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憂鬱SRW ファンタジールートSS 「アナログに走ることはエラーを無くすひとつの手段である」【改訂版】



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 オラーシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地 執務室


 502JFWに雁淵ひかりが姉の孝美の代わりとして着任した翌日のことだ。
 部隊長であるグンドュラ・ラルは、新人隊員であるひかりがリーゼロッテから、と直接持ってきた封筒を前にしていた。
 何とも古風だ、とラルは手元にある封筒を眺める。
 羊皮紙にインクで書かれているという、時系列的には未来の勢力である地球連合に属するとは思えないほど古めかしい手紙。
他の手段での連絡ややり取りも行っていた中にあって、非常にアナログだ。自分でさえもそう思うほどに。
シーリングによって、独特の模様が刻まれて封がされているという徹底ぶり。ここまでくると感服までする。
 そして、書かれた文字列は、自分宛であることとそして自分以外の開封を禁じていることを表していた。
 実際、この封筒は自分以外に開けることができなかったらしい。羊皮紙が刃物などを一切受け付けず、封もまたラル以外を拒絶していた。
触ったり持ち運ぶ分には問題ないが、開封しようとする動きを探知し、拒絶しているのだ。

(分析によれば、このシーリングに術が埋め込まれている……と)

 一度解析班のところに届けられたそれは、結果的にはラルが自ら開けることで決着した。
 しかも、条件はさらに厳しく、一人きりの時にのみ、開封を許すというもののようであった。
 もはやこれは、説明する必要もないほどに、既存の魔法の域を超えている。単なるシーリングにそこまでの術式を組み込む?
恐らくシーリングスタンプの模様がエーテル回路を形成し、それによって術の効果を展開しているのだろうことはわかる。
 だが、そんなことをやろうとするような人間などこれまでいただろうか?そこまで魔法を極め、応用した例は聞いたことがない。
それこそ、神話やお伽噺などに出てくるような、そんな使い方をしているのだ。

(底が知れない、本当に)

 ともあれ、とラルは時計をちらりと見やる。
 この手紙は、既定の時間になったら開封ができる、ある種の封緘命令書であるらしい。
 そして、その時間になり、いよいよラルはこれを開封することにしたのだ。

「……」

 独特の模様を刻んだシーリングが剥がれ、中身の折りたたまれた羊皮紙をついに吐き出す。
 ペラリと広げたそれには、短い文面が記載されている。

『雁淵ひかりの固有魔法「接触魔眼」。
 どんな形であれ物理的な接触を行ったネウロイに対し自身の魔力を流して解析を行い、コアの位置を特定する。
 本来ならば魔力を用いた解析魔法の一種が魔眼として発現していると思われる。
 この情報は、本人には開示せず、502JFW部隊長グンドュラ・ラルおよびエディータ・ロスマンのみ開示を許可する
 また、この固有魔法については---』

 洒落た筆跡のそれを、ラルは視線で穴があけられそうなほど見る。
 その内容は当然頭に入ってきている。これが、着任以前に断片的な情報として聞かされた固有魔法の正体なのだという。
その性質、特性、条件までも暴き立てたことがそこには記されており、これを気が付かせ、活用できるようにせよという指示が付け加えられていた。
 固有魔法の内容の解析と断定がされていた、ということは驚き。同時に納得もするのだ。
 以前から耳に届いていた噂は決して間違いや眉唾物などではなく、保有する固有魔法の特定することさえもできるのだと。
 また、ネウロイを倒すのにこれだけの価値がある魔眼を持つならば、502JFWという前線部隊でも一芸特化で戦力化できる、と。

 振り返ってみれば、ひかりは初陣---空母を守るために出撃した戦闘---で、彼女はネウロイと接触、というか激突してしまったという。
その際に、ネウロイの身体に変なものが見えたという証言があった。
魔眼を持っているとのことから、本人に自覚があるかと話を聞いた時に得た証言だ。
状況からしてネウロイと激突したのは偶然だろうが、その際に固有魔法の発動条件が満たされるとは。

917:弥次郎:2023/01/20(金) 01:01:03 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

(これが推薦の理由、ということなのだろうか?)

