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憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」2


  • C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 某ビル


 公安九課が諸処の準備を終え、警護体制を構築してから4日後。
 PRTOを主導する日本帝国からの政府専用機が護衛機と共に到着したのを皮切りに、九課による要人警護は開始された。
 護衛は表に立つ人員と、影から警戒する人員の二つに分かれることとなっていた。
 表に立つ人員は九課の主力はあまり多くはない。
 直接攻撃に対処することも仕事であるが、どちらかといえば護衛が張り付いているのを示すのが仕事だ。
 荒巻もまた、自らの時間の許す限り指揮を執っている。今回の件は多くを差し置いても優先すべき事案であるからだ。

 他方、本命は裏側で行われていた。
 つまり電脳を見張り、あるいは暗殺やテロに適したポイントを順次潰していくという形になっていた。
設計された海上都市群は、地形や建造物の配置などが計算されているために、仕掛けるポイントを非常に読みやすいのだ。
建造しやすいようにある種画一的に、あるいは規格化されて構成されているので、凝った手を使いにくいともいえる。
テロリスト側からは狙いやすいが、それと同じくらい守りやすい。基本受け身になることを考えれば、なんともありがたい限りではある。
 こちらは本部のイシカワからの情報を受け取りながらも、素子、バトー、サイトー、ボーマらが動き回り、あるいは即応できるように備えている形だ。

『こちらサイトー、動きはない。静かなもんだな』
『油断するなよ、サイトー』
『わかっているさ』

 サイトーの現在地は区画ごとに一つは存在している高い電波塔の上だった。
 射線が通りやすく、視界も広い。ちょっと移動するだけで広範囲を射程に収めることが可能な配置。
無論の事目立ちやすく、カウンタースナイプを警戒するスナイパーは真っ先にこの電波塔を意識するだろう。
 だが、逆に言えばいる可能性が高いという事実と、そこからの支配域の広さは強力ということだ。
ここに配置がなされたのも、サイトーの目とスナイプの援護を届かせるため。やはり目視での情報の取得というのは重要だと判断された結果だ。
言うなれば、最小の人員で最大多数のテロリストを警戒するための、パノプティコンと言えるかもしれない。

(とはいえ、想定される相手の候補は多すぎる……)

 「鷹の目」を用いることも想定した衛星の逆探や光学での捜索、光学迷彩も想定した多角的な観測。
サイトーだけでなく、その手の経験者を連れてきてアシストさせていなければ到底無理なものだ。
それに、狙撃に適した場所を探せるとは言っても、相手が敢えてベストポジションをとらなかった場合になると途端に弱くなる。
本来であるならば候補を絞り、その上で数で可能性を虱潰しにするのだが、それは九課にはできないことだ。
そんなことを思っていると、上空から独特のティルトローター機の飛行音が空気を叩いて音を生み出していた。

『サイトー、見えているな』
『ああ、輸送機を確認した。予定より少し早いが、想定内だ』
『各員、気を引き締めろ』

 素子の声が電脳に響き、九課のメンバーが緊張度合いを高める。
 飛んできたのは前述の通りティルトローター機。護衛機として地球連合が運用する3機の飛行型MTが張り付いているのが見える。
ティルトローター機だけはそのままビルの屋上の発着場へと近づき、護衛機は周囲を旋回飛行して警戒していた。

『ティルトローター機が着陸態勢に入る』
『了解。しかし、少佐。あっちの通信をこっちに流してもらえないのか?』
『必要な情報は現場で張り付くトグサや課長から来る。
 あちらに関してもこちらに通信状況まで丸々明かしはしないさ。
 相手がどこに枝を仕込んだかもわからんからな』

 枝。その言葉にバトーの鼻笑いが電脳通信に乗った。

『お前が言うかよそれ。前科何犯だ?』

 刹那、バトーの拳が勝手にバトー自身を殴りつけたが、些細なことだ。

『それに、あちらにおいては我々のような電脳化というのは普及していない。
 おかげで警戒対象が少ないのは救いといったところか』
『直接・間接的に接触する人員に網を張ればいいわけだからな』
『それでも多いのも事実……それだけは覚悟しておけ』
『……くっそ、覚えておけ少佐』

370:弥次郎:2022/08/28(日) 00:18:55 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 起き上がったバトーがつぶやく頃、発着場でも動きがあった。
 着陸したティルトローター機から人が降り立ち始めたのだ。

『こちらサイトー、護衛とVIPを視認した』
『確認した。煌武院悠陽とその護衛だな』
『見てくれは完全にいいところのお嬢様だな……』

 ボーマのこぼした感想は、果たして正しい。
 華美すぎない和装に身を包み、しゃなりしゃなりと歩く姿は美しさだけでなく気品というものにあふれていた。
ただそこにあるだけでも、周囲の緊張感などが中和されているような、そんな気がするのだ。

『あれでもうすぐ30歳か……若作りだな』
『電脳化や義体化じゃないってことは、化粧をしているにしても生身なのかよ?』
『そういうことだな』
『……少佐?』

 バトーは、ふと素子が沈黙を守り続けていることに気が付いた。
 任務に集中しているから、というよりは、それは全く別の理由のように感じた。

『おい、少佐……』
『気が付かないの?』

 素子の声はにわかに緊張を帯びていた。言葉少なに、驚きをあらわにしていた。
 言われて、誰もが気が付いた。護衛対象たる煌武院悠陽の所作などが、常人のそれではないことに。
VIPらしからぬ力量。素子はそれを感じ取ったのだ。リラックスしているようでいて、緊張も保つ。
それは、一定以上のラインを超え、精強どころではない実力者が湛えるモノ。

『足運び、身体の動かし方、そしてこの隙の無さ。さらには隠していることを隠すというとんでもない振る舞い。
 現場のトグサやパズでは気が付けないかもしれないわね』
『おいおい、護衛対象がとてつもなく強いってのはどういうことだよ……』

 バトーは愚痴るが、言わんとすることは理解できてしまう。
 彼もまた、言われてからとはいえ、その異常性を看破できたのだ。
 さも一般人であるかのように振舞って、護衛役や出迎えの役人とにこやかに談笑しているようだが、それは違う。
無害な振りをしておいてその実は恐ろしいものを内側に秘めているのだ。

『……っ!?俺と目が合っただと!』
『どうした、サイトー!』
『スコープ越しに目が合いやがった!しかもあっちはこっちに気が付いている!』
『どういうことだ…!?』

 思わず通信だけでなく声でも叫んだが無理もない。狙撃手たるサイトーからすれば完全な恐怖でしかないからだ。
 彼我の距離は言うまでもなく、こちらが相手を一方的に目視でとらえているに過ぎない状況。
普通ならば相手は銃を向けられ、監視されていることにさえ気が付くことはないだろう。
自分だって、遠方から監視されていると気が付くのは場所と状況次第になる話になってくる。
 例外があるとするならば、自分に向けられている視線に気が付いた、ということだろうか。
 だが、そんなものなどありうるのか?とサイトーは思うしかない。直感や無意識の反応ではないだろうし、偶然でもない。
相手は明らかにこちらに気が付いて視線を向け、その上で微笑んできたのだ。
頭身の毛も太る、とはまさにこのことか。思わずサイトーの背筋に冷たいものが走った。

「この護衛、本当にどうなるんだ?」

 思わず漏らした言葉に、帰ってくる言葉はなかった。
 ただの要人警護で終わることはない。その予感は、九課全員の共通見解となりつつあったのだった。

371:弥次郎:2022/08/28(日) 00:20:24 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

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最終更新:2023年06月01日 22:34