273: 弥次郎 :2022/07/23(土) 21:44:06 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールート 短編集「Days of Tir na nOg」
Part.1 わからせ/あるいは如何にしてリーゼロッテはおちゃめな悪戯心を満足させたか
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地時間1942年9月中旬 大西洋上 エネラン戦略要塞 演習空域
『ごきげんよう、ウィッチ諸君。こちらヴェルクマイスター大佐』
編隊を組み、飛行する12人のウィッチたちは、突如としてインカムから届く声に目をしばたたかせた。
彼女たちは訓練のカリキュラムの一環として洋上でのネウロイの迎撃訓練を行う手はずとなっていた。
その為に大西洋の上を編隊飛行し、演習海域でネウロイ役を務めるドローンの所へと向かっていたのだった。
『これよりカリキュラムの通り、ネウロイの洋上での迎撃訓練を行う』
「どういうことですか!?」
戸惑いの声をあげるのは、この編隊の隊長を務めるリベリオンのウィッチのモニカ・フィッシャー大尉だ。
『いった通りだ。これはカリキュラムの通りの訓練だ。
訓練前のブリーフィングでも私が参加するというのは明かしてあっただろう?』
「それは、そうですが……ではなぜこの状況で?」
わからんのか、と声だけのリーゼロッテは告げる。
『洋上を飛行して侵攻するネウロイの集団への要撃任務を想定した訓練だ。
普通ならばこのままだろう。しかし、その最中に別の個体と会敵してしまったという状況だ。
レーダーや監視網を潜り抜けた個体と偶然にもぶつかり、尚且つ最初の目的であるネウロイの集団も依然として侵攻中』
つまり、想定外の事態を想定している、ということになる。
『卿らも、だいぶ洋上迎撃の練度も上がってきたのを確認していた。
だが、ルーチンに陥っているのも分析していた』
その事実は、否定しきれない。
元よりウィッチとして訓練を受けてきたのだから、この程度の洋上迎撃などの訓練は行ってきた。
陸軍であるならばともかく、海軍や空軍所属であるならばこの手の迎撃任務というのはやってきたものである。
さらに言えば、オーバーロード作戦を超えた彼女らにとっては、普通ならば大きい訓練でもある程度余裕をもってこなせるレベルのモノだったのだ。
故にこそ、油断や慢心が生まれ、訓練の効果が低くなる。それを防止するためにこそ、こうした奇襲を加えたのだ。
『さあ、残り時間は少ない。
私が仮想敵を担当するネウロイの迎撃と、当初観測されていたネウロイの迎撃、両方を行わねばならんぞ』
「くっ……」
思わず歯噛みをするが、これは訓練だ。
そして、上官として、教官として命じていることならばやらざるを得ない。
『そら、準備を整えないとか大失敗になるぞ。現実ならば沿岸都市が焼き払われる。
ちなみに私はストライカーユニットを装着している。一発でも有効な射撃をあてられたら合格で良いぞ』
「言いましたね…!」
「1対12で吠えるなんて、教官でも許しませんよ」
彼女たちは色めき立つ。
彼女たちは当然リーゼロッテが強いということは理解している。これまで何度も訓練を付けられてきて、理解していることだ。
けれども、ずっと遊ばれて、手も足も出ない状況でいられるほど、彼女らは大人しくはない。
274: 弥次郎 :2022/07/23(土) 21:44:38 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
『では、良しということだな?』
「受けて立ちます!」
他の部隊員も同じ声を次々と上げていく。
その声に、リーゼロッテは深くうなずき、満足げに続けた。
『ただし、私に撃墜されたら、あるいは目標失敗でペナルティだ。
では……』
そして、ふいに音がウィッチたちの耳を打つ。
それはストライカーユニットの駆動音であり、飛行の時に生じる音。
さらには自分たちの後方、低高度の方から大きく増幅された声が飛んできた。
「演習開始だ!」
無線ではなく直接耳に届くその声と同時に、音速の壁を超え、それが飛来した。
白と黒のツートンカラー、そして特徴的なエンブレムを描いた、ストライカーユニットを履いた魔女。
