663:陣龍:2022/11/04(金) 19:05:56 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
【ターフの亡霊、『あの日』へのリスタート】
「にゃはは……凄い人出。この前ニュースになったトリプルターボやカナリハヤイネン、
それにキタサンブラックの時のレースと同じかそれ以上は、観客詰めかけてるんじゃない?
盛り上がりはキタサンの某演歌歌手の時より大人しいけど」
「あはは……」
「ひ……人が多過ぎて酔いそうだべ~……」
「スぺさん、大丈夫ですか?」
6月某日。サラブレッド並びにウマ娘による東京優駿(日本ダービー)の興奮冷めやらぬこの頃、
此処東京レース場では先日のダービーと同じか、或いはそれ以上の観客が押し寄せていた。
当日は前日から早々に警備に入っていた警官隊が各所で交通整理や混乱の抑制、
そして人混みに便乗した窃盗犯等を取っ捕まえている事も有り、一定の秩序が保たれていた。
DJポリスも動員され、その光景が物珍しいのかティ連の人々が撮影していたりもする。
「でもセイちゃん……私達が、此処に来ても良かったの?」
「ゴーストとそのトレーナーさんが直々に手配してくれた席だし、遠慮なく使うのが良いとセイちゃんは思うのだ」
「でも……友人枠として、私達が来ても良かったんでしょうか……」
「都合が付かなかったからしょうがないよ、キタちゃん」
そんな喧騒と小さい混乱を、コレからデビュー戦を走るゴーストウィニングに招待された来賓用特別室
『ダービールーム』から眼下で見下ろすはトレセン学園のウマ娘達。一人は、『令和の伝説』に最初で最後の敗北を叩き付けた、
皐月と菊花の冠を持つ逃げウマ娘のセイウンスカイ。そして彼女と共に居るは『日本総大将』スペシャルウィークに、
最近スペシャルウィークが所属するスピカに入ったキタサンブラックとサトノダイヤモンドであった。
尚他のチームスピカメンバーはそれぞれ他のレース出走であったり補講であったり地方での講演であったり
太平洋でカジキマグロとの三本勝負をしている。最後の何時もの『アイツ』は本当、一体何処に向かっているのだろうか。
本来、この『ダービールーム』は招待状が無ければ入れない、ネクタイとジャケット必須であったりと、
一般客が入れるような領域では無いのだが、一体如何なる手腕と伝手を用いたのか、明くる日にトレセン学園にて、
昼食時のカフェテリアや昼休みの休憩時間で何でも無いようにゴーストウィニングが各々に招待状を
『今度デビュー戦だから、暇だったら見に来てよ』と軽い調子で手渡して来た事で、
本当はそう言う場所であると言う事を知らずに訪れてから事実を知って驚愕の声が巻き起こったりしたが、
それはさておき。
664:陣龍:2022/11/04(金) 19:07:05 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「お、出て来た出て来た……ん-、大体察して居たけど、ゴースト以外のウマ娘の敵愾心が丸分かりだねー」
「睨み付けている様なウマ娘も多いですね……」
「ふぁにゅふぉんおにゅはおひゅー」
「スぺさん……食べてから喋りましょう?」
実はドリンク無料の飲み放題、昼食がバイキング方式で後にケーキも出ると言う特別室の料理を
リスの如く頬張る【日本総大将】の先輩に苦笑いするしかないサトノダイヤモンド。何を言ってるかの解読は、
多分グラスワンダー位しか出来なさそうだ。そもそもつい先程は人酔いしていたと言っていたのに
思いっ切り食べて大丈夫なのだろうか。
「ゲートに収まって……」
「出走……って、ええぇ!?ゴーストさんだけが先頭になってます!?」
「他のウマ娘が全員出遅れた……?」
「ゴックン……多分、全員『差し』と『追い込み』の作戦で行ってるだけだと思うよ」
「おっ、スぺちゃんもそう思う?セイちゃんもそう思った所なんだよねー」
偉大な先輩二人が事も無げに言った発言に疑問符を浮かべる後輩ウマ娘二名。事はそう難しい話でなく、
コレまでに散々『逃げが居ないレースでは異様に脆くなる』と言う姿をトレセン学園内で見せていた
ゴーストウィニングが対策の為に、まるで示し合わせたかの如く他のウマ娘が『逃げ』や『先行』を取らなかった、と言うだけの話である。
「そんな事って良いんですか!?」
「ウマ娘がどんな戦法で走ろうとも、他人がグチグチ言える話じゃないからね」
「直接体当たりとか、狙って叩いたり蹴り付けたりとか、強引な割り込みとか、そんな明らかな妨害でも無い限り、
ウマ娘の走り方は戦術の範囲内……だよねセイちゃん!」
「スぺちゃん……そこは断言しようよ……」
