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大陸×ワルパンネタ 第19話 主役到来


西暦1938年1月1日 シベリア上空
大日本帝国海軍第1航空魔導大隊

シベリアの上空を48名の魔女達が中隊ごとに矢じり型の編隊を組んで飛行していく。彼女たちが目指す先は未だに激しい戦闘が繰り返し行われているシベリアの上空である。

ヤマを撃破するためにシベリアの空を飛行していると、耳に付けている魔導インカムから聞き慣れた男性の声、マジックの管制官の声が聞こえてくる。

『マジックよりウォーウルフリーダーへ。暴風、メビウス、イーグル、ラビット各隊が敵の最後の大型ネウロイを撃破した。作戦はこれより最終フェイズに移行する』

「ウォーウルフリーダーよりマジック、了解した。各部隊に感謝を伝えてくれ」

『さすがは選りすぐりの精鋭部隊だ。このままじゃあ私達の仕事は残的処理しか残ってないかもしれないな』

「安心しろ。ウォーウルフ2、私達のためにメインディッシュが残されているぞ。」

戦況はこちらに傾きつつあった。現地で戦う航空ウィッチ達や戦闘機乗りたちの決死の活躍のおかげで、既にヤマの周りを護衛するかのように飛び回っていた大型怪異は全て撃破されており、その周りの中小型怪異達もすでに6割以上が撃墜されている。

「ウォーウルフリーダーより各員、ここまでお膳立てされているんだ。必ず成功させるぞ」

『『『『『了解』』』』』

無線からはウォーウルフ隊と特務中隊の魔女達、合わせて48名の声が帰ってくる。
魔女たちは今までに死んでいった将兵、今でも戦っている将兵達の献身に答えるために決意を改めて固め、前へと進んでいく。

しばらくすると巨大なピラミットのような正三角形の存在とその周囲を取り巻くいくつもの怪異、そしてそれらと戦う魔女や戦闘機達が発する飛行機雲が見えてきた。

その数は数えるだけ馬鹿らしい程のものであり、双方ともに未だに4桁の軍勢で殴り合いを続けている。
しかし、会戦初期の頃に両軍の間にあったような圧倒的な数の差はなくなっており、既に中小型怪異と航空ウィッチ・戦闘機混成部隊の数は一対一程度であった。 

同数の数であるならば、怪異どもの戦闘機モドキよりも性能に優れている人類の戦闘機や魔女達が劣るわけがない。性能差を数でカバーできなくなっている戦闘機型の小型怪異はすでに自分達が生き残るので精一杯となっている。
1000機以上の戦闘機と50名近いウィッチ達の犠牲により、注意するべきは耐弾性と自己修復能力が小型怪異より優れているためにしぶとく抵抗してくる双発戦闘機型の中型怪異だけで済むのだ。

彼ら彼女らの献身に答える義務を私達は負っている。

「全員、最短距離で行くぞ! 護衛対象には一発足りとも通すなよ。」

『『『『『了解』』』』』

『隊長、ちょっかいをかけてきた敵はどうします?』

「遠慮はいらん。全て叩き落とせ!」

号令ととともに、狼達と彼女らに護られる魔女達は魔導エンジンを全開にして一気に怪異と人類の決戦場に殴り込みをかけた。

136: ホワイトベアー :2022/06/04(土) 14:07:17 HOST:sp49-98-154-6.msd.spmode.ne.jp
人類側の新手の到来と、それらが護るべきヤマに一直線に向かっていることに怪異達も直ぐに気づき、ウォーウルフ達の付近にいる中型怪異達に周囲のEACO軍の戦闘機部隊や航空魔導部隊を強引に引き離させて、急ぎ彼女らの迎撃に向かわせてくる。

しかし、強引に突破してきた影響で殆どの中型怪異がすでに相当数のダメージを負っている上に自己修復が間に合っておらず、さらに編隊も組まずに散発的にウォーウルフ隊に挑まざるをえなかった。

