477: 弥次郎 :2022/06/16(木) 22:34:29 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「ブル・ブレイク」


  • 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年5月22日 ギアーデ連邦 首都ザンクト・イェデル 大統領官邸「鷲の巣」


 オペレーション・ブル・ブレイク。
 その名の通り、ギアーデ連邦-ロア=グレキア連合王国-サンマグノリア共和国-ヴァルト盟約同盟の間にあるエリアを掃討し、奪還し、制圧する長期作戦。
 特色は中央戦線の構築というものにあるだろう。すなわち、レギオン支配地域のど真ん中に戦力を投下させ、内側からレギオン支配地域を砕いていくこと。
衛星軌道上や高高度からの大量の戦力投入を可能としている地球連合軍だからこそできる作戦であった。
 しかもそれは、単なる一過性の作戦ではない。レギオン支配地域内に人類側の勢力圏を恒久的に構築するという、大胆不敵なものだった。
確かに全方位をレギオンに包囲され、敵陣のど真ん中に孤立するというのは避けえない。
兵站が途切れればじり貧となり、救援も当然ながら望めるはずもない敵地に赴くことになる。
 だが、それでもギアーデ連邦の西方方面軍はこれを支持した。その理由は、一応文民であるエルンストにもよくわかった。

「戦線一つがなくなって負担を減らせる絶好の機会。
 だからこそ、戦力を分散させることも是とするわけだね」
「はい。一時的に西方方面軍は戦力が減少。他方面軍から補うことになりますが……それだけの価値は存在します」

 エルンストと対峙しているのは、西方方面軍第177機甲師団師団長のリヒャルト・アルトナー少将と参謀長のヴィレム・エーレンフリート准将の二名だ。
彼らはまとめられたプレゼン資料を提示し、それらについての上申を行っていた。

「あくまでも数的な主力は地球連合によるところが大きくなります。我々はあくまでも助勢にすぎませんので、負担はあまり多くはありません。
 前線の押上げ速度は落ちることにはなりますが、挟み撃ちにする関係上、単純計算でも二倍のペースで進めることが可能かと」
「また、オペレーション・スカイフォール以降、地下に潜ったと思われるレギオンの生産設備等の追撃を行う絶好の機会でもあります。
 地球連合が懸念している地下からの浸透攻撃が行われる兆候があるかの調査も含め、現地の奪還は望ましいものと判断しています」
「……ん、わるくないね。
 しかし、そこまで切迫していないのに、繰り上げで戦力を送り出すのは……理由があるのかい?」

 エルンストの問いは当然のモノだった。
 西方方面軍から抽出され、セントラルエリア---ダーツで言うところの中央の「ブル」に配置される派遣軍には錬成中の部隊が含まれていた。
それらは既存の兵力の部隊ではない。供与されたMTやKMFなどを試験運用し、データ収集などを行っている試験部隊などだったのだ。
無論彼らだけではない。既存のヴァナルガンドらを主軸とする通常の部隊も含まれてはいる。
 だが、錬成途中であり、地球連合からの教導を受けている最中の彼らが実戦に投入される必要性は乏しく見える。
これが例えば正面戦力が何らかの理由でいきなり消耗し、その補填の必要に迫られたならばやむを得ないと判断できる。
そのよほどの理由とは何か?暫定大統領からの問いに、表情を一切変えることなくヴィレムは答えた。

「はい。連合からの供与戦力や技術をいち早く我々が吸収するために必要なのは、とにもかくにも経験です。
 実戦で用いて、経験を積み重ね、ノウハウを地球連合から吸収すること。いつまでも連合に遅れているわけにもいきませんので」

 軍の面子だ。地球連合からの助力はありがたいことだが、それに頼りきりでは面子というものが崩れる。
 積極的に地球連合との合同作戦に参加し、協力を惜しむことなく戦うことは、軍事的な意味だけでなく、政治的な意味でも重要であったからだ。

「試行錯誤の最中であり、練度的に不安は残ります。
 しかし、それらに目をつむるだけのメリットは存在します」
「なるほど。軍としても、早くに戦力化を急ぎたいということだね?」
「忌憚なく申し上げれば---点数稼ぎです」

