714: 弥次郎 :2022/06/18(土) 23:10:18 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「ブル・ブレイク」2



  • 星暦恒星系 星暦惑星 ギアーデ連邦 WHM東部ニジン・ゴウロウド第二生産工廠



「美しくないわね」

 グレーテ・ヴェンツェル中佐は、実家であるWHMの生産工廠で続々と生産が進められていくヴァナルガンドを眺め、そう呟いた。
 M4A3R2 ヴァナルガンドR型制式配備タイプ。これまでギアーデ連邦の主力フェルドレスを務めていたヴァナルガンドのバリエーション機であった。
着々とアップデートを繰り返してきたこのフェルドレスは、地球連合から供与された技術・素材・ノウハウなどを取り込むことにより大きく進化した。
 これまでの装甲材を超える耐久性と剛性・軽量さを備える超硬スチール合金の採用。各種駆動系やセンサー系の歩止まりの解決。
生産工廠の生産ラインにおける質の改善。その他変更項目は数千におよび、ヴァナルガンドを新しいステージまで押し上げた。

 しかし、それはグレーテの美意識に適うものか、と聞かれれば全力でNoであった。
 足回りや機動性や運動性の面、瞬発力なども改善はされているとはいえ、所詮はヴァナルガンドの系譜に位置する。
運用側・生産側の事情も考慮して、大規模すぎる改装を行わなかった事情があるがゆえに、根本的な弱点は解決されていない。
即ち近距離でのポジションの取り合いや対応能力がお粗末なのだ。XM2レギンレイヴよりも相対的に鈍足なのも変わっていない。
相変わらず8本の足でのそのそと動き回り、旋回性などもお察しである。
 ごく最近出現した新型のレギオンである軽戦車型に対しては近距離に飛び込んでくる前に外付けした40㎜機関砲で対処する泥縄式だ。
機動兵器という概念に共感し、研究を進めているグレーテのそんな忌憚のない感想に対して、生産ラインの管理主任は苦笑いするしかない。

「そういいますがヴェンツェル中佐、こいつはこれまでのヴァナルガンドの何倍も良いフェルドレスですよ。
 地球連合のおかげってのは素直に喜べませんが、それでも良いやつが出来上がったと自信を持って言えます」
「知っているわよ、資料には何度も目を通したわ」

 これでもグレーテはフェルドレスの操縦者であり、試験部隊で指揮を執る人間であり、さらにはフェルドレスそのものについての造詣が深い。
その知識や経験、あるいはシミュレーションされた結果などを総合的に鑑みれば、そして軍としての事情も合わせればヴァナルガンドが適していることは理解できる。
 ただし、それを理解できることと、納得ができることは全くの別問題である。
 そして軽戦車型への対応能力が二の次にされている状態であるのも事実なのだ。

「改良型ができたのはいいとして、その数はまだまだでしょう?既存のヴァナルガンドが増産されるまでは数的主力。
 それまでの間に兵力がすりつぶされていくのよ?熟練のパイロットたちが……」
「けれど、中佐の所のレギンレイヴでしたか?あれをいきなり大量生産して配備するのは難しいと聞きましたよ?」
「うぐっ……」
「内装関連をはじめとして部品はある程度共有とはいえ、フレームや装備などは違う部品も多い。
 地球連合から物納されている金属を加工し、成形するラインはほとんど地球連合が作った物。
 生産工程での管理も厳しいものだから、工員も苦労しているわけですし……」

 そう、これまで試作されていたところ連合の技術を取り込んで完成させ、それを発展させたのがレギンレイヴ。
その生産ラインなどはごく最近に作られたばかりであり、初期エラーなどを当然のように起こしていた。
ヴァナルガンドの生産ラインと同じところもあればまるで違うところもあるわけで、工員や作業ロボットの慣熟などもまだまだ不足している。
そんな状況なのに数を送り出すことは決して楽にできることではないのだった。
 その点ならば、既存の生産ラインに手を加えるだけで完了し、また製造された実機をアップデートするだけのヴァナルガンドの方がよほど頼りになる。
己の命を預けるフェルドレスが無理な増産のせいで質が落ちていました、ではシャレにならないのだ。

「……わかった、わかったわよ。
 でも、次世代は機動戦闘や機動兵器が主軸となるのは明らかなのだし、早くに理解を進めてもらいたいわね」

715: 弥次郎 :2022/06/18(土) 23:11:26 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 グレーテは直近に発令される長期作戦「オペレーション・ブル・ブレイク」はその評価試験を兼ねるため極めて重要だと捕らえていた。
先行して配備されたヴァナルガンド、レギンレイヴ、さらには供与されたKMFと言った兵器群が投入予定であるのは理由がある。
それは、実戦においてその能力を実際に評価し、今後の課題を見つけ、今後の方針を決定していくためだ。
無論、先行して各方面や戦線で試験運用されているのも事実。しかし、それはあくまでも小規模の試験部隊にすぎない。
数的主力を既存戦力に依存している状態であり、尚且つ地球連合との合同作戦なのである。
そこで得られるデータは量としては微々たるものでしかなく、安全な戦場での実戦データにすぎない。
実際に全力で動かし、より精度の高く、現実に即したデータが欲されていたのだ。
 そういう意味では、試験運用する戦力が主体となっている今回の作戦というのは非常に都合が良い場であった。

