455:奥羽人:2022/09/20(火) 12:16:32 HOST:sp1-79-85-121.msb.spmode.ne.jp
近似世界 2022年 IF
日本による直接的軍事介入 2
アメリカ政府某所 安全保障会議
「日本は、どうやら直接的な軍事介入に踏み切る予定らしい……」
「まさか、そんな……」
その一言で、会議室のテーブルを囲む男達が重苦しい雰囲気に包まれる。
「先日の会議では、日本は明確に直接攻撃を含む介入を行う姿勢を見せていた。このままだと世界大戦に発展するぞ」
“連邦”の侵略からU国を守るための日本の攻撃。
それは、今の国際社会の正義と照らし合わせれば、確かに正しい行いなのかもしれない。
それに、我々も“連邦”の侵略を座視していられる状況ではない以上、日本に賛同して“連邦”への攻撃に参加するのも、また一つの道理なのかもしれない。
しかし、問題は“連邦”が日米に並ぶ核保有国だということである。
もし仮に、日本の攻撃に対して“連邦”が核攻撃で以て応え、それに対して日本が核による報復を始めた場合…………
正真正銘の全面核戦争が始まり、国際社会の崩壊は免れない。
これは、あくまでも最悪のシナリオだが、そうなっても不思議ではないのが現状だ。
とはいえ核戦争を恐れて何もしなければ、我々は彼らの侵略を防げなかったとして、間違いなく国際社会における責任問題へと発展してしまうだろう。
最悪の場合、我々の権威は失墜し、諸外国は我々に見切りをつけて日本陣営にすり寄り、NATO陣営は緩やかに切り崩される。
「どうすればいいんだ……」
絶望的な空気が漂う中、一人の男が頭を抱えながら悲鳴のような声を上げる。
「落ち着け、まだそうなると決まったわけじゃない。今の我々の目的は、あくまでも“連邦”の暴挙を止めることだ。まずはその目的を忘れないようにしよう」
しかし、その後もNATO諸国の足並みは中々揃わず、具体的な対策を打つことが出来ずに時間を浪費することとなる。
*****
開戦から少し経った頃。
快調に進んでいた“連邦”軍の進撃は、U国国土の1/3を呑み込んだ所で侵攻速度が急速に鈍化し、U国首都目前を流れる大河に到達するかしないかの所で停滞することとなっていた。
何故なら、日本海軍による長距離攻撃が開始されたからである。
バルト海と地中海に展開した日本艦隊の艦艇より放たれた巡航ミサイル群は、空域通過の許可が出た国々の領空を経由してU国東部の“連邦”軍支配地域に存在する交通の要衝や物資集積場へと飛来し、炸裂した。
その効果は抜群であり、“連邦”軍の迎撃を易々とすり抜けたミサイルはほぼ百発百中と言うべき精度で目標を破壊した。
それにより、U国に侵入した“連邦”軍は兵站ラインを大きく寸断されることとなり、前進する力を喪っていったのだった。
こうして“連邦”軍が停滞した隙に、U国軍は体勢を建て直し、来るべき反攻作戦に向けて準備を整えていくこととなる。
456:奥羽人:2022/09/20(火) 12:18:15 HOST:sp1-79-85-121.msb.spmode.ne.jp
一方、その頃。
“連邦”軍および政府上層部は、混乱した様子を見せていた。
「一体どうなっている……? 」
「はい……信じ難いことですが事実です。日本軍の長距離ミサイルによる攻撃です。また、U国への長射程武器供与も行われていると思われます」
「馬鹿な。日本人は核戦争を恐れていないのか……?」
大統領府の中。
軍の高官達から挙げられた報告を受けて、今回の侵攻を指示した“連邦”大統領は、その鋭い眼光を更に細めた。
「いえ、恐らくは違うかと。彼らは我々よりも遥かに高度な情報戦能力を有していると推測されます。何故なら、彼らの今回の攻撃では我が軍の戦力を直接打撃しておらず、一方で兵站に関わるインフラや物資などは、秘匿しているものまで徹底的に叩かれました」
