441:弥次郎:2022/09/11(日) 23:26:39 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」5
- C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア
「カナン」の臨時首都東京は、未だに空白のスペースが大きい。
これは、未だにエクソダス完了から時間が経っておらず、攻殻日本政府や民間の都市計画が進んでいないことに由来する。
無論、最低限の建造物やエクソダスの際に建物ごと退避させたものは点在しているのであるが、それでも空白は存在した。
特に郊外ともなれば、なおのこと空白地帯は存在するのだ。本来は街の形成が進められるはずだったが、処々の理由から停滞気味だ。
『望郷派の声の拡大、さらには公共事業の受注をめぐる政府と企業間の癒着が指摘されて政治的に問題が表面化。
これによって、新しいベットタウンになるはずの街は工事が途中で停滞せざるを得ず、まだ完成していない。
そして、その隙間にちょっと後ろめたいところのある連中が集まるようになって、治安が悪化。
場合によっては工事そのものが停滞するなど、お決まりの事実上の乗っ取りが起こったわけだな』
「まだ都市部では人口過密が問題になっているのに、受け入れ先ができていないのか……」
『ああ、ここに居つく努力をするのも、望郷派の過激派から見れば故郷を忘れようとする裏切り行為だからな。
そんな連中が意図的に破落戸を集めて妨害させているって話もある。いずれにせよ、碌な話じゃねぇな』
そんな構築途中である都市の上空を飛行するティルトローター機の中で、公安九課の面々は会話をしていた。
人員輸送のティルトローター機のほか、武装ヘリも同行させる形で、公安九課は九課としては大所帯の殴り込みに来たのだった。
『見ろよ、眼下の道路。荒れ放題だ。
元々は綺麗に整地され、インフラと箱物、そして住宅地を作る土台になるはずだった』
イシカワの言葉に、トグサは眼下の道路をへと視線を送る。
「ブリーフィングで知っていたとはいえ……これはな」
荒れ放題というのはよくわかった。一般的なアスファルトなどで固められていたり、あるいは土や砂で形成されたそれは、劣化している。
劣化しているどころか、意図的に破壊された跡さえも窺えるような、ひどい壊れ方をしていたのだった。
そもそも空という目立つルートを使うことになったのも、道路が碌な状態ではなく、襲撃などのリスクがあるとみなされたためだ。
『地球連合が都市フレームまでは作って、あとは俺たちの国で使えるインフラを作ってくれという話だったんだが、まあ、この有様だ』
「基礎フレームがむき出しになっていないだけましって話だが……」
バトーとイシカワのそんな会話を聞きながらも、トグサは思うのだ。
大地はあり、海もあり、空がある。そんな場所にまた住めるというのは、とてつもない幸運なのだと。
エクソダスにあたって、トグサは宇宙というものを学ぶ機会に恵まれた。
どれだけ宇宙が広く、その実として生命が生きていくには過酷であるかということを。
高々人間という生物を遥かに超えた生物がどれほど宇宙に存在し、生存競争というものが繰り広げられているかを。
それは想像さえも難しいほどに激しく、苛烈で、容赦がなく、スケールが大きなものだった。
442:弥次郎:2022/09/11(日) 23:27:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
(俺たちは、今を生きていられる幸運を知らなさすぎるな……)
それだけのことを知ることができて、今を生きているということを、この惑星に移住してきてから強くトグサは実感していたのだ。
自分の暮らしていた地球があっけなく砕かれて崩壊するのを見たのもある。
それほどまでに、自分たちは儚く、弱く、小さい存在なのだと。
そしてそれは、未だに小さな我を張り続ける人々への、無意識化の苛立ちにもつながっていた。
しかし、思考の海に沈んでいたトグサに気が付いたのは素子だった。
「おい、トグサ。大丈夫か?」
「あ、はい……」
「作戦前だ、ぼさっとするな。
今回は現場に出るんだからな」
そうだ、とトグサはパンパンと顔を叩いて意識を入れ直す。
これまでは要人警護において、要人の傍に控えて警護するという仕事がメインに振られていた。
