640:陣龍:2023/01/04(水) 18:26:38 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『Nightmare Chase ~悪意の奔流、最後の足掻き~』



「……ふぅぅー……なんとか、なったかな……」


 トレセン学園の遥か上空宇宙の彼方、機神デメテル。諸事情の末この領域へ招待されたトレセン学園関係者のヒトミミやウマ娘らが、
それぞれ騒めいたり様々な表情と言葉を周囲と交わし合う中、トウカイテイオー号は“おともだち”さんの誘導にて脱出路をひた走るゴーストウィニング、
そして其の背に背負われるニシノフラワーの手によって配信されているウマウマ生放送を見つつ、一人呟いていた。


 情報の行き違い、警告の不足と言うヒューマンエラーによって知らず知らずのうちに異界と化したトレセン学園に降りてしまったウマ娘二名は、
降りる直前に配布されたPVMCGの信号が断たれている事も有って転送による脱出も出来ないまま生身で異界の空間を走っていたが、
その死に関する経緯からなのか葦毛でも無いのに気に掛けて来る“おともだち”さんの誘導と、
そして異界に呑まれた化け物を見て腰が抜けたニシノフラワーを背負ったが為に、
騎手が騎乗した感覚を想起させて良い意味で【大暴走】を始めたゴーストウィニングと言う組み合わせの為に、
所々に現れる[化け物]を全く意に介さず安全に回避を続けていた。どちらかが欠けていたら、
ゴーストウィニングとニシノフラワーの危険性は段違いに跳ね上がっていただろう。



「所でテイオー」
「ん?どうしたの、セイウンスカイ?」
「私ら、トレセン学園に傍迷惑なテレビとか変な運動家が押し寄せて来たから此処に退避って聞いたんですけどね」
「うん」
「……今、ゴーストとフラワーを追いかけている『人では無いナニカ』について……一体どう言うモノなのか、知ってますよね?
怨霊とか、怪異とか、どう言う事なんです?」
「うっ……」


 普段の飄々とした態度とは全く違う、真剣にトウカイテイオー号を見据え、一言一句嘘は許さないと言う態度で質問するセイウンスカイ。
明らかに『人間』が悪戯や脅迫目的で仮装でもして脅かしているのとは、画面越しですら本能的に違うと強制認識させる明白な【異物】感。
心の底から可愛がりまた自分を慕ってくれる大切な後輩、そして普段は全く目を離せない隙だらけな癖にターフに立てば別人の如くやたらに強い、
歯抜けだらけの新しい友人。何事か出来るかどうかは別として、先輩として、友人として、見過ごせる話では無かった。

 対するトウカイテイオー号は、直ぐに返答する事は出来なかった。今現在トレセン学園が異界化している原因は対州がこの世界の
何時もの我儘勝手で無責任な連中に激怒した結果であるが、だからと言って真相を全部何も知らないこの世界のウマ娘、
それも未成年の学生に言える筈が無かった。異界化後に二人がトレセン学園に戻ったと言う想定外のイレギュラーも、
それはあくまでトウカイテイオー号達に取っての都合と理屈である。

641:陣龍:2023/01/04(水) 18:27:35 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

:アー揺れが収まって来たオロロロr
:吐いてんじゃねーよオロロロr
:まともにやりなさいよ!いやコメなら何でもええけどさ!怖いよ!
:元気なのかどうなのか分かんねーなオイ
:止まった
:ん?あれ、どうしたのゴースト
:おーい!止まると危ないって!早く脱出!!

