438:陣龍:2022/08/21(日) 20:02:11 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ー-!!扉が開かな゛い゛よぉぉー――!?」
「ゴールドシップさん!?貴女、今度は一体何を仕出かしましたの!?」
「違うって!今回はアタシなんもしてないって!!」
「ゴールドシップ……自白するなら、今の内だぞ」
「アタシじゃねぇって言ってんだろうがブライアン!!大体今日は朝からずっとマックイーンと一緒だったじゃねぇかぁー!?」


 トレセン学園敷地内にある、巨大な体育館の一角に設置された機械群。その前で、
馬耳と尻尾を持つ少女達が大騒ぎしていた。


「……たづな!どうだったか!!」
「……駄目でした。エアシャカールさんや明石さんにもお手伝い頂きましたが、
此方からのアクセスは全て遮断されています」
「理事長さんよ……此奴は明らかに『普通』じゃねぇ。システム最上位からの強制終了命令も全く受け付けていない、
だが使用者の健康維持に関しては一切の問題は無い。唯のバグと片付けるには、どう考えてもロジカルじゃねぇ」
「機械のコード等も見させて頂きましたが、設計図と照らし合わせる限りショートや配線の組み間違い等は有りません。
エアシャカールさんの言う通りに『普通』では無い……それこそ、この機械が何処かに『憑り込まれた』感覚がしています」
「驚愕!!もしや、それは所謂……」
「……今は、まだ何とも」
「様子見するしかねぇなぁ……最悪、電源コードをぶった切って救出と言う手も有るが、こいつらは今のところ【中】で元気にやってる。
見守るしかねぇ」


 世間はお盆の夏休み。そんな日の夕方に、誰も想像だにして居なかった一騒動。


「ツルちゃん……ゴーストちゃん……」
「ネイチャ……大丈夫かなぁ……」
「……例えどれだけ歯がゆくとも、今の私達に出来る事は無いわ。二人共休みなさい」
「そうだねー。それに二人共、昼から何も食べていないよね?食堂に行って食べて来たら?
私とキングで見て置くからさ……全く、コッチの気も知らないでぐっすり寝てて」


「カフェ……速く起きてくれないと、君のコーヒーを私特製のコーヒー味100%紅茶にすり替えてしまうぞ?」
「……タキオン、心配するのならもっとまともな言い様を考えろ。また会長の手を煩わせる積りか?
数日前に二足歩行で増殖する人参を、神崎島から勝手に買った高速修復材を使って作った事を未だ反省して居ない様だな……」
「はっはっはっは……あの実験はもうやらないから勘弁してくれないか」


 ウマ娘世界から持ち込まれていたVRウマレーター。その中には『ゴーストウィニング』『ツルマルツヨシ』『ナイスネイチャ』
『マンハッタンカフェ』の四人が横になり、とある【ゲーム】に参加していた。……誰も入れて等居ない筈の【競馬レースゲーム】に。

439:陣龍:2022/08/21(日) 20:03:48 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


【パラレルクロス 逢魔が時の競争ウマ娘】



――――時は暫し遡る。



「VRウマレーターの……」
「再使用試験、ですか?」
「うむ!以前の使用した時にはゴールドシップによって『少しばかり』壊れてしまったが、
今度は神崎島からの支援も受けて再設計された!」
「事前に艦娘さんや人間による試験は問題ありませんでしたが、念には念を入れよ、と言う訳です」


 理事長室に呼ばれ、その様な依頼を受けたのは四名のウマ娘…『ゴーストウィニング』『ツルマルツヨシ』
『ナイスネイチャ』『マンハッタンカフェ』であった。

「えーっと……やる事自体は吝かじゃ無いですが……この人選の理由は?」
「単刀直入!君達ならば間違い無く!VRウマレーターを壊す事は無いからだ!」
「あっはい」
「……よっぽどトラウマになってる見たいですね、私はその事は人伝えにしか聞いて無いですが」
「吹き飛んだポケットマネー!堪忍してくれないたづなの怒り!踏む二の足も無し!!」
「はぁ……」


 相変わらずの謎の切り替わり機能の有る扇子文字にて『大赤字!』と表してお手上げする理事長に、
それを溜息を吐きながら見遣る秘書のたづな。ウマ娘を愛するが故に私財を遠慮無しに投下しまくる
この見た目が幼き理事長を、諫めたり説教する理事長秘書。何時もの事である。



