860:弥次郎:2022/08/20(土) 23:33:32 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」



  • C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 公安九課 ブリーフィングルーム



 その日、公安九課に属する人員のほぼ全てが招集を受け、ブリーフィングルームに集合していた。
課長である荒巻、実働部隊を率いる草薙素子、バトー、トグサ、イシカワ、ボーマ、パズといった主要メンバー。
更には頭数をある程度補う隊員たちも最優先事項ということで招集され、この場に集まっていた。

「揃ったな、では始める」

 口火を切ったのは荒巻だった。
 普段とは違う、と誰もが感じ取っていた。空気だけではない。
 普段ならば荒巻は出しゃばらず、控えに回る立場とルーチンだ。
その荒巻が自ら口頭で説明を行うというのは常とはまるで状況が違っているのであった。
自らブリーフィングを取り仕切る荒巻にしても、非常に緊張をしているようで、重々しい口調だった。

(……)

 ちらりと、バトーは説明を聞く立場になっている素子の方へと視線を向ける。
 レンジャー時代の名残、眠らない目は眼球の運動を伴わずとも、そちらの様子を見れる。
 彼女は常と変わらぬ表情で、そのどこか遠くを見透かすような目で、荒巻の方を注視している。

「今回、我々に課せられた任務は、来日する要人の警護だ。我々が主体となり実施する」

 要人警護。その言葉に、九課のメンバーの多くが眉をしかめる。
 それは字の如く、国内外問わず要人を護衛し、あらゆる脅威から身辺を守るというのが役割の仕事である。
要人というからには重要な役職についている人間であるのだが、往々にして危害を加えようとしたり、命を狙われるというのがある。
警告としてであったり、本当に命を狙っていたり、あるいはマッチポンプであったりとタイプは様々だが、何らかの害をかけられる可能性はあるということ。
それについてはよくあることなので気にしていることではないのだ。問題なのは、要人警護ということ自体だ。

「要人警護…?」
「ああ。すまんが、質問などは後にしてほしい」

 バトーが思わず漏らした言葉に対し、厳しい表情のままに荒巻は返答を返した。
 しかし、バトーは釈然としないまま口をつぐむ。
 無理もない話ではある。公安九課という組織は、簡単に言えば攻勢の組織。受け身ではなく、積極的に犯罪を探し、摘発するという特性を持つ。
公安九課は一応警察組織ではあるのだが、軍人上がりやスパイ経験者も含んだ、攻撃的な捜査機関である。
 つまるところ、矛だ。テロリストや犯罪者などに対しての攻撃には向いているが、盾となって守るということには向いていない。
時には周辺への被害をある程度無視したうえで目的を---テロリストの捕縛などを行っていた九課を守りに入らせるというのは、正直不適格である。

「来日するのは、この国をはじめとした多くの国々が存在する海上都市群『カナン』が存在するPRTO、その主要国の日本帝国のVIPだ」

 荒巻の操作で、モニターに護衛対象のプロフィールが本人の画像付きで表示される。

「煌武院悠陽。
 役職としては日本帝国斯衛軍特別軍事顧問、さらに日本帝国政府委託外交官、その他十数の役職を兼務する。
 今回は、PRTO領内に外交官として視察に訪れるとのことだ」
「……思った以上に若い」
「いいところのお嬢様って感じだな」
「生身なのにこの外見で年が30間近とか若作りすぎだぜ」

861:弥次郎:2022/08/20(土) 23:34:05 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 口々に言い合う中で、荒巻は言葉をつづけた。

「そして彼女の前職は、日本帝国国務全権代行、あちらの言い方では政威大将軍---有り体て言えば全権委任者だった。
 戦時の特例とはいえ、彼女は一国の政治と軍事の両方で最高権力を握り、大戦の最後の山場を乗り切った女傑だ。
 それ故に彼女は極めて国民から多くの支持を集めており、役職を引いた今でもその影響力は計り知れない」
「平たく言えば独裁者か」
「おい、ダンナ……」

 プロフィールに目を通したバトーの発言に、呆れたようにトグサが口を挟んだ。

「しょうがないと言えばしょうがないだろ、何十年と宇宙人との総力戦をやっていたんだから」
「だが、事実だろう?如何に戦時だったとはいえ、年端もいかない少女が権力握っていたのは」
「それでも勝てた」
「結果じゃ正当化はできねぇさ」
「そこ、静かにせんか」

 言われ、トグサとバトーは口をつぐむ。
 二人はわかってはいるのだ。ようやく高等教育を終えるかどうかという少女が、一国の命運を背負うことになったという事実は変わらないと。

「一概に比較できないな。なにせ、そもそも歴史自体も違う。
 俺たちがたどった歴史と宇宙からの侵略者と戦った歴史なら、どっちがマシかってなるな」

 合わせてサイトーも、この任務を受けるにあたり事前に開示されていたPRTO構成国およびその他の国がどういう歴史をたどったかの資料を基に反論した。
自分達の世界がたどった歴史は酷いものだと思ってはいた。だが、相対的にとはいえ、あちらもあちらで酷いものであったのだ。

「本題に戻る。
 その彼女は現在は重職から離れているとはいえ、影響力は絶大なものだ。地球連合からの信頼も厚い。
 現在我が国の状況は、PRTO、そして地球連合の保護国下にある。故に彼女の身に何かあっては困るということだ」
「狙うには十分すぎる相手だな」
「特に最近は、保護国となっている現状に反発するナショナリズムや復権主義が未だに健在だ。
 他世界からの流入者も合わせ、テロリストや犯罪者は増加傾向にある」
「状況としては、出来上がっているということね」