『ゴ、ゴーストさん?どうしたんですか?』
『……ねぇフラワー。何か、聞こえない?』
『え?……何が……ですか?』
『……車の、スキール音』


「ちょっとちょっと!二人共遊んでいないで!」
「いやネイチャさん、私は別に遊んでなんか…」
「今ゴーストが止まってる!何か有った見たい!!」





「スキール……音?」
「うん……」

;トレセン学園に車のスキール音?あそこそんなに広かった?
;いや普通に無い…いやでもこのわけワカメ空間じゃな…
;警察か自衛隊が戦車か装甲車で突入したんじゃね?!
:そうなら早く保護してやって貰いたいぜ…心臓が10回は止まってるんだから
:成仏しr…いや絶対するなよ言霊で本当に死んだらどうする
:スマン、ふざけて無いと叫びそう
:俺はとっくに叫びまくって家族と隣近所召喚して全員ライブ視聴だぜ(゚∀゚)アヒャ


 異界化したトレセン学園敷地内。ループする領域を“おともだち”さんの誘導で巧みに回避し、
迫りくる化け物を触れさせも近寄らせもせず、時々簀巻きにされ注連縄で縛り付けられたヒト型を
踏みつけながらも競走馬時代さながらの速度で疾走していたゴーストウィニングが、
唐突にその走りを止めて静止。そして呟いた『車のスキール音』だが、
異界に呑まれた侵入者の落とし物であるスマホから行うウマウマ配信を視聴する人々には、
その様な異音は聞こえなかった。



:テイオー号:ゴースト!?何で止まってるの!?
:なんかスキール音が聞こえるだとか
:ワイらヒトミミ勢には聞こえん模様
:ウマ娘は耳が良いからなー

「あ、テイオー」


 そして背負っているニシノフラワーが持つウマホに流れたハンドルネームを見つけたゴーストが、
何事か言おうとした。……その瞬間だった。


――――キュルルル……

「あっ……あぁぁー-!!?」
「ゴーストさん!?」

:テイオー号:ゴースト!?ゴーストどうしたの!?
:ちょ、オイ、行き成り倒れた!?
:スキール音が聞こえた途端にか!?
:おい一体なにが起きた
:ネイチャ:ゴースト!しっかりしてゴースト!!
:スカイ:ゴースト!フラワー!お願い、返事をして!!

642:陣龍:2023/01/04(水) 18:29:15 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 突然の絶叫、そして倒れ込むように蹲るゴーストウィニング。ウマウマ生放送で流れる映像は
地面のアスファルトとゴーストウィニングの左手の一部だけであったが、必死に呼び掛けるニシノフラワーの声と、
異様に荒い呼吸を繰り返して返答をしない、出来ないゴーストウィニングと言う音声は流れていた。どう考えても異常事態である。



「はぁ、はぁ、はぁ、いや、いやだ、いやだ……」
「ゴーストさん!ゴーストさん、しっかりして下さい!!」

:花舞 神流:ああもう、やっと繋がった!ゴースト!しっかりしなさい!
:スカイ:ゴースト繧ヲ繧」繝ングの馬主さん!?
:来るの遅いよ何やってたの!?
:花舞 神流:トレセン学園に来た馬鹿連中がゴーストの居た牧場にも少ないけど押し寄せて来てたの!
そいつら警察と創造主ティアマト様とで追い返してたら時間喰った!
:あの連中ホント余計で碌でもない事しかしねぇな!?
:ティアマト様って誰だ!?
:花舞 神流:ゴースト!私の書き込み見える!?見えたら返事をして!!
:ちょ、スカイちゃん文字化けしとる


 普段であれば全く何てことの無い筈のスキール音で情緒不安定に陥るゴーストウィニングの所へ、
漸く面倒ごとを片付けた元馬主にして現親代わりの立場にある、インフルエンサーにして辣腕投資家な『花舞 神流』が参入。
尚、書き込みこそ彼女が行っているが、ウマウマ生放送は牧場でゴーストウィニングを育てた調教師や牧場主夫妻らも、
従業員含めて目を見開いて口々に叫んだりしながらパソコンやスマホを視聴している。