「……どうします?私は面白そうなんでやりますけど」
「……私も……興味が……有ります。VR世界での……色々なモノに」
「もちろん私も参加します!きっとVR世界ならこの身体の事も、ゴホッゴホッ……」
「おーおー、大丈夫かいな……。まぁ、私も興味が無いって訳でも無いですし、参加させて下さいな」

「感謝!では早速だが、明日の昼に参加を依頼する!!」






「……で、話に聞いていた『剣と魔法と時々機械』の世界は何処ですかいな、と。野原でもヨーロッパ風の建物じゃ無くて、
今いて見えるのは競バ場なんだけど」


 そう一人ごちるのは、モフモフのツインテールが特徴のナイスネイチャ。四人で事前説明を受けた時には
良くあるファンタジー世界に四人一緒に行くと聞いていたのだが、蓋を開けてみれば『ファンタジー』の欠片も無い、
現代的でよく見慣れた競バ場だった。


「と言うか、ゴーストもツルちゃんもカフェさんも居ないし。故障が治ったって、本当は治って無かったのかなぁ」


 そう言いつつ当たりを見回すナイスネイチャ。彼女が居るのは、何時もレース前に出走者が集まるパドックの一角。
係員も観客も誰もいない、静かな場所であった。


「……まさか私だけ、変な所に送られた?いやいや、流石にそんな事は無いよね、多分……」
「あー!居た!こんな所に居たの!?」
「はぇ?!あ、この声……」


 途方に暮れだした瞬間、タイミングが良いのか悪いのか、後ろから声を掛けられるナイスネイチャ。
そしてその声は聞き覚えのある声で有った事から、再開出来た喜びと共に振り返り……



「ツルちゃん!」「アートさん!」


「「……誰!?!?」」

 知っている顔とは少し違う風貌の相手に、双方驚愕するのであった。

440:陣龍:2022/08/21(日) 20:04:53 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……成程……つまり、私は、貴女の知る人としてはマンハッタンカフェさん……に、近いと言うのですね」
「髪色は真逆の漆黒ですけどね、それ以外は本当に瓜二つです」
「……此方としても、髪の色が少し違いますが……『トップランソウル』さんと、とても似ています」
「名前はゴーストウィニングなんですけどね……」


 パドックにてナイスネイチャと『タカハルカケル』が衝撃の初顔合わせをしていた頃。
そのパドックからは視覚になる観客席の一角。此処にはゴーストウィニングと、
自らは『トーキョーティー』と名乗る純白のウマ娘が居た。髪色や服装が白である以外は、
マンハッタンカフェと瓜二つの存在と遭遇しても物怖じしないゴーストウィニングだったが、内心は驚きで一杯である。


「それで……ゴーストウィニングさんは……お仲間に、ナイスネイチャさんと、ツルマルツヨシさん、
そしてその……マンハッタンカフェさんと一緒に、此処に来られた、と」
「はい。本来は四人一緒に居る筈だったんですが……」
「誰もいない……と」
「……はい」


 耳を垂らしてしょんぼりするゴーストウィニング。タイキシャトル程ではないにしろ、競走馬時代から常々騎手や厩務員等に
くっ付きたがる寂しがりな性質は残っている事も有り、孤独に対しては余り強くなかった。


「……大丈夫です」
「あっ……」
「……一緒に、探しましょう。きっと……皆さん、いる筈です」



 ゴーストウィニングの両手を優しく握り、穏やかに諭す『トーキョーティー』。不思議と、その声はマンハッタンカフェと同じで、
ゴーストウィニングの不安な心を和らげていた。

441:陣龍:2022/08/21(日) 20:06:51 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「ツルちゃん!」
「ソウルさん!」
「「二人合わせて!」」
「「天下最強!!」」



「……ツルちゃん。何してるの、一体」
「『ベストアート』…じゃ無くて、ネイチャさんの友人の方はお元気ですねぇー。
『トップランソウル』にノリ合わせるのって結構大変なんですよー」
「ツルちゃん、本当は割と病気がちの身体だからね。此処だとその心配無いから、余計にテンション高ぶってるのかも」
「……大変ですね」


 一方相互の認識誤解を解いたナイスネイチャと『タカハルカケル』。時々ナイスネイチャを自身の知古と言う
『ベストアート』と言い間違えつつも共に友人を探し歩いて居る所、何故か、ツルマルツヨシと『トップランソウル』が
レース場に繋がる通路の中で元気にはしゃいでいるところを発見する。

「ていうか……あの『トップランソウル』って子、一瞬ゴーストに見間違えた位ソックリだ……」
「他人の空似は沢山いると言いますが、それでも偶然にも此処まで集まるのは不思議ですねー」