途中まで良かったのに、最後の最後で先輩の威厳の無い降りをして来たスペシャルウィークに若干呆れつつも、
セイウンスカイは内心ゴーストウィニングと走るデビュー戦のウマ娘に少しばかりの同情と感心を抱いた。
レース後に外野から何と言われようと、貪欲に勝ちの目を狙って賭けに出るのは、相当な胆力と覚悟が無ければ出来やしないのだ。
「でも、まぁ……その情報は、ちょっと古くなってるけどねぇ」
665:陣龍:2022/11/04(金) 19:09:38 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「ねぇねぇネイチャ!ゴーストが全然行き足衰えていないよ!」
「たぁー……やっぱりあの時の練習で、完全に覚醒しちゃってたかぁー……」
「……あー、ネイチャさん?悪ぃんやけど、どう言う事か説明してくれんか?」
「前情報や評判と全然違うね……」
セイウンスカイ達とは少し離れた観覧席。そこには同じくゴーストウィニングに招待された
ナイスネイチャとそのカノープスメンバーの内、ツインターボにトリプルターボ、
そしてカナリハヤイネンが居た。その他のメンバーは出張であったりマックイーンとの先約であったり
鼻血を出して寮で静養して居たりとで、不在である。彼女達もこの『ダービールーム』の詳しい事を
ゴーストウィニングから特に説明されずに東京レース場に来て茫然としたり単純に喜んだ口である。
そんな彼女達の目には、『何時ものゴーストウィニング』であれば自身を『引っ張る』先行ウマ娘が居なくて
無駄に神経と体力を使い、速度が乱高下している筈が、全く速度を衰えも急加速もさせずに
安定したまま先頭をひた走っている『亡霊』の姿が有った。想定と違った動きのゴーストウィニングに、
同デビュー戦のウマ娘が動揺している様な動きが垣間見えてすら居る。
「私やスカイとの練習でずっと『先行馬不在時のレース運び』問題が最初から分かってたんだけど、
ついこの間解消したみたい」
「どんな手品使ったのネイチャ!?」
「ターボ、近い近い……。私らは特に並走相手以外の事はしていないよ。多分、ゴーストのトレーナーさんから
アドバイス貰ったんじゃ無いかな?」
「アドバイス一つで……あんなに変わるもんなんか?」
「でも……現実に変わってるよ、ゴーストウィニングは」
『最終コーナーをただ一人!ただ一人、唯一人で駆け抜けたのはゴースト!ゴーストウィニング唯一人!
他のウマ娘は遥か後方第三コーナーァ!!最終直線ゴーストウィニングの一人旅!!』
666:陣龍:2022/11/04(金) 19:11:48 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
とある驀進王に準えられる名物実況者の絶叫が、このデビュー戦の異様さを各地に伝えている時、
当のゴーストウィニングは、この東京レース場に居る全員とは全く違う視点であった。
―――全然足りない……『あの日』の速さには、全く届いていない―――
今レースに置いて、ゴーストウィニングは心底申し訳なく思っていたが、ハッキリ言って今現在後方に
置き去りにしているデビュー戦を走る他ウマ娘の事は、全く眼中に無かった。
―――『頭』では分かっていても、やっぱり『心』の方が全く納得出来ない……!!―――
今現在、ゴーストの目前に有るのは『あの日』の記憶……即ち、『エクリプスの再来』そして『欧州最強の重戦車』と疾走した
『英国王室の栄冠』と『華咲き吹雪く凱旋の門』の景色。そして資料映像を数多く見て作り上げた
『UMA界の怪物二大巨塔』である『三段式超音速ターボ』と『老兵豪脚無双』。
自らが『最高の騎手』と明言して憚らない竹内鞍上が自らの背に居ない事、そもそも『ウマ娘』の身体を完全に制御しても
成長させ切ってもいない事を考慮すれば当たり前だが、それでも『あの日』から、そして仮想敵でもあった『UMAの怪物』達に
完全に置き去りにされて行く事は、『ゴーストウィニングの精神』が全く我慢ならなかった。
目の前にウマ娘が居らずとも、それでも敢えて『仮想の競争馬(Shadow・Horse)』を置く事で、
以前の無様な走りが完全に消えると言うその竹内騎手兼トレーナーのアドバイスのお陰で、
デビュー戦そしてその前に行った最後のセイウンスカイとナイスネイチャとの模擬レースで
圧倒的優位を作れたのは朗報にて好材料では有るが、それはそれとして業腹には違いなかった。
―――『今』は未だ未熟でも……『ゴーストウィニング』と言う大輪を、竹内【トレーナー】と共に、今再び世界に……!―――
『これは完全に決まったセーフティリードだ!ゴーストウィニング、他のウマ娘を全く寄せ付けずに大差圧勝ゴールイン!!