通常ではありえない、背中から何枚もの鳥のような羽が生やし、空を切り裂く姿。
それがリーゼロッテ・ヴェルクマイスターであり、今回の訓練の標的であると理解するのに時間がかかった。
「な、なに!?」
「教官が抜けていったのよ!」
「嘘、ずっとつけていたってこと!?」
事実、その通りだった。
リーゼロッテは彼女らの発進の直後からトレースを続けていた。海面スレスレを飛び、尚且つ光学迷彩で姿を隠していたのだ。
音響欺瞞を行うことも忘れずに、ずっと追いかけ続けていたのだ。ひょっとすれば、魔力に敏感になっていれば気が付けたかもしれない。
とはいえ、そこまでを要求するのは過酷すぎた。リーゼロッテというウィッチは、存在として高みにありすぎるのだから。
だが、同時に追いすがってもらわねばならない。
目標が高ければ高いほど、越えようとする力を発揮するものであるし、発揮してもらわねばならないのだから。
「隊を分けるわよ!足の速い4人はネウロイ追撃、残りは教官を叩きに!」
「了解!」
唱和の声とともに、彼女たちは一斉に動き出した。
なお結果としては---順当にリーゼロッテの勝利に終わった。
しかし、圧倒的な差にひるむことなく戦い、当初の目標であったネウロイドローンの撃墜と、手加減したとはいえリーゼロッテの足止めには成功していた。
なお、それならばと、それ以降の訓練ではよりギアをあげられ、ヒイヒイ言う羽目になったのだがこれは蛇足であろう。
275: 弥次郎 :2022/07/23(土) 21:45:36 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
Part.2 黄昏へ飛ぶ翼
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地時間1942年9月中旬 大西洋上 エネラン戦略要塞
リーゼロッテ直々の訓練で追加課題を受け取った面々は、その内容に目を白黒させた。
罰則でもなく、勉学でもなく、単純な命令だけが記述されていたのであった。
しかもその内容は、夕食の席で一芸を披露せよ、だとか、自らの恥ずかしい失敗談を話せ、といったものであった。
つまるところの、アイスブレイクを目的としたものであったのだ。国家の垣根を超え、敗戦を未だに引きずる彼女らの緊張をほどくための指示だったのだ。
そして、その指示を食らったのは、カールスラント出身のウィッチ二名のエーリカとクラーラの両名も同じであった。
モニカとは別のグループでの演習の際にリーゼロッテとの演習に挑み、ものの見事に撃墜されてしまったのである。
どういった経緯だったかは省略するが、オーバーロード作戦を乗り越えた彼女らさえもいいようにもてあそばれた、とだけ言っておこう。
「しかし、これをまた使うことになるとはね」
想定外だわ、とつぶやくのはエーリカだ。
彼女の手にはバイオリンがあった。戦災から逃れることができた、貴重なカールスラントオリジナルのバイオリン。
時価のことは、考えたくもない。たまたま手元にあったことで戦禍から逃れたそれは、好事家から譲ってほしいと懇願されるものとなった。
(エーリカ視点で)そこまで高級でもない、手を伸ばそうと思えば誰でもできるバイオリンが国宝級になってしまったのだ。
とはいえ、日々のメンテナンスや調整に使う道具や消耗品、果てには交換部品ひとつさえも手に入れることが困難になってしまったものである。
これをリーゼロッテに相談したところ「テセウスの船になったな」と言われ、その言葉の意味を教えられた。
そうだ、このままでは、同じ一貫性を持ったバイオリンでありながら、元の存在としての価値を、失陥したカールスラントの遺産という意味を失う。
閑話休題。
そんなものを彼女が引っ張り出し、ついでに僚機を務めるクラーラともども食堂に向かっているのは理由がある。
前述の通り、彼女に課された「課題」。部隊内、というかティル・ナ・ローグ内でのアイスブレイクのための余興。
彼女が前の所属部隊である「アーベント・フリューゲル」で披露したアレをやることになったのである。
「またあれをやるのぉ……」
「これも円滑な人間関係構築のためよ、クラーラ」
元々は上司であったルドルフ・デッドマンのやらかした、基地でのイベントを実行する羽目になった時にに披露したのが始まりだ。
酒の席での言い争いでその仕事を抱え込むことになった上司は、ウィッチたちに解決を任せることになったのである。
