673: 弥次郎 :2022/06/26(日) 23:12:05 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「ブル・ブレイク」5


  • 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年6月14日 極西地域 白紙地帯


 ミストルティン---北欧神話において、万物に祝福されたバルドルを貫いた矢あるいは枝。
 その名を冠する兵器というのは、すなわちパラライズバレットの強化発展形。
レギオンの装甲を食い破る侵食ナノマシンと動きを阻害するマイクロマシンのタンデム・カクテルを撃ち込むための特別な銃弾に他ならなかった。

 白紙地帯の火山灰の中を飛ぶMTやTMSから放たれたそれらは、一気呵成に試作案・陸上戦艦型に突き刺さり、徐々に徐々に染み込んでいった。
無論のこと、その間も試作案・陸上戦艦型は抵抗し、動き続けるわけであったが、ここでは同じく巨体を誇るビグ・ザムやTMSがモノを言った。
即ち、拘束用のワイヤーアンカーを撃ち込んで雁字搦めにしてしまい、強引に動きを押しとどめたのだ。
如何に馬鹿でかい試作案・陸上戦艦型と言えども、その馬力には限界が存在している。
殊更に相手は試作案・陸上戦艦型を超える巨体とそれを動かすための推力や馬力を持つビグ・ザムなのだ。

『撃ちまくれ!撃てば当たるぞ』
『しぶといぞ、いい加減!』

 MTやTMSだけではない、陸上を埋め尽くす陸戦型MTやフェルドレス、あるいは後方に控える陸上艦艇の艦砲からも遠慮なく打ち込まれていく。
もはや空を、そして大地を埋め尽くす勢いだ。無論のことレギオン側も回避しにかかるが、大小さまざまなその砲弾の嵐から逃げることはできない。
 これまでのパラライズバレットとは違い、浸食型ナノマシンを盛り込んでいることで、自前で電子回路や中央処理装置まで届く。
故にこそ、接近してから場所を特定して撃ち込むという手間が省かれているのであった。

『------』

 試作案・陸上戦艦型は、陸上の巨獣は悶え、苦しむように身をよじる。
 当然だ、身体の神経と言える電子回路に異物が混じり、動きを阻害しているのだから。その原因が突き刺さっている砲弾が原因であるとも理解している。
 だからこそ動き、振り落として何とか注入されるマイクロマシンを減らそうと試みる。だが、それは叶わない。
既に刺さっている量が量なのだ。巨体であるがゆえに回避はできないし、迎撃を行うとしても必ずしもそれは万全ではない。
そもそも、砲弾を破壊しても底から飛び散ったナノマシンは健在で、装甲に飛び散り、染み込んでくる。

『---------』

 やがて、その巨体は、試作案・陸上戦艦型の神話の巨獣のごときそれは、力を失った。
 膨大な数の足は動きを止め、攻撃を続行していた砲門はいずれもが沈黙し、中央処理装置も電子回路もいずれもがマイクロマシンにより制圧されていた。

『自爆機能は……動いていない模様』
『活動停止……か?』
『油断するな』

 そして、素早く連合軍の戦力は試作案・陸上戦艦型の拘束を行い始める。
 追加でミストルティンを撃ち込み、さらにはトリモチなどで動きださないようにしていくのだ。
それらを行いながら、観測機が試作案・陸上戦艦型の巨体の精査を行い、中央処理装置を特定する。

『とどめ、と』

 とどめに、中央処理装置---比較的損傷が小さく状態の良い人間の脳を基とした『羊飼い』の本体へと、ハッキングによるロック装置を取り付けた。
レギオンの動きを阻害するパラライズバレットの存在はレギオンも把握しているだろうということから、直接的に中央処理装置を抑えるロックも用意されていたのだ。
これらの何重もの阻害により、完全に無力化が図られたのだ。これらが迅速に行われたのは電磁加速砲型での経験が生きたものだ。
だからこそ、無力化を専門とする電子戦機までも繰り出されていたのだから。

 しかし、まだレギオンたちの動きは止まっていない。
 地平線を超え、白紙地帯の火山灰を踏み越え、次々と攻撃を続けてくる。
 相手も通常ならば撤退などをするのであろうが、この先にあるマスドライバー施設の死守を命じられているが故だろう。
AIはどこまでも命令に忠実だ。どこかで誰かが変更しない限り、どこまでもそれを遂行する。
 その姿に、連合軍はいっそ憐れみさえも抱いてしまったのだった。
 だが、それでも戦闘は続く。戦略目標である白紙地帯の奪還と、マスドライバーの制圧まで。

674: 弥次郎 :2022/06/26(日) 23:13:31 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

  • 星暦惑星 現地時間星暦2147年6月18日 連合呼称「セントラルエリア」 ギアーデ連邦駐留基地



 「オペレーション・ブル・ブレイク」が開始されてから4日あまりが経過した。
 各方面での戦いは極めて順調に進んでおり、戦線の押上げは24時間止まることなく続いている。
交代制で絶えず戦力を動かし、レギオンの数の漸減を進めることによって、相手に補充や補給の隙を与えないため、と聞かされている。

 事実として、レギオンの抵抗は日を追うごとに鈍化していっている。
 碌に戦闘を行うこともなく撤退していく個体が増えているのだ。
 あるいは、明らかに砲弾や銃弾などを出し惜しみしにしているのか、レギオン側からの砲撃の密度がだいぶ薄い。
さらには、近接狩猟型が前面に出てくることが多いのだ。あるいは新種の高機動型といった、格闘戦をこなせる個体を積極投入している。
 その理由はただ一つ。レギオン側の補給体制や戦力にひびが入っていることに他ならない。
 レギオンとて、無尽蔵に弾薬があるわけでもなく、無限に稼働できるわけでもなく、故障などもしないというわけではない。
そういう点においては、近接格闘戦を行える近接狩猟型や高機動型というのは、補給の乏しい苦境においてはありがたい存在でもあった。

