68:モントゴメリー:2022/12/04(日) 21:35:57 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
フラッシュデッキ・カーニバル世界SS——盆踊りと反省会——

「どうすんだよ、これ……」

都内某所のとある寿司店に、上記の愚痴が響く。
時は昭和5年の夏。日本はロンドン海軍軍縮条約における「勝利」で湧き上がっていた。
各地で提灯行列が起こり、夏祭りと合同で記念盆踊りなども盛況である。
しかし、この店の空気はそんな世相とは正反対であった。

「…当初の作戦目標であった、重巡比率の対米7割は達成できました。そして、その成果を以て海軍内と議会の統制にも成功しつつあります」
「確かに最大の懸念事項であった海軍艦隊派と議会の統帥権干犯問題は史実と比べて大幅に弱体化・沈静化できた。
その点では我々は成功した。だけどなぁ……」

海軍将校の制服を着た男はそう言いながら鰺の握りを口に運ぶ。

「…大将、今日はワサビが強すぎるぞ。涙が出て来やがる」

ちなみに、この寿司屋は(今回も転生してきてくれた)北一輝さん監修の店であり「駆逐艦握り」を出す店として評判になっている。
駆逐艦握りとは、一言で言ってしまえば転生者たちが慣れ親しんだ平成・令和時代の握りずしである。
この時代の握りずしは、未だ江戸時代の名残りで一個の大きさが平成時代の2倍から3倍あるものであった。
それはそれで食べ応えがあるから良いのであるが、転生者としてはやっぱりあの大きさが一番食べやすいのである。
そこで、北一輝さんにお願いして平成風握りずしを出す店を出店してもらったのだ。
当初はその小ささから「ケチ」だの「みみっちい」だのと不評であったが、海軍士官が駆逐艦握りと名付けて宣伝すると広まり始めた(もちろん転生者の仕業です)。
従来の握りを「戦艦」に見立てて、小さい握りを駆逐艦に例えたのであるが、当時はワシントン軍縮条約の影響で駆逐艦の潜在能力が高く宣伝されていた頃であったので「新時代の象徴」として見られたのである。
また、北一輝もそう言ったクレームは予想済みだったので「一度の食事でたくさんのネタが味わえる」ことを前面に出した。
海軍や陸軍の兵站システムまで一部活用して日本中からネタとなる魚を集めたのである。
物流や保存技術が未熟であった当時として正に画期的であった。
さらに(やっぱり転生者の要請で)江戸時代以来の赤酢ではなく白酢を使っていることもプラスになった。
米を原料に使う白酢は、この頃はまだ高級感がある代物だったのだ。



閑話休題。
「……どうしてこうなったんだ」
「やっぱりアメリカの要求を容れたのが間違いだったのでは」
「だが航空巡洋艦の要求を受け入れる代わりに対米7割を呑ませるというのは『会合』で決定した前提条件だったじゃないか」
「その枠を戦艦まで拡大したのが間違いでしたね」
「その通りだ。何で戦艦まで拡大したんだ」
「空母保有枠を拡大させたいと欲が出たんですよ。ブラフのつもりでしたが、英国が強硬に反対してそこから会議の流れが制御不可能に……」
「それで場当たり的に各国の要求を調整していった結果がこれ、か…」

彼はとある新聞をテーブルに投げ出す。その新聞の見出しは——

『ロンドン条約における勝利! 戦艦2隻新造の見通し』

であった。

「国内世論は戦艦の新造に狂喜しています。…まだ何も決まっていないのに」
「そして海軍部内でも新造を求める声がドンドン増えております。正直、今の我々では抑え込めないでしょう」
「……嶋田さんがいればなぁ。せめて南雲さんでも居てくれれば何とかなったのだが」

——いや、それを言ったら、あの人たちがいれば軍縮会議でこんな「失敗」はしなかったか。

男は自分たちの力不足を痛感しつつ自嘲する。
以前にも言ったが、この世界の転生者たちは転生一回目の者が過半数である。
日露戦役以降には転生経験者も多く見つかって来たが、北一輝などの中堅層のみであり夢幻会会合に参加していた幹部クラスは未だ確認されていない。
そのため、端的に言えば「経験不足」でありそれが想定と結果の剥離を生み出していた。
現在会合の議長を務めているこの男も、「前回」では会合に参加資格がなかった中堅層上部の者であったが、運悪く、その役目を押し付けられていた。

