455: 弥次郎 :2022/07/03(日) 11:10:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「フラグメント:ヘクセンズ」4



 1944年9月。その時、控えめに言って、ブリタニアの企業「シルフィー社」は経営の危機にあった。
 経営状態の悪化というよりは、技術的な問題から経営が立ち行かなくなる可能性にぶつかることになった。

 事の発端というのは、言うまでもなくマロニー大将をはじめとしたブリタニア全体がやらかした、史上最悪と言ってよい利敵行為にあった。
大叛逆事件、あるいはインビジブル・リベリオン、静かなる反攻。様々の呼び名のそれは、ブリタニアという国家において致命的な汚点となった。

 だが、それらは必ずしもブリタニア全体の利益のために動き出し、一時的にしろ利益をもたらしたかと言えば、当然そうではない。
 そも、これはブリタニア空軍のマロニー大将らが始めた、ウィッチの代替となる戦力「ウォーロック」の開発と配備という計画の性質によるのだ。
ブリタニアにおいて極秘裏に、他国にさとられることのないままに進められたこの計画は、当然だがブリタニア内部で開発や研究が進んだ。
地球連合や各国から得られた501JFWの運用のための資産・資源・戦力などを横取りし、恣意的に使うことによって形を成していたのだ。
 さりとて、ブリタニアのすべての人々が利益を得られた状態だったかと言えばそうではない。
 ブリタニアという国家が列強であろうと、そのリソースには限界が存在しているのが当然である。
 殊更にウォーロックという兵器を生み出すにあたっては、それだけのリソースを割き、集中的に使う必要に迫られる。
その結果として、どうしてもリソース不足に陥るところがいくつも存在していたのである。

 その一つが、ウィッチの装備や魔導士の装備品の開発を進めていたシルフィー社であった。
 当時シルフィー社からは技術者が引き抜かれ、あるいは軍や政府からの援助が消え、さらには既存兵器の生産ばかりが任されるようになった。
ウォーロックの有用性の証明ができてしまえば、ウィッチだろうと魔導士だろうと不必要になるわけで、リソースを割く価値はないと判断された。
誰が、というわけではない。顔のない誰かがそのように判断し、そのように自然と動いた結果の果てに生じたのだ。
 それが、シルフィー社にはかなりクリティカルなダメージとなった。
 元々、魔導士という新兵科の登場とそれに合わせた装備の開発、MPFという連合製パワードスーツの登場、ウィッチの装備の開発でリソースがばらけていたのだ。
そんなところで軍や政府からの指示があったとはいえ、偏った研究を推し進めたのだから、そのバランスは大いに崩れた。

 結果として言うならば、その理論が提唱されて研究が進んでいたジェットストライカーは愚か、ストライカーユニットの改修や開発はほとんど停滞。
魔導士の装備に至っては少々の改良を加えるだけでも限界となってしまうという有様だったのであった。
しかも、それがオーバーロード作戦においてネウロイの著しい進化の後にやったのだから、これは致命的過ぎた。
 各国企業や組織が着々と開発や研究を進める中において、ブリタニアだけが置いてけぼりを食らう羽目になったのだ。
よって、欧州最後の人類の版図であるブリタニアは、その自前の装備の悉くが旧式の誹りを避けえがたい装備で固められた領域となっていた。

 そして、一連の騒動が終了した時点で自国の貧弱な大祭に今更のように気が付いたブリタニア政府は、各国へと支援を求めた。
当然のことではあるが、それはそれはかなり渋られた。どれくらいかと言えば、それを切り出した軍関係者やメーカー担当者がそれはもうすごい目で見られる程度には。
何しろ国家一丸となって他国や地球連合を欺いていた実績を持つブリタニアなのだ、この時点で技術を供与しようというような奇特な感性を持つ人間はいない。
 ストパン世界から見れば、ブリタニアという国家は信頼も信用もない状況であり、その国の企業も個人もまた然りなのであった。
よしんば何かしら力を貸すとしても、それは各国に逆恨みをしているかもしれないブリタニアのコントロール下ではなく、国際的な制御下にあるべきだった。
遠回しではないい方をすれば、ブリタニアは落ちるところまで落ちろというのが各国の偽らざる本音だった。

457: 弥次郎 :2022/07/03(日) 11:11:04 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 ガリア解放後に501JFWが任務を完了したということで本当に解散してしまったのも大きい。
 主たる任務を完遂し、その任は後続の部隊に引き継がれることになったので、完全に戦力が消えたわけではないが、大幅な戦力ダウンは否めない。
ブリタニア本国ではなく解放されたガリアに主力が動かされたのも、戦術・戦略的なことのほかにも、各国の心情もあってのことと言えるかもしれない。

 しかして、ブリタニアだってそんな状況にいつまでも悲観しているわけにはいかない。
 悲観しようが何しようが、ネウロイが目と鼻の先に存在することは一切変わらない。
 ついでに言えば、国家の経済事情にも大きく絡む軍事産業の会社がここで潰れることは何としてでも避けねばならない。
ここでシルフィー社をはじめとした軍事産業にかかわる企業や業界が傾けば、それはただでさえ凋落しているブリタニアという国家にとどめを刺すことになりかねない。

