだった。
若いながらも、思慮の深い相手の視線を受けつつ、ドナルドはつづけた。
「これはあくまでも我々の予測でありますが……神戟はその職務に誇りと矜持を抱いていると、そのように捉えております。
ノイリャ聖教における地の姫神の導くところにより、人ではなく神々の武器となる解釈の元、人々の手を血によって汚すことのないようにする。
それに対し、いわば庇護される側から指示を頭ごなしに出されて、問題が起こるのではという懸念を抱いているのです」
「……つまり、我々神戟が反旗を翻すと?」
職務に対する、そして国家への、国教への忠誠を疑われては、さしものトトゥカも穏やかではおれない。
「いいえ」
しかし、その怒気を受け流しドナルドは断言した。
「反旗を翻しはしないと考えています。
ですが、同時に、誤った教義の解釈や実行を行う同胞を諫めようとするであろうと」
「----」
その言い方は、クリティカルだった。
そう、神戟は地の姫神の導きの元、人々から争いを遠ざける役を担う。
それを踏まえ、宗教というものを重要視、半ば絶対視しているノイリャナルセ聖教国をよく理解した言い方だったのだ。
「無人機の導入で、神戟の戦死者を減らすことは可能でしょう。犠牲者を0にすることさえも。
ですが、それは本当に神戟にとってよいことであろうかと、我々は愚考するのです」
「……」
「無人機の開発や製造はどうやっても人が行わなければなりません。
現状、神戟の運用する兵器はノイリャ聖教の外側にいる我々が生み出し、神戟が用いております。それはそれで問題はないと聞いております」
「その通りです。すべては地の姫神の導き。貴方方と共同するのもまた、その導きによるものでありましょう」
「ですが、この無人機などを用いることで、神戟は自らの血を流し戦うことを奪われることとなるかもしれないのです」
「……なるほど」
トトゥカはここで言わんとすることを理解できた。
理解できることだ、長らく、ノイリャ聖教が神戟というシステムを生み出し、戦いを任せてきたこと。
それは自分たちの先祖が自ら人ではないものとなり、人々を守るためにこそ神戟となった。
506: 弥次郎 :2022/06/07(火) 21:12:04 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
長い年月と苦難を超え、その役目は自分達へと受け渡され、このレギオンとの戦争で用いられている。
だが、それをある日突然奪われたら?解釈を変え、教義に反していないからと、神戟の役目を奪い取るような選択をしたら?
さしもの自分でも冷静ではいられないだろうと、そのようにトトゥカは思う。
同時に、舌をまいた。接触してからまだ一月ばかりしか過ぎていないであろう彼らが、こちらを深く理解していることを。
「姫神は、真に友邦となりうる国を、貴方方を遣わしたのでしょうな」
その言葉が、感嘆と共にこぼれる。
そうだ。人の手から争いを遠ざけるための神戟。その神戟が減ったからと、勝手に神戟から戦いが奪われては困る。
自分達の存在理由が奪われ、不要と判断されるなど、想像するだけでも恐ろしい。
そのうえで、トトゥカは言葉を放つ。
「神戟としての意見を言わせていただけば、貴方方の懸念は、当たっているやもしれません。
我々は戦いを引き受けることこそが役割であり矜持である。それが姫神の導きであり、守るべき民の願いであるがゆえに。
さりとて、我らに唯々命じ、従えと強制されるならば---我らはそのように考えることもありうるでしょう」
「やはり、ですか」
「戦いの中で散るは本望でありますが……その覚悟が伝わっておらぬとは、悲しきことであります」
トトゥカは、静かに、されど内の衝動を抑えるように胸に手を当てながら、言葉を紡いだ。
「然れども、我らが滅びれば、もはや民に血を流させるしかないのやもしれませぬな」
「……レギオンは、決して降伏などを受け入れはしないでしょう。
戦いを止められはせず、ただただ戦うことしかないのではと」
「……悔しいものですね、自らの非力さが」
血を吐くような叫びだった。
無理もないことかもしれない。列強でもトップランクの技術を持つギアーデ帝国がその総力を挙げて生み出した、殺戮兵器。
人が介在するよりも効率的で、圧倒的な物量で、尚且つ人が介在しないことによる高い能力を有している。
人間の兵士を一人育て上げる間に、レギオンはあっという間に十数倍では効かない数の個体を生み出して送り出せる。
所詮人間は戦うことができる生物ユニットにすぎず、相手は戦うことだけを追求した機械ユニットなのだから。
「お察しします……」
「それで」
トトゥカは、嘆くだけで終わらなかった。
そこで止まらず、この会談の意図をさらに問いかけたのだ。
「我々に、第一軍団『イ=タファカ』に何をお求めでしょうか?」
「無人機を運用するかもしれないことも勘案し、それに対しての神戟の意見をまとめていただきたいのです。
無人機導入の事だけでなく、このレギオンとの戦争のことも含めた、今後の展望を。
我々地球連合軍との共同作戦をいかに行うべきかの、神戟の意見を」
「それを、聖人たちと勘案すると?」
「神戟は神々の武器であり、人ではない。さりとて、意思がないわけではない。
使い手に多くを要求する武器が存在したとしても、何ら問題ないと私は愚考いたします」
その言葉に、少し言葉を詰まらせながらもトトゥカは笑みをこぼした。
「なんとも、面白いことですね」
だが、それは真面目でもあった。
少なくとも、これである程度のコンセンサスは取ることができたのだ。
これから先もこの国が、神戟という武器になった人々が生き残り、戦い抜くための第一歩を踏み出せたと、そういうことなのだ。
507: 弥次郎 :2022/06/07(火) 21:12:59 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
勝ててはいても、中々に難しいところもあるというお話でした。
次の話でノイリャナルセ聖教国編は一区切り。
いよいよ最大の地雷処理ですねぇ。
それが終りましたら、カメラをサンマグノリア共和国にいるコーネリア殿下に戻します。
24人の子持ちになっちゃったので、ネタはいくつか浮かんでおりますw
最終更新:2022年06月15日 15:04