「何だと? そんなことができるはずが……」
「はい。普通はできません。しかし、現に我々の兵站は麻痺状態に陥り、前線の部隊も補給路を失っています。これは紛れもない現実です」
軍幹部の言葉を聞きながら、大統領はやや困惑気味に目を伏せた。
確かに彼の言う通り、この現状はとても信じられないような状況である。
普通であれば我が国の核戦力が健在である限り、直接的な攻撃が核戦争に繋がる事を恐れ、西欧諸国のように口だけの非難に終始する筈なのだ。
しかし、日本は違った。
まるで核兵器の存在など無かったかのように、平然と我が軍を攻撃してみせたのだ。
つまり、彼らは核抑止力を意に介していないということになる。
「いいえ、それも違うかと思われます」
「どういうことだね?」
「恐らくは、彼らは慎重に目標を選定して攻撃を行っております。我々の地上軍および航空戦力を無視して、あくまでも補給線への攻撃に留めたのは……おそらく、我が国を過度に刺激せずに行軍を阻止する為の思惑かと考えられます」
「成る程……では、君達はどうするつもりだ?」
大統領の問いに対し、軍幹部は不敵な笑みを浮かべて答える。
そこには、ある種の自信が感じられた。
彼は日本の行動の意図をこう解釈していた。
即ち、日本といえど我々の核兵器を恐れている。
確かに、日本が持っているとされる超高度弾道弾迎撃技術の存在は否定できないが、だからといって無条件に核保有国同士の戦争を決断するほどの優位性は無いのかもしれない。
そう判断して、過度のエスカレーションが起こらないよう、敢えて兵站ラインを限定して封じるような戦術を仕掛けてきたのではないか――と。
その考察を前提に軍幹部は話を続ける。
「そうであるならば……彼らの意図を逆手に取ってやりましょう。彼らも我々が兵站の破綻を恐れて、積極的には行動を起こせないと考えている可能性があります。そこで、あえて我々から彼らに揺さぶりをかけるのです。具体的には……」
軍の幹部から提案された作戦内容は、以下のようなものだった。
- まず、日本の巡航ミサイル攻撃は正確ではあるものの、その性質上、投射弾量という観点から見ればささやかなものと言える。
- よって、日本からの攻撃は短期的なものに留まり、本格的な全面への打撃には至らない。
- そして、U国が準備を整えるのには今しばらく時間が必要である。そのためU国陸軍は、しばらくは積極的な軍事行動を取らないと考えられる。
以上から、現時点ではU国軍は再建中の状態にあり、大規模な戦闘を遂行できる可能性は低い。
逆に言えば、ここでU国の防衛線を突破すれば、陸上において完全に主導権を握れる。
“連邦”軍の方も、満足な補給が受けられていないという問題点はあるものの、前線部隊は未だ多くの兵員と兵器と……それに伴う物資を保持しており、ごく短期間の、正面切っての戦闘であれば十分に勝算があるはずだ。
以上のことを軍の幹部は大統領へと説明した。
それを聞いた大統領はしばし思案した後に、静かに首肯した。
「分かった、その線で進めてくれ。」
457:奥羽人:2022/09/20(火) 12:20:32 HOST:sp1-79-85-121.msb.spmode.ne.jp
国連会議場にて日本と“連邦”が非難の応酬を繰り返す中、河川を挟んだU国の最前線では双方が次なる戦いを見据えた準備を行っていた。
U国軍は、初戦での被害は大きかったものの士気は高く、また諸外国からの援助によって装備も充実し始めているようであった。
これには日本から送られる各種武器兵器が大きく活用されており、急遽集められた数十万の兵達にも十分行き渡るほどの数を用意できているらしい。
更に、いままで半ば様子見に徹していた
アメリカも、いよいよ動かないと不味いとの考えに至り、ようやく支援を開始し始めていた。
