648:弥次郎:2023/01/17(火) 23:20:49 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「スカイズ・センチネル」4【改訂版】
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 大西洋上 エネラン戦略要塞 居住区 個室
「……ふがぁっ!?」
ひかりは、突如として体を跳ね上げた。
端的に言えば、寝落ちしていたのところから急に覚醒したのだ。
その拍子にガタンと膝をしたたかに机へと打ち付けてしまい、乙女らしからぬ呻き声をあげて悶絶するのはご愛嬌か。
「いててて……あ……あーあ、やっちゃったぁ」
実戦に促成教育の後に投入されるため実技が中心とはいえ、ひかりには座学も課されている。
むしろ、こうして知識を振り返らせ、さらに密度を濃くして学ぶことこそ、即戦力とするのには必須であった。
問題なのは、疲れから寝落ちして倒れ込んだひかりが、その口からこぼした唾液というインクで芸術的な絵をテキストの上に描いていること。
当然、評価は0点である。そも、貴重な資料の上で寝て涎をこぼすなど論外なのだ。評価以前である。
幸いにして、量としては多くはなく、水気を拭き取れば問題はなさそうではあった。
「……」
その紙媒体のテキスト---右から左ではなく、左から右に読むそれ---はわかりやすく言えば医学書であった。
戦場において活動する衛生兵を対象としたテキストには、即応の手当の方法やそれにまつわる知識が羅列されている。
人の体の構造、起こりうる負傷や損傷、その時にどのように体は応答し、外部からはどのように観測されるのか。
そして、それらの複合から判断して、どのように対処を行うことが望ましいのかをイラストや写真付きで記載している。
戦場において生傷は絶えないものだ。小さいものであれ、大きなものであれ、戦場においてはそれが大きなハンデとなる。
ひかりはネウロイの攻撃に巻き込まれ負傷した兵士を見た経験がある。それも、ほんの数日前の事で、鮮烈すぎて忘れようがないことだった。
だからこそ、というべきか。その経験を経たからこそ、そういった技能を身に着けることを希望したのだ。
少しでも知識があれば手当を行ったり必要な処置ができるのだと。魔力の行使による治療もあるが、そうでなくともできる治療もまた重要なのだと。
実際のところ、治療を行うための魔道具を用いての治療も学んでいたのだが、どうにも相性が悪かった。
スカウターでの計測によれば、ひかりが持っている魔力の量は多いとは言えず、治療を十分に行うには不足すると判断されたのだ。
ついでにいえば、複雑な制御を必要とするに魔導具を操る技量も今の段階ではない、とも断定された。
ひかりが知る中で治癒魔法に優れている人物といえば、ここにきて知り合った宮藤芳佳がいた。
彼女は必死になって勉強するひかりに申し訳なさそうにしていたが、嫉妬さえ湧かないほどに彼女は治癒魔法に優れていた。
魔導具を使ってもつかわなくても、傷などを見る見るうちに回復させてしまったのだ。
ただ、そんな規格外の宮藤とは比べるのは間違っていると教官から釘を刺されたのは記憶に新しい。
ついでに、そちらの方面での魔法の技量は備わっていないし、身につけさせるには時間が足りないと言われた。
即戦力化が急がれているひかりは、とにかく戦技を学んで自らのものとしなくてはならない。
そのついでに、純粋な戦闘技能だけでなく、別な面での能力を備えて自分の戦術的価値を高めることを推奨されたのだ。
(まだ血はちょっと怖いけど……)
人体と同じ要素で構成された人形で実習をしたのは記憶に新しいが、だいぶあれは堪えた。
その日の夜の夢に出てきて、夜中に飛び起きてしまう程度にはインパクトがあったのだ。
しかし、逆に言えば、繰り返しそっくりな人形で実習を重ねて、ある程度の耐性を得ることはできているのだ。
今後の実習もより実践的になると伝えられていたので、ひかりとしては確かな進歩を感じ取っていた。
これで一山いくらのウィッチではない、差別化された能力のあるウィッチに成れるのだと。
649:弥次郎:2023/01/17(火) 23:21:38 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