69:モントゴメリー:2022/12/04(日) 21:36:34 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
「…ないものねだりをしても問題は解決しません。我々の力で何とかしないと」
「そうだな。幸い、ここのオーナーである北さんを始め、海軍の金田さんや航空機の倉崎さんなど技術系の実務者は比較的揃っている。彼らがその能力を発揮できるようにするのが我々の務めか」

男はそう言って思考を建設的な方向に振り向けた。

「それで、実際の所どうなる?」
「今の所、扶桑型と伊勢型の改造が有力視されてますね。16インチ砲の長門は論外、金剛型はその高速性能から除外…とされてますが排水量割り当てを1トンでも多く空母に振り向けるために若干小型である金剛型を除いている感じです」
「そうなると、4隻で7万トンが空母保有枠になるか……まいったなぁ」

この世界の扶桑型と伊勢型はいわゆる「憂鬱本編」世界と同一である。
これについてはかの世界でも転生一回目の者たちのみで達成できた歴史改変なので、こっちの世界でも何とかなった(長門型も同様)。
ちなみに、伊勢型戦艦は基準排水量3万7800トンなのでワシントン軍縮条約違反だが、隠し通している(やっぱり長門型も同様)。

「今回のロンドン会議で拡大させた空母保有枠が7万6500トンだから、ほとんど使い切っちまうじゃないか…」
「もっというとアメリカとイギリスは更に拡大されてます」
「……これさ、もしかして失敗してない?軍縮会議」
「幸い、アメリカ海軍は航空巡洋艦の大量整備を計画しています。更に日本が戦艦2隻を新造すると予想してあちらも戦艦4隻を航空戦艦に改装する計画が進行中との未確認情報があがっています」
「イギリスも規模は不明ながら日米に追随するつもりの様です」
「イギリスもアメリカも大恐慌の影響で予算不足だろうによくやるね。…我々も人の事は言えないけど」
「どうもその大恐慌の影響がデカすぎたようで、いわゆる『軍事ケインズ』で景気回復を狙っているようです」
「……やり過ぎたかな、大恐慌での荒稼ぎ?」
「…辻さんがいませんでしたからね。どうしても加減がつかめず、余計な恨みを多々買う結果になりました」
「……あれ、もしかしてこの国ヤバい?」
「一応、日英同盟は維持されてますが、『前回』の裏切りを考えますと油断はできません」
「……過ぎたことを言っても仕方ない。取り敢えず、航空戦艦建造に話を絞って議論を進めるぞ」

——こうして様々な失敗を重ねつつも、夢幻会会員たちは日本のために暗躍していくのである。

70:名無しさん:2022/12/04(日) 21:37:33 HOST:KD124215180046.ppp-bb.dion.ne.jp
アメリカは国内だけで航空郵便とかヨーロッパも国際航路でそれなりの民需はあるけど
日本も東京ー九州ー半島ー満州航路で需要を作れば民需も増えるか
後はドイツを見習って高校大学でグライダー倶楽部パイロットの裾野を広げたり
国内自動車レース開催で自動車用でもエンジン燃焼の研究を進めさせるか
満州油田とアメリカ並みの製油技術の開発でガソリンを精製しないと

71:モントゴメリー:2022/12/04(日) 21:37:34 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。

何とか「電波」を受信したところまでは書けたと思います。
(題名の盆踊りはひゅうが先生のアイデアをパクリました)
何とか憂鬱世界本編の空気を出そうと努力しましたがいかがでしょうか。

散々改装案を議論して頂いた上でちゃぶ台返ししてしまって申し訳ないのですが、この世界の戦艦は基本憂鬱世界準拠です。
改めて考えると、明治・大正時代は嶋田さんたち世代は主役ではありませんし、憂鬱世界はみんな転生一回目でしたからこれくらいの改変はやれるかなぁ…と。
でもどうしても調整能力が段々不足してくる(嶋田式潤滑油は偉大なり)ので、軍事優先になってしまいます。

……一番の理由は、昨夜の夢枕に憂鬱世界の扶桑姉さまが立って
「私、16インチ砲に換装される予定だったけど、結局最後まで実現できませんでしたね」
と言われたので彼女たちの16インチ砲を搭載させてあげたいと思ったことですが。

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最終更新:2023年01月15日 09:07