「……あ、主……さん……?」
「ゴーストさん!よ、良かった……」

:そういやずっとゴーストウィニングってフラワーちゃん背負ったまんまだ
:OK,ゴースト覚醒確認、ヨシ!
:どこがヨシ!だよコラ
:花舞 神流:気をしっかり!みんな見てるよ!
:テイ繧ェ繝シ蜿キ:早縺冗ォ九▲縺ヲ! 譌ゥ縺上?繝?け繧、繝シ繝ウ縺ョ謇?縺ォ??シ
:ちょ、幾ら何でも書き込み文字化けがおかしいぞ…
:何が起きてるんだ一体…
:知らん、俺の管轄外だ
:てか既に警察とかにもこの生放送の通報行ってるのに警察未だ突入して居ないのか?



 テイオー号の書き込みが完全におかしくなり、そして書き込みによる呼びかけとニシノフラワーの必死の声掛けで、
何とか最低限の落ち着きを取り戻し始めたゴーストウィニング。混沌の中に有りつつも、
一瞬の安堵した空気が漂った……その時だった。




「――――ミツケタヨ」

「……な……あ……」
「ヒュ……」


 場違いに何処か朗らかな女性の声、しかし地の底から響く怨念の塊。顔を上げたゴーストウィニングとニシノフラワー、
そしてウマウマ生放送の視聴者の目に映ったのは、【人面車】とでも例えれば良いのか分からない、
長方形の物体に無数の手が張り付き、伸び、そして二人のウマ娘を狂った微笑みで見据えた、
部分部分が剥落して窪んだ瞳を持つ、今まであしらって来た連中とは格の違う【怪物】だった。

643:陣龍:2023/01/04(水) 18:30:53 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

:花舞 神流:ゴースト逃げて!早く!!
:――――:―――――――――――――
:ゴーストウィニング逃げて!超逃げて!
:文字化け通り越して最早何開店のか分かんねぇ
:何なんだコレは!?どうすればいいのだ!?
:警察でも自衛隊でもティ連でも誰でも良いから早く来て下さいお願いしまう!

「逃げ……そうだ、逃げ、逃げないと……」
「ゴーストさん!ゴーストさんしっかり!」


 先程迄の元気溌剌な疾走振りは最早影形も無く、全身が震えだしながらもなんとか立ち上がっては
少しずつ後ろへずり下がるのが精一杯なゴーストウィニング。自身の本能が告げていた、
今目の前に居るのは『あの日』の悪夢で有る事を。自らが『こう(ウマ娘に)なる』根幹の、
あの馬運車強奪、横転炎上した日。



「――――オマエノセイデ、【カゾク】ガ、キエタ、【カゾク】ガ、シンダ。ゼンブ、ゼンブ、オマエノセイダ。
ツグナエ、ツグナエ、ゴーストウィニング」

 数か月前、URA、JRAら競馬、ウマ娘関係者のみならず、警察にも激震を走らせ、
惨劇と被害の余波の余り世間から流石にどうしようもなさ過ぎると同情されて居ながらも『ケジメ』として、
最後には国家公安委員長と警察庁長官が共に自主的に辞職する事態にまでなった前代未聞の暴走事件。
あの時の血族が、ゴーストウィニングに対する【正義の報復】に来たのだ。唯の八つ当たり以外の何物でもない、
自業自得でしか無いと言う正論は、通じる筈も無かった。



「……っ、何が、何が【償え】だってっ!?訳分からない事叫んで車奪って鞍上殺して置いて、
私に何を【償え】って言うの!恨むなら奪って殺した犯人の方を恨みなさいこのすっとこどっこい!!
こっちがアンタになにをしたっていうの!?」
「ゴ、ゴーストさん!?刺激したら駄目です!!」

:正論右ストレートォ!!
:その通りだけど今問答している場合じゃねぇ!!
:てかテイオーちゃんやスカイちゃんらの書き込み消えたんだけど通信不良か?
:花舞 神流:10割その通りだけど今それどころじゃ無いでしょゴースト!!


