743:弥次郎:2022/11/01(火) 22:52:38 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS 「スカイズ・センチネル」5




  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 大西洋上 エネラン戦略要塞 演習空域




 演習空域には、多数のドローンが飛び交っていた。
 いずれもがネウロイを模したドローン。大型のモノから小型のモノまで、攻撃・行動パターンや性能も様々だ。
戦場で確認されているネウロイの性能を再現し、ウィッチやウォーザード達の訓練相手となるそれらは、今一人のウィッチに襲い掛かっていた。
 そのウィッチは、雁淵ひかり。紫電四型という試作ストライカーユニットを駆り、猛然と嵐の中に飛び込んで飛び続けているのだ。
その動きは、訓練校時代の彼女のそれを、より洗練させていた。旋回、高度の制御、速度の制御、風の読み、あるいは揚力を意識した立ち回り。
それでいて、ネウロイの攻撃をしっかりと見て回避する動きだ。

『チェックポイントB-3を通過、基準タイムマイナス2コンマ35、いいペースね』

 空中で、ひかりの飛行する空域を高高度から見下ろす管制ウィッチであり教官の伊井頼子はインカムを通じてひかりに声を届かせる。

「……ッ!ハイ!」

 しかし、慢心も油断もせず、ひかりは飛行を続行する。
 猛禽のように、ネウロイドローンの背後をとりに行く。その際にも周囲に目をやり、他のドローンの動きにも注意する。
背後をとりに行くということは、その際に背中を晒すということでもある。人の視界は意外にも狭い。
そんな狭い視界で空中を飛ぶというのはかなり危険なことなのだ。僚機がいない想定の子の訓練ではなおのこと必要だ。

(追跡(チェイス)の技術……基礎を飛び越えて教えて、大丈夫かなとは思ったけど、覚えはいいわね)

 ひかりの動きは、ここに来た当初の拙さが消えている。
 というより、実機およびシミュレーターでの訓練で無理やりに上書きしたに近い。
 殊更、即戦力化を急いでいる以上、癖を直すよりもっと時間を短縮する方向で教育が進められた。
その甲斐もあって、やや教本からは逸脱するものの、実戦的な動きを覚えさせることができたのだ。
特にひかりは魔力の絶対量が少ないことから、魔力をいかに節約して飛べるか、というのも命題だった。
そのくせ射撃の腕が良くないから接近しないとならないというのだから厄介なところ。
とどめに接触することにより発動する「接触魔眼」の固有魔法を持つのだから、猶更だ。

『さあ、次の群れが来たわよ!』

 12.7㎜のペイント弾を叩き込んで追いかけていたドローンに撃墜判定を下したが、生憎とそれだけでは終わらない。
即座に他のネウロイドローンが攻撃を仕掛けてくる。ネウロイのレーザーを模した訓練用出力のそれが一斉に放たれていく。
その光線の量は非常に多い。すぐに回避をしたいところだが、距離を詰められているので、間に合うかどうか。

「!」

 即座にそれを判断し、ひかりはシールドを張る。
 最初に来た数発を弾くも、続く攻撃により貫通されてしまった。
 しかして、ひかりがその場から離脱するまでの十分な時間を稼ぐことには成功していた。

(被破壊シールド、うまくなったわね)

 これはシティシスのころから研究されていたテクニックだ。
 ウィッチのシールドは攻撃を防ぐという目的で展開されるので、通常ならば魔力を込めて頑丈にする。
 しかし、頑丈なシールドの実現には多くの魔力を消費する必要があるため、結果的に活動時間を削ってしまうのだ。
殊更に魔力量の少ないウィッチにはより致命的になりかねない。かといってシールドを張らない回避には限界がある。
そこで考案されたのが、あえて破壊させることで防御をする被破壊シールドである。

744:弥次郎:2022/11/01(火) 22:53:14 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 原理としては爆発反応装甲というべきか。
 少量の魔力でシールドを張るという点は同じだが、敵の攻撃は数発はしのげてもすぐに貫通されてしまう。
貫通されるが、その際に魔力による破裂を生み出し、レーザーなどを弾いてしまうというもの。
威力の高いレーザーなどに対しても、むしろそれに反発して弾くため、低燃費で高威力の攻撃を凌げるのだ。
無論、一瞬しか防げないという欠点は付きまとうが、それでも魔力量の少ないひかりにはありがたい限り。
必死に魔力を込めて固くする、という発想しかなかった彼女にとってはまさに青天の霹靂だったのだ。
まあ、それはシティシスで学んだ伊井もまた同様だったのだが。

(雁淵軍曹は最初こそ苦労したけど、身に着けるまでよく粘ったわよねぇ……)

 何しろ出力調整が難しいものだ。テクニックが要求されるため習得に時間がかかることも多かったのだが、それをひかりは見事に身に着けた。
今も、自分の背後に複数枚展開してレーザー攻撃を防ぎ、次の標的を定め、飛んでいくためのルートや戦術を練る時間を稼いだ。

「行きます!」

 そして、それに迷いなく飛び込んでいく。
 当然、狙われたネウロイドローンは逃げを打つ。
 反撃をしながらも、引きずり回すように逃げ、攻撃を回避するようにして飛び回る。そうする間に他のネウロイドローンが集まるためだ。
 ここで要求されるのは如何に相手を素早く倒すか。
 だが、ネウロイ特有の無茶苦茶な回避運動は早々に捕らえられない。

(さて、どうする…?)