『中佐、敵の迎撃です』

「確認している。2S、3Sは小隊ごとに散開して邪魔をしてくる怪異どもを叩け。1Sはこのままレイザーとワルキューレの護衛だ。2Fは左翼、3Fは右翼を固めろ」

『『『『『了解』』』』』

全方位から散発的にくるネウロイの迎撃に対して北郷は第2、第3中隊を小隊ごとに散開させて対応するように命令、特務中隊の左翼と右翼を固めていた2個の中隊は数6個の小隊に分かれて、迎撃を開始していく。

『手負いで私達の相手が出来ると思われている何て、随分と舐められたものね』

『まったくです。』

『まあ、スコアが落としてくださいってこっちに来てくれていると思えばいいんじゃない?』

『こんなスコア、誇れもしないじゃないですか』

狼の名前を関した魔女たちは怪異を攻撃距離に収めると、さらにエレメントごとに分散。軽口を叩きながら、ウイングメイト同士で互いが互いを援護しあえる状態を維持して、五月雨式に襲来してくる中型怪異達にあるものは先制攻撃として、またあるものは攻撃を回避してからの反撃として20mm機関砲を叩き込んでいく。
20mm機関砲から放たれた魔導徹甲炸裂弾は、怪異の銀色の外殻をゆうゆうと貫いてその体内で起爆。そのダメージは怪異にとって致命傷となり、次々と撃破されていった。
彼女らと怪異の戦いは戦闘と言うには一方的すぎる。それこそ、狩りと言った方がよほど適していた。

コア持ちならまだしも、ただ非コア搭載型如き、しかも手負いの状態で、さらに数的な有利もろくな戦術もなしに勝負ができるほど日本海軍最強の名前は軽いものではない。
怪異の雑多な迎撃ではウォーウルフ隊と特務中隊の進撃は止めることは愚か、時間を稼ぐことすらできなかった。


挑みかかってくる怪異達を蹂躙しながら進撃を続けていると、今回の作戦の作戦の要である魔眼を保有したレイザーこと佐倉 理子中尉からの連絡が魔導インコムを通して伝わってきた。

『レイザーよりウォーウルフ1、魔眼の探知可能距離に捉えました。これより探査を開始します』

「了解した。頼んだぞ。レイザー」

『任せてください。』

流石に貴重な魔眼使いを危険な突入作戦に投入するわけにはいかない。魔眼の範囲外に入りしだいウォーウルフ隊とレイザー、そして彼女の護衛を任務とするワルキューレ隊からなる特務中隊は別れ、特務中隊はヤマのコアの位置の調査を開始するために観測ポイントに移動していくことになっていた。

『何かあったらすぐ呼んでくれよ。ピカピカの鎧の騎士が駆けつけるから』

『ありがとう、ウォーウルフ2。でも大丈夫、私には心強い戦乙女達がすでについているから、貴女の出番はないと思うわ。』

『全くです。だいたい井上大尉の鎧はピカピカじゃなくて錆びついているでしょう。貴女は人の事ではなくて自分の事を心配するべきですよ』

『言ったなワルキューレ1。基地に帰り次第、私の活躍をじっくり語って教えてやるから、それまでは死ぬんじゃないぞ』

『今からヤマの懐に突っ込んでいく貴女やウォーウルフ隊の方々にその言葉をそっくりそのままお返しします。…生きて帰ってきてください』

ウォーウルフ2のジョークにレイザーと彼女の護衛部隊の隊長を務めるワルキューレ1が冗談交じりに返す。だが、最後の言葉に冗談は一切混じっていない。
ここで観測に入る特務中隊とは違い、ヤマ攻撃部隊を担うウォーウルフ隊は特務部隊が見つけたコアを攻撃するために、さらにヤマ向かって接近していかなければならない。
いくら1個大隊36名の航空魔導兵からなる部隊であっても、その危険性は特務中隊とは比べ物になるはずがない。