 なら、しょうがないか、とエルンストは頷くしかない。
 なにしろ、この作戦についてはエルンスト自身も積極的な参加が必要だと考えていたからだ。
 諸般の事情もあって横やりは多少はいることにはなったのであるが、それでも実行はできることになった。
 だが、その諸般の事情というのは非常にややこしいが。

478: 弥次郎 :2022/06/16(木) 22:35:37 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

「ですが、もうひとつ忌憚なく申し上げるべきは……連邦内部でのパワーバランスの問題です」
「『新帝朝派』---ブロントローテ大公家のことかな?」

 エルンストの問いかけに、発言をしたリヒャルトは無言でうなずいた。
 予定されている長期作戦「オペレーション・ブル・ブレイク」にはギアーデ連邦以外の各国も積極的に参加する予定だった。
大戦力を動員したオペレーション・スカイフォールでの各国の損耗が軽微だった故に、この規模の作戦を短いCTの後に行うことを後押ししていた。

 そして、軍人二人が言ったように、この長期作戦は非常に有益な場となる。
 具体的なことを言えば、星暦惑星各国に対レギオン兵器として供与されたMTやKMF、あるいは供与技術を用いた戦力の投入の場だ。
 地球連合から供与され、各国が取り込んだ技術の研鑽と実戦配備というのは、戦後を見越した情勢においてはある種の競争であった。
如何にレギオン戦後の情勢において軍事的なアドバンテージを確保しているかどうか。
基本的に地球連合が供与している技術のレベルや物品において明確な差は存在していない以上、その速度が勝負ということになるのであった。

 そして、その戦後を見越した動きというのは、必ずしも国家間でのみ成立する競争関係というわけではない。
即ち国家内における戦後の主導権争い、派閥争い、あるいは戦時における流血に応じた報奨というものである。
国家とは個人ではない。国家とは多頭の毒竜である。いざとならば互いを喰い合い、強い個体のみが生き残るということさえすることもある。
国家の中に存在する組織同士でも、そのまた組織同士でも、あるいは組織に含まれる派閥同士でも、究極には個人同士でも、それは起こりうる。

 その動きは、レギオンを生み出したギアーデ帝国の後を受けて成立した国家であるギアーデ連邦において特に強く見られた。
ギアーデ帝国帝室が「表向き」滅んだことになっている状況下においては、残った貴族たちがその幅を利かせていた。
帝国が開闢してから続いていた焰紅種と夜黒種の貴族の対立は、時代を経て、レギオンとの戦いを経てなお加速したとさえ言えた。

 市民革命が起こったことによりギアーデ帝国はギアーデ連邦へと変わったのは周知のとおり。
 しかし、民主制に移行しているとはいっても、そのトップたるエルンスト・ツィマーマンは「暫定」とつく大統領である。
つまり立場上は完全に旧帝国貴族の影響力を排除、あるいは影響下におさめきれているとは言い難いのであった。
 さらには、エルンスト・ツィマーマン自身も夜黒種系の旧帝国貴族の後援の元である。
元々エルンストは黒珀種。大まかな括りでは黒系種のカテゴリーにあり、帝国時代においては夜黒種の従種--臣民であった。
その彼がある種の下克上を果たし、貴族制度が存在し、皇帝を頂点とする帝国のシステムに抗えたのは、それを良しとした夜黒種の一派の支援があった。
即ち、夜黒種の最大派閥にして現行の呼び名で呼べば「帝室派」の領袖であるノウゼン家を筆頭とした貴族たちの後援と支持が存在した。
勿論のこと、長らく続いた君主制から民主制を望む声が存在していたことは確かであったが、それだけではなし得なかったのだ。

 しかし、旗頭を失い求心力が落ちていた夜黒種と、徐々に勢力を増して帝政の復活をもくろむ「新帝朝派」の焰紅種の対立構造はバランスが崩れた。
 そう、地球連合の救援であった。
 その救援は現政権、ツィマーマン政権を支援するものであり、ひいては「帝室派」への支援であった。
連邦内においては連合との交渉を見事に成功させて支援を取り付けたツィマーマン政権の評価の向上は言うまでもない。
その成功は≒で「帝室派」の勢力を否応なく高めることにもつながっていったのである。