 普段が普段なだけに全くそうと思われて居ないが、競争馬ゴーストウィニング号の頃から一着を取り続けていたように、
その実根底の闘争心や反骨精神は並々ならぬモノを持って居るゴーストウィニング。自身の事だけなら兎も角、
その不条理な物言いが自らの大切な人々へと掛かってくるとなると、黙って震えていられるだけに終われなかった。


「――――ナニモ」

「……は?」


 そして一瞬で燃え上がった憤怒の怒りは、余りにも自然で感情の入っていない一言で斬って捨てられた。

644:陣龍:2023/01/04(水) 18:32:53 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp




「お……おば……お化け、けっ、け……」
「スイープさんしっかりして下さい!!」
「キタちゃん!早く横にさせないと!」
「うっ、うん!」

「なっ……なっ、な、なななな、今、今のはなんなんデスカー?!」
「怖い……グラスちゃん、怖い……っ!!」
「ぽこっ……ポコッ……ポコ……」
「……大丈夫です、二人共……私が居ます」
「グラス、エルの事忘れないで下さい!!本心からお願いします!!」

「マ、マヤ、マヤ分かっ、分かっちゃ、ワカ、ワカカ…」
「マヤノー!?駄目、コレは絶対分かっちゃダメー!…あっ、そうだ!ブライアン胸元明けて!
マヤノを気付けに突っ込むから!」
「おい馬鹿やめろ!お前は何を言ってるのか分かってるのか!?」



 ところ変わって天空の彼方なデメテル。トレセン学園のゴーストウィニング逃亡劇を各々が知って
それぞれウマウマ生放送を視聴し不安げに見守って居たら、明らかに別格の【怪物】が出現した事、
そしてその恐怖の塊を画面越しとは言え直視してしまった事で大混乱に陥るトレセン学園生徒達。
混乱具合に関してはトレセン関係者ら大人勢も大同小異であるが。



「……馬の方のテイオー!そっちはどう!?」
「全然駄目だ、書き込めない!」
「私の方も!送信してもエラーメッセージしか出て来ない!!ウマホでも同じ!!」


 その混沌の中、ウマ娘のセイウンスカイとナイスネイチャ、そしてトウカイテイオー号は突如書き込みが
文字化けを始めた挙句に送信出来ない事態に悪戦苦闘していた。
因みにフラワー友達であるミホノブルボンはこの手に関しては無力の為、心配そうにウマウマ生放送を見つめるしか無かった。


「~~~~っ!行き成り書き込めなくなったのは……やっぱり、あの【怪物】のせいかな」
「恐らくそう……。余りにも異界の気質が強すぎて、【あれ】が意図して通信を遮断しているとしか」
「うにゃぁああー-!!もどかし過ぎる!頑張れーって伝える事すら出来ないなんて!!」


 本来であれば、リアルタイムで地球側の通信も行えるはずが、原因不明でPVMCGもエラーを吐き続けて
受信は出来れど送信が出来ない不可解な状況。考えるまでも無く、
PVMCGが揃いも揃って壊れる超常現象が起きていないのならば、先程出現した【怪物】が原因なのは簡単に予測が着いた。



『何も……って……』

『――――私は、祖母、母、皆に正しき教えを受けた。私の行為は、絶対の正義』

:口調が普通になってんぞ…
:コイツリアルガチの『空っぽの悪意』タイプか!?
:正気のまま狂って化け物になった…って事!?
:環境が生んだ化け物!環境が生んだ化け物じゃ無いか!ふざけるなぁぁ!!
:花舞 神流:妄言吐くんじゃ無いわよこのクソッタレ!!ゴーストに手を出したら絶対許さないわよ!!


