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558. ひゅうが 2011/11/10(木) 01:56:17
提督たちの憂鬱支援SS――「同期の桜」

――1943年4月  日本  首相「公邸」

「邪魔するぞ。嶋ハン。」

右手に寿司の包みと菓子折などを持って、山本五十六はいささか緊張しながら首相公邸へやってきた。
左手には最近発売された「謙信」という地元長岡(上杉謙信の栃ノ尾城があった縁で名付けられたという)の銘酒の一升ビンを下げている。
寿司は空母「赤城」の艦長時代に嶋田が気に入っていた料理屋のもので、菓子折は嶋田の家族が好みそうな洋菓子(最近出たティラミスなる伊太利菓子とタルトタタンというフランス菓子だった)だ。
つまみになりそうな「五鉄」の卵焼きも用意している。

「おう。よく来たな山本。」

公邸の裏口の警備を経ると、くつろいだ着流し姿の嶋田が迎えてくれた。
少し緊張しているらしい。

そういえばこいつは、何事もさらりとこなしている癖に周囲にはいろいろと気を遣うやつだった。
それが「おめでたい」と言われがちで感情的な反発を受けることもあるが、山本はそういったこの同期の心遣いを素直に感謝できる年になっていた。

「ああ、これ、土産だ。家族にでも。」

山本はちょっとすまなさそうな表情で言った。

「子供が好きそうな唐揚げは売り切れていてな・・・菓子が多めになってしまったが。」

「いやなに。唐揚げは、ひょっとして『五鉄』か?」

「そうだ。なに。妻があそこの卵焼きが好きなんでな。暇になった頃からよく並ばされる。」

「家族は大切にしろよ?」

「ははは。手厳しいな。」

山本は笑った。
中央の忙しい中ではどうしても家とは疎遠になり、逆にお偉方との付き合いで花柳界やら吉原との付き合いが増えてしまう。
そんな中で、この嶋田は愛妻家として知られていた。浮いた話は聞いたことがなく、また米内光政と並んでもてる山本に苦言を呈することもしばしばだった。

そして、閑職に回されてからは山本は心境の変化もあって苦労をかけた妻を大事にするように心がけている。これも嶋田の影響だったのだろう。

「さて。今夜は何を話す?」

「そうだな。将来の海軍の軍備についてかな?画期的な新兵器が次々に出ているし、帝国の立ち位置も大いに変化した。まぁ気楽に、テレビジョン放送でも見ながら話そう。昔のようにな。」

「そりゃいい。そっちも大変だろうがこっちはもっと仕事が多くてなぁ。特に辻との折衝とかやたら仕事を回してくる宮様とか・・・ああ、今は近衛公が映画を撮りたがってごねてるんだ。」

はは。そりゃ大変な面子だ。と山本も笑う。

あの夜の会見以来、山本はときどき休日の夜にこうして二人で飲む機会を設けていた。
しばらく中央を離れていたために変わったことを確認する意味もあったし、この重責を担う同期を少しでも労いたいと思っていたからだった。

ついでに、彼が所属する夢幻会という秘密結社の情報収集も兼ねている。


「さて。そろそろ『桃太郎海の勇士たち』がはじまる。一緒に見よう。」

「お前・・・アニメ好きだったか?」

「いや。妻が好きなんだ・・・」


アニメ好きがばれたいい年した大人の定型句を聞いて嶋田は思った。これは『桃太郎空の勇士たち』と今作に続く『桃太郎陸の勇士たち』も制作にゴーサインが出るな、と。
こんな感じで、かつては敵対していたといわれる同期の桜は、今もそろって咲いている。
559. ひゅうが 2011/11/10(木) 02:00:47
【あとがき】――たまにはこんな二人でも。山本さんも仲直りがちょっと嬉しかったのでしょうw
作中の「桃太郎空の勇士たち」は、史実のアニメ映画「桃太郎空の神兵」をテレビシリーズにしたものです。
史実では空襲の中セル塗りをやっていたという根性の作品ですが、憂鬱世界だとカラー化されているかもしれませんねw

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最終更新:2011年12月30日 22:45