828 :2号:2012/02/23(木) 12:30:07
銀鬱伝を初めとした様々な設定を借りています。
いろいろネタにさせていただいた作者様に感謝を。
『ウォーリーを探せ』のようにネタを見つけてクスリとでも笑っていただければ幸いです。




夢幻会はカオスの世界を行くようです」超未来編



【宙京】特設ホール


厳かなセレモニーの中、この国の象徴たる皇家の当代、
モーニングの燕尾服を着た男性が手に持った文章を読み上げる。


「ここに慎みて、【大和】と命名す」


その言葉と共に宇宙空間に投影された巨大なクス球が割られ、一気に拍手と歓声が上がる。
会場のそこかしこに投影された空中アルティメットディスプレイには、
巨大な白い惑星とその周囲に遊弋する白い豆粒のような艦隊、
そして惑星の下に超恒星級機動戦艦【大和】というテロップが映っていた。


「やれやれ、ようやく1番艦が就役か。これで流星88艦隊計画も端緒についたか」
「そうですね。先頃退役した大遷都の際の惑星級移民船8隻の解体と改装、再生作業も順調。宇宙怪獣は・・・」
「不定期の遭遇戦がたまにあるな。単位が軍団規模だったりするが」
「ここ数百年ほどは何故かおとなしいとはいえ、宇宙怪獣には警戒する必要がありますからねぇ。
 ・・・もしかして滅ぼしに掛かって来るようなら超大型のブラックホール爆弾、
 銀河中心部で爆発させて心中するぞって、大規模祈祷で宇宙に向けて宣言したのが効いたんでしょうか?」
「・・・お前そんなことやってたのか?」


こいつ何やってるんだ、と『貞子』をジト目で見る。


「ははは、神祇院の【先詠】や【大宰相の預言書】に記された銀河帝国と同盟の事もありましたしね。
 その両者もこの式典に呼ばれて落ち着いたようですし、戦争になりそうにならなくてよかったですね」
「まあ人類との