276: 弥次郎 :2022/07/23(土) 21:46:15 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
そして、クラーラとエーリカの二人は余興という最も難易度の高い仕事をこなすことになった。
不可能に思えたそれは、準備期間中にクラーラがバイオリンを演奏していたのをクラーラが目撃し、それを採用することで解決した。
エーリカがバイオリンでオリジナルの曲を弾き、それに合わせ所属部隊をイメージした歌詞をクラーラが歌う、というもの。
吶喊でやり遂げたあれは未だに体に染みついていて、それを再度披露するのは問題はなかった。
「でも、意外だよねぇ。訓練ばっかりになるかと思ったら、こんなことをするなんて」
クラーラとしては意外だったのだ。
戦時であり、優秀な戦力が必要とされる状況であるのだから、少しでも訓練などに時間を割くと思っていた。
実際、そのようにカリキュラムは組まれ、みっちりと訓練や研修を受けていたのであった。
他方で、その合間には息抜きが用意されており、あるいはこういったイベントが企画されていたのであった。
それも、リーゼロッテの命の下、そしてカリキュラムに基づいてであった。
「ええ。無駄なことはしないと思ったら、案外そうでもなかった」
「それが一番、効率的なんだっけ?」
「そうらしいわ。そして、その休養は無駄ではない、と考えているのね」
簡潔に説明されたそれは、連合の教育メソッドであった。
オンとオフの切り替え。端に詰め込むだけでなく、きちんと休みを挟むこと。地球連合では人間を研究し、最も効率的な学習法を導き出していた。
そしてそれは、即戦力を欲している
ストライクウィッチーズ世界各国相手に対しても惜しみなく使われていたのだ。
理由は単にそれだけではない。
集団心理という点において、このティル・ナ・ローグに、エネラン戦略要塞に集まっているストライクウィッチーズ世界の人々は悪い傾向にあった。
以前も述べたが、敗戦というのは痛いダメージだったのだ。加えて、地獄の撤退戦は多かれ少なかれ精神的に影響を与えている。
そういう観点からも、こういった息抜きや訓練の合間の余興というのは、士気や意気を維持するために必要であったのだ。
特に幼年兵となるウィッチなどはPTSDやシェルショック、あるいは少なかれ心的外傷の影響が大きかった。
研修に来たウィッチの中にはその該当者が少なからず含まれており、無言でリーゼロッテの部下たちによって療養コースにダンクされている。
閑話休題。
「うー……やっぱり恥ずかしい……」
「前と同じようにやれば大丈夫よ。久しぶりに合わせても、前と遜色なかったのだし」
「それとこれとは別なの!」
やはり羞恥が勝るクラーラの足は歩みが重い。
エーリカの言う通り、以前と同じようにやれば問題はないのであるが、かといって状況までも同じとは限らない。
今度は仲間内というわけではなく、他国の人間もいる前で、特設ステージの上でやらなくてはならないのだ。
「でも、賽は投げられたのよ。覚悟を決めなさい」
「うぇーん……」
ほら行くわよ、とバディに手を引かれ、クラーラは歩みを進める。
この後、彼女たち二人による「Eisen Flugel」の食堂での発表会は好評のうちに終わった。
しかし、この件はこれだけに止まらなかった。この彼女らの自作の曲が、後々「ルミナスウィッチーズ」にまで採用されたのだ。
後にリーゼロッテが間接的ながらもルミナスウィッチーズに支援を行うこととなり、それが縁となったのである。
これをきっかけに、エーリカとクラーラの二人が勧誘されたり、さらに曲を作ってほしいとオファーされるのも無理からぬ話であった。
277: 弥次郎 :2022/07/23(土) 21:47:26 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
証言録を書いていたら短編集になっていました…
Eisen Flugelは有翼のフロイラインのOP曲であり、ドラマCDの設定ではエーリカとクラーラが作った曲ということになっているイイ曲です。
なお、このドラマCDは限定版に付属しているので気になる人はぜひ購入してプレイしてみてください。
最終更新:2023年08月23日 22:45