 見守る伊井の視線の先、果たしてひかりも包囲されかかっていることを察知した。
 シールドで攻撃は防げても、飽和攻撃を受ければ防ぎきれない。かといって、魔力を無駄には消費できない。
 だから、というように迷いなくライフルを前方の敵に向けた。回避運動に合わせる射撃は、しかし、違うものだった。
魔力を込めていない、ただの射撃でしかなかったのだ。

(やはり)

 攻撃を察知したネウロイドローンは回避運動をとる。
 しかし、ひかりの射撃はそれを先回りするようにして放たれていく。当然ドローンはそれを回避しようと動きを変える。

「捕らえた、いっけー!」

 ドローンの回避運動の軌道が予想通りになったのを確認し、ひかりは照準を合わせた。
回避運動の先、彼我の距離と弾速を踏まえたその位置にしっかりと合わせ、しっかりと腰を据え、放つ。
魔力を十二分に込めたその一射が、ひかりの想定通りの動きになってしまったドローンを貫いた。
コア持ちのネウロイという判定だったが、それの防御を貫通できたとの判定が下り、そのドローンは離脱軌道をとっていく。

(魔力を意図的に使わない牽制と、魔力を十分込めた本命射撃。これもクリアかしらね)

 手元の端末を操作し、その点の評価を入力した。
 通常、ウィッチの攻撃にはウィッチの保有する魔力が注がれて効果を高める。
 昨今ではエーテルエンチャント弾という、通常弾でもネウロイの装甲を破る弾が開発されているが、ネウロイも頑丈さを増している。
なおのことウィッチが魔力を込める必要は高まったが、下手に撃ち続けるとこれまた魔力の消耗につながってしまう。
 だからこそ、魔力を意図的に込めずに打ち込む技術と、反対に十分に注ぎ込んだ一発を打ち込む技術の使い分けも学習させられた。

745:弥次郎:2022/11/01(火) 22:54:49 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


 実戦的な技術と技能。このティル・ナ・ノーグに来てからひたすらに叩きこまれたそれは、確かにひかりの中で形となっている。
最終日が、すなわち502の首脳部と合わせて、ひかりの技能の試験を行う日が近づいているのだから、出来ていなくては困る話ではあるのだ。
これまで集中訓練で仕込んだのがまるで無駄だったというのは、教官の一人としてはがっかりどころの話ではないのだし。
 だが、いくつもの技能を習得しても、問題なのは本番というか実戦でそれを生かせるかということだ。

(緊張などのメンタル面かしらね)

 実戦と訓練は違う。
 訓練で優秀でも実戦で力をふるえないなど、よくあることだ。
 その逆に訓練でダメダメでも、実戦に出てみたらいきなり適応するということもまたあること。
 どちらかと言えばひかりは後者に該当するのだが、ここでの訓練や促成教育の結果が実戦でうまく出るかはまた別問題だ。

(固有魔法の接触魔眼のことを伏せたままなことと言い……なにか大佐には考えがあるのかしらね?)

 彼女を担当する教官の一人として、伊井はひかりが固有魔法の接触魔眼の持ち主であることを明かされている。
 原理としては、物理的に接触した対象に魔力を流して構造を解析するというもので、現在はその解析魔法の一部が発露した状態とのこと。
より成長させれば、ネウロイに限らず、機械のような複雑な構造を持つ物体を事細かに解析し、認識することができるようになるとも。
対ネウロイにさらに特化させれば、接触したネウロイの詳細なスペックまでも割り出すことが可能になるのではという予測もたてられているほどに。
 確かに強力な固有魔法だ。コアの位置を断定できるというのは、特にコアを持つような大型で強力なネウロイを倒す際に重宝する。
 だが、同時にウィッチの先任者として思うのは、それを持っていることと実戦で使いこなせることはまた別、ということだ。

(雁淵軍曹のメンタルや負けん気を評価すれば、活躍できるかもしれない。
 けれど、そこまで断定できるものなのかしら?)

 伊井としては、リーゼロッテの判断は正しいと思ってはいる。
 だが、完全に納得しきれているか、と言われれば実のところNoであったりする。
 まるで、実戦に放り込めばひかりは実力を開花させることができるという確信があるかのようですらあるのだ。
まあ、リーゼロッテから見れば凡俗のウィッチの一人でしかない自分に、彼女の考えは予想しきれないところもあると言えばそれまで。

「撃墜!」
「いい腕よ、軍曹。そのまま続けて」

 ともあれ、彼女が無事に殻を脱ぎ捨て、巣立てるように自分は努力するだけだ、と意識を切り替える。
 上官であり恩師であるリーゼロッテの判断なのだから、それに従う方が自然なのだし。
 それに、ひかり自身がそうなのだから、それに水を差すのも野暮というもの。一人でも多く優秀なウィッチを送り出すこと。
それこそが、このティル・ナ・ノーグの使命であり、そのメンバーに課せられた仕事なのだから。
 最終試験を目前に控え、ひかりの訓練に一切のゆるみはなかったのであった。

746:弥次郎:2022/11/01(火) 22:56:08 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
サクサクかけました。

以前出していたウィッチの魔法に関する解説も込みです。
ウィッチの魔法ってもっと自由度が高いと思うんですよね…使い手次第って奴かと。
人型汎用決戦兵器宮藤なんてスペック任せとはいえ、既知の魔法を飛び越えていますしね。
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最終更新:2023年11月03日 10:59