とはいえ、完全な“軍”としての再編成が完了するまでは、組織として脆弱であることには変わり無く、反抗作戦の実施までは、まだしばらくは時間を要するとのことだ。
しかし、戦場で敵が此方の都合に合わせてくれる訳も無く……
「前線の複数箇所で連邦軍に攻勢の予兆あり」
「攻勢発起点は割り出せるか?」
日米の双方が、傍受した“連邦”軍の通信や、部隊の移動状況からその結論を導き出していた。
燃料の制限から“連邦”軍は部隊の移動が制限されており、戦力を一点に集中した突破を行うことは難しいと推測される。しかし、U国軍が立ち直っていない現状で、比較的戦力の集結している地点……例えば首都近郊からの攻勢が行われれば、U国にとって困難な状況になることは想像に容易い。
「まさか、補給線をズタズタにされて尚、攻撃に出るとはなぁ」
「状況を考えれば、それなりに妥当な案だとは思いますがね。で、どうします?」
「やむおえんだろう。攻撃目標を拡大するしかないが、どうだ?」
「まぁ、仕方ないですな。意義なしで」
その後、放たれる巡航ミサイルの標的は、“連邦”軍部隊の急所、つまり各部隊の司令部や砲兵、そして空軍の飛行場などまで拡大されていた。
断続的かつ隠密に飛来する巡航ミサイルに対して、“連邦”軍の迎撃戦闘もそれなりに善戦していたものの、やがて対空火器の弾薬が不足しはじめて迎撃が不能となった。
そうなれば、衛星や司令部と高度かつリアルタイムにリンクした巡航ミサイルから逃れる術は無く、野戦司令部や指揮車を吹き飛ばされて行動不能となる“連邦”軍部隊が多発することとなる。
更に、“連邦”が退かないとみた日本は、介入度合をもう一段階引き上げることとした。
空軍部隊のU国派遣である。
限定介入ということで、作戦空域はU国領空内に限られている。
それでも、航空機が現地で行う攻撃は、それまでの巡航ミサイルのみによる攻撃と比べ遥かに高頻度かつ柔軟な打撃を可能とする。
尚且つ、軍事先進国の行う空爆というのは破滅的な威力を持つ。
それは、イラク戦争のアメリカ空軍とイラク地上軍を見れば明らかだろう。
日本空軍がU国へ本格的に展開し始めれば、“連邦”の勝ち目は非常に薄くなる。
故に“連邦”も焦りの色を強めていった。
*****
「それで、“連邦”が核兵器を前線配備した……と」
「はい。推定200~300kt相当の威力を持つ小型戦術核で、目標はU国南部の前線、もしくは都市かと思われます」
最初に異変に気が付いたのは、日本の防衛省情報本部(米NSAもしくはDIA相当の情報組織)である。
今戦争において“連邦”内の各種通信や電子情報を諜報、追跡していた同組織は、“連邦”の核兵器の一つが運び出され、前線に移動させられたという情報を掴んでいた。
航空爆弾か弾道弾かは未だ不明であるものの、U国南方の半島部に運び込まれたという情報から、来るべきU国の反攻作戦……その中でも2014年に“連邦”が併合した半島への攻勢を恐れてのことだろうと思われた。
「それ以外は?」
「ICBMやSSBNの大きな動きは無いことから、戦略核兵器の投入はまだ無いと思われます」
「限定核戦争のつもりか、厄介な事を……」
翌日、日本はアメリカと情報面で連携しながら、“連邦”が核兵器を使用するうもりである、との見解を世界中のマスメディアに発表して極めて強い警告を行った。
“連邦”は、この疑惑に対して明確に否定も肯定もせず、日米のU国への支援を高らかに非難し、一歩も退かない態度を顕にした。
状況は危険な方向へと転がっていく。
458:奥羽人:2022/09/20(火) 12:22:35 HOST:sp1-79-85-121.msb.spmode.ne.jp
以上となります。
破滅的チキンレースです。
最終更新:2023年08月28日 22:41