「安心してくれ。私達は全員生きて帰ってくるさ。ほら、もう行くぞフミ」

それでも、彼女等は何処までも自信に溢れた、不遜な笑顔を浮かべて前へ進んでいく。

137: ホワイトベアー :2022/06/04(土) 14:08:40 HOST:sp49-98-154-6.msd.spmode.ne.jp
西暦1938年1月1日 シベリア
オラーシャ陸軍極東軍アンガルスク守備部隊

EACO軍と超大型怪異、ヤマが戦う空域よりも東側、東アジア戦役初期にネウロイの猛攻により晒されたものの、EACO軍の支援を受けたオラーシャ極東軍の奮戦により防衛に成功した唯一の大都市であるイルクーツク、その北西約40キロの位置に位置するアンガルスク近郊はすでに廃棄された無人の都市であり、オラーシャ極東軍の部隊が防衛線を敷いているのみであった。

そのイルクーツク防衛の重要な拠点の防衛にあたっているのは、民兵主体のオラーシャ陸軍3個歩兵旅団であり、オラーシャ陸軍以外の部隊は配置されていなかった。
EACO軍が前進するのを嫌がったからとも、オラーシャの地に他国の軍隊が入るのを本国が嫌がったのだとも言われており、真相はわからないがEACO軍はオラーシャ領に地上部隊を入れていなかったからだ。

しかし、それも昔の話である。ヤマと人類の決戦が行われる3日ほど前から、オラーシャ兵とは明らかに違うとわかる風貌で、右肩に白黒の十六条旭日旗をつけた迷彩柄の服や防弾衣、鉄帽を身に纏いった兵士達や、祖国でも保有していないほどの強力かつ巨大な戦車を始めとした各種装甲戦闘車両、果には重戦闘脚を纏う陸戦魔導兵達が後方より進出してきて、現在では我々とともに防衛線を構築していた。

最も、これを増援として素直に喜べるわけではない。なにせ、彼らが護るのはこの都市でも防衛線でもなく、彼らが持ってきた何十両もの丸柱上のコンテナを6基搭載した大型トラックや上に板のようなものを搭載した四輪車などの多数の車両群であるからだ。しかも、怪異どもが一定以上東進してきた場合は退却するという。

「報告します。日本軍の配置が終了したとのことです。」

「わかった…イルクーツクの極東軍司令部からは何か来ているか?」

「ありません。相変わらず、こちらからの問いかけには軍機故に話せない。指揮系統は現地の日本軍に従えの一点張りです」

「そうか...。わかった。下がりたまえ」

報告に来た伝令の言葉に、この地の守備部隊として3個旅団を指揮する男は静かに頷いて退出させる。

「騒がしい癖に何をするのか教えもしないお客様達の対応は面倒ですね。
まったく、いつから誉れあるオラーシャ軍はサンクトペテルブルクではなく、トーキョーの指揮下にはいったのですかね?」

伝令が部屋から出て暫くすると、部屋にいた副官が口を開いた。彼女の言葉には些か棘が存在している。
彼女の言いたい事もわかる。
何せ、東アジア戦役勃発からこの方、オラーシャ陸軍の残存部隊はEACO軍司令部からの要請を丸呑みするしかなくなり、事実上EACO軍の指揮下に置かれている。
いくら相手が恩人であり、“あの”日本人であったとしても、自分達が他国の指揮下におかれている現状で、さらに今回は
【援軍として部隊は送るけど敵が近づいたら部隊は退却させる。だけど、お前らの指揮権は俺たちが握る】
という、明らかに我々を殿にするつもりしかない上に、こちらをおちょくりつつ馬鹿にしているとしか思えない命令をくだされたのだ。不満感を抱かない人間は少ないだろう。

