56: 弥次郎 :2022/07/19(火) 01:02:09 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「フラグメント:ヘクセンズ」6
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年 ブリタニア ロンドン
『ということで、連合としては貴官の試みを支援する手はずが整っている。
おわかりいただけただろうか、スチュワード少佐?』
「にわかには、信じがたい話ではあります」
グレイス・メイトランド・スチュワードリベリオン陸軍少佐は、その返答をするのが精いっぱいだった。
何しろ、あらゆることが想定外。
そも、自分の考えたウィッチによる音楽隊---戦闘ではなく民間人の慰撫や鼓舞、あるいは精神的なケアを目的とした部隊というのは発案されたばかりだ。
少なくとも、自分の中で温めていたことは確かであり、尚且つ、それに向けて動いていたことも確かである。
それがいつの間にやら地球連合に拾われ、支援の手が伸びてきたというのが意外だった。
さらに、それを担当するのが高名どころではないウィッチ「リーゼロッテ・ヴェルクマイスター」だというのも想定外。
彼女がその高い能力を活かし八面六臂の活躍をしている、というのはリベリオンの自分でさえも知っていることだ。
万を超えるウィッチや魔導士、ウォーザード達を育成し、いくつもの発明や技術を生み出す存在。
そんな天上の存在と言える彼女が着目している、というのは驚き以外でも何者でもない。
そして、最も驚くべきは、地球連合が提供を確約した支援がとんでもないものだということだ。
ウィッチたちの基本となるストライカーユニット---しかも、音楽に特化したモノ。
さらにそのウィッチたちの母艦となる航空空母---JFWに供与されるそれに匹敵する母艦とその拠点。
とどめとばかりに、そこを母艦とする航空ステージを兼ねる大型航空機などなど。
その他にも、地上要員の装備、車両、音楽設備など多岐にわたっているのだ。
唯一こちらがやるべきは人員のスカウトであり、あるいは訓練やトレーニングといったもの。
さらに連合はその手の戦地での慰問部隊にかかわる人員---トレーニングやケア、あるいは実際の公演で必要な人員も融通すると宣言していた。
それらを記した目録は想像以上の山となり、スチュワードの執務机の上に積まれている。
部下たちを動員して目を通し、どのようなモノかを現地に派遣されてきた地球連合とティル・ナ・ローグの人員から話を聞くだけでも一苦労だった。
「とはいえ、地球連合が乗り気で支援していただける、というのはありがたい話です」
『当然のこと。敗戦続きで、各国の国民がだいぶピりついているのは事実であるからな』
モニターの向こう、大西洋に浮かぶ拠点にいるリーゼロッテの言葉は事実だった。
オーバーロード作戦前後は戦勝に戦勝が重なり、大いに盛り上がっていたのだった。
ネウロイに支配された欧州とアフリカの奪還。ウィッチだけに依存しない、画期的な軍隊を前面に押し出した攻勢。
さらにはウィッチを置換できる魔導士という新兵科の投入による戦術多様性の獲得など、大いに国威は発揚していた。
『オーバーロード作戦が半ばまで成功しつつあっただけに、そこからの転落は痛かった』
「……ええ」
実際、オーバーロード作戦にリベリオン義勇軍として従軍して戦場を見たスチュワードは肯定せざるを得ない。
あそこには、最初は人類の力の表れがあった。
だが、蓋を開けてみれば、それをはるかに上回り、塗りつぶさんとするネウロイの圧倒的な暴力が存在したのだ。
地獄だ。戦場の戦局が良くないという以上に、敗北に敗北を重ね、士気が下がり、人員が欠落し、人々は楽観から悲観に染め上げられた。
その落差こそが、大きくダメージを与えてしまったのだ。相手が強くなったということもあり、戦場から身を引く決断をした軍人が多くいたほどに。
そして、そのショックを受けたのは、何も現場で戦っていた軍人たちだけではなかった。
軍人たちを送り出した国、政治家、国民。その誰もがさらなる衝撃を受けたのだ。
それは、戦時という体制にあって致命的と言える攻撃であった。心をくじかれてしまったのである。
兵士や兵器が損耗しただけというならばまだマシだっただろう。しかし、心は?世論は?あるいは国家全体の士気は?