「……なんでこんなのが居るのさ」
「あぁぁぁー-!もう見てらんない!スカイ、私達も降りよう!!」
「……ネイチャさん、落ち着いて下さい。私らが下りた所で、出来る事有りませんよ」
「そっ……それは、そうだけ、ど……!」


 そんな状況を知ってか知らずか、自らの行為に対する独白をする【怪物】。言葉そのものは少なかったが、
それだけで十分であった。トウカイテイオー号が最初に現れた世界の、
第三次世界大戦を引き起こした連中にある意味勝るとも劣らない、恐ろしい存在だと言う事が分かるだけで十分だった。

645:陣龍:2023/01/04(水) 18:34:37 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


:花舞 神流:スカイ!ネイチャ!この書き込み見たら私の携帯に指示を送って!!こっちで書き込むから!!

「あっ、そうか!その手が有った!何で気付かなかったんだろう!!」
「えっ、二人この人と知り合いなの?」
「ゴースト繋がりで知り合ったの!心配だからってのも有ってね!!」


 そしてセイウンスカイらの書き込みが途絶した事を、何らかの事情で書き込めないと看破した
ゴーストの元馬主現母代わりより書き込みを見て即応したウマ娘二人。


:不味い動いた!
:ゴーストよけて!!

『不味っ……え』
『……釣り糸……?』


 状況は、更に動き出した。




「――――グッ……」

「えっ、えっ、ご、ゴーストさん、一体何が…?」
「……なんか、釣られてるね」

:化け物のリアル釣られクマーだ!?
:分かりやすいが意味分からんぜ!
:釣れるもんなんかアレ!?


 視聴者のコメントで流れた通り、蠢き出した【怪物】が動き出した瞬間、【怪物】の後方から突然飛んで来た釣り針が【怪物】を捉え、
頼りない筈の細い釣り糸が【怪物】の巨体を完全に引き止めていた。



:花舞 神流:好機だよゴースト!後ろを向いておともだちさんの誘導で逃げて!
:戻るの!?この状況で?!
:花舞 神流:アレの脇を抜けられない以上後ろに向かって前進するしかない!校舎でヤツを撒いて!
それがテイオー号とスカイちゃんらの指示!
:なんでテイオーに号が着くんだよ
:今はどうでもええわいそんな事!!
:ゴーストちゃん後ろをバックでエスケープ!ハリーハリーハリー!!

「な、なにがなんだか分からないですが、逃げましょう!」
「う、うん。そうだね……」


 何が起きているのか分からず困惑し切りだが、ウマウマ生放送のコメントで流れた指示通りに来た道を逆走する
ゴーストウィニングと背負われたニシノフラワー。その直後、憤怒の不協和音な咆哮を発した【怪物】に多数の薬品入り試験管が投げ付けられ、
回転式自動拳銃の発砲にて【怪物】の全身に謎の劇薬がぶちまけられたのだが、その頃には既に二人は遠くへ駆けだしていた。


「...フラワー...」








「いやあの流れなら普通相当離れている筈だよね!?なんでこんなに直ぐに追い付こうとしているのさ!?」
「いやぁぁぁー!!どうしてこうなるんですかー!?」

:どうしてこうなった!どうしてこうなった!どうしてこうなった!
:あの化け物何か光り輝いていて余計にキメェんです!
:あ、ウチの妹と近所の姉ちゃん化け物がキモ過ぎて気絶した
:花舞 神流:異界の極小範囲多重構造突破に時間掛かるって丸で意味分かんないけど兎に角ゴーストはもう少し頑張って逃げて!
:はい不安要素追加有難くないで御座る!!
:花舞 神流:こっちだって言いたくないよ!!

646:陣龍:2023/01/04(水) 18:36:47 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


 何者かの助力で【怪物】から離脱したと思ったのもつかの間、闇夜を劈くが如きスキール音を轟かせながら
【怪物】が猛烈に迫って来ていた。ウマ娘、それもサラブレッド時代の能力が転化し最高クラスの速力を誇るゴーストウィニングが、
“おともだち”さんの慌ただしくも的確な指示通りに疾走する事で何とか急接近こそ避けられているが、
追走する【怪物】の執念は恐ろしいの一言だった。



「昇降口に来た!次は、屋上!了解屋上ね!」
「えっ屋上!?」

:ちょい待て屋上袋小路だろ!?
:待った待った待った、死にに行く様なもんじゃないか!?

