129: 弥次郎 :2022/06/13(月) 00:10:13 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「皇女殿下、頑張る」
- 星暦惑星 サンマグノリア共和国 86区 東部戦線 地球連合在サンマグノリア共和国軍 東部方面第4中継基地 将校用個室
コーネリア・リ・ブリタニアは緊張していた。
目の前には大量の書類が並んでいる。それは24の山に分けられていた。
そして、その手でもっているのは名簿だった。載っているのは24名のエイティシックス達の名前と個人情報であり、顔写真なども含まれていた。
「どうしよう……」
いつになく、コーネリアは窮地にいた。
幾度となく修羅場を駆け抜けてきた彼女をして、この状況は窮地以外の何物ではなかった。
まだこれまでの戦いの窮地の方がよほど生温く、活路などを見出すことができたであろうというレベルであった。
(どうする……!?)
その書類に掲載されている個人は部下以上の存在になる予定のエイティシックス達であった。
そう、ブリタニア帝国の帝国民となったエイティシックス達であり、彼女が養子として引き取った24名なのだ。
コーネリア・リ・ブリタニア、未婚の3○歳。突然24人の子持ちになってしまったのである。
彼女が養子としてエイティシックス達を迎え入れたのは諸般の事情が存在しているのは言うまでもない。
エイティシックス---存在しない86区に追いやられた人型の豚とされた元サンマグノリア共和国の国民。
彼らの境遇はただ座視するにはあまりにもひどすぎるものであり、故にこそ神聖ブリタニア帝国の一員としての権力を使ってでも動くことを是とした。
無論、言い出しっぺであるコーネリア自身も、ノブリス・オブリージュというか、第一発見者として相応に行動しなくてはならなかった。
その結果が、1個戦隊分の人員24名という大人数を養子として引き取り、身元を保証する立場となったのである。
彼女だけでなく、この星暦惑星に派遣されてきた派遣軍に属している神聖ブリタニア帝国の軍人は少なからず養子として引き受けることを表明していた。
より階級が高い者や家柄が良い者ほど、余裕があるということでかなりの人数を引き受けていた。
そして、ブリタニア本国においても続々と養子として引き取りたいという手をあげる支援の輪は広がっている。
他国の、他の惑星の住人だということはもはや問題ではなかった。これだけの扱いをされている人間を座視できなかったのだ。
問題なのはコーネリアの方であった。
コーネリア・リ・ブリタニア。すなわち、彼女は先代の皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの娘であり、皇女であった。
生まれた時は産婆により取り上げられ、母と乳母と養育係多数に囲まれて育ち、幼いころから帝王学を筆頭に教育を叩き込まれて育ってきた。
コーネリア自身は何らこれに関して疑問に思うことはなかった。皇族というからにはふさわしい教育を受け、相応しい立場につくのだと理解していた。
時に嫌がらせやら命の危険であるとか皇妃同士のいがみ合いに巻き込まれたりもしたが、そういうものと受け入れてきた。
いわば、ブリタニアという国家の後続に相応しくあれと願われ、それをどこまでも追及してきたのだ。
万が一の際においては皇位継承さえすることもある身でありながらも、地球連合軍に積極参加しているのも、ブリタニアの求めるところに応じてだった。
しかし、これらがすべてひっくり返り、問題となって襲い掛かっているのである。
(親とは……なんだ……!?)
そう、彼女は一般的な家庭を知らない。
父親皇帝、母親皇妃。主な生活空間後宮もしくは離宮。家事労働その他一切使用人任せ。警備などもしっかり。
どう考えても、一般的ではない。むしろ一般からかけ離れた家庭環境にあったとさえいえるのである。
おまけに幼いころから付き合いがある同年代の相手と言えば腹違いの兄弟姉妹、あるいは身分の保証されている貴族の子供達ばかり。
あるいは行儀見習いに来ている者たちもいたのであるが基本的に相手はこちらに敬意をもって接する。
そして彼女は未婚で子供もいない。故に、段階をいきなりすっ飛ばし、母親となってしまったのだ。
(子供と、どう接すればいいのだ?)
だが、そんなことをいまさら誰かに聞けるわけもない。
故にこそ、困り切ったコーネリアは、ちょうどこの惑星を訪れていた身内を頼ることにしたのであった。
即ち、ルルーシュ・ランペルージを呼び出したのだ。
130: 弥次郎 :2022/06/13(月) 00:10:53 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
ルルーシュは大いに困惑していた。
腹違いの姉であるコーネリア・リ・ブリタニアに呼び出され、この個室に来てみれば、ガチ泣き寸前の姉に縋られたのである。
なんかデジャヴがあるなと思いつつも、とりあえず話を聞いてみることにしたのであったが---
「養子になる相手とどう接すれば……?」
「うむ……」
(予想外すぎた……!)
