16: 名無しさん :2022/07/14(木) 23:31:54 HOST:114-134-123-53.odwr.j-cnet.jp
1980年代ゲート イントロダクション

「ソビエトへの、侵攻でありますか」
敬愛する大統領による思ってもみない発言に自分の声が上擦ることを抑えられなかった。
「そうだメリニコフ少佐。君には別の世界とはいえ祖国相手に銃を向ける……祖国に忠実なソビエト連邦軍人にとって心苦しい事を君にはして貰わねばならん」
そう言って大統領が席から立ち上がり、近くにあるキャビネットから政府幹部御用達のラベルが貼ってあるボトルを取り出す。
「водка?」
「ありがたい申し出ですが、結構です、大統領閣下。それに自分は今職務中であります」
そういって断った自分に大統領が顔に笑みを浮かべる。
「カリーニン大佐から聞いた通りの男だ。真面目で実直な男と聞いている」
大統領はそのままボトルを仕舞うと来客用の陶器製カップを取り出し、慣れた手付きでヤポンスキーらしきサモワールから紅茶を注ぐ。備え付けの冷蔵庫から手書きのラベルが貼ってあるジャム瓶を取り出し、小皿に少し多めの小さじを2杯ほど掬う。ラベルに書いてある文字は女性的な筆跡からして夫人の手作りだろうか。大統領から差し出されたカップと小皿を受け取る。思ったよりも緊張しているのか掌を伝う手汗がカップを少し滑らせる。
「あちらの世界の私が暗殺されてからというもの、あちらの祖国の国内の状況は乗算的に悪化している。このままでは我らが祖国の偉大なる同盟国であるイポーニィは体外的な戦争は避けられないと分析している。もちろん我が国も同意見だ」
その言葉に紅茶のカップを顔に近づけ、自宅で見たニュースと軍内部で出回っていた情報分析を思い起こす。残念ながら香りを楽しむ余裕はなかった。

こちらでも1980年代半ばから進められた再革命、ペレストロイカはロシア守旧派と共産党過激派による暴力的な軍事クーデターによって僅か1年で中止に追い込まれた。ペレストロイカを主導していた首脳部は反革命罪で家族諸共処刑。その様子は見せしめのようにテレビでも放映され、その蛮行に反発したソビエト市民はソビエト連邦の各地の都市でデモを行うもソ連軍によって瞬く間に弾圧。戦車砲を直接市民に撃ち込む行為まで行われた。その様子は各国の大使館経由で世界に拡散され、NATOを中心とした西洋諸国に非難されるも当然の如く黙殺されている。グラスノスチも反革命的と判断され、再び鉄のカーテンがソビエト連邦に降ろされている状況であまり情報は入ってこないが、反革命的と判断した市民を「思想矯正施設」に強制収容されていると噂されている。

「実権を握っている彼らには改革を行えない。改革派を処断したのだからな。だが、彼らがいう偉大なるソビエト連邦を維持する為には現実的な問題として金が必要だ。金が欲しいが家には金がない......そんな状況で追い詰められたならず者が何をするのかは言わなくとも解るだろう」
思わずカップを落としそうになる。別の世界とはいえ偉大なる祖国と同名の国がそのような強盗紛いの真似をするとは信じたくなかった。
「あちら側内通者のリークによると既に西側に対する目標の選定に入っているそうだ。そこにはイポーニィの都市も含まれている。アメリカやNATOはどうでも良いが、イポーニィを奪った強盗は当然の如く、扉の先にまでその手を伸ばそうとするだろう。そのような事態を平和を愛する我が国は看過できない」
「その為のソビエト侵攻でありますか」
「そのとおりだ。ならず者が家に入ってくる前に叩く………それに別の世界とはいえ祖国があのような蛮行を重ねているのだ。我らが止めねば誰がやる」
大統領は深い溜息をつく。
「向こうのイポーニィの受け入れ体制の関係上、三ヶ月ほど猶予がある。その間にあちらに派遣する人員の選定に入ってくれ」


私は丁寧にカップを大統領閣下の机に置くと、立ち上がり背筋を伸ばし敬礼する。
「任務了解いたしました、ゴルバチョフ大統領閣下。このスヴャトスラフ・コンスタンティノヴィッチ・メリニコフにお任せください」
「すまない、少佐。難しい任務にだろうが、君ならできると信じている」
そういって差し出された大統領の手を私は強く握り返した。

17: 名無しさん :2022/07/14(木) 23:33:27 HOST:114-134-123-53.odwr.j-cnet.jp
以上、投下終わり。
結構書いたつもりが実際に投下すると1レス・・・嫌になりますねぇ。
もっと内容を書かねば

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最終更新:2022年07月29日 08:18