916:弥次郎:2022/10/23(日) 23:22:10 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「スカイズ・センチネル」2
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 大西洋上 エネラン戦略要塞 執務室
「で、これが初日のテストの結果か」
「はい、リーゼロッテ様」
フラワーの報告を受けながらも、リーゼロッテは仕事の手を止めていない。
空中投影ディスプレイを操作し、書類にサインし、あるいは認証印を押し、提出されてくる書類などをチェックする。
彼女は体一つだけではなく、執務室内に展開された分身も動員して同じように膨大な仕事を処理していく。
このエネラン戦略要塞に置かれているティル・ナ・ノーグの実質的なトップなのだから、これくらいは当然であった。
リーゼロッテが組織の多くを担う関係上、それは必然。普通ならキャパシティーオーバーだろうが、彼女は生憎と人外。
比較的連合の中では人間に近い部類なのだが、人間の常識で測ることは間違っている人物である。
さて、そんな彼女が今聞いているのは、ティル・ナ・ノーグの門を数時間前に叩いたばかりの雁淵ひかり軍曹についての報告だった。
まずは実力を客観的に測定する、ということで、実技・座学の両方での実力テストを行うことになっていたのだ。
「端的に言いまして、想定通りです。
訓練校を繰り上げで卒業した程度の実力。通常戦闘、航空戦技、座学などに突出した点は無し。
甘く評価したところで上澄みとは言えませんね。最前線を担う統合航空戦闘団においては、下から数えたほうが速い戦力かと」
「まあ、そうだろう。後方基地への補給人員というからには、実戦経験を積むことも目的にしたはずだ。
当初の予定ではそれで十分だったところが、ここにきて要求が跳ね上がった」
結果から言えば、訓練してきたウィッチとしては合格ではあっても、やはり実力不足は否定できなかった。
一山いくらのウィッチであり、上澄みを集めた精鋭部隊においておくには、はっきり言えば邪魔になりかねなかった。
「ですが、評価点もいくつか」
「ほう?」
「基礎体力の点において、魔力の補助を抜きにしても同年代のウィッチの中では突出しております。
心肺機能、全身の筋肉、魔力循環系のいずれもが鍛えられていることによるものと推測されます」
「先天的か?」
「後天的です。本人への聞き取り調査によれば、ウィッチを志したころから自発的にトレーニングを行っていたようです」
なるほど、とリーゼロッテはいったん手を止める。
「肉体的には成長期に入った頃。無理のない範囲でのトレーニングを重ねれば、フィジカル面では成長しやすいか」
「トレッドミル負荷試験の結果も良好。むしろ成長度合いの点では常人より早いやもしれませんね。
問題は、肉体面の成長はあっても制御や認識が追い付かずにいる点です。
むしろ成長している分不安定であり、それに技量が追い付いておりません。
尚且つ絶対的な魔力量の不足も見受けられ---」
「未完成、か」
フラワーの言葉の先を、リーゼロッテは拾い上げた。
そう、テストの結果は、客観的にひかりの実力を暴き立てた。
評価すべき点もあるが、評価できる点が逆に足を引っ張っているところも見受けられる。
「まあ、そこはバランスだろう。最初から完成されているなど教えがいもない。つまらんウィッチにすぎない」
再び手を動かし始めたリーゼロッテは、しかし、口角を釣り上げていた。
917:弥次郎:2022/10/23(日) 23:23:24 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
「残された期間は1週間ほど。基礎から始めては戦力化は間に合わん。となれば、やるべきは一つだ」
「一芸特化、ですか」
ああ、と答えるリーゼロッテは、特記事項として記載された固有魔法の項目に目を向ける。
シティシスにいたころに、すでに固有魔法の保持者の判別方法というのはすでに確立されていた。
そして、念のためにと行われた検査において、彼女は固有魔法を持つウィッチだと判断されたのだ。
「区分としては魔眼。コアを見抜く姉の魔眼と類似したもの。
だが、なにやら性質が違うと……」
「今のところ本人には明かしていません。魔眼の性質についても、現在調査を行っています」
「ああ。その魔眼がどういうものであれ、それを軸に教育スケジュールを組む必要がある」
ある意味幸運ではあったのだ、ひかりが何か一芸を持ち、特化できる点を持っているというのは。
短い期間で戦力化するという条件が付いて回るなら、その一芸を磨き上げ、その一点を以て実力として認めさせる。
そも、固有魔法の持ち主というのは非常に稀有だ。統合航空戦闘団には保持者は多いが、あれは超例外。
本来ならば、数いるウィッチの中にたまに発現することがあるというレベルの話であるのだ。
