726:弥次郎:2022/10/21(金) 23:40:12 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「スカイズ・センチネル」
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 大西洋上 エネラン戦略要塞 執務室
ネウロイの襲撃を潜り抜け、這う這うの体でたどり着いたのは扶桑皇国海軍空母瑞鶴を旗艦とする欧州派遣艦隊。
瑞鶴を筆頭に護衛の駆逐艦および巡洋艦で構成されたそれらは、しかし、ボロボロに近い状態であった。
無理もない話である。ネウロイの群れに立て続けに襲撃を受け、艦載機部隊はもちろんのこと護衛艦も旗艦の瑞鶴も猛攻に晒されたのだ。
如何に瑞鶴らに最新のエーテルバリアや対空システムが搭載されていようとも、相手が多すぎ、且つ質でも押しつぶされたら耐え切れない。
エネランから緊急発進したウォーザードやウィッチで構成される航空隊と航空機戦隊の存在、近くの航空基地からの増援なども彼らを延命させたのだった。
そして現在、エネラン戦略要塞に到着した艦隊および帰投した航空隊は、順次要塞内への道のりを辿っていく。
常にエネラン戦略要塞の周辺で警戒や哨戒にあたる戦力や艦隊に見守られるようにしながら、傷ついた体を癒すために。
誰も彼もが、疲労し、傷ついていた。ネウロイの強さはかつてのそれを遥かに超えている。
人類が必死に抗う術を生み出してもなお、まだ追いつけないほどに先行しているところもあるほどに。
「常に万全とはいかないものだな」
そんな人々の動きを、上空に浮かぶドローンがとらえていた。
カメラを備えた単純なそれが映像を送る先は、このエネラン戦略要塞での最高権力者ともいえるリーゼロッテ・ヴェルクマイスターだ。
彼女の執務室に表示されている空中投影ディスプレイの一つにその映像は映されており、リーゼロッテの操作一つで自在に向きや方向、ズームを変更していた。
彼女も、扶桑皇国から欧州方面へ派遣される艦隊のことについては聞き及んでいた。
いや、聞き及んだというよりも、自然とエネラン戦略要塞やティル・ナ・ノーグには情報が集まってくるのである。
欧州と扶桑皇国の航路の中間に位置しているという立地、また各国の人員育成に協力することに伴う折衝、物流と情報のハブ。
そこにいる彼女が、有力なウィッチが欧州へ派遣されてくるという情報を見逃すはずもなかったのである。
まして、その有力なウィッチがシティシスにおいて教え子の一人だった「雁淵孝美」とあればなおさらのこと。
そして、その雁淵孝美がネウロイの襲撃を迎撃する中において、負傷し、重体となったことも当然のように知っていた。
瑞鶴の入港を確認すると、指をパチリと鳴らし画面を閉じる。代わりに、いくつかの通信画面を開いて手早く指示を飛ばしておく。
「フラワー、派遣艦隊の上層部との面談の準備をしておいてくれ」
「すでに。また、増援に駆け付けた502からも至急で話し合いの場を持ちたいと」
「情報共有が速いな。
まあ、無理もない。雁淵中尉が重体というのは今後の戦略にも関わることであろうしな」
それに、と机を指でトントンと叩き、リーゼロッテは続けた。
「夢幻の連中が知らせた通りに動いた通りなら、彼女の妹の、あの大馬鹿野郎も来たということでもある」
「雁淵ひかり軍曹、ですか」
「そうだ、稀少な天然の魔眼持ち。これから先に繰り広げられる戦いでキーとなるウィッチ。
悪く言えば向こう見ず、良く言えば勇猛果敢。結果的に言えば、その大馬鹿野郎は大きな戦果を挙げ、後々にまで影響を及ぼす」
だが、ここはそうではない、とも続ける。
夢幻会から明かされているその情報はあくまでも骨子、基本的なモノにすぎない。
前提条件や状況がすでに大きく変容していることから、その事前の情報通りに進むとは限った話ではないのだ。
無論、それが世界の大いなる流れの一端であることは確かであるが、どのように転ぶのかはまだ未観測の領域にある。
「それがどう変化していくか、ここで一つ試してやるのもまた一興ということだ。
こんなところで躓くようであれば……それは選別の素養さえない、ただの羽ばたきということに他ならん」
「敢えて苦難の道を歩ませる、と?」
「冬の寒さを知らぬ麦は芽吹かんからな」
さあ、とリーゼロッテは椅子から立ち上がると宣言した。
「候補者か否か……いや、それ以前に意志があるかどうか、確かめなくてはな!」
相変わらず、彼女のフットワークは軽いものであった。
727:弥次郎:2022/10/21(金) 23:41:07 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
欧州派遣艦隊司令部、第502統合航空戦闘団、そしてティル・ナ・ノーグ。それぞれの人員が会議室に集っていた。
本拠地がペテルブルグにある502JFWのグンドュラ・ラルはリモートでの参加であり、その他の人員は直接参加であった。
