258: ホワイトベアー :2022/06/13(月) 22:24:47 HOST:sp49-97-102-80.msc.spmode.ne.jp
日本大陸×ワールドウィッチーズネタ 番外編【いらん子、北欧にて斯く戦えり】 序章 雪国の少女
西暦1930年10月
カレリア地峡 スオムスーオラーシャ国境地帯
「ひばりよりCP、聞こえていますか?」
スオムスの寒空、スオムスとオラーシャ国境付近上空8000フィートに位置する北欧特有の雲ばかりの空で、今だに幼さを隠せない1人の少女が手に不釣り合いな銃、37式20mm重機関銃、を携え、すらりと伸びる雪のように白い足に無骨ではあるが同時にスタイリッシュさを見るものに与える機械仕掛けの靴、ストライカーユニットを履いて、短く切ってある北欧特有の薄い金髪をなびかせながら飛行をしていた。
彼女は航空機や飛行船には乗っていない。生身で空を駆けるその姿はまるで欧神話において主神オーディンに使える伝説の乙女、ヴァルキュリャのようだという思いを地上から彼女を見るものに与えるだろ。
「こちらひばり、こちらひばり、CP、応答を願います。」
地上から畏敬の念を持って見られている少女であったが、間近で見ると彼女は口元まで伸びている骨頭式のインカムに向かい必死に話しかけていた。すでに何度も繰り返し呼んでいるのだろう。その目には若干の涙すら浮かんでいる。
彼女の名前はエルマ・レイヴィネン。スオムス空軍第28戦隊に所属する中尉であり、15歳という若さにして同戦隊の第2中隊の中隊長を務めている少女である。
「うう...世界に冠たるメイドインジャパンなのに壊れちゃったのかなぁ。やっぱり、中古品だっていう噂は本当だったのかな...それとも、この寒さのせいなのかな。
自分が生まれた国をどうこう言うのはあれだけど、何で私達の国はこんなに寒いんだろう...」
ぶるりと身体を震わせながら、ついつい不満が口から零れ出てしまう。
もっとも、この場にそれを注意する者は誰は愚か聞いている者すらいない。仮にいたとしても航空ウィッチで彼女に注意をする人間は少ないであろう。
何せ、地上ですら雪と氷と氷点下の空気に覆われたスオムスの10月の地上の平均気温は3度、地上との気温差は1000mごとに約6度、高度3000mならば約-18度であるから平均約-15度という想像を絶する寒さの中をそこそこ厚手とは言え制服一枚と下着だけで飛んでいるのだ。
常人ならとっくの昔に低体温症を引き起こして死んでいるし、いくら魔力に護られているウィッチであると言っても厳しい環境であるのは自明の理だ。
エルマは運のいい方ではない。後にスオムスのエースとなる某ついてないウィッチよりかはマシであるが、飛行当番でないのに担当する別のウィッチが体調を崩して当番を変わるなんてことはザラであるし、配属早々ウィッチが自分一人しかいない窓際部隊の中隊長にさせられる、最近はマシであるが、ちょっと前何て機材が他の部隊に盗られるなんて当たり前だったなどと、正直なところ悪い部類に入るだろう。通信機が壊れるなんて自分でも十分にありえると考えてしまう。
誰もいない寒空に一人飛ばされている事実に段々と泣きたくなってくる。
これで駄目なら機材不調を理由に素直に帰ろう。そう考えながら、気持ちを奮い立たせる意味も込めてインカムに向かって絶叫に近い大声をだして再度コールする。
「CP、CP、お願いします。出てください!出ーてーくーだーさーいー!!」
『こちらCP、叫ばなくても聞こえています』
クリアな音源で、何処か冷たさを感じさせる透き通った女性の声が骨伝導式のインカムから届く。
この声が誰だかわからない人間はスオムスの航空ウィッチにはいないだろう。
通信の相手はハッキネン大尉、スオムス空軍第28戦隊、すなわちスオムスに2つしかない航空ウィッチ部隊の片割れを指揮するスオムス空軍航空ウィッチの頂点の一人である。
(良かった。流石はメイドインジャパン。この寒さでもしっかりと動いてくれてた...けど)
