894: 奥羽人 :2022/06/16(木) 05:40:22 HOST:sp1-79-87-92.msb.spmode.ne.jp
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。





「畜生!どこから撃ってきやがるんだ!!」

「まずい、グレネード……!!」


銃声、爆発音。
鼓膜を叩き付けるが如き大音量が鳴る度に、コンクリートの壁が、床が、そしてガラスに破壊の跡が穿たれてゆく。


近似世界 2022年上旬
東欧某国
首都近郊、“連邦”軍占領地域


どこからともなく飛来したEMP弾頭の空中炸裂によって、電子・情報的に孤立した不可知の戦場。

「現有戦力では対応できない!応援を!!通信兵!!」

「ダメです!無線機が完全にイカれて……全く使えません!!」

そこには二種類の銃声が響き渡る。
けたたましい閃光と大音量の連射、いや、乱射の音と…………極限まで抑制されたあまりにも静かな破裂音。

「仕方ない!携帯も……ダメか!!」

「サイトもイカれてやがる……どうなってんだ!?」

しかし、大音量の銃声は時が経つにつれて数を減らし、それに伴って男達の怒号も少なくなっていった。

「くそっ!皆どこに……全員やられたのか…っ」

命からがら、銃弾のキルゾーンから逃げ出した一人の男。
しかし、この戦場は一人とも逃がすつもりはないらしい。

「!?」

男の目の前に立つ人影。
その手には、男にとっても見慣れた殺しの道具……AKが握られており、そして、その銃口は男の方を向いている。

「は、はは……化け物め…」

次の瞬間、抑制された発砲音が鳴り、ドサリと崩れ落ちる音が余韻を遺す。




「……全目標無力化、確認。」

使い込まれ薄汚れたAK74の先端に着いているサプレッサーから、紫煙が燻る。
身体を隠す様な外套と目出し帽に身を包んだその人物は、今しがた殲滅された男達と比べ、驚くほど小柄に見える。
とはいえ、少年兵特有の浮わついた、どこか戦場に興奮したような雰囲気は一片たりとも感じさせない。

「ポイントEに移動する」

「了解」

音もなく集まってきた“仲間”達も同様に小柄であり、その声は戦場に似つかわしくない程に甲高い。
それに反し、その所作は歴戦の特殊部隊のそれに匹敵するものであった。

10人程のチームは、互いに死角を補い合うように全方位を警戒しながら、しかしほぼ全力疾走で戦場を駆け抜ける。
その先には、民間用のマイクロバスが停車してある。

「周辺に敵影無し」

「武器装備を投棄する」

その一言と共に、チームの人員は一斉に銃器を別々の方向へと放り投げ、捨てる。
目出し帽と外套も同様に脱ぎ去ると……中から出てきたのは、年若い女性だった。

先程まで戦場で銃撃戦を行っていたとは到底思えない、思い思いの普段着を身につけただけの女性達。
彼女らが一旦バスに乗り込んでしまえば、最早どこからどうみても避難民としか見えない。

そうして、マイクロバスは足早に戦場を離れていった。








同時刻、在ポーランド日本大使館


「赤24、そこから南に25kmに避難民の車列がある。それに紛れて次ポイントへ向かえ」

戦場から遠く離れたポーランドは首都ワルシャワ。
その一角に存在する在波日本大使館の一室では、高度な通信設備と軍人、技術者、そして諜報局員が詰め込まれていた。
そこには東欧某国のリアルタイムな情報が大量に集積され、それを元に、高度に秘匿された各種命令が発せられている。
そしてその命令は、東欧某国で戦っている先程の“彼女達”へと届けられる。

895: 奥羽人 :2022/06/16(木) 05:42:49 HOST:sp1-79-87-92.msb.spmode.ne.jp


2022年、東欧某国との国境部に大戦力を集結させていた“連邦”軍は、突如として越境を開始。
「特別作戦」と銘打たれたそれによって、明確な宣戦布告も無いままに“連邦”軍は某国領内へと侵攻していった。



この事態は、日本国……ひいては夢幻会にとってはとても容認できることではなかった。

昭号作戦に従い世界を動かし続けて数百年。
アメリカが対テロ専門プロレスラーに成り下がり、かのドイツ軍が悲惨な状態に成り果てて尚、危機感を抱かずにいられた程の平穏。