おおむね会議は事前のレジュメ通りに進んだ。
損傷した艦艇の修復や人員の治療、特に雁淵孝美の集中治療が決定。消費した物資の補給も行いつつ、501への物資も追加で搭載すること。
扶桑の欧州派遣艦隊の重傷者は治療の後に後送を行うこと。また損傷した艦艇の応急修理も実施されること。
「とはいえ、このタイミングでエース級ウィッチが一人欠けるというのは痛い話だ」
『……はい、ヴェルクマイスター大佐。雁淵孝美という戦力の離脱は、我が502にとって大きな打撃です』
ラルはリーゼロッテの指摘を認めた。
502は攻勢の組織、すなわちネウロイに対して防衛のみならず積極的な攻めに出て、失地奪還を推し進める役目を担う部隊だ。
だからこそ、リバウ撤退戦で活躍し、エース級の実力を持つ雁淵孝美が招集されたという経緯を持っている。
だが、その彼女が着任前に離脱というのは余りにも痛い話である。502の今後の戦略、ひいては人類側の戦略の停滞につながりかねない。
「まあ、そこまで咎めはしない。ネウロイの積極的攻勢を甘く見ていた私の落ち度である。
それに、絶対魔眼の使い方について教育が不足していたのも、最終的に私の責任だ」
「雁淵中尉は、ヴェルクマイスター大佐の……?」
扶桑海軍の艦隊司令は、驚きを隠せなかった。
彼自身もリーゼロッテが扶桑皇国で長らく活動していたことは知っていたが、まさか縁があったとは。
「ああ、私の教え子の一人だ。もっとも、オーバーロード作戦の前、まだ扶桑でシティシスを率いていた時の話だがな。
固有魔法を有しているウィッチの一人として、その育成や錬成にはかなりかかわっていた。
油断して攻撃を喰らうなど、腕は落ちたものだな……」
厳しい評価だが、それ以上にリーゼロッテの表情には悔恨があった。
そういう流れになると分かっていたからこそ、彼女への教育や教導には力を入れていた。
しかし、悲しいかな大きな流れには抗いきれなかったのだ。そうなることが自然であると分かっているからこそ、猶更。
「ラル少佐。こちらとしては代理となりうる補填戦力の派遣も考えている……と言いたいが、それは難しい。
こちらにいるのはいずれも錬成中のウィッチが多い。尚且つ、一時的にティル・ナ・ノーグで預かっているだけだ。
雁淵中尉の補填となりうるウィッチは……供出が難しい」
『ティル・ナ・ノーグのご配慮、感謝いたします。
元より育成などを主眼となさるティル・ナ・ノーグに我々の方から無理な要求は出せるものでもありませんので、ご安心ください』
「まあ、経験のあるウィッチなら派遣できんこともないということを忘れないでほしい」
『はい』
とはいえ、これはラルにとっても困った話だ。
扶桑皇国からウィッチを受け入れるほかにも、同国からの物資やウィッチ以外の人員での援助も受ける手はずだったのだ。
人類が戦力を出し合い、協力し合う象徴と言える統合航空戦闘団は、その実政治にかなり左右される。
欧州における攻勢に対し、余力の大きい扶桑皇国が援助を兼ねて一枚噛ませろと出たのが孝美が派遣され一因だ。
無視しても良いのだが、それはそれで政治的に面倒なことになり、502の動きが阻害されかねない。
728:弥次郎:2022/10/21(金) 23:41:38 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
しかし、それを許せる情勢ではなかった。
「政治的なあれこれで502の動きが止まってもらっては困る。これは地球連合の意志でもある。
だからこそ、何らかの打開策が必要となる」
そう、このストパン世界での、ファンタジー世界の一角であるこの世界のネウロイに対する対処に滞りがあっては困るのだ。
地球連合としても領土防衛の観点があるとはいえ、遠方まで大量の戦力を展開させ、尚且つ現地国家の支援までやるのは並々ならぬ労力を費やす。
それに見合ったものが必ず必要と、そういうことであったのだ。
「それはわかりますが……補填可能な戦力を即座に出すことができる状況ではないのです」
『こちらとしては、来るべき攻勢に備え戦力を欲してはおりますが……』
「……見事にアンビバレントか」
無論のこと、地球連合から人員を供出することも、ティル・ナ・ノーグのウィッチなどを派遣することもできる。
だが、繰り返すがこれは政治が絡むことだ。扶桑皇国のやるべきことをやむなしとはいえ横から割り込むのは問題が付きまとう。
「ならば……やれることは戦力を一時的にでも補うことだ」
そして、リーゼロッテの目はこの会議に末席ながらも参加を許された、一人のウィッチへと向けられた。
その視線に少し怯えてはいるが、こちらを見返す胆力はある。それに口角が上がる。
『それは……』
「同じ扶桑皇国から欧州へ派遣予定だった……正確には502ではなくスオムスのカオハバ基地に着任する予定の雁淵ひかり軍曹だ」
「えっ……」
名指しで呼ばれたことに、ひかりは思わず体を震わせた。
