652 :ひゅうが:2012/02/21(火) 20:40:08
提督たちの憂鬱×嗚呼我ら地球防衛軍 一発ネタSS「参謀(仮)たちの前に助っ人(プロ)が降臨されたようです」
――某年…某所
「では、姉上。行ってまいります。」
「どうしてもいくのですか?」
海に面した埠頭。その先端で美しい女性が別れの挨拶をしていた。
姉上と呼ばれた女性は端から見ても彼女とそっくりなもう一人が心配であることがありありと分かる。
長い睫は伏せ目がちな眼とあわせて少し勢いを失っており、海風がはためかせる彼女のドレスは、女性が放つ風格をどこか儚げにしていた。
「はい。もう決めたことです。」
姉と彼女を呼んだ女性は、対照的に体の線が出た服装とヘルメットを手に持っている。
その瞳には、どこか男性的な覇気に似たものが宿っている。
女性はこの状態になっている妹が何をいっても聞かないことを熟知していた。
「はぁ・・・あなたは言い出したら聞かない子ですからね。」
女性は、苦笑というこの人物には似つかわしくない動作で最終的な肯定をもって彼女を送り出すことに決めた。
不思議な子だった。
幼いころから自然と知恵を身に着けており、自分などよりよほど政治的ななにがしかには向いている。
少なくとも隣国の指導者が憧れにも似た感情でちょっかいを出してきた時はそれをうまくかわしつつかの指導者の夫婦仲について骨を折ってみせた。
そして彼女は、いつしかある青い――この母なる大地とよく似た大地に住む人々に並々ならぬ関心を抱く。
そこが隣国により侵略対象とされつつあることを知った女性は妹を制止した。
しかし妹は諦めず、ついには絶えてなかった姉妹喧嘩をやってまでこの「旅程」を主張したのだった。
今や、彼女ら二人とその周囲の年老いた執事しか残っていないこの国では絶えてなかった「国論の分裂」を経て、二人は妥協した。
ゆえにこの光景が出現していたのだ。
妹は力強く頷き、タラップを駆け上ってゆく。
流線型の船縁に立った彼女の妹は、力強く尊敬する姉に手を振った。
「行ってきます!姉上!」
「いってらっしゃい。地球のみなさんによろしくね。サーシア。」
イスカンダル星の暫定第1位王位継承者 サーシアは、姉である女王スターシアに見守られながら、旅立っていった。
ただし――
『さて・・・ヘルメットも持った。臨時酸素供給装置もあるし慣性制御装置もある。・・・これなら火星で窒息死することも、衝突死することもない――はず。』
その中身が本来あるべき歴史とは違っていることと、この行動に出た時点で歴史が変わっていることは、この時点では誰もわからなかった。
唯一例外になるのが・・・
『待っててくれ・・・地球。
放射能除去装置その他は持っていけないが、今いくぞ――。
- まぁ、二度目の生どころか三度目を経験している私がいるくらいだから、あっちにも何人かいるかもしれないし、私がいかないでもなんとかなるかもしれないが。
具体的には辻とか辻とか辻あたりの暗躍で。』
この、かつて嶋田繁太郎と呼ばれた人物であるとは神ならぬ身には想像すらつかないことだろう。
653 :ひゅうが:2012/02/21(火) 20:40:39
――同 西暦2190年 日本 東京
「さて。みなさんお疲れ様です。あ、参謀君もお疲れ。」
「そう思うんならいきなり呼び出さないでください・・・仕事を抜けてくるにあたって周囲の目が痛いこと痛いこと・・・。」
「はっはっは。まだまだ甘いですね。私の頃は72時間泊まり込みが普通でしたよ?」
「それは辻さんが異常なだけでしょう・・・。」
帝都東京。
その一角で男たちが集まっていた。
政財界の重鎮や、各省庁の高級官僚、そして軍人。
彼らはいずれも曲者揃いだったが、そんな中には場違いともいえる人々が多数混じっていた。
日本では珍しい外国系の男たち、そしてことに多いのは各国の宇宙軍に在籍している者たち。
