830 :フィンランドスキー:2012/02/26(日) 04:17:26
本駄作は、yukikaze兄貴の『九六式戦闘機七二型』でのエピソード
提督たちの憂鬱 設定スレ その9 →305-306 をパクッて・・・
ゲフン、ゲフン! 失礼しました。
『九六式戦闘機七二型』でのエピソードにインスパイヤを受けたオマージュですっ!





  ~ インスパイヤ&オマージュ ~

時は、ハワイの無血開城から戦火の火点が北米大陸へと移っていった春先の頃・・・
その夜の夢幻会の会合は、ピリピリとした緊張感と浮ついた雰囲気がブレンドされた
奇妙な状況にあった。
そんな中で、帝国の総理大臣である嶋田は楽しい様な、それでいて心底困った様な
微妙な表情で、つづく言葉を吐き出した。

「まさか、ここでダイムラーベンツが接触を図ってくるとはな・・・」

事の発端は、トルコ共和国への九六式艦上戦闘機のライセンス生産であった。
日本政府は輸出したマザーマシン等の設置と技術指導を兼ねて、三菱から技師(+護衛)を
トルコへと派遣していたのだが、そこでなんとダイムラーベンツ社のエージェントを
名乗る者が接触してきたのである。

実は、トルコは日本に接近する一方で、ドイツにも政治的アプローチをかけていたのだ。
ドイツとしてもソ連と国境を接するトルコを軽視できず、有償ではあるが格安な価格で
戦闘機の提供を開始していた。
しかし、ここでまた憂鬱世界は史実と異なる歴史を紡ぐことになる。
史実では、ドイツからトルコへ提供されたのはFw190Aなのだが、ここ憂鬱世界で
Fw190はアメリカ侵攻に際して、その整備性の良さから主力戦闘機として採用され
その性能も相俟って非常に重宝されており、他に回す余裕がなかったのである。
そこでドイツが提供したのは、BOBで使用されたBf109Eの中古品であった。
対英戦が史実より早期に終結した為、比較的状態の良い機体が数多く残っていたから
なのだが、ソ連の頑丈な戦闘機を相手にするにはBf109E、それも初期型の武装では
貧弱すぎ、また航続距離の短さが侵攻作戦において致命的であった為、ルフトバッフェでも
持て余していたのだった。

そんなこんなでBf109Eが提供されたのだが、さすがにエンジンであるDB601は
非常に高度な整備技術が必要となるため、これを指導する技師も同時に派遣されていた。
もちろん、トルコとしても日独の不仲は理解しており、両者が極力ニアミス等しないよう
細心の注意を払っていたのだが、それを掻い潜ってのダイムラーベンツ社の接触であった。

「それで、ダイムラーベンツの目的は何なんです?」

金儲けの為ならファシストだろうが空飛ぶスパゲッティ・モンスター教徒だろうが
関係ないと豪語する大蔵省の魔人こと辻の静かな問いかけに、思わず顔を引きつらせる
三菱の代表だったが、彼もこと商売に関しては負けていない。

「あちらとしては、三菱(ウチ)との技術交換を希望するとのことです。
 あくまで、お互いの政府には内密でということで。
 具体的には九六式に使用されている過給機やそのラジエーター関連の技術を
 欲しているようですが「その引き換えは?」」

辻の素早い切り込みに、顔面の痙攣が強くなるのを感じながらも
三菱の代表は何とか答えを返した。

「あちらは流体継手の技術を提供する準備があるとのことです。」
「「「ほう・・・」」」

嶋田をはじめとする技術に詳しいメンバーの間から感心したような声があがった。

「さて、最初の取引ということで様子見なのかどうなのか・・・
 嶋田さん、技術的な取引としては妥当なのですか?」

細かい技術的な件に関して、あまり明るくない辻は嶋田の意見を求めた。

「悪くない取引だとは思いますよ・・・ でも何故、あちらの要求は
 <流星>の過給機ではなく<金星>のなんでしょうか?」

831 :フィンランドスキー:2012/02/26(日) 04:18:36
確かに、ダイムラーベンツ社の主力といえば、DB60X系に代表される液冷エンジン
であった。とするなら、同じ液冷エンジンである<流星>の過給機システムを知りたいと
いうのなら、まだ納得もできるのだが、空冷星型エンジンである<金星>のものを欲する
理由が理解できなかった。そんな頭上にハテナマークを浮かべる面々に対して、三菱の
代表が説明を加える。