 しかし、どうにも弱いような気もするのだ。
 接触する必要がある固有魔法というのは、逆に言えば接触するほど近づかなくてはならない。
 つまり、如何に試験を突破して認められたとはいえ、そんな危険な条件を満たす必要のある。そんな危険を冒させるか?と。
 まあ、これはさんざん考えたがどうにもわからずじまいだったのだ、一旦置いておくとしよう、とラルは頭の隅に追いやる。

 一番の問題であるのは、地球連合が、その傘下にあるシティシスあるいはティル・ナ・ノーグが固有魔法を解析し断定できたということだ。
前述の通り未だに噂止まりで、尚且つ口止めをしているのは、真実として流布されては困るのもからだろう。

(もしそれが流布されたら……力の奪い合いになるな)

 ネウロイと戦うためには力が必要であるのは確かだが、力に溺れるウィッチが出てしまうのは困る。
ラルとて何度となく聞いたことがあるのだ。航空ウィッチというのはその過程において多くをふるいにかける上澄みの集団。
そうであるがゆえに、自身の能力を過信し、とんでもない失敗を引き起こしてしまうことが多くあるのだ。
まして固有魔法というものを与えられてしまえば、全能感などに呑み込まれてしまうだろう。
だから対策として、固有魔法の前にウィッチとしての技能を磨かせ、その上で固有魔法を使いこなさせる。順当な方針だ。

 そして、強力な固有魔法を与えることができると誤認をされることを恐れ、意図的に口止めなどをしている。
その誤認が広まれば、各国は我先にとウィッチに固有魔法を与えさせるためにどんな手でも取るだろう。
如何にウィッチと言えども、兵士として戦うのは良いとしても、そこまで道具に成り下がるのは御免被りたいところだ。

(それではない、自分たちの魔法に関する知識や知見をある程度選抜して公表している節がある)

 ラルは以前から疑問が一つ生じていたのだ。
 ティル・ナ・ノーグが戦技・教育機関であることは何度も聞いた話で、そこでは最先端の魔法についての教育をしていると。
 かと思えば、固有魔法について妙に口止めを行い、今回の事のように周到に用意をして情報統制を行っている。
知識や技術を広めたいのか、それとも統制して秘匿したいのか、よくわからないのだ。とてもちぐはぐで、理解しがたいものである。

 まあ、これについては完全に地球連合の抱えるオカルト面の事情、そして経験則から得た教訓がかかわるから仕方がない。
まさか魔法が系統や性質こそ違えどもありました、などと言えるわけがないのだ。裏の世界において秘匿されるべきという、ストパン世界とは違う事情があった。
 また、研究の結果得られた情報やデータなどを、いたずらに広めすぎるとどういうことが起こるかというのを、地球連合はよく理解しているのだ。
ともすれば、拡散した情報は、特に先進的な情報や技術はあらぬことを引き起こすのである。
知識に罪はない、と言われるかもしれないが、それを使う人間は間違いを起こすこともあるし、何をしでかしてもおかしくない。
まして、最先端の技術に触れた結果、功名心などから倫理観を無視した行動に出てしまうことはあり得るのである。

 だからこそ、地球連合では開示する情報を選び抜き、濫用されないように注意を払っている。
その経験や知識がないストパン世界からすれば、奇異の目で見られることは確かであろう。

「と、終わりか……」

 やがて、制限時間が終わると、羊皮紙は勝手に燃え上がり、灰ひとつ残すことなく燃え尽きた。
 誰かが書面を読むことであらぬ情報や憶測を抱くのを防ぐためのフェイルセーフ。
 シーリングに込められた、最後の術式が機能を発揮したのだ。

「……」

 これで、雁淵ひかりについての最重要な情報はラルの頭の中にしか残っていない。
 迂闊に漏らすな、と釘を刺されたのだ。こちらから何かを言い出すことはないし、言えない。
 通信やほかの方法では危険が伴うからこその、古風な紙を用いて、証拠を残さないようにして情報の漏洩を防いだ。

(……また、エディータと話し合うことが増えたな)

 深いため息がこぼれ出る。
 これは、迂闊にしゃべれないことだというのがわかる。ヴェルクマイスター大佐が、地球連合がかかわり始めてからずっとこれだ。
疲労が、特に心労がたまって仕方がない気がするのだ。本格的に癒しが欲しい。ラルは切に願った。
 だが、502JFWの抱え込むことになる苦労がまだまだ序章にすぎないことを、彼女は知らない。
 知るのは、エネラン戦略要塞のリーゼロッテばかりであった。

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最終更新:2023年11月03日 11:03