それは物理的には存在しない、大衆の心理や感情の集まりとして存在しているのだ。
57: 弥次郎 :2022/07/19(火) 01:02:48 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
それを理解しているからこそ、リーゼロッテは険しい表情をしているのだ。
彼女が進めるウィッチたちの育成は確かに次なる反攻作戦に向けた着実な動きである。
だが、それだけではだめなのだ。もっとわかりやすく、人々の挫けた心を励ます何かが必要となるのである。
それは地球連合が勝ち取って与えるというものではなく、可能ならば
ストライクウィッチーズ世界の人々が自ら得なくてはならないものでもある。
それらは早々にできることではない。軍事的な作戦だけでは、未だに準備が整っているとは言い難い状況であるからだ。
では、どのようにすれば効果を発揮できるであろうか?
『その試みに何か案はないかと聞いた結果が、卿の考案した音楽隊---ルミナスウィッチーズというわけだったのだ』
「鼻で笑われもしたこの案ですけれど」
『いや、そう馬鹿にしたものでもないさ』
自嘲気味なスチュワードに、しかしリーゼロッテは真剣な表情で言う。
『魔術の行使の一環として歌や音楽というのはよくあるものだ。
ウィッチ達でも、訓練を積めば音楽魔法というものを行使できるようになる。魔力が少なくなろうと問題なくな』
「音楽による魔法、ですか」
『こちらでの研究は余り為されていないようであるがな』
それは驚き以外の何物でもなかった。ウィッチの魔力をそのように使うことができるとは。
リーゼロッテは以前より、ウィッチのポテンシャルは人々がこれまで考えていた以上に高いのだ、と述べていたのをスチュワードは聞いている。
だが、よもや、というわけだ。
「予想外ですね……もしかして、この話は?」
『当然、他国にもしてある話だ。時期に注目が集まるだろう』
なにしろ、とリーゼロッテは続ける。
『添付した資料にもあるが、我々は歌の持つ力を科学的にも認めている。
ウィッチだから、魔力があるから、というだけではない。歌にはほかの力ではできないことがある。
そして、それを自ら率先してやろうという卿を支援するというのは、当たり前のことだ』
「歌の持つ、力……」
『国や地方だけではない、惑星も、銀河さえも、歌は救ってしまえる』
それは、事実だった。
融合惑星に融合している世界の一つ---フロンティア船団が経験したことがそれであり、また積み重ねた歴史がそれだった。
歌の力が、銀河の危機を回避する、とてつもない力の原動力となって働いていたのだ。
そしてそれだけではなく、地球連合の自衛においても歌は大きく働いている。
アポカリプスと呼称される戦時であってなお、いや、戦時だからこそなおのこと歌を響かせる連合のアイドル業界がその証拠だ。
「……」
『嚆矢となるのは、スチュワード少佐、卿とその麾下の部隊だ。
信じるところを突き進みたまえ』
その言葉は、魔法のように、あるいは音楽の戦慄のように、スチュワードの心に沁み込む。
それは、魔法だとか、オカルトだとか、あるいは科学だとかそんなややこしいことではない。
『人の力。ネウロイなどに、そう簡単に人は負けないと、そう示せ』
そう、人の力。
苦境に抗い、這いずってでも前に進み、希望を勝ち取ろうとする、人の持っている可能性。
「……はい!」
それを感じ取り、想い、スチュワードは大きくうなずいた。
のちのルミナスウィッチーズの結成の、少しばかり前の話であった。
58: 弥次郎 :2022/07/19(火) 01:03:42 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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最終更新:2023年08月24日 22:46