 二人で組体操でも無いアクロバティックな何かをやっているのを見ながら、そんな言葉を交わす二人。
声をかけるのが憚られたと言うよりは、若干面倒になったと言うのが正しいだろうか。



「……おぉ!タカにベアさん……じゃ、無い?」
「あ!ネイチャさん!それに……えぇ!?私!?」
「……どー説明したもんかなぁ」



「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……ははっ……強いね。マンハッタンカフェさん」
「カフェで……良いです……『ベストアート』さんも……とても速い……」
「……カフェの……そのスタミナも……飛んでも無かったよ」


「……二人で、盛り上がっていますね……あの、黒髪の方が……?」
「はい、マンハッタンカフェです。……ネイチャっぽい、彼女は?」
「『ベストアート』さん……です。あの人も……とても、速いです」



 観客席を一周し、誰も居なかった所でレース場にて走る音が聞こえたゴーストウィニングと『トーキョーティー』は、
観客席の最前列まで向かうと、そこには何故かマンハッタンカフェと、今度はナイスネイチャに似た風貌の『ベストアート』が
レースを終えた所を見つけていた。


「……カフェさんは差しウマ娘ですが、『ベストアート』さんも差し戦法見たいですね?」
「そうですね……私は追い込みですが、彼女のゴール直前の走りは……正直に言って、反則だと思います」
「ゴール板をチラ見しただけでも、その雰囲気は歴然としてましたね……」



 シレっと『トーキョーティー』の戦法を差しでは無く追い込みと聞いてやはりマンハッタンカフェとは別人だと言う事を再認識しつつも、
荒い息を整えている二人を見守るゴーストウィニング。正直似たような容姿で全然違う名前の人間が出て来ている事に整理が必要だった。


「……あっ」
「……向こうは、合流していた見たいですね」
「……そして、此方にも、気付いた様子です」


 通路からレース場に入り、そしてマンハッタンカフェと『ベストアート』に次いで観客席のゴーストウィニングと
『トーキョーティー』を確認した複数のウマ娘達。



「……何か、変にハイテンションな、自分に似てるのが居るんですが」
「……ご愁傷様、です」


 常時暴走特急仕様にしたような、髪色が少し赤みが勝った他はゴーストウィニングにソックリな『トップランソウル』を引き攣った顔で指さすも、
『トーキョーティー』は目を逸らし、一言いうだけであった。

442:陣龍:2022/08/21(日) 20:08:31 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……で、合流した訳ですが。何か情報は有りませんか、『トーキョーティー』さん」
「いえ……ナイスネイチャさん。此方も、特に……」
「うん!実は出口を探してみたりしたが、大分古めかしい南京錠で施錠されていた上に全然壊れなかった!
あれは普通じゃ無いね!!そもそも此処何処なんだろうね!」
「……容姿はそっくりですが、それ以外は結構違いますねー。どう思いますかゴーストウィニングさん?」
「言わないで下さい『ベストアート』さん」


 そんなこんなで観客席側で合流した一同。何故かずっと滅茶苦茶元気でハイテンションに忙しないし
下着が見えそうな程に動き回る『トップランソウル』から何故か死んだ目を逸らすゴーストウィニング。
身嗜みを殆ど顧みず、風呂場からゴールドシップに無言で脱衣所に連行される位には服装に無頓着な
ゴーストウィニングでも、自分と容姿が殆ど同じ者が諸々やっているのを直視するのは難しいようだ。不思議である。



『――――天高く馬肥ゆる日々、皆様如何お過ごしでしょうか』
「うわっ音でっか……」
「電光掲示板……誰、あれ」


 そんな中、前触れも無く競馬場に響き渡る、実況音声。電光掲示板に映されている筈の映像には暗がりで
表情等うかがい知れないアナウンサーと思わしき存在が映されていた。



『――――きっと、誰もが夢を見て、そして叶わないと諦めた、その様な夢が有る筈です。勿論、私にも有ります』
「夢……」


 その言葉を聞いた時には、既にその場にいた全員が聞き入り、映像を見ていた。誰に言われるまでも無く、
聴かなければならないと、そう思っていた。



『――――今日この日、幾多の運命を超え、幾多の勝利を魅せ、幾多の夢を、奇跡を見せた、私達の【夢】が集まっております』
「……!?」
「ちょ、ちょっと……何時の間に、こんなに集まってるの!?」
「服…制服から、勝負服に変わっています」