479: 弥次郎 :2022/06/16(木) 22:36:41 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 当然ながら面白くないのは「新帝朝派」であった。
 彼らは政治的な面でも軍事的な面でも戦後を見越していた。
 帝国時代からの名残で、彼らは独自に軍事力を保持しており、一方でレギオンとの戦いにおいてはそれらを出し惜しみしていた。
理由は言うまでもない。一般市民からの徴兵で成り立っている軍がレギオンとの戦いで消耗するのを待って戦後を迎え、多数派を占めることをもくろんでいたからだ。
 しかし、その連邦軍が地球連合からの供与戦力や供与技術を独占し、あるいは大々的に有しているのは戦後においては大きなディスアドバンテージだ。
殊更、「新帝朝派」がその筆頭であるブロントローテ大公家をはじめ、出し惜しみや戦後を見越した策動に注力している姿勢を連合が問題視したことが関与している。
 別段、地球連合としてはギアーデ連邦が戦後に帝国に逆戻りしようが構いはしないのだが、かといってレギオン戦後にドンパチを起こされても困るためだ。
殊更に宇宙怪獣との戦いをやっている最中に守っている惑星内での内輪もめなど、おいたが過ぎれば連合とて黙ってはいない。

 それらを遠回しながら地球連合から告げられ、さらには政治的に不利な状況に追い込まれつつあることもあり、「新帝朝派」は動き出さざるを得なかった。
だからこそ、自前の、これまでは自分たちの領地を守るためという言い訳のために前線に出ていなかったお抱えの戦力を動かしたのだ。
それらは余裕が減りつつあるから動かしたのもあるし、ブロントローテ大公家ら新帝朝派の点数稼ぎが必要になったからというのもある。
 そして何より、新帝朝派は座視できない問題があったのだ。

「彼我の戦力差の隔絶---地球連合は、自前の戦力を出し惜しみし、戦後を重視しすぎる新帝朝派に協力をあまりしていない。
 最前線において戦う連邦軍には協力していても、領地とおのれの権勢のためだけに動く大貴族の私兵部隊に協力する謂れは無い、それが連合の言い分です。
 これを契機に地球連合からの技術や戦力の供与を受けたい。あるいは、連邦軍の戦力についての能力査定などを行いたいと、そういうことかと思われます」
「まったく、同じ国の人間同士で諜報合戦をやらなくてはならないとはね。仮想敵というのが事実だとしても、戦時中にやることではないだろうに」

 嘆かわしい、とエルンストは肩をすくめた。
 絶大どころではない力を持つ地球連合の参戦は、確かに戦後を確実なものとしたからだ。
これまでは出血を強いられながらも、レギオンにも出血を強いることで拮抗していた。それがいきなり優位となったのだから言うまでもない。
彼ら、連合の力はオペレーション・スカイフォールでも実証されており、どうしようもなく上なのだ。
 だからこそ、自らの目論見が大きく外れてしまったことを新帝朝派は焦っていたのだ。

「しかし、閣下はそれをお認めになられたと聞きますが」
「僕としては拒否は難しいからね。建前的には民意の元にこの国と軍を動かすのが僕の仕事。
 自ら協力すると態度を改めた相手をけんもほろろに断ることはあまり褒められたことではないよ」

 書類上、派遣されるのは義勇軍という形の4個連隊を主力とする機動部隊。
 ミルコロメオ、バーゲスト、グレンデル、エアレーの4個連隊に兵站管理やら補給部隊などを合わせた通常とは少しばかり編成の異なる部隊となる。

「無論、ブロントローテ大公家の顔も立てているけれど、釘もさしているさ。
 協力すれば戦力がもらえるという、単純な取引ではない、とね」
「ありがたいことです、閣下」