しかし、極東戦役発生により早々に極東と欧州を分断され、増援も補給も見込めなくなったオラーシャ極東軍が戦えているのはEACO軍の援助物資によるところが大きい。
さらに、EACO最大の国家である日本は多くのオラーシャ人難民を受け入れてくれている国家であり、本国が焼かれたオラーシャの復興国債を購入してくれている最大の国家ということもあって、本国が極東軍の事実上のEACO軍への編入を認めているというのだから思うところはあれど仕方がない。

(何より、国民を東アジアに脱出させる時間を稼ぐのが手一杯で、偉大なる祖国を怪異から蹂躙されるだけだった我々に誉などあるはずもない。)

民兵や彼女などのように東アジア戦役後にオラーシャ軍に所属した人間達に向けられるのとは別種の視線を日本人から向けられている事を理解している彼は、内心ではそんなふうに自嘲を浮かべるが、部下と無駄に意見をぶつけ合わせる必要もない。自身の内心を悟らせることのないように意識して口を開いた。

138: ホワイトベアー :2022/06/04(土) 14:18:51 HOST:sp49-98-154-6.msd.spmode.ne.jp
「君の言うとおりだよ。しかし、スポンサーには逆らえないし、既に代金として大量の物資とウォトカを貰ったんだ。せいぜい、日本人達には快適な前線旅行を楽しんで貰うしかないだろう。」

「日本人共に旨いウォトカが造れるとは思いませんが、工業用アルコールや靴磨きクリームを味わうよりマシでしょうし。それしかありませんか…」

副官は不承不承といった顔で頷いてくる。
彼女だってわかってはいる。しかし、自身に流れる青い血に誇りを持ち、かつてはウィッチとしてオラーシャ軍に務めていた彼女としては言わずにはいられなかったのだろう。

兵士はろくな訓練も受けていない民兵が大半、それを率いるのは本来なら一大隊長に過ぎない自分であり、元軍人ながら退役して市民の一人として過ごしていた彼女を士官に野戦任官した上で副官にしなければならないほど極東軍の人材は払拭していた。
幸いなのはEACO軍から提供された豊富な物資の存在とネウロイの動きが低調だった時に最低限の訓練を民兵達に施せたことであるが、それでも練度は訓練兵に毛の生えたようなものだ。本来なら戦力として数えるのも困難なレベルである。

こんな状況ゆえに頼りにしたい日本軍の部隊は一定以上ヤマが近づいて来た場合は即時に扶桑まで撤退すると言う。
若く、こんな経験も少ない状態で重圧の中で必死に働く彼女の愚痴の1つや2つを聞いてやるぐらいの度量は持っている。

「そう言えば、旅団長は日本人達が後生大事に護っているモノの名前をご存知ですか?」

彼女も愚痴ばかり言っている事にバツを悪くしたのか急に話を変えてきた。
しかし、名前か。そう言われればアレの名前すらも教えられていない。
改めて日本人の秘密主義の徹底ぶりを思い知らされる。

「いや、知らないな。その口調だと君は知っているのかね?」

「はい。先日、交友関係をもった日本人達のウィッチ達に食事に誘われた時に彼女達が教えてくれました」

ここまで短時間かつ仕事に終われながら、食事に誘われるほど日本人との交友関係を深めていた自身の副官に内心で驚きつつ、無言で先を促す。
彼女もそれを察したのだろう。続きを述べ始めた。

「彼女達はあれらをこう呼んでいました。【26式対艦ミサイル】、日本最強の対艦誘導ミサイルであると」

彼らには見えていなかったが、大規模な円柱状のコンテナを搭載していたトラックたちはアウトリガーで自身を固定し、コンテナを持ち上げる事でまるで砲撃を加えようとする大砲のように仰角をとっていた。

余談であるが、この部隊がこの場にいる背景には当初の作戦計画には参加が予定されていなかったが、直前になって日本本国から作戦に参加させるようにとEACO軍総司令部に圧力が入って参加することになったと言う経緯を有している。
そんな、飛び入り役者達が牙を向ける先は、遥か遠くの決戦場であった。

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最終更新:2022年06月15日 15:26