 これまで沈黙を守っていた素子は、その一言を漏らす。
 そう、元の惑星からのエクソダスを経て、この惑星系の巨大な惑星の一角へと居を移したのがこの国の現状。
 しかし、祖国を、母星を失ったことにより、その発言権などは落ちていることは周知の事実だ。
宇宙怪獣など外敵に対抗するための術を持たず、あるいは勝つことができないために、文字通り保護されるしかないのである。
 それ故に、少なくはない人間が劣等感などに苛まれているというわけである。

「しかし、いわば借家の住人が家主と地主に楯突いてなんになるんだ…」
「そういうものだからよ。主観的には、他者のせいでこれまで通りの生活や利益を失ったのだからね」
「だからって……」

 トグサの指摘は尤もだと思いながらも、素子は断言した。
 彼女の眼は、重要職を務める悠陽の写真へと注がれていた。
 悠陽と、その周囲にいるであろう人間を見通すようにして。

「殊更にそれだけ人気や支持を集めた政治家ってのは、どうやってもやっかみを買うわね。
 政敵からも、味方からも……英雄的な指導者とは、そういうものよ」
「彼女が宇宙怪獣を嗾けたわけでもないのに……」

 やるせない。その思いを、トグサは吐き捨てた。

862:弥次郎:2022/08/20(土) 23:35:34 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

「課長、想定される相手は?」
「先に述べた通り、国内のナショナリストや復権主義者などだ。
 だが、外部からのテロリストの流入も懸念されている」

 そして、と荒巻は一番の懸念事項を述べた。

「一番の問題は、ナショナリストや復権主義者には、単なるテロリストを超える人材が含まれている可能性があることだ」
「……なるほど、国体の変化に伴うドロップアウト」
「俺たちみたいな警察機構からこぼれた人材だな……」

 素子とバトーは口々に言う。
 保護国化されたのはしょうがない動きではあったのだ。このカナンの、割り当てられた領域に合わせ国家というものを変える必要に迫られた。
 しかし、それによってそれまでとは違う動きを強いられたり、あるいは権限などを制限された組織や集団は山ほど存在していた。
その結果、零れ落ちる人や組織がどうしても発生した、ということになる。

「恨みを持つ人間はいくらでもいる。逆恨みや見当違いの思い込みをしている連中も含めれば、相手の規模や質は想定しにくいわね」
「こっちは迂闊に動かず、網を張って待つしかないな」
「だが、それではじり貧だろうぜ。一斉にカチコミをかけられたら、こっちが防ぎきれるとは限らねぇ」
「それでも、やってもらわねば困る」
「まだ新人が多くて質的にも期待はできないわよ、課長?」
「……やむを得んのだ」

 念押ししてくる素子に、しかし荒巻は繰り返した。
 実際、保護国化の後、九課は組織の拡大を図った。警察や自衛軍などから人員をスカウトし、質をある程度妥協し、数を揃えることを優先した。
それはこのカナンという環境だからこそ起こる犯罪の増加に対応するためであり、環境の変化に適応するためだった。
 そして次に手を挙げたのはトグサだった。

「課長、しかしこの案件がよりにもよって九課に持ち込まれたのはなぜです?
 再編成の最中とはいえ、県警や警視庁などの警察組織も人員はいるはずですが」
「……ここだけの話だが、内務省や政府は身内すら疑わざるを得ない状況にある。
 先に述べたように、保護国化という形で制限を受け、それを快く思わない人間には事欠かん。
 それに加え、外交上我が国は弱い立場にある。ここで万が一があれば、それこそ主権さえも危うくなる」
「……そんな、バカな」

 トグサは絶句するが、返答した荒巻は事実を述べていた。
 悲しいことに、それは事実だった。この融合惑星という惑星で、さらにPRTOという国家連合組織の影響下で生きていく以上、避けえないことは多かった。
そうでなければ、身一つで祖国無き民として歴史のはざまに消えて行ってしまったかもしれないのが自分たちなのだ。
そうであるのに、拾い上げてくれた相手を逆恨みするとは。

「ともあれ、我々はこの任務を最優先事項として行う。
 この国の行く末さえも左右することになる、極めて重要な案件だ。繰り返しになるが全員、気を引き締めろ」

 そして、荒巻の主導するブリーフィングが続けられていく。
 その中で、素子はこの先に訪れるであろう嵐の予感を感じ取っていたのだった。

863:弥次郎:2022/08/20(土) 23:36:15 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっと攻殻世界の様子をSSとしたいと思います。
どれくらいの長さになるのかは未定ですねぇ





《簡易人物紹介》


煌武院悠陽
出身:β世界 日本帝国
人種:人間 → 上位者(ブラッドボーン参考)
性別:女性(客観)
年齢:27歳(客観)
役職:政威大将軍 → 斯衛軍特別顧問/日本帝国政府委託外交官 その他要職を兼務

概要:
 β世界 日本帝国の五摂家(粛清後のため事実上三摂家)の一つ煌武院家の当主にして、前代の政威大将軍。
現職としては斯衛軍における軍事関係に関する特別顧問、日本帝国の委託外交官その他役職を兼務している。
今でも親政を望まれているのであるが、本人としては大ナタの振るいすぎを懸念しており、平時における体制に戻すために手を打った。
その後は後進に役職を譲り、無難な地位と役を背負うことで自身の影響力が不必要に残るのを避けている。


869:弥次郎:2022/08/21(日) 00:15:54 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
誤字修正を
861
×
 二人はわかってはいるのだ。ようやく高校を終えるかどうかという少女が、一刻を背負うことになったという事実は変わらないと。


 二人はわかってはいるのだ。ようやく高等教育を終えるかどうかという少女が、一国の命運を背負うことになったという事実は変わらないと。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • 融合惑星
  • 攻殻世界
最終更新:2023年06月01日 22:31