 その言葉でハタと気付いた彼女達は、何時の間にか周囲に多数のウマ娘が居る事に気付く。多種多彩、
そして誰も【見た事の無い勝負服】を着込んだウマ娘達。制服を着ていた筈のゴーストウィニングと『トップランソウル』達も、
例に漏れずに気付けば勝負服を着込んでいた。


『――――誰もが考える事しか出来なかった、誰もが願う事も出来なかった。あなたの夢、私の夢が、今走りだします』

 この前口上が、突然の状況に驚き戸惑っていた者達を静止させた。この言い分からすれば、この次に言われる言葉は予想出来た。


『――――クロスワールド・レジェンドホースグランプリ。只今を以て、開催致します』



 競走馬の本能は、レースにて勝利する事。訳も分からずに連れて来られたも同然であると言っても、
その【欲望】は未知の競争相手が周囲に居る事で、制御不能の爆発をするのは同義であった。


「……つまりは」
「周囲のウマ娘全員に……」
「レースで勝て……って事かぁ」
「「よっしゃぁあー――!私も勝つぞー-!!」」

「……ツルも『トップランソウル』も、どうしてそこまで波長が有ったのか」



 本来そう言う役回りでも無いが何故か胃痛を感じるようになったゴーストウィニングを他所に、
周囲の熱気は彼女達も呑み込んで行くのであった。無論、考える事を諦めたゴーストウィニング自身も巻き込んで。

443:陣龍:2022/08/21(日) 20:10:06 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『トップランソウル』…生涯戦績、27戦無敗、日米欧合計G1勝利数15勝。異名『神馬(God Horse)』(ゴーストウィニング似)

デビューから全戦で先行に近い逃げ戦術にて勝利し続け、世界各地の権威あるG1をレコード記録ごと荒らしまわった怪物馬。
血統表には『トキノミノル』『ライスシャワー』『サイレンススズカ』が居り、彼らの様な圧倒的能力や勝負根性、加速力にて必勝を続けている。


『タカハルカケル』…生涯戦績、19戦17勝。主な勝ち鞍、クラシック三冠、シニアグランドスラム。異名『ターフの暴君』(ツルマルツヨシ似)

デビューから二戦を体調不良も有り、当時黄金世代と称されていた同期の競走馬に敗退するも、クラシック期になると覚醒し、
その後引退まで勝利し続けて誰にも影すら踏ませなかった強馬。異名はターフ内での出走馬への威圧が恐ろしかったからであるが、
レースの外では普通の人+馬懐っこい馬である。


『ベストアート』…生涯戦績、30戦24勝、主な勝ち鞍、クラシック三冠、天皇賞春秋連覇、ブリーダーズカップ(米G1)、
ドバイシーマクラシック(ドバイG1)。異名『3ハロンの鬼神』(ナイスネイチャ似)

クラシック期に入るまで苦闘が続き、またクラシック三冠も辛勝のハナ差や写真判定の結果であり、先行きが不安視されていたが、
思い切った海外遠征にて日本初のG1を取って来るようになり、自らの実力を証明した。異名の由来はゴール手前3ハロンで
度々猛加速し一瞬で差し切ったレースが後年多かった事から。


『トーキョーティー』…生涯戦績、23戦17勝。主な勝ち鞍、菊花賞、天皇賞春、有馬記念、ゴールドカップ(英G1)、
メルボンカップ(豪G1)。異名『白銀の弾丸(シルバーバレッド)』(マンハッタンカフェ似)

2500mすら短く、3000m級以上になって初めて真価を発揮する異色の長距離特化型競走馬。その為菊花賞に至るまで評価は低かったが、
その菊花賞で他馬を大差で置き去りにした5秒越えのコースレコード更新の衝撃で評価と共に観客を引っ繰り返した。
その後も世界各地の長距離重賞やG1に挑戦し、その全てに勝利した。異名の由来は、その純白の毛並みとレースでは
追い込み戦術で弾丸の如く突っ込んで行く姿から。

444:陣龍:2022/08/21(日) 20:12:49 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) デトックス(多分誤用)完了に御座る、結構スッキリした

|д゚) 本編が何だか激しく大爆発ルート突き進んでいるんでネタか真面目か分からんイベント突っ込んでみようかと言うのと、
    神が降臨している世界だしまぁ異世界連結してもええじゃろと言う無責任なノリ

|д゚) 尚この後の続編は有りませんので皆さん好きなウマ娘やレース展開を考えてお楽しみ下さい、
    史実側の選出基準が謎と言う抗議は受け付けません()

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年09月04日 21:34