(ただ、明らかにレギオンが戦術を変えているのも確かよね)

 自分のオフィスで分析を続けるグレーテは、各所から上がってきた報告を閲覧しながら、唸り声をあげていた。
 レギオンの新戦術---というほどでもないが、相手の行動パターンは変化している。
 こちらが進撃するルート上に対戦車砲兵型や長距離砲兵型による十字砲火点を定めて置き、斥候型が進撃を確認すると砲撃するというのだ。
常に斥候型を警戒し、上空からの援護と共に進むことで被害は低減できるが、少なくはない被害が出ているのも確かだ。
そして、その砲撃に合わせる形で近接狩猟型や高機動型、軽戦車型などの機動力に優れる個体が展開、包囲や側面への展開を行って、攻撃を仕掛けてくる。
 迂闊な前進を選びすぎると反撃を食らう、ということがわかっているからこそ、クリアリングや次善の偵察などの重要性は増している。

「あとは……これよね」

 パソコンの画面に表示されているのは、戦場で確認された退避壕だ。言うまでもなくレギオンの構築したものである。
それなりの深さがあるそれは、レギオンの個体が隠れるには十分すぎる深さを確保し、航空戦力のセンサーによる精査を潜り抜けようとしていたことが窺えた。
そう、レギオンも陣地形成を行い、伏兵を配置するということさえし始めたのだ。
阻電攪乱型と合わせることによって確実にキルゾーンに誘い込み、斥候型で位置を把握し、一方的に砲撃をして逃げる。
場合によってはそこから肉薄しての戦闘を仕掛けてくる。何ともいやらしさにあふれたハラスメント攻撃だ。

675: 弥次郎 :2022/06/26(日) 23:14:22 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 また、グレーテが注目しているのは、レギオンが新しい行動をとり始めただけではない。
 地球連合からもたらされた機動戦という概念を、レギオンもまた取り入れ始めた、ということだった。
殊更に新型の高機動型など、それのために開発されたのでは?という疑いさえも上がっている。

 何しろ、これまでの比ではない、異形と言っていい進化を遂げているのが高機動型だからだ。
 まず、阻電攪乱型の可視光を阻害する機能を取り込んだのか光学迷彩を標準装備している。
 さらには対空レーザー自走砲型を基にしたと思われるレーザー兵器を実装、火力を発揮できるようにした。
 とどめに、高周波チェインブレードを装備し、明らかに近距離での格闘戦を意識している。
 そしてそれらを活かすためであるのか、近接狩猟型や軽戦車型を超えるような、高い機動性を発揮している。
撃破した残骸などから鑑みるに装甲を削り、ある種尖ったスペックとすることにより、それを実現していた。

 これを見たグレーテは、機動戦闘にレギオンも対処してきたのだ、と判断し、上申していた。
 軽戦車型の時点でもそうだったが、レギオンはどうやら鈍重なこれまでの戦力を地球連合の戦力により被害を受けたためなのだろう。
 そして、実戦に投入されたそれらは、未だに機動戦に適応しきれているとは言えないこちらを手こずらせている。

「キルレシオも酷いものね……やっぱり、ヴァナルガンドでは限界がある」

 ただし、それに相対する、彼女が開発を推し進めていたレギンレイヴでも被害の程度にはあまり差がないの事実だ。
むしろ随伴しているKMFなど方が対処しやすいというのも確認されていることであった。
相手の旋回性や足の速さなどにより律速される運動性において、追従できるのはそちらだったのだ。
高機動型はそのスペックの実現のためにかなり装甲面を犠牲にしているので、KMFの火力でも十分に対処可能だったのだ。
 その点ならばフェルドレスも同じなのだが、砲塔の旋回速度などが追い付かず、接近されて撃破される、というのが多いのだ。
今のところの対策としては近距離戦闘に特化した散弾砲への換装を進める、というものだが、それは付け焼刃に他ならない。

「やはりオペレーターの問題かしら……」

 そう、結局のところの問題はそこに突き当たる。これまでレギオンとの戦いは防衛線を維持しながらの漸減的な押し引きだった。
だからこそ、極論を言えば平野部の打ち合いだけで概ね完結していたところであった。
 しかし、この作戦での戦いは積極的にレギオンの支配地域に踏み込んでいかねばならない。その時のふるまいをどうするか、経験した人間が少ないのだ。
とはいえ、そこで生じる被害をどうにかせよ、というのが命題というか自分達後方の人間の仕事なのだから、知恵を絞らねばならない。

「今日も、遅くなりそうね」

 グレーテは一人ごちると、報告書の山に手を伸ばした。

676: 弥次郎 :2022/06/26(日) 23:15:43 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
サクサク行きます。

レギオン君、さっそく連合の真似をしてくるの図。
ここら辺は人間より柔軟なんですよねぇ。

新種のレギオンについては追々まとめを出します。

703: 弥次郎 :2022/06/27(月) 07:38:35 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
誤字修正をお願いします

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そういう点においては、近接格闘戦を行える近接狩猟型や高機動型というのは、補給の乏しい苦境においては


そういう点においては、近接格闘戦を行える近接狩猟型や高機動型というのは、補給の乏しい苦境においてはありがたい存在でもあった。


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 こちらが進撃するルートを予測し、対戦車砲兵型や長距離砲兵型による十字砲火点を定めて置き、斥候型の情報を基に進撃を確認すると砲撃するというのだ。


 こちらが進撃するルート上に対戦車砲兵型や長距離砲兵型による十字砲火点を定めて置き、斥候型が進撃を確認すると砲撃するというのだ。
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最終更新:2023年07月10日 20:10