366 :ルルブ:2012/02/19(日) 22:41:03
難産でしたが、三度ルルブの妄想、
ヤン・ウェンリー回想録です。
末期戦に追い込まれた帝国軍の双璧がどんなやり取りをしたか考えてみました。
ヤン・ウェンリー回想録
~ローエングラム王朝の末期。ロイエンタール元帥の証言~
これは私が担当したイゼルローン方面軍の投降部隊の尋問の記録である。
その中で最高クラスの将官、オスカー・フォン・ロイエンタールは何故投降したのか、その一部始終を語りたい。
これから先はロイエンタール元帥と私の対談形式で筆を進めよう。
何故投降したのか?
『可笑しなことを聞く。俺の投降理由など知ってどうする?』
兵士たちの為か?
『・・・・・・・・』
貴官の盟友、ミッターマイヤー元帥はフェザーン回廊攻防戦で戦死している。
こう言っては貴方の矜持を傷つけるかもしれない。
しかし、貴方ほどの名将が全てを捨てて、泥を被って命惜しさに投降するとは思えない。
その理由をお聞かせ願いたい。
『貴公ならどうする? ゼークト艦隊を打ち破った時、貴公は激昂したと聞く。
ならば分かるだろう。故に敢えて語るまい。』
『・・・・・・コルネリアス・ルッツ、ウォルフガング・ミッターマイヤー。二人の死だ。
特にミッターマイヤーは殺された。カイザーに、な』
というと?
『あの日。あの弁舌だけが得意な男や連合内部の女どもの宣言があったあの日、俺たちは今後の事を話し合った』
新帝国暦4年(宇宙暦802年)11月 ロイエンタール艦隊旗艦・トリスタン
カイザーラインハルトは戦力再編の為に先にオーディンまで後退した。
救援に駆け付けたルッツ艦隊、ロイエンタール艦隊の内、前者はカイザーの護衛として、後者は残存戦力の掌握とフェザーン方面まで進出してきている連合軍第2任務部隊への対応の為残る事となる。
その一室で。
「負けた、な」
ロイエンタールは至極冷静に言葉を発した。
それは高級士官専用サロンに冷たく響き渡る。
「・・・・・まだ、まだ負けてはいない」
ビッテンフェルトの擦れた声が妙に五月蝿かった。
「負けたとも。カイザーはヤン・ウェンリーに負けた。オザワという男にも負けた。
連合を僭称する輩の、名もない凡人に負けた。それが事実だ」
ロイエンタールの言葉に反論しようとして、そのまま座りなおす。
「そうは言うが、これからどうする?
ロイエンタールが言う様に負けた。完膚なきまでに俺たちは敗北した。
そしてどうするのだ。どうカイザーをお守りするのだ?」
ミッターマイヤーの声に何人かが答えた。
「ミッターマイヤー元帥の言う通りだ。
今は、どう連合軍の反撃を封じ込めるかを話すべきだ」
「そうだな。幸い帝国にはケスラー艦隊とロイエンタール元帥の艦隊とルッツ艦隊が残っている。
それに同盟領から撤退した艦隊も合計すれば20000隻にはなる」
「残存艦隊を合わせればもう一度機会がある」
「そうだ、まだだ。まだ勝負はついてはいない」
大将以下の者達の威勢の良い声が妙に癪に障った。
俺は退室した。
(あの方も落ちたものだ。
勝てない戦いに出かけて大敗して、部下を見捨てて一人姉君の待つオーディンに逃げ帰る。
存外、俺にも見る目は無かったと言う事か。仮の話だが、あの方を説得して全戦力をオーディン近郊に集めて決戦を挑めば・・・・・詮無きことだ)
368 :ルルブ:2012/02/19(日) 22:42:56
そう思っていると司令官室のドアが開いた。
ミッターマイヤーが入ってくる。
俺は無言でグラスを2つだし、旧帝国暦410年モノのワインを注いだ。
おもむろにミッターマイヤーが切り出す。
「ロイエンタール」
「何だ?」
「先ほど勅命が来た」
「そうか・・・・・それで?」
「・・・・・驚かないのか?」
「バーラトの和約を放棄して以来、驚くことには慣れたさ。
あの常識を覆してくる連合の物量のお蔭で、な。
それでミッターマイヤー、卿と俺の中だ。隠し事を無しにしよう。
何と言ってきた?」
「カイザーは俺にフェザーン方面を、卿にイゼルローン方面を任せると」
「・・・・・・」
「連合の狙いがどちらか分からない以上、どんな事態にでも対応できるよう艦隊は二分、いや、三分する。
オーディン方面のファーレンハイト艦隊、メックリンガー艦隊、ケスラー艦隊。それにカイザー直卒の艦隊。
卿にルッツ艦隊を、俺にはビッテンフェルト艦隊、ワーレン艦隊だ」
「待てミッターマイヤー。
それはいつ頃の話だ?