既にシティシスやティル・ナ・ノーグにおいては、保持者の区別や覚醒を促す方法も確立されているがそれは割愛。
「ラル少佐の方にはそれとなく伝えておいてくれ。
こちらで固有魔法の扱いを中心にして吶喊で仕込む関係上、処々の技能に関しては現地(502)で磨いてもらうしかない。
その分苦労も掛けることにはなるが、まあ、こちらからの支援と合わせてトントンだろう」
「かしこまりました」
とはいえ、その固有魔法たる魔眼が使えるものであってほしいところである。
シティシスにおいて魔眼を強化した「万華鏡」こと宮森しおりのように、後天的に訓練を施すことで強化することはできる。
あるいは、肉体的な面も含めて強化施術を加えることによってさらにスペックを強化させることができるかもしれない。
ただし、それは最終手段だとも考えている。如何に能力があると言えども、肉体を弄繰り回すのは気が引ける。
(私も甘くなったな……)
以前ならば、それこそ、元の地球において欧州を裏から乱していた頃なら、躊躇いなくやったことだろう。
周囲へと禍害をまき散らし、最終的にはかかわった者すべて不幸へと突き落とすような、そんなことを。
そんなことをしていた自分が、違う世界でとはいえ、超常の力を持つ少女たちをいつくしみながらも育てることになるとは。
ああ、全く。一体いつから火の魔女とまで言われた自分は丸くなってしまったのか。
やはりあれか、あれだろうか。虚無の魔石を得るためにルーマニアに行ったのが契機か。あの出会いが、そうか。
「……」
過去をふいに思い出し、外見年齢らしい恋する乙女の表情をする上司の姿を、フラワーは見なかったことにした。
まだまだ、積み重なっている仕事は非常に多く、こなしてもらわなくてはならないのだから。
918:弥次郎:2022/10/23(日) 23:24:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
船の中という水が制限される環境から解放され、久方ぶりの湯船にたっぷりと張った風呂を楽しんだ雁淵ひかりは、ベットの上にごろりと横になった。
「……疲れたー……」
横になったというより、倒れ込んだといった方が正しいか。
彼女をして、かなり激動の一日だった。
あの後---502へ派遣されることを選んだ後、早速実力を測るテストに放り込まれたのだ。
基礎的な体力から、ストライカーユニットを用いての飛行技能のテスト、その他にも座学までも。
訓練校でのやり直し、と言えばそれまでであるが、より容赦なく実力を測りに来ていて、流石に披露した。
その後には身体検査ということで健康診断の様な事を長々と受けさせられたのだ。
唾液から髪の毛、血液も取られ、さらには機械による検査もいくつもこなし、問診を経て、やっと解放された。
結果についてはその場では明かされず、翌日からの訓練の時に随時開示する、ということになった。
艦艇の修復や負傷者の治療が終わるまでの一週間ほどの間訓練を行い、その結果によって派遣されるかどうか判断するという決定。
まさか自分が、とは思ったが、それでも姉が戦っていたように自分も、という気持ちに嘘はつきたくはなかったのだ。
まして、目の前で人が傷つき、命を落とすのを見てしまったのだから。
「……私も、なれるかな。お姉ちゃんみたいに」
実のところ、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターという魔女についてはひかりもある程度知っていた。
訓練校でも噂になっていたし、何より姉である孝美がその存在を口にしていたのだ。
実力者であり、教育者であり、発明者でもあり、学者でもある。そんなお伽噺のような、とんでもないウィッチがいるのだと聞いた。
そんなウィッチが自分に目をかけた理由は今一把握できていない。
けれど、姉のように、姉と並び立って戦うという夢の一端に手をかけることができた、かもしれない。
(あとは、ここでの頑張り次第だよね)
猶予は短い。残りの日数で実力を磨き、最前線に立つにふさわしいウィッチにならなくてはならない。
明確に期限があり、ハードルは厳しく、同時に余裕はない。そのように告げられた。
あくまで可能性があるから、ということであり、決して甘えは許さないとも。
けれど、とひかりはつぶやく。ここで学ぶと決めたのも、戦うと決めたのも、自分の意志だ。
(やってみなきゃわからない)
そう、やってみなくては結果はわからないのだ。
無理だと、遠回しにやめておいた方がいいと言われた。
それは、佐世保でも同じだった。訓練校では姉と違い出来損ないなのだと散々言われた。
それでも、とひかりは自分の意志を通した。それが認められたなら、そのチャンスをつかんで絶対話さないのだ。
(明日から……頑張ら……ない、と)
意気込んだところで、彼女の意識は限界だった。
怒涛の一日を終えて、彼女の身体と意識は休息を求めて、深い眠りについたのだった。