だが、今回は鉄火場の最前線に躍り込むことになるのだ。義体化率の低いトグサにとっては、状況が違い、尚且つ油断一つが命とりになりかねないモノだ。
「ですね……少佐、精肉屋は現れるでしょうか?」
その問いかけに、素子はしばらく沈黙を作った。
おのれの内側で、答えを組み立てているようであった。
「そうだな……奴が一体どうやって犯罪者やテロリストの情報を得ているかは不明だ。
だが、結果だけを見るならば、可能性は高い。今回も先んじられる可能性がある」
「そうなったら、どうするんです?」
「無論逮捕、と言いたいところだが……相手は正体不明のテロリストだ。
全身義体でも難しい武器を振り回し、おまけに戦闘も行っていることも考えれば、鉢合わせになれば命がけになりかねん」
一応、今回九課では重装備を持ち込んでおり、さらには攻撃ヘリまで用意して支援体制を整えている。
それだけ今回のテロリストが危険度が高いということであり、同時に、鉢合わせするかもしれない
「そんなに……」
「戦闘用に開発された義体であっても、あれほどの馬力や膂力を出せるのはオーバースペックだというのが専門家の見解だ。
正直なところ、テロリストと戦いながら精肉屋と戦うのは勘弁してほしいところだな」
「……」
それはつまり、それ以上の強化がされた義体を使っているか、はたまた光学迷彩による欺瞞かということになる。
いずれにしても、尋常ではない戦闘用義体を用いている可能性はあるのだ。
「だからこそ、今回はトグサ、お前を呼んだ」
「俺を、ですか?」
「ああ。元刑事のお前ならば、現場に残った痕跡から何かを見つけ出せると期待しているのさ」
「期待はありがたいですけど……プロでも苦労するほどめちゃくちゃにされていたんでしょう?
俺なんかで大丈夫ですか?」
「何か断片的なモノでもいい。軍人上がりの私たちや鑑識とは違う視点が欲しい。
まあ、あくまでも奴がいるか、その証拠を発見できればの話だがな」
443:弥次郎:2022/09/11(日) 23:27:41 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
頼んだぞ、と言葉を残した素子の背中を、なんともむず痒い思いを抱えトグサは見るしかなかった。
期待され、信頼されているというのはうれしいところだ。
だが、自分がやるにはちょっと案件として大きくはないか、と思うのも事実だ。
(と、いけない、そろそろか……)
『まもなく到着だ。総員準備を始めてくれ』
イシカワからのアナウンスが入り、ヘリ内は賑やかになり始める。
今回は建造中の建物上空にへりで乗り付け、そこから降下して建物上層から順に制圧を行う計画だ。
地上には控えの人員がタチコマらとともに待ち構えており、逃走してくるテロリストを抑えることになっている。
「……」
「少佐?」
しかし、緩やかな旋回に入ったヘリからロープが垂らされた時、素子は表情を硬くしていた。
「静音ヘリとはいえ、反応が薄い……?」
「え?」
「各員、降下急げ!」
そして、言うや否や、素子はその身をロープ伝いに空中へと躍らせた。
「お、おい!少佐!」
「くそ、急ぐぞ」
先んじた素子に続き、バトーやパズらも続けて降下した。
トグサもロープを手に取ったところで、ようやく気が付いた。
(反応が少なすぎるのか…!)
静音性の高いティルトローター機を用いているとはいえ、人気の少ないところにヘリが数機飛んでくれば当然その存在は派手に誇示される。
そも、建物を拠点としているテロリストや犯罪者が外部への警戒を全くやっていないというのはほとんどありえない話だ。
監視カメラか、あるいは肉眼かで警戒をしているのが普通であろう。
にもかかわらず、上空にへりが差し掛かってもまるで建物から反応がない。無論はずれを引いたという可能性はある。
あるいは、ここに居座るテロリストたちが先に察知して逃げ出した可能性だってありうるのだ。
だからこそ、素子は違和感を感じ、急いで降りて行ったのだ。
「……よし」
対サイボーグを前提とした重装備の重さを感じながらも、トグサは空中へと身を躍らせたのだった。
444:弥次郎:2022/09/11(日) 23:28:30 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
やっとかけた……
返信は明日。おやすみなさいませ。
最終更新:2023年06月03日 09:37