インカムが壊れていなかったことにホッとしつつ、同時に別の感情が胸から湧き出てくる。
「何で出てくれないのですか!空は寒いし、一人で寂しいしで泣きそうになっちゃいましたよ......」
『そう涙声で子供みたいに捲し立てないでください。たかだか1分程度の間、応答を止めていただけです』
259: ホワイトベアー :2022/06/13(月) 22:25:27 HOST:sp49-97-102-80.msc.spmode.ne.jp
どうせ暖炉の火が燃えて温かい司令部で、温かい珈琲を飲みながら指揮を取っているであろうハッキネン大尉を相手に階級差何て気にせずにまくし立ててしまうが、それをハッキネン大尉は軽く注意する程度で収めて流してしまった。こういったやり取りは別に珍しくもないのだろう。
自分が何時間にも感じたあの時間がわずか1分程度であったという。ハッキネン大尉の応答にエルマは軽い驚愕を覚えてしまう。
『それと、暖炉は使っていませんよ』
「はぇ......? え、えええ?」
突然、脈絡もなく帰ってきた言葉に脳が若干パニックをおこす。なんで、この雪女は私の心で思っていたことへの明確な回答を話してくるのだ。さては人の心が読めてしまう固有魔法でも持っているのだろうか。
『貴女の考えそうなことなどお見通しです、中尉。私だって一人でぬくぬくと温かいところから指示を出す気にはなれません』
(...食えない人ね。あと、この回答ってことは珈琲は飲んでいたんだろうな)
そんな事を思いながら、彼女は何度もコールをした理由でもある定期報告を開始する。
幸いなことに上空、地上ともにネウロイの姿はない。それどころか鳥やキツネ、トナカイなどの動物すらもいない。
地上はただただ白が世界を染め上げているし、空は雲ばかりが漂っていた。
人も動物もなにもない、ただただ魔導エンジンと自身の声だけがあるこの静かな空間は一種の恐怖すら呼び起こす。
彼女の飛行している国境を超えた先は、本来ならオラーシャと呼ばれる欧州でもを最大規模の大帝國が支配する土地であった。しかし、現在ではそこを支配するのは人ではない。ネウロイと呼ばれる化け物達に支配され、もはや人の住める安寧などどこにもない異形の地とかしている。
「ハッキネン大尉、質問いいでしょうか?」
『雪女』
恐怖を紛らわすために会話を継続しようとするが、誤って彼女の名前を読んでしまい彼女にTACネームで呼ぶように正されてしまう。
そして、彼女は今日の朝のブリーフィングで敵味方の識別のためのガイドラインを受講されたのを思い出して、自分のうっかり加減に頭を抱える。
受けた当日にこれである。最悪の場合は始末書を書くことにもなりかねない。
「...雪女、質問いいでしょうか」
『かまいません』
「ネウロイは本当にスオムスに攻めてくるのでしょうか?」
一瞬の沈黙のあとに返答が返ってくる。
『それは私に判断できることではないですし、貴女が考えるべきことではありません』
再び短い沈黙が流れるが、骨伝導イヤホンからため息が聞こえてくると再びハッキネン大尉の声が伝わってくる。
『......ですが、私の個人的な推測でいいのであれば答えられます』
「お願いします」
『......間違いなく、攻めてくるのでしょう』
「そんなぁ」
エルマ中尉は嘆くように言った。その言葉にはせつなさも混入している。
「ネウロイは今、カールスラント攻撃で手一杯なのでは......? それに、オラーシャでもまだ戦闘が継続していますし......」
『ネウロイは人間ではありません。何者かもわかっておりません。その正体はおろか、目的も、思考も、生態も、何もかも不明です。
それでいて、彼らは犠牲をいといませんし、駆け引きもおこないません。つまり、彼らのテリトリーと接してしまえば、いずれは必ず襲いかかってくるでしょう』
エルマ中尉の縋るような希望的観測を、ハッキネン大尉はまるで明日の天気を語るように何の気負いもなくバッサリと一刀両断する。