差別化といえば、とテキストをめくりながらもひかりは思い出す。
技量を調べる中において、いろいろな武器を持たされて実際に使ってみるというテストを受けた。
そしてそれらへの適性検査の結果、最終的に指示されたのは「自分での撃破を狙うならば必中の距離まで接近しろ」というものだった。
(あまり得意じゃなかったけど、改めて言われるとなぁ……)
客観視されて明確に言われたが、少し納得がいっているとは言えない点だ。
だが、それを意識して行動に移したとき、撃破しやすくなったのは確かであった。
縦横無尽に飛ぶネウロイに対して距離を縮めれば、下手くそであろうとも当たるというのは当然である。
敵の背後や、命中しやすいように彼我の距離を詰め、その上で狙いを定め、攻撃することで必ず当てる。単純な理論だ。
まあ、そのネウロイに必中と言える距離まで簡単に接近できれば全く苦労しないのであるが。
(そこも課題だって言われちゃったし……)
そう、射撃技能に限った話ではなく、空戦技能に関しても未だ未熟だというのは紛れもない事実であった。
そも、繰り上げ卒業者を決める選抜においてひかりが合格したのは、トラブルに対応した能力を評価されてのこと。
アレがなければ順当に自分が負けていたというのは、今ならば冷静に振り返れることだ。
だからこそ、日々マニューバについての訓練を重ねているのがひかりの現在だ。
また、個人の戦闘技能の不足があるひかりは、僚機との連携や他者への援護攻撃などを磨くことが502で活躍できると念を押された。
ネウロイの姿勢を崩したり、相手の進路をふさいだり、はたまた僚機を追いかけるネウロイを追い払うなど当てられなくとも必要な場面は多い。
そして、それらを行うにあたって最終的に行きつく先が、視野の広さと判断能力であるとも。
(私の最終目標……)
ネウロイを自分で撃墜するにしろ、味方の援護に徹するにしろ、状況を把握しなくては話にならない。
空中においては視界を広く持ち、手にした情報を基に素早く判断して動き出さねばならないのだ。
一瞬でも迷ったり躊躇すれば、その分だけチャンスを逃してしまうことになる。
HMDとそこに表示されるレーダーにより補われ、ウィッチが受信することができる情報は飛躍的に増えている。
けれども、そこから得た情報をいかに処理し、判断し、行動に移せるかどうかは訓練次第ということになるのだ。
そうであるから、実技面ではそこも重点として訓練を重ねている。
扶桑の先任のウィッチ達、KN、その他多種多様な教官や指導官、そして一日に一度は見に来るリーゼロッテ。
多くの人に教えられ、数えきれないスタッフに支えられているというのを実感している。
彼らの期待を裏切らないためにも、とひかりは眠気を追い出し、意識を集中させる。
明日の訓練に響かない程度に学んでおかねばならない。そして、数えるほどしかない日の先に待つ試験を突破するのだ。
「よし、頑張ろう」
すでに夜も更けているが、まだまだできる。
明日に影響が出ない範囲で頑張らなくては、と改めてひかりは机の上のテキストに向かった。
650:弥次郎:2023/01/17(火) 23:22:58 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
「雁淵軍曹が固有魔法を、それも魔眼を持っている?」
「はい。ティル・ナ・ノーグからの報告ではその可能性を指摘しています」
教官を務めるエディータ・ロスマンからの報告を聞いたラルは、その言葉に耳を思わず疑って聞き返してしまった。
固有魔法。ウィッチのごく一部が有する、再現性の乏しい文字通りの固有の技能、あるいは魔法。
502においても固有魔法の所持者はいる。ラル自身もそうであるし、戦闘隊長のサーシャもブレイクウィッチーズもそうだ。
こう見るとレアではないように見えるが、それはそういう能力を持つウィッチをラルが選び抜いてこの502JFWに引き込んだからに他ならない。
ウィッチ自体が希少で、さらに航空ウィッチがこれまた少なく、熟練のウィッチというのも特性上少ない。
尚且つ固有魔法持ちとなればごく一部どころの話ではない。金の草鞋を履いて尋ねて回ったところで、早々には見つからないのだ。
それくらいには非常に稀少性が高く、総じて戦力的・戦略的に非常に高い価値を持っているものなのだ。