 あくまでも調停者であり引率者ともいえるエルンストだからこそ、地位と立場から言えることがある。
 それは、他の誰かではできないことであった。

「まあ、僕としても地球連合の方からは睨まれていてね……宇宙怪獣が来るかもしれないのに、内輪もめ一つ防止できないのは困る、とね」

480: 弥次郎 :2022/06/16(木) 22:37:19 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 暫定大統領が口にしたその言葉に、思わず軍人二人は身体を固くする。
 宇宙怪獣。この惑星に襲い来るかもしれない、星暦惑星各国の常識を遥かに超える「外敵」。
そもそも地球連合がこの惑星の国家や勢力に接触を図るきっかけとなった、強大どころではない存在。
地球連合との外交においてその情報は開示されており、エルンスト以下政府や軍部もその情報を共有している。

 その脅威たるや、レギオンの比ではない。
 地球連合でさえも油断ならず、犠牲などを強いられる存在。

「彼らが後方を気にすることなく戦うためには、我々もまた結束し、彼らを支える必要がある。
 彼らとしてはレギオンとの戦いなどは余力で行うことにすぎないのだからね」
「無論です」
「問題は、その事情を知った上で、それでも協力や協調を選べるかということです」

 そうだね、とエルンストは頷く。
 現段階、現地時間の星暦2147年5月の段階では、まだこの恒星系やその周辺での宇宙怪獣発見の報告はない。
 だが、油断はならない。相手は亜光速行動が可能であり、さらにはワープ航法も可能というでたらめな生物だ。
光年単位の距離があったとしても一瞬ワープしてくるわけであるし、恒星系内に入ろうものならば一瞬で生命体のいるこの惑星に肉薄できるということ。
 そんな侵略者はいつかは来るかもしれない。けれど、同時にひょっとしたら来ないかもしれない。
 レギオンの比ではない、絶望的な相手だからこそ楽観視したくなるのもわからなくもない。
 そもそも宇宙怪獣自体を信じ切れているかという問題もあって、一致団結しているとは言い難いのだ。

「まあ、そこは時間をかけるよ。向こうだって、誰だって、いきなり理解するとは限らないしね。それに」

 エルンストは笑みを深くして言う。

「僕も含めて、あれだけ不特定多数から反省を促されたんだから、動かないわけがない」
「……あれ、ですか」

 新帝朝派に反省を促すダンス。ネットワーク上において現在大流行している動画の一つだ。
 タイトルこそそういうものであったが、内容としてはかぼちゃのマスクをかぶり全身タイツの人間が曲に合わせて躍っているだけ。
政治的な意味合いなど全くなく、半ばジョークの様なものであった。
 だが、地球連合から発せられたこのミームは瞬く間に広がり、一般市井の人々の好奇心を刺激したのだ。
 新帝朝派とは何か?反省を促されなければならないとはどういうことか?なぜその新帝朝派の貴族たちは過剰に反応しているのか?
疑問は尽きることなく沸き上がり、大きく影響を及ぼしたのだ。その中でどこからともなく新帝朝派の戦力の出し惜しみが暴露され、世論は一気に沸騰した。
 結果として、「大貴族に反省を促すダンス」などと形を変えながらもそれらは拡散。世論は私欲に走り続ける新帝朝派への抗議の声をあげた。

「彼らも、それらの声を無視し得なくなったんだろうね」
「カウンターとして、閣下もやり玉に挙がっているようですが」
「やましいところがないなら、別に笑って眺めてやればいいのさ。
 いたずらに反応したり、ましてや逆上すると、ますます疑われるのだから」

 それはともかく、とエルンストは告げた。

「この作戦への参加については検討させてもらうよ、前向きに。
 政治的にも軍事的にも、これに参加しない手はない。連邦としてのスタンスを連合に示さなくてはならないしね」
「はっ!」
「承りました!」

 斯くして、火竜の承認の元、ギアーデ連邦は多くを抱えながらも、それに向けて動き出し始めたのだった。

481: 弥次郎 :2022/06/16(木) 22:38:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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新しい作戦に向けて動きが始まりました。
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最終更新:2023年07月10日 19:58