ルルーシュにも突き刺さる問題であった。
そも、ルルーシュもまた父親がシャルルであり、皇位継承権を持っていた嫡子の一人だ。その生まれや育ちはほぼコーネリアと重なるところがある。
無論のこと、彼の場合母親であるマリアンヌが暗殺された後、日本へ人質として送られて枢木家で生活していたことはある。
それを差し引きしても、彼もまた一般的な家庭とはかけ離れた生活を送ってきたのは確かなのだ。
その後の偽名を名乗って生活していたころも、なんだかんだとアッシュフォード家の支援を受けていたし、メイド付きの生活だった。
所帯じみているところはあるのは確かであったが、同時にどうしても浮世離れしている点は否定できない。
結局のところ五十歩百歩でしかなかったのである。
「ダールトンが養子をとっていたのは聞いていた。
だが、具体的にどのように育てていたとか、接していたとか、そういうのを聞いたことはなくてな……」
「……」
「一応、私の子ということになるのだ。その気になれば、養育係を用意して任せることも容易い。
だが、それでは……なんというか、こう、ちゃんと向き合える気がしないのだ」
コーネリアが言わんとすることは分からなくもない。
遠ざけて安全なところに置くことが愛情などと言った実の母親もいたが、子としての意見では親とは傍にいてほしいものである。
傍にいて、見守り、育て、時に教えたりといったことが必要であることくらいはルルーシュでも知っている。
「しかし、姉上が引き取る相手は10代後半のエイティシックス達ばかりのようです。
ある程度自分の意志もあり、自分で決めることもできる。姉上が気にかけすぎなくとも大丈夫なのでは?
「そこが問題なのだ……養子とはいえ私の、ブリタニアの皇族であるコーネリア・リ・ブリタニアの子となる。
どうしても、それにふさわしい教養や振る舞いを身に着けてもらい、恥じることのない人間になってほしいのだ……どうしても面子というものがある」
「ああ、なるほど……」
「そして、彼らは家族を奪われた子供らだ。その代わりになど、なれるとは思ってはいないが……それでも、新しい家族として接したい」
それは偽りなき本音だった。
どうしようもない力と暴力で多くを失った彼らに、新しい環境を用意し、何かを得られるようにしたいというのが自然な反応というものだった。
これまで他の国から奪ってきた神聖ブリタニア帝国の皇女としてはだいぶ変わった意見であった。
131: 弥次郎 :2022/06/13(月) 00:11:40 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
だが、これは喜ばしい変化でもある、とルルーシュは捕らえていた。
神聖ブリタニア帝国も、帝国を担う人々も、環境が大きく変わったこともあり、適応せざるを得なかったともいうべきであるが、
「……難しいことではないとは思います、姉上」
ルルーシュは、そう切り出した。
「部下でもなく、兵卒でもなく、使用人などでもなく、あるいは倒すべき敵でもない。
共に暮らし、共に戦い、共に生きていく。そういう関係です」
思い出すのは、偽物の弟の役割を与えられたロロのことだ。
シャルルのギアスによりそう思い込まされていたが、その後は必要があったとはいえ本当の兄弟のようになった。
最後にはロロは自分の命を懸けて自分を守ってくれた。偽物の兄で、利用していた自分をだ。
そのおかげもあって、ルルーシュは今ここにいるのだ。そのことを決して忘れたことはない。
それに加えて、この世界に来てからはプロデューサーとして多くのアイドルたちと接し、教え、導き、戦ってきたのだ。
「私も子供がいるわけではないので的確なアドバイスができるとは言えません。
ですが、一つ言えることは、これから手さぐりで関係を作っていくということです」
相手もいきなり養子になったということで戸惑っているだろう。
仲間とともに誰かの庇護下に入るというのは、おそらくだが彼らの経験上ないことであろう。
まして、地球連合という組織の人間となのだから、猶更だ。
「手さぐり、か」
「最初から答えなど分かりません。時にすれ違い、時に過ちをしてしまうこともあるでしょう。
それでも、互いをわかり合うというのは、苦労を重ねたからこそ尊いものとなるのですよ。
見知らぬ相手であろうと、分かり合おうとすればその努力は報われると、私は知っています」
「ふっ……アイドルのプロデューサーをやっていたルルーシュらしいな」
うぐっとダメージを10受けるルルーシュ。
確かに、アイドルのプロデューサーなどという自分らしくないことをしていたのは自覚している。
だが、それをやらねば生きていくことができなかったのも事実であったわけで---
「とにかくだ」
コーネリアは、一つ息を入れて結論する。
「ようはぶつかってみるしかない。そして、その中で答えを見つけていくしかないということだな?」
「はい」
「それなら、やってみるさ。
すまないなルルーシュ、私のために」
「いえ、お互い様ですよ」
これまでの分を考えれば、とルルーシュは思うのだ。
最終的にはぶん投げた自分が悪い気もするので、これくらいはしなくてはと、そう思う。
だが、ルルーシュはまだ知らない。この姉が、また問題にぶつかって自分に泣きついてくることを。
コードを持とうが、ギアスを持とうが、神ならぬ身に未来など見えるはずもなかったのである。
132: 弥次郎 :2022/06/13(月) 00:12:49 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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実際、コーネリア殿下が母親をやるのって、ヨルさんより大変じゃないかなって(こなみ
最終更新:2023年08月23日 23:08