だからこそ、固有魔法持ちというのはそれだけで奪い合いになる要素を秘めているのである。
無論のことであるが、固有魔法というのもピンキリ。それを扱えるかどうかが極めて重要な問題であるのだ。
「その固有魔法の性質は?」
「残念ながら、そこまでは。あくまでもそうかもしれないという情報ですね」
その言葉に、ラルは思わず吐息と共に身を椅子へと預けてしまう。
それは希少なウィッチを得られるかもしれないという期待と安堵か、それともはっきりしたことがわからないことへの落胆か。
扶桑皇国出身のウィッチには魔眼を持つ者が多いとは聞いたことがあるが、姉妹揃って該当するとは思いもよらないことだ。
だが、この情報は確実性があり、尚且つ雁淵ひかりというウィッチの価値を大きく高めることにつながる。
「孝美が治療を終え、ウィッチとして復帰するまでの間の繋ぎにとどまるものではないかもしれんな……」
「しかし……固有魔法の有無を確認できるものなのでしょうか?」
ロスマンは、しかして疑問を抱く。
固有魔法が希少なのは、これが自分の固有魔法だと認識することが難しいという面も大きい。
発動に条件が伴っていたり、無自覚に使っていたり、持っていてもそうだと認識できないゆえに発動できないなんてのもざらにあるのだ。
本人の自覚も難しいという特性の固有魔法という不確かなものを、果たして外から観測して特定できるのであろうか?
そんなロスマンの疑問を、ラルは重い口調で否定した。
「これまでの常識ではありえない。
だが、相手は地球連合、そしてあのリーゼロッテ・ヴェルクマイスター。
こちらの常識を飛び越えてくるのは当たり前だと思った方がいいかもしれない」
それに、とラルは一つの噂話を口にする。
「この惑星への転移によって、我々は濃いエーテル濃度に晒されているという。
その結果、これまで眠っていた固有魔法が目を覚ますと言う事例が確認されているらしい」
「そんなことが……」
「ありえないと思うか?けど、そうでもないと専らの噂だ。
ティル・ナ・ノーグでは固有魔法を識別し、その性質を強化し、扱いを指導することができるとな。
実際、扶桑皇国において彼女は固有魔法の持ち主を指導していた、その発見も含めて」
ウチに所属する菅野がそうだった、とブレイクウィッチの一人の名をあげる。
ロスマンさえもそれは初耳だった。502の戦力の一人である彼女もそうだったとは。
「この事実は意図的に伏せられていて、菅野も口止めをされていたらしい。
固有魔法を目覚めさせることができるというあらぬ噂を立てられたくないからだろうな。しかし……」
「人の口には戸が立てられない、ですか」
「……そして、その噂は正しかった。
まだ訓練校を出たばかりで実戦が初めての雁淵ひかり軍曹がそうであると、魔眼を持つと、そこまで特定している」
まったく、とラルは深くため息をついた。
「相手の底が知れない。それに、いいように振り回されている。面白くはない話だ」
とはいえ、その技能持ちが来ることはありがたい話ではある。
まだ可能性というか、匂わせる程度であるが、根も葉もないことを言うことはないだろう。
ああ、全く。
「退屈しない話だ。あと5日ほどか……どこまで化けるか、楽しみでもあり、怖くもある」
ロスマンは、複雑な表情の部隊長にかける言葉を見つけられなかった。
651:弥次郎:2023/01/17(火) 23:23:30 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
転載というか、差し替えのほどよろしくお願いいたします。
文章に粗があって、口調とかも合致していなかったので修正をしました。
667:弥次郎:2023/01/18(水) 18:50:53 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
修正をお願いします
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敵の背後や、命中しやすいように彼我の距離を詰め、その上で狙いを定め、攻撃することで
〇
敵の背後や、命中しやすいように彼我の距離を詰め、その上で狙いを定め、攻撃することで必ず当てる。単純な理論だ。
最終更新:2023年11月03日 11:00