「私は“おともだち”さんを信じる!そして生還したらお礼に故郷の牧場の葦毛シスターズ紹介する!カフェさんと一緒に!!」
「こんな時に何言ってるんです!?」


 階段を数段飛ばしに駆け上がりながら、自ら“おともだち”の誘導に合わせて出口の無い屋上へ駆けこんで行くゴーストウィニング。
興奮の勢い余ってかそれとも素か、唐突に言い出した『お礼』に付いて当の“おともだち”さんが
謎のサムズアップからのガッツポーズをしたように幻視したのは気のせいだったのだろうか。


「屋上着いたぁ!」
「ひゃぁぁ!ゴーストさん!後ろ!後ろ、もう追い付いて来ました!!」

:アカーン!!
:完全に退路が無い、退路がない!!
:こんな所でゴーストたちが終わるとか認められざれかるぞオイ!!
:自衛隊!自衛隊!警察官でも誰でも良いから二人を助けて!!
:神様仏様ティ連様!いや誰でも良い!何とかしてくれ!!


 そして閉まっていた扉を登り切った勢いそのままに蹴り明けて屋上へ飛び出た直後、狭い階段を強引に押し込んで
出口を破壊し追い付いてきた【怪物】。完全にバイオでハザードなタイプでのホラーゲームに最終盤頃で出て来る絵面である。


「え、ど、どう、どうするんですか!?もう逃げ場は無いですよ!!」
「……分かりました。ねぇ、フラワー」
「は、はい!!」
「しっかり掴まって、覚悟決めてね?」
「えっ?」


 勝ち誇った様に、所々が謎色に光り焼け焦げ、顔面や身体に弾痕が残り、そして口から左上へと引き裂かれた傷跡が残っている【怪物】の
何を言ってるのか聞きたくもないご高説を完全に無視し、ゴーストウィニングはニシノフラワーに一言だけ伝え。


「……一気に飛ぶよぉぉー!!」
「ひゃぁぁあああー-!?」

「――――!?」

:飛んだぁ!?
:ここ屋上だぞオイ!!



 驚愕し動きを止める【怪物】、書き込みも追い付かず絶叫する視聴民。だがゴーストウィニングを誘導していた“おともだち”さんが、
何も考えず、何も準備せずに二人を飛び降ろさせたりする筈が無かった。

647:陣龍:2023/01/04(水) 18:38:27 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「ひゃぁぁぁー……あれ?」
「……やっぱり凄いなぁ、おともだちさん」

:ほ、保健室?
:無事?二人共無事?
:ヤツは?ヤツは降り切れたの!?
:花舞 神流:……心臓に悪いわ


 地面に叩き付けられるかと思ったその刹那、目を見開けば居るのはトレセン学園の保健室。
異界化は間違い無く侵入者たちを化け物に、そして【怪物】へ変貌させる悪夢を生んだが、
その状況を逆利用した“おともだち”さんはループ機能を流用し、現状比較的安全であるトレセン学園の保健室へと二人を送り込んだのだ。
この神業を見た“おともだち”さんの親友であるマンハッタンカフェが、“おともだち”さんを尊敬の目で見ていたのは言うまでもない。


「……疲れた……ちょっと休もうか」
「そう……ですね……」


 流石に、殆ど息を入れる事無く、それも如何に軽いと言ってもニシノフラワーを背負って走り回っていたゴーストウィニングである。
レースの様に整備されたコースでは無く、ランダムに道を急旋回や急停止、急加速を繰り返して走っていては、
長距離が得意と言っても限度があった。ニシノフラワーだけでトレセン学園に降りていたら、極めて危険な事になっていた事は目に見えていた。