「ダイムラーベンツとしては、Fw190の・・・
 BMWの躍進に脅威を覚えているようです。」

この憂鬱世界の欧州では、大型爆撃機による戦略爆撃のというものが行われておらず、
特に戦闘機のドッグファイトは未だに高度20,000ft(約6,000m)以下で
行われるのが通例であった。
この為、史実でフォッケウルフ社の政治力の弱さやその高高度性能の低さにより、
ドイツ空軍の主役になり損ねていたFw190が、北米侵攻での実績を買われ
一躍脚光を浴び始めていたのだ。さらにはルフトバッフェの一部には、発展性の少ない
Bf109に替え、Fw190を主力機に据えようとする動きさえあったのである。

「なるほど、Fw190が主力になればBMWも躍進する・・・
 ダイムラーベンツとしては面白くない訳ですな。」
「しかし、ここにきて<金星>の過給機システムを欲しがる所をみると
 ダイムラーベンツ社も空冷エンジン開発に舵を切ってきたのでしょうか?」
「もしくはBf109に見切りをつけたか・・・」

そんな議論が進む中で否定的な意見も出てきた。

「今後、ターボプロップエンジンやターボジェットエンジンが主力になる以上
 新たなレシプロエンジンの技術が必要なのか?」
「そうですよ、そもそも日本製マーリンがある以上、今更ダイムラーベンツのエンジンは
 必要ないと思いますが。」

「確かに軍用レシプロエンジンとしてマーリンが優れているのは事実ですが
 DB60X系のエンジンが劣っていると言う訳ではありませんよ。
 むしろ民需に転用できる技術としては、あちらが有用な部分も多々有る筈ですし。」

嶋田がその意見をやんわりと否定すると、三菱の代表はわが意を得たりと頷く。
そして、近衛が政治的観点から意見を補足する。

「それよりも軍需寄りとはいえ、ドイツの民間企業が接近してきたのは無視できないだろう。」

そう、ナチス・ドイツとは別にヒトラーが打ち立てた独裁国家と言う訳ではない。
一応とか建て前上とか付くかもしれないが、選挙によって選ばれた国家社会主義ドイツ労働者党
(NSDAP)による、民主主義国家なのだ。
それも考えると、政府上層部を飛び越えてドイツの民間層と関係改善を進めてみるのも悪くない。
いずれナチス政権が倒れた折などには、日本とドイツの過去の遺恨の責任を全て押付けるというのも
一つの政治的手段である。

「しかし今回の件、バックにそのナチスが存在するのでは?
 ダイムラーベンツといえば、NSDAPとの繋がりも強いはずです。」

陸相である永田が慎重を期する態度で懸念を示したのだが、それを辻が軽い一言で片付ける。

「いたらいたで別にかまわんでしょう。要は帝国に益のある取引であれば・・・
 いえ、取引にすれば良いのですから。」

そう言って、辻は唇の形をこういう場面でお決まりの怪しい笑みの形へと変える。
しかし、いつもの腹黒い辻のはずなのだが付合いの長い幾人かは、その微妙な表情の変化に
気が付いた。そしてその幾人か達は一瞬の内に視線での会話を追え、次にその視線を
嶋田の元に集める。曰く「「「(おまえが訊けよっ!)」」」

832 :フィンランドスキー:2012/02/26(日) 04:20:04
思わず内心でため息をつきながら、嶋田は何気なくを装い辻に問いかけた。

「というと、この取引を別の手段として利用するのですか?」
「えぇ、今私の方で英国と九六式,九七式のライセンス生産の交渉をしているでしょう?
 ここに来ても、あのジョンブル共は、値引きで食い下がりやがりましてね。
 まったく、しつこいというか粘り強いというか・・・」

そういって、あの辻が表情を歪めるのだから、まさに腹黒紳士の面目躍如であろう。
とはいっても英国にも英国の事情というモノがある。それを嶋田が指摘する。

「いくらあの英国でも無い袖は振れないのでは?」
「ご冗談を。たしかに政府や軍に金は無いでしょうが、仮にもロイヤルの名を冠したお国ですよ。
 王室やら貴族様やらの金庫は、まだまだ暖かいはずです。
 だいたい、マーリンのライセンスを買った時、いくら吹っ掛けられたかお忘れですか。」

そう言われると、軍や企業の人間も黙るしかない。しかし一方で、スターリンに続いて
辻の犠牲者となる英国のやんごとなき方々に彼らができることと言えば、そっと心の中で
手を合わせることだけだった。
まあ、これでドイツからは優秀な技術を、英国からは更なる金や権益を入手できるのなら
帝国に損はないはずである。会合の出席者達も特に反対する者はいなかった。