そしてコースレコードも五秒も更新、はい五秒更新!!更新です!!』
「あぁ……うん……これは酷い虐めだね……」
「一方的過ぎて……何だか、笑えて来ちゃいますね……」
「ちょっと……これは……凄すぎて引くべ……」
「……これが、私が戦うウマ娘……」
「ゴースト速い!ゴースト速い速い本当に速ーい!!」
「いやぁー……まさか此処まで圧倒的大差とは」
「なんやねん……ウチらの世代は、トリー見たいな化け物しか居らんのか……」
「多分、カナも化け物の範疇に入れられてると思うよ……」
ある意味想定され、ある意味想定外であったゴーストウィニングの完全勝利。公開処刑染みた一方的過ぎる勝利に
観客の方がゴーストウィニングの蹂躙劇より、恥も外聞も捨ててがむしゃらに賭けて尚手も足も出ず完全に完敗して
茫然自失となった敗者のウマ娘への同情心の方が湧いていた。判官贔屓以前に、流石に居たたまれなくなった人達が多く、
その後の敗北者となったウマ娘達のファンやフォロワー、応援隊が俄かに増えたと言う。
667:陣龍:2022/11/04(金) 19:13:20 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
「……ねぇねぇねぇ!ゴーストが何かしてるよ!!アレって一着になった事の報告かな!?」
そしてそんな事になってる一般観客席を他所に、何時も通りの調子なツインターボが目敏く、
ゴーストウィニングの恰好に目を付けた。
そのゴーストウィニングは、【『ダービールーム』に向けて【右手人差し指】を見せ付けていた】。
丁度、スペシャルウィークの勝利ポーズの如く。
「……言ってくれるじゃ無いの、ゴースト。じゃあ……もう一度『私の背』を見せてあげるよ」
「……こんな堂々と『宣戦布告』されちゃ、私もウジウジしてらんないっての」
「うぇぇ!?」
「せ、セセセセイちゃん!?ネイチャさん!?」
その姿を見るなり、表情と雰囲気が突如変貌したセイウンスカイとナイスネイチャ。
俗に言う『シングレ顔』で不敵な笑みを浮かべたり髪をかき上げたりする二人の姿に、
色々置いてけぼりな師匠と日本総大将は、訳も分からずオロオロするしか無かった。
漸く立った同じ『戦場』での、鮮やか極まりない【疾走劇】。過去に宣言した通りの、
『次の一着は譲らない』と言う【勝利宣言】。全てを置き去りにして尚全く満足していない事が
見て取れる『ターフの亡霊』の、真っ向から突き付けて来た【挑戦状】。
獰猛な獅子の如き覇気に触発されるのは、『帝王』やら『怪物二世』『日本総大将』らに
挑み続けた【挑戦者】達であったナイスネイチャ、セイウンスカイには、至極当然の事であった。
「……なんや……仲良うしていこうな。キタサン」
「……そうですね……カナさん」
「……これから苦労しそうだね、ダイヤちゃん」
「あはは……そうかも、ですね。トリーさん」
これから色々な意味で苦労する未来が見えた外野四人衆は、何か良く分かんない事に
なっているセイウンスカイとナイスネイチャの周りでオロオロしているターボ師匠とスペシャルウィークを他所に、
それぞれ握手を交わすのだった。
668:陣龍:2022/11/04(金) 19:19:23 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
以上で御座る
鞍上|・ω・`)「因みに何か行き成り出てきた感のあるUMAとガチ勝負してた可能性は実際競争馬時代有ったりします」
ゴースト|д゚)「勝利確率は多分一般UMA相手なら47%は有ったと思う。トリプルターボやカナリハヤイネン級だと良くて13%位だけど」
最終更新:2022年11月14日 23:18