国籍は多岐にわたるが、多くは日本帝国航宙軍に所属する男たちだった。
そして彼らとお好み焼きの鉄板を囲んでいる男たち。
何をかくそう彼らは、この国はおろか環太平洋・インド洋をその勢力圏とする「環太平洋連合」の筆頭である日本帝国の「影の枢密院」とも呼ばれる秘密結社。
その名を「
夢幻会」という。
そんな彼らに個別に呼び出された男たちは、ある目的を共有していた。
「現状、時間が足りないですからね。」
辻と呼ばれた今時珍しい眼鏡の男はギラリと眼光を輝かせた。
「ガミラス襲来まであと2年・・・防災対策の名目で地下都市空間の整備は進んでいますし、工業設備の増産と移転も進んでいます。
ですが――近衛さん。月面要塞や水星エネルギー基地群の秘密ドックの建設は進んでいるんでしょう?」
「ああ。いざとなれば500メートル級の数十隻同時建造でもやれるほどにはな。だが、数があまりに足らん・・・。」
「いくら太陽系外の知的生命体の兆候を感知したとはいえ、アルファ・ケンタウリからの報告では反応が薄いですか。やはり。」
男たちは頭を抱えていた。
彼らがここに集まっているのは、参謀と呼ばれた男をはじめとする存在が確認され、それが地球に迫りくる重大な危機を暗示していることが明らかになったためだった。
654 :ひゅうが:2012/02/21(火) 20:41:27
かつて夢幻の彼方に過ぎ去った「平成」や「昭和」において放映されたアニメーション「宇宙戦艦ヤマト」。
その存在が「なぜかない」この世界において、彼ら作中の
登場人物は出現していた。
かつての「平成」の記憶、ことに同作品の記憶を根強くもって。
それはつまり、この世界こそが「宇宙戦艦ヤマト」の舞台であることを意味している。
人類の9割が命を落とし、一時的にせよ全地球が遊星爆弾の無差別攻撃による破壊と放射能汚染で死の大地と化すという悪夢がやってくるのだ。
しかも相手は星間国家ガミラス帝国。片やこちらは、理論こそ進行しつつあるものの光速の壁を越えられていない一惑星にすぎない。
エルナン・コルテスに攻められたインカ帝国どころの話ではない。
「支那連合と米州条約機構がまたぞろ平和接触を主張し始めています。
話としては分からないでもないのですが、あれはわが国に対する嫌がらせですね。まったく。」
「いい加減、諦めればいいものを。太平洋連合に対抗する大陸国家新秩序の建設ですか。片腹痛い。」
「軍拡を行いつつこちらの軍縮を求めるのはダブルスタンダードの極みですが、先触れとして相手をさせるにはいいのでは?」
「ヒペリオン艦隊司令・・・あいつらは先に我々に突っ込ませようと考えるだろう。
何せ我々は列強に数えられる国家だからな。
都合のいい時ばかり発展途上国として被害者ぶるのは彼らのよくあるパターンだ。
そしてそういうパターン化されたネタは定番だからこそよく受ける。何も知ろうとしない人々にはね。」
「勘弁ですよ・・・山本閣下。」
そうだな。と軍服を着た男がうなづく。
「しかし、こんなときに嶋田の奴がいたらな・・・」
折衝などを押し付けられたのに。とつぶやく山本。
辻と呼ばれた男もそれに同意した。
「案外、こちらにもういるかもしれませんね。」
「だが、探してもいなかっただろう?」
近衛と呼ばれた男が首を傾げる。
「いえ。地球側にではなく――」
「ガミラス側か?それともイスカンダル側か?」
「あの人も我々も、死亡フラグ満載ですからねキャラ的に。案外スターシア女王、いえサーシャ殿下あたりになっているかもしれませんね。」
かもな。と男たちは笑う。
そして議題は、唯一ガミラスに原作でも対抗できた宇宙駆逐艦用の大威力魚雷や、開発が難航している衝撃砲を搭載した艦艇量産計画に移って行った。
- 彼らの予想が正しかったと知るのは、この数か月後のことになる。
最終更新:2012年02月21日 23:27