せっかく何百年も苦労して、そんな「ぬるま湯」な世界を築き上げたが……今回の“連邦”の所業は、そのぬるま湯を一気に戦間期へと引き戻すような出来事だったと言える。

もちろん夢幻会も見ていただけではなく、2014年の「危機」の際には色々と手を尽くしたものの、その時は根本的に東欧某国の軍や政府が弱体であり、対応にも限界があった。
故に、今回こそは徹底的に対処する……と夢幻会は腹を括った。



その一つが、先程の“彼女達”による破壊・後方撹乱工作である。


「さて……“人形”の性能は驚く程に極めて優秀、作戦は順調に進行中」

「えぇ、そのようですな」



結論から言うと、彼女達は人間ではない。
人間そっくりに造られた、高性能なAI搭載アンドロイドである。

人間の脳を模して設計された高度な判断能力を持つAIユニットを人を模した体躯に搭載し、ある程度の出血や自己修復まで再現された人工皮膚に被われたそれは、傍目からは人と見分けがつかない程に精巧な人型ロボットであった。
その能力は極めて優秀であり、単純な戦闘力であれば一般的な軍特殊部隊を軽く超えていると評される。

彼女達、人型ロボットの存在は最重要機密となっており、政府と軍の一部以外には秘匿され、今回のような特殊工作へと活用されていた。

今回の作戦においては、色名と二桁のランダムな数字を組み合わせたチーム名を割り振られた分隊規模のチームが十数個。
計数百体が“連邦”軍の後方を荒らし回っていた。
グリーンベレーやらシールズやらデルタフォースやらフォースリーコンを足して割ってないような能力をもった便衣兵の集団が司令部や補給基地、交通の要所に飛行場なんかをところ構わず襲撃してくるのであり、“連邦”軍にとってはたまったものではない。



しかし、それでも技術者から言わせてみれば未だに発展途上の産物らしい。


「ハードウェアの性能に問題は無い……が、ソフトウェアはまだ不完全だな」

「あぁ、思考能力や判断能力そのものは良い。だが、もう一歩人間の側に踏み込んだ能力……高度な類推……連想や想像、語彙力……感情。とにかく、人間的思考にはいま一歩足りていない」

「今の戦闘も、どちらかというとハードウェアの性能。マシンパワーで押しきったようなものだしね」

「自律思考アーキテクチャに改良の余地あり……向こうの専門家がもう二、三人こっちに“来て”くれればなぁ……」

「そう都合良くは行かないさ。さぁ、とにかくレポートに纏めよう」

896: 奥羽人 :2022/06/16(木) 05:45:27 HOST:sp1-79-87-92.msb.spmode.ne.jp

「ま、これで正規軍同士の大規模衝突でも十分使えることは証明された訳です。おめでとうございます、主任」

「ん、あぁ…ありがとう」


技術者達が、それぞれ今作戦においての彼女達の働きを分析し、話し合い、改良点を洗い出す為に動く中で、人型ロボット開発チームの主任と呼ばれる男は静かに退場していく。

「?」

「主任としては複雑なんでしょうよ。何せ、主任はこのロボットで全ての歩兵を代替するつもりだったそうで」

「美少女軍団を……ここでも?」

「まぁ、確かに……軍に普及したのが精根込めた可愛い子じゃなくて、その傍流で造られた“アレ”じゃあねぇ……」


その視線の先には、人型ロボット技術を流用して設計され、陸軍の正式採用となって大量に配備。
東欧某国軍にも多数供与された自律型装脚UGV……

やたら艶かしくした牛のような二脚に箱を乗せたような……某潜入ゲーム4のヤモリと言えばいいか……全高数メートルの大型無人機「蛭(HIRUKO)」と……

下半身だけの人間……某配送ゲームの自動配送ロボット的な……にそのままRWS(遠隔無人銃座)を載せた様な見た目の「飛脚(HIKYAKU)」……

の、少々気持ち悪い戦闘映像がモニターに写し出されていたのだった。






「……それに、ゲームの方が既に出てますし」

897: 奥羽人 :2022/06/16(木) 05:47:15 HOST:sp1-79-87-92.msb.spmode.ne.jp
アンドロイドさんと自律型装脚UGV“飛脚”

ttps://i.imgur.com/qLJf6Dm.jpg

898: 奥羽人 :2022/06/16(木) 05:51:07 HOST:sp1-79-87-92.msb.spmode.ne.jp
今回は以上となります。
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最終更新:2023年08月28日 22:38