「それでは、このドイツ・・・ダイムラーベンツとの取引を、英国との価格交渉に利用するとして
 その情報をどうやって英国に流す?」
「それなら、こちらが特に何かする必要はないでしょう。あちらの優秀な諜報員が勝手に
 掴んでくれますよ。いや、もう既に掴んでいるかもしれません。
 ですから、これは価格交渉ではなくて、あちらの自主性におまかせするだけですよ。」

近衛と辻が黒い笑みを浮かべながら話をまとめているなかで、嶋田も永田や杉山らと
意見を交換する。

「しかし、独ソ戦を利用してソ連から資源を巻き上げ、今また英独を利用して・・・
 もう、何と言うか・・・ハァ・・・」
「悪の秘密結社の面目躍如じゃないですか、首領の嶋田さん。」
「まぁ、流体継手の技術は今後の陸上兵器の発展を考えても是非欲しいからな。
 現物からコピーするのとノウハウを含めて入手できるのでは訳が違う。」

嶋田も気を取り直し、自分の役割を果す。

「では、トルコの護衛の数を増やしたほうがいいですね。最悪、この取引を強引な手段で
 妨害してくることも考えられます。田中さん。」

情報部の田中局長は頷くだけで静かに同意の意を示した。嶋田はそれに頷き返すと三菱にも
釘を刺すことを忘れなかった。

「三菱さんも相手がドイツである事をくれぐれもお忘れなく。この取引が国民ばれたら
 それこそ三菱財閥の信用に関わりますよ。」

この警告に、三菱の代表は顔に緊張を浮かべながらも、しっかりと答えた。

「無論、リスクは覚悟の上です。それだけ、ここでドイツから得られる技術と信用は
 わが社のみならず、帝国の益になると信じております。」

嶋田は、この三菱代表の宣誓ともとれる言葉に頷くと、視線で近衛に最後の言葉を預けた。

「では会合は、三菱とダイムラーベンツの技術交流を認めるものとする。」
「「「異議なし。」」」

こうして、夢幻会擁する憂鬱日本とドイツとの交流は、建て前上、民間の企業レベルではあるが
始まっていくことになるのである。

その先にある未来がどういったものになるかを知る者は、既に夢幻会の中にはいなかった。

833 :フィンランドスキー:2012/02/26(日) 04:26:23
<蛇足>

そんな、三菱とダイムラーベンツの技術交流は歴史の表に出ることはなかったが
その痕跡はトルコの航空機の歴史上に、ひっそりと残ることになった。

九六式戦闘機七三型
  • 全長:10.55m
  • 全幅:11.30m
  • 全高: 3.54m
  • 空虚重量:3,450kg
  • 最高速度:587km/h 
  • 航続距離:1,180km/1,965km (増槽装備時)
  • 上昇限度:11,000m
  • エンジン:DB601E 液冷エンジン 1,350馬力×1基
  • 武装:20mm機関砲×2,12.7mm機銃×2

トルコにて製作された、九六式戦闘機のエンジンをDB601に換装した機体。
エンジン出力は本来の<金星>と比較すると控えめであるが、日本軍艦載機を
ベースとした良好な安定性と、DB601に装備されていた流体継手による
飛行高度に応じて最適な過給を行うスーパーチャージャーシステムは相性が良く
パイロットにとって非常に扱いやすい機体として知られた。

しかしこの機体が開発された経緯として、いくつか不可解な点がある。
まず、搭載されたDB601はE型と最新の物で、当時トルコに提供された
Bf109Eに搭載されたエンジンではない(Bf109EはDB601A)。
また、液冷エンジンのため増設された冷却器も、環状ラジエータという
1943年当時の単座戦闘機では他に見かけない代物が採用されている。
さらに、これらを格納するために機首部の延長と胴体部の再設計がなされており
これらは、明らかに当時のトルコの開発能力を超えたものであったため、
日本もしくはドイツの協力があったのではないかと噂されたが、両国政府とも
これを公式に否定している。

3機製作されたうちの1機は、エンジン部の工作ミスが原因による火災事故で
失われたとされるが、残った2機を駆ったパイロット達の評判は上々だった。
しかし、これらのラブコールに関わらず量産されることはなかった。


設定スレで、Fw190Dの話題が出たので、ついカッとなってやった、今は反省している。

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最終更新:2012年02月29日 21:49