1年後か? 2年後か? それとも今年の事か?
俺たちにはもう後がない。連合やその後押しを受けて無尽蔵に戦力を補充できる同盟軍とは違う。
艦隊の再編と口でも書類上でも簡単に済ませられるが、実際に戦力を再編するのは不可能だぞ」
「分かっている、分かってはいる。だが・・・・・カイザーがそれを望まれたのだ
だから俺は最期まで戦う。
あのヤン・ウェンリーが来なくとも。兵力差が5倍であろうとも、10倍であろうとも」
「・・・・・愚かな」
「! ロイエンタール、今なんて言った!?」
「愚か、そう言ったのだ。
ミッターマイヤー、お前は無駄死にするつもりなのか?
カイザーは最早常勝の英雄では無い。将兵が抱いていたカイザーに対する憧憬、いや、偏見はもうない。
わかるだろ、ミッターマイヤー。
カイザーは自らの矜持の為だけに、自分が望む決戦場を作る時間を稼ぐ為だけに俺たちを切り捨てる気でいる。
「ロイエンタール!!」
「いいから、落ち着けミッターマイヤー。
カイザーを裏切れとは言わん。だが、少しは奥方の事を考えろ。
お前が望むなら俺はカイザーに叛逆しても良い。
連合とやらに売国奴扱いされようとも、卿の為に主君を売っても良い」
「ロイエンタール?」
「正直に言おう。
俺には矜持があった。
いや、矜持しかなかった。だが、それもガンダルヴァでペテン師に敗れるまでだ。
俺はヤン・ウェンリーと3度戦い、3度ともに敗れた。そして悟った。
俺はここまでの器だと。所詮は軍の将帥で終わる器だと。
だからイゼルローン方面の負け戦で死んでも良い。
が、ミッターマイヤー、卿は別だ。卿には家族がいる。残される家族の事を考えろ。
無駄死にはするな」
ガン!
「俺は・・・・・・ロイエンタール、お前の様に割り切れない」
「・・・・・考え直せないのか?」
「ああ・・・・・・それが俺だ。
卿とは違う。
そして卿も俺とは違う。
連合に負けて、負けだして、どうしようも無くなって・・・・・今初めて分かった。
俺は・・・・・・・ロイエンタール、卿の様には生きられない。
誰かが居なければ、何かが無ければ才能を発揮できない・・・・・そんな人間・・・・・・だった」
「待て! ミッターマイヤー!!」
「俺は1時間後のシャトルで旗艦に戻る。
カイザーの恩為にも戦う。戦って、戦って、戦い抜いていく。
例えそれが愚かであろうとも、それが百万の将兵を犠牲にすると分かっていても」
「・・・・・・・・・さらばだ、ロイエンタール」
369 :ルルブ:2012/02/19(日) 22:44:38
「こうして俺はミッターマイヤーと別れた。
そのまま損害の少ない俺の艦隊はイゼルローン方面に回された。
後は知ってのとおり。
卿らと戦い、その最中でルッツが戦死する時、ルッツは俺に言った。
『カイザーへの義理は果たした』、とな。
そして悟ったのだ。
これ以上殺し合っても何にもならん。
ついでにミッターマイヤーを殺したカイザーを守る気も無くしてな。
そう思って投降した。
これが第三次アムリッツァ会戦で俺が卿の最良の部下であるアッテンボロー大将閣下に投降した理由だ。
それで良いか?」
こうして私とロイエンタール元帥との面談は終わった。
末期戦を戦い抜いた人間とはこういう事なのかもしれない。
それを思い知らされた面談であった。
宇宙暦812年2月19日 ヤン・ウェンリー回想録閲覧
ダスティ・アッテンボロー大将より
最終更新:2012年02月24日 23:31