(シミュレーション上でデータ収集できるっていうのはありがたいことだけど、実際の用兵側の錬成も兼ねているからそれだよりにできないのよね)

 グレーテは内心ため息をつく。
 高性能という言葉を通り越したコンピューターによるシミュレーション。
 あるいは収集されたデータを基に再現されたシミュレーターによるテスト。
いずれもが地球連合が救援に駆け付け、協力体制を作ってからギアーデ連邦に対して提供したものだ。
その結果として、兵器の開発・改良・設計などの時間が驚くほどに短縮され、また低コスト化に成功したのだ。
 だが、新機軸の兵科を新設し、導入するにあたっては現場の習熟も必要であり、何でもかんでもシミュレーション上とはいかないのだ。

「……そう言えば」

 ふと、グレーテは思い出す。
 西部方面軍から抽出されるオペレーション・ブル・ブレイクの参加戦力の一覧には目を通していたが、そこに別個の戦力が加わっていたことを。
それに関して西方方面軍第177機甲師団師団長のリヒャルトがだいぶ渋い顔をして各方面との調整をしていたことも、だ。

「主任、義勇軍に納入されるヴァナルガンドについて何か知らないかしら?」
「あ?ああ、あのお貴族様の部隊ですか」

 主任に問いかければ、あからさまに表情を歪ませる。

「あんまり大きな声で言わないでくださいよ?表にしちゃいませんが、嫌われていますから」
「そうでしょうね」

 それもそのはず、ギアーデ連邦の内部では貴族が現在進行形で嫌われている。
 その火種になったのが、あのカボチャを被ったダンスだ。
 あの動画を契機にして、貴族---特にブラントローテ大公を筆頭とする?紅種の「新帝朝派」の事情が世間一般に流布された。
国家が一丸となって戦っているというのに、その中で非協力的な姿勢を維持しているというのは、ある種の同調圧力の中ではあまりにも痛い。

「まあ、お貴族様方も尻に火がついているのか、あまり大きくは出ませんでしたけどね」

 風の噂ですけども、と主任は言う。

「本社の方に圧力をかけて、R2の生産分を割り当て以上に取ろうとしたり、連合から供与された技術を独自に囲い込もうとしたりしていますから」
「え、私初めて聞いたんだけど?」

 グレーテは現役の武官ではある。しかし、実家はWHMであり、立派なご令嬢なのだ。
そんな彼女が、軍の中佐という立場にあるにもかかわらず知らないというのはある種異常だ。その理由を主任はあっさりと喋った。

「そりゃあ、本社の方では大人の話し合いの結果、なかったことにしていることですから。
 一応はお客様なわけで、言いすぎれば何をされるかわからないのでそういう扱いです」
「ああ……そういう」

 それでも、と主任は厳しい表情で言う。

「内戦で自国内で殺し合いをします、と公言するような行動を続けている相手に良い感情は抱きませんよ。
 殊更、現場の人間ほどね。だから、どこの誰とは言いませんが、かぼちゃのシールをコンテナに張り付けた奴がいたそうですよ」
「度胸あるわね、その人……」

 けれども、悪くはない兆候だ。

「人間同士で争うよりも、まずはレギオンをどうにかすることに全力を尽くすべき。
 そういう意識が改めて徹底されるようになっているのは、大きな成果ね」
「その反動が、少し怖いところですよ」

 人間同士で争うなんてまっぴらですよ。その主任の言葉は、とても重たいものだった。

716: 弥次郎 :2022/06/18(土) 23:12:52 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
新帝朝派はだいぶ焦っています。
故に拙速に行動に出て、なおのこと嫌われるループに…

本当はブロントローテ大公本人を出したいところですが、生憎と登場しないので…

719: 弥次郎 :2022/06/18(土) 23:30:40 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
修正をお願いします

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「そういいますがヴェンツェル中佐、こいつはこれまでのヴァナルガンドの何倍も良いフェルドレスですよ。
 地球連合のおかげってのは素直に喜べませんが、


「そういいますがヴェンツェル中佐、こいつはこれまでのヴァナルガンドの何倍も良いフェルドレスですよ。
 地球連合のおかげってのは素直に喜べませんが、それでも良いやつが出来上がったと自信を持って言えます」
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最終更新:2023年07月10日 20:02