 というわけで協力してくれる国家を探したのだが、これが難航した。
 まずはストパン世界内部での協力は絶望的なので論外。
 続いてファルマート大陸の勢力や平成世界に助力を仰ごうとしたが、こちらもこちらで自分たちの世界の戦争で大忙し。
尚且つ、通常の軍事ならばともかく、ウィッチや魔導士と言ったネウロイ相手に専門的な装備の開発には全く協力できなかったのだ。
 さらに伝手をたどった先がナイツマ世界であったが、こちらはエーテルの扱いに関する技術での協力はできたが、そこまでであった。
ナイツマ世界とでは仮想敵が違い、それであるがゆえに技術的な発展方向が違いすぎたのである。
技術的な研鑽はできはしても、ネウロイに対する個人装備というニッチな分野において喫緊の課題を解決する材料を提供しえなかったのだ。
 他にも日召日本やその周辺国という選択肢もあったのだが、こちらも平成世界と大差のない対応をされた。
彼らの能力は確かにオーバーロード作戦で発揮されたが、同時に突如の反転攻勢で大打撃を受けたのだ。
他国の支援をする前に自分の軍事や国家の体制の立て直しを優先しなければならず、とてもではないが援助などできる状況になかった。

 そして、こうなった状況において残された選択肢が、地球連合というものであった。
 だが、それは問題がありすぎたのである。
 それは、ブリタニアに対して地球連合という国家群の持つ心証が最悪すぎた。これに尽きる。

 地球連合にはブリタニアに限らずストパン全体が世話を受けている立場だ。
 具体的なところで言えば、国債の買取、物資・資源の格安での提供、軍民問わず技術の供与、大小問わない戦力の提供などだ。
対ネウロイという点においては特に強力な後押しを受けている。技術研究・開発には専門家を派遣。
さらには実働戦力を動かしているのも大きい。オーバーロード作戦への参加や統合戦闘航空団への母艦の提供など、どうあがいても真似できないものがあった。
そしてシルフィー社にかかわりが深いところで言えば、適性があれば誰もがウィッチと同じかそれ以上の戦力となれるMPFの供与があった。

 だが、実際はその支援の手をブリタニアは悪用した。
 提供された物資・資源・資金は恣意的な運用がされた。
 貸与されていた航空空母にはよりにもよってウォーロックが被害を与え、一隻を撃沈してしまった。
同じく貸与されていたMPFに至っては実戦配備されているはずのそれが後方でばらされ、ウォーロックの部品取りに使われ、原型を失う始末。
そんなことをしでかしたのだから、地球連合から派遣されてきて実働面で大きく活躍するリーゼロッテ・ヴェルクマイスター大佐の心証は言うまでもないだろう。
実際、彼女はブリタニアにカチコミ(直球表現)を仕掛け、がさ入れを行い、ブリタニアの犯罪を暴き立てていったのだ。

460: 弥次郎 :2022/07/03(日) 11:13:21 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 連合に支援を求めるということは、必然的に彼女に接触し、支援を勝ち取らねばならない。
 彼女は現状理性的にふるまい、ブリタニアを含む各国のウィッチ・魔導士・ウォーザードの育成を行っている。
並行してMPFやストライカーユニットなどの兵器開発にも大きく関与しており、その技術の恩恵は各国に大きく影響を与えているのだ。
 彼女は今回の件で最もお冠であったが、感情を押し殺して協力をしてくれている。
 その上で、仇敵とさえ言えるブリタニアにこれ以上協力をしてくれと言えるだろうか?
 しかし、ここで引くことはブリタニアの国威・国防、そして何より国民が死ぬのである。
 そんなわけで、ブリタニアは国防関係者とメーカー各社の社長など雁首揃え、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターと対面することになったのである。

「これ以上何を、とおっしゃるかもしれない。
 だが、どうかお願いしたい。無力である我々に、どうか力を貸してもらいたいのです」

 その言葉とともに、全員が頭を下げた。
 何が何でも、この交渉は勝ち取らなければならないものだったのだ。
 およそ対価として支払えるもの---ブリタニアの通貨ではなく物品や金品など---の目録を差し出したうえでの懇願であった。

「……」

 傍から見れば異常な光景であっただろう。
 大勢の人間が、シルフィー社の重役や社長までもが雁首を揃え、自分の子や孫にあたるであろう年齢の少女に頭を下げたのだから。
 だが、彼らからすれば、この程度でブリタニアの将来を、国防や国威といったものを守れるならば安いものだと考えていた。

 対するリーゼロッテは、正直なところ迷いはあった。
 地球連合の戦略という観点から見ればブリタニアが必要以上に没落していくことは望ましくはない。
これまで地球連合が被った害や他国の心情を鑑みれば、そうやすやすと許すことができないのも確かではある。
だからと言って、いつまでもそれを引きずっていては困る、というのも事実であった。

「提案は受け入れましょう。
 ただ、今回だけのみならず、今後も誠意ある態度と行動が前提となることをお忘れなく」

 そうリーゼロッテは切り出した。
 そこからは順調に交渉が進んだ。
 すでに各国では供与されていたストライカーユニット開発の技術の提供や技術者の派遣などが認められた。
その他にも、「ティル・ナ・ノーグ」が拠点を置くエネラン戦略要塞での研究開発も許可されることになった。
項目としてはストライカーユニット、一時はブリタニアから引き揚げられたMPF、そして魔導士装備までも含まれていた。
それ以外の通常兵器に関しては他国との間で独自に交渉を持ち、許可をとったうえで、となったが。

 無論のこと、彼女個人からの嫌味の一つは出たのだが、彼らが覚悟していたほどではなかった。
 これ以上言ったところで時間が巻き戻るわけでもなく、被った害がどうにかなる話でもないからだ。
 さらにマロニー大将のような案件を今後防止するための監査組織の結成やブリタニア国内の動きの透明化を求めることも前提となった。

 斯くして、停滞していたブリタニアという国家は、ゆっくりと動き出すことに成功したのであった。

461: 弥次郎 :2022/07/03(日) 11:14:34 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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最終更新:2023年11月03日 10:51