919:弥次郎:2022/10/23(日) 23:25:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
- オーラシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地 通信室
「押し切られたな」
その言葉は、グンドュラ・ラルの口から零れ落ちた。
通信室に置かれたコンピューターを使い、先ほどまでティル・ナ・ノーグの面々との会議を行っていた。
それはすでに終了し、ラルは今後の対応について502内部で話し合いをすることを計画していた。
だが、終わって最初に漏れた言葉が、それだった。
502へ配属されるはずだった雁淵孝美が負傷によるまさかの離脱。
同時に、その妹である雁淵ひかりを教育の上で代役として502に派遣する。
派遣するか否かについての判断はティル・ナ・ローグおよび502が話し合ったうえで判断する。
これらについて、502の指揮官であるラルとしては文句はあまりない。
あの状況、あの場、取り巻く政治事情も含めて考えれば、あの提案は最も最適であるのは認めるところである。
「扶桑皇国のウィッチが502に派遣されてくる」というのが重要なのであって、その能力については余り問題視されてはいない。
最悪、実力不足であるならば扶桑皇国に帰すか、元々の派遣先へと転属させるという手もあるのだ。
(それにしても、やはり釈然としない)
ティル・ナ・ノーグの最高顧問たるリーゼロッテ・ヴェルクマイスターは、代役の提案を行った人物だ。
ラルでさえもよく知るウィッチであり、間接的にも直接的にも世話になっている、まさしく雲の上の存在。
そんな彼女の提案であることも手伝い、あの場は彼女の独壇場となり、ひかりの意志もあって結果が結ばれた。
ひかり個人が言い出したならば却下したかもしれないが、リーゼロッテの口添えもあって承認を受けた。
それをラル個人としてみると、どうにも違和感が付きまとうのだ。
(一週間ほどの教育期間を経て判断することを提案した……逆に言えば、彼女は一週間で雁淵ひかりが成長すると分かっていた?)
まるで確信があるかのようだったのだ。たかだか一週間ほどで、繰り上げ卒業したウィッチが再前線に立てるようになれると。
ひかりのプロフィールについてはラルも把握している。成績は優秀とは言い難く、実戦経験もない。
ウィッチ及び航空機戦隊がかけた状態でネウロイの群れに襲われた時、武器を手に取って立ち向かったのは確かに評価できる。
だが、逆に言えばそれだけ。それを過大評価しているのではないか、とラルは提案を聞いた時から思っていたのだ。
確かにリーゼロッテが最高顧問を務めるティル・ナ・ノーグでの訓練を受ければ一端の戦力たり得るかもしれない。
だが、そんなに都合よく成長するようならば、ネウロイに対して人類はそこまで苦労と苦戦を重ねていない。
彼女の目から見れば、控えめに言ってひかりは凡百のウィッチの一人にすぎないと思えたのだ。
(何かある、のか?)
はっきり言えば、今回の判断は異例すぎる。早すぎるといってもいい。
自分達が知らないことを、何かリーゼロッテは知っているようですらある。
「……一先ず、エディータと相談だな」
教育者として自分より一日の長があるエディータ・ロスマンの判断も仰ぐ必要がある。
一部隊を預かる身として、そちらも勘案しなくてはならない。ラルの一日は、まだ終わっていなかった。
920:弥次郎:2022/10/23(日) 23:27:19 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
傍から見れば、リーゼロッテさん謎のプッシュである。
まあ、原作だなんて誰も知らないから是非もないよね。
925:弥次郎:2022/10/23(日) 23:54:28 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
さて、今日はもう寝ましょうかね
これ以降の感想返信などは明日になります
修正をお願いします。
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「トレッドミル負荷試験の結果も良好。むしろ成長度合いの点では常人より早いやもしれませんね」
「問題は、肉体面の成長はあっても制御や認識が追い付かずにいる点です。
むしろ成長している分不安定であり、それに技量が追い付いておりません。
尚且つ絶対的な魔力量の不足も見受けられ---」
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「トレッドミル負荷試験の結果も良好。むしろ成長度合いの点では常人より早いやもしれませんね。
問題は、肉体面の成長はあっても制御や認識が追い付かずにいる点です。
むしろ成長している分不安定であり、それに技量が追い付いておりません。
尚且つ絶対的な魔力量の不足も見受けられ---」
最終更新:2023年11月03日 10:57