『何より、ネウロイは今だに本気を出していないでしょう。その証拠に、東アジア戦役で見せた圧倒的な物量は今だに欧州では観測されていません』
東アジア戦役、欧州はヒスパニアでおきた小規模な怪異発生に端を発するヒスパニア戦役の翌年である1937年に発生し、去年に終息が宣言された人類史上最大規模の対怪異戦争。
この戦いでネウロイは3度に渡り万単位の大軍勢を持って人類側の勢力圏に襲いかかってきたらしい。
しかも、中期以降はコアと呼ばれる物体を搭載し、レーザーを放ってくる大型ネウロイすらも幾度も襲来、極東の超大国である大日本帝国を盟主としたEACO、東アジア協力機構と正面から殴り合いを繰り広げたという。
しかし、原因は不明ながら第二次ネウロイ大戦開戦から今だに欧州ではこの規模の大侵攻は確認されていない。
おかげで大型ネウロイやジェット戦闘機型ネウロイはカールスラント南部戦線で確認されているが、何とか戦線を維持することができていた。
260: ホワイトベアー :2022/06/13(月) 22:26:24 HOST:sp49-97-102-80.msc.spmode.ne.jp
「そんなぁ...。それだけ恐ろしい敵が攻めてきたら、我が国はどうなっちゃうんだろう」
『どうなるもこうなるも、全ては私達ウィッチにかかっています』
魔力を込めた攻撃はネウロイに対して有効的に機能し、シールドによりネウロイの攻撃に耐えれるがゆえにネウロイに対して有効的な攻撃を与えられるのはウィッチが最も適している。
無論、通常兵力でもネウロイを撃破することはできるが、その難易度はウィッチによる撃破よりかも遥かに困難であった
「私達スオムス空軍の航空ウィッチの数は3個飛行中隊規模ですよ。私達だけでじゃあ、とても国土の全てを護ることができるわけないじゃないですか......」
スオムス空軍のウィッチ数は3個飛行中隊、わずか50人にも満たない。それだけでスオムス全域を護るのは至難を超えて不可能に近いだろう。
『中尉の懸念は最もです。当然、政府だってわかっています。なので、政府は各国に支援を要請しました。ストライカーだけではなく、それを操るウィッチたちを送って欲しいと』
「そ、それで......?」
『国連軍の増援部隊としてですがブリタニア、ガリア、カールスラント、リベリオン、扶桑、オラーシャ......それぞれが腕利きのウィッチをストライカーユニットごと派遣してくれるとのことです』
「ほ、本当ですかっ!大国が腕利きのウィッチを派遣してくれるなんて! 最近で一番の明るいニュースです!」
予想外の朗報にエルマ中尉は嬉しさのあまり高度を上げると、くるりと身体を2回転させる。
列強と呼ばれる大国たちの腕利きと呼ばれるウィッチ達、きっと文字通りのトップエース達が集まってくるに違いない。
『また、バルトランドから3個飛行中隊規模の航空ウィッチ部隊も国連軍の指揮下でですが増援とし派遣されてきます』
隣国であり、北欧の大国であるバルトランドからは何と自国の航空ウィッチの1/4、スオムス空軍の全現役航空ウィッチに匹敵する規模のウィッチが駆けつけてくれるという。
つまり、スオムスを護る翼の数が一気に2倍以上に増えたと言うことだ
「やった~! これでスオムスは安泰だぁー!」
勇気百倍、元気も百倍。先程までの陰鬱とした空気何て吹き飛ばせるとばかりに、魔導エンジンのスロットルを上げて幾度もバレルロールを繰り返し行っていく。
自分が増援として列強各国から送り込まれてくる一癖も二癖もあるウィッチ達を率いる隊長となり、どれほどの苦難の道を進まされるかを、この時の彼女はまだ知るよしもなかった。
261: ホワイトベアー :2022/06/13(月) 22:27:20 HOST:sp49-97-102-80.msc.spmode.ne.jp
以上になります。先程も書いた通りあくまでも一発ネタです。wikiへの転載はOKです
最終更新:2022年06月15日 15:32