「彼女は扶桑皇国の所属であり、今回欧州への派遣人員として選ばれたのは事実。
彼女ならば、新しいウィッチを要請し派遣されるまで待つまでまでもなく、派遣先を変えればそれで解決できる」
無論、後方基地に追加人員はいかないことになるがな、とリーゼロッテは付け加える。
前線の人員不足を補うのは重要だが、かといって後方を疎かにしていいとは限らない。
「しかし、彼女は実戦経験が……」
『そうなのですか、ヴェルクマイスター大佐?』
「ああ。本人が一番よくわかっているだろう。
私も彼女の情報や戦闘記録を確認したが……殻が付いたヒヨコだな」
それは容赦のない断言。
多くのウィッチを教導してきたからこそわかる、いや、それ以上に戦闘経験などからもひかりが実力不足なヒヨコなのはわかるのだ。
そも、ウィッチとしてまだ若く経験が浅い。派遣の前まで訓練校にいたのを繰り上げで派遣することになったというのだからお察しだ。
戦闘記録からしても、彼女は艦隊を襲ったネウロイの迎撃に出たはいいものの、姉とは比較するのもおこがましい戦いだった。
援軍到着までの時間を稼ぎ、無事に帰還したという点においては勝っているが、それは運が良かったというレベルの話でもある。
729:弥次郎:2022/10/21(金) 23:42:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
「だが、あの状況で怯まずに自ら武器を手に取り、戦いに赴いたことは評価できる」
「えっ……」
厳しい評価と現実に思わず唇をかんでいたひかりは、リーゼロッテの言葉に驚いた。
いや、ひかりだけではない。艦隊司令やラルさえも、驚きに固まってしまった。
「……何か驚くことでも?
あれだけの数のネウロイに対して果敢に立ち向かえる意志がある時点で相当なものだと私は思うぞ?
訓練を重ねたティル・ナ・ノーグのウィッチやウォーザード達でさえ、戦闘処女を散らすとだいぶ堪えるものだ。
その点なら……」
言いながらも、リーゼロッテはひかりの目の前まできて、その目を覗き込んだ。
ひかりは、怪しい光を伴う魔女の視線に、思わず身を固くして動けなくなってしまった。
「雁淵ひかり軍曹は初陣で時間稼ぎを果たして生還した。これを評価しないでどうするというのだ?」
『……お言葉ですが、彼女は実力不足。それは大佐も認めることでは?
502に配属されるにしても、最低限の実力がなくては足を引っ張りかねません』
しばらくの間をおいて切り出したのはラルだ。
リーゼロッテの評価はそうだとしても、必要とされるのは実力だ。それこそ、雁淵孝美に匹敵するような実力が求められるのは必然となること。
それを、同じくリーゼロッテが認めるほど実力が足りない妹が補えるとは考えにくい話である。
「一理ある、ラル少佐。
だが、ここは教育機関であるティル・ナ・ノーグだ。ウィッチの育成には一家言ある。
この私が徹底して仕込めば……あるいは化けるかもしれんぞ?」
『ですが……!』
「ラル少佐。懸念はわかる。
だが、これは解決策の一つだ。これしかないというわけではないが、これが望ましいものでもある」
違うか?という問いかけに、ラルは通信越しに言葉に詰まる。
それは、ラルがその提案に合理性を見出していることを証明していた。
ただ一点、実力不足というのを除けば彼女の派遣は多くの問題を解決するものであるとも。
そして、残りの問題も解決するにはティル・ナ・ローグというのは最適な教育機関である。
502にはエディータ・ロスマンという教官もいるが、彼女も一戦力であり、付きっ切りで指導というわけにもいかない。
「とはいえ、これは私の勝手な意見。本人の意思がどうかによる」
どうだ?と問われた先、ひかりは混乱の中にあった。
会議室にいるほぼ全員の視線を集め、そしてリーゼロッテの問いかけに選択を強いられ---同時に思い出した。
ネウロイの襲撃を受けた際に、ただ姉の奮戦を見ているだけだったことを。
あっけなく人が命を失う戦場で、ただ怯えるだけだったことを。
戦うこととは、命を賭けるとは、一体どういうことか理解していなかったことを。
「やり、ます」
自然と、答えは口からこぼれ出た。
噛みしめるように、自分の言葉を自分で確かめるように、ひかりは自分の意志を魔女へと示した。
「やります!私、戦います!」
それが、羽ばたきの始まり。
空の守護者の一人となる、雁淵ひかりの、最初の一歩だった。
730:弥次郎:2022/10/21(金) 23:42:45 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
おかしい……フラグメント:ヘクセンズの一つのはずが、独立
シリーズになってしまった……
筆が乗ったから是非もないよね!
というわけで、ちょっと雁淵ひかりちゃん主役の「スカイズ・センチネル」始まります。
タイトルを決めた時に、私が何を見ていたかはお察しくださいませ…w
最終更新:2023年11月03日 10:55