「……助けは、何時来るんでしょうか」
「……それは分からないけど……あの【怪物】の目的は分かった」
「目的……?」


:目的?
:そりゃゴーストウィニングに危害を加える事…
:何にしても碌な事じゃねぇな…



「根底に有るのは、不快の抹消、抹殺、削除。異物の排除、撤去、消滅」
「こ、怖い言葉ばかり……」

:おう左巻きやそれに連なる人権団体()の常套手段やんけ
:連中そういやティ連の威を勝手に借りて焚書とかさせようとしてたな
:ティ連『カエレ!』


「……それらの、一点の標的。それが私」
「……そんな」

:クソ理不尽()
:人権がどうのこうの言いつつ行動はナチと同類やしなぁ
:言い掛かりでやらかしても正義面、無敵の人権団体様でござーいwwってか。クソが



 ストレートな害意の山に暗い顔になるニシノフラワー。直接背負われて直感的に分かったが、
ゴーストウィニングは本質的に人好きの馬そのままな状態で何も変わっていない。
人間世界の一方的な理屈、理論での迫害を受けて良い存在等、居ていいハズが無い。
そんな当たり前も分からない、分かろうともしない存在が居ると思いたくなかった。



「そして、この異界化したトレセン学園は、【ゴーストウィニング】に取って、最悪の環境」
「……えっ?」
「私の『ウマソウル』は、たった数ヵ月じゃ【ウマ娘 ゴーストウィニング】に定着し切って居ない。
学園に来てから、口調が安定して居ない。このままだと、【剥がれてしまう】かも」

:はい?
:?????
:なんぞ哲学話け?
;花舞 神流:……よりによって、こんな時に



 ウマソウルだのなんだのと言われて疑問符が量産される一般視聴民に対して、その言わんとする事を察した花舞 神流と、
現在機神デメテルにてその言う意味を理解し天を仰ぐトウカイテイオー号。何のことは無い、
異界は先の侵入者の如く全てを引き摺り込み、呑み込んで行く。それがウマ娘へ、ウマソウルへと手が及ばない理由など存在しない。
……それだけの話である。


「えっと…よ、良く分からないですけど大丈夫です!ゴーストさんには、スカイさんやネイチャさん、それに学園の皆が居ます!!」
「うん、ありがとう。でも…この【異界】は、容赦無いから、ね…」
「っ……」
「【タイムリミット】は私にも分からない。誰にも分からない。だけど……」


―――――――――【カチリ】と、歯車が動き出す。




「……何時までも、この【異界】には居られない」


 ……表示器が壊れ、何時【カウント・ゼロ】になるか、誰にも分からないタイマーが動き出す……

648:陣龍:2023/01/04(水) 18:39:53 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 因みに実際のネタバレとしては


思い出「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラァ!!!」
記憶「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタ、ホアタァ!!!」
ウマソウル「アリアリアリアリアリアリアリアリ、アリーデヴェルチ!!」

異界(四散分裂微塵消失)


 僅か数ヵ月、されど数ヵ月。色々と濃すぎるトレセン学園の生活の記憶が、たかが即席異界の浸食如きに負ける道理が有る筈も無かった。
つまり唯の杞憂でしか無いのだが、こんなオチなど異世界側含め誰も想像だにしていないのだから仕方が無い。

 そう、仕方が無いと言う事にして置こう。

649:陣龍:2023/01/04(水) 18:42:33 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) 以上となります、悪いのは先月勤務交代で夜勤七回なって新年は毎年の如く早番夜勤してたからだ(責任転嫁)

|д゚) …本ルート構築され奉りて御座る635氏の反応が恐ろしく思いまするので取り合えずむっちゃんの第三砲塔で焚火して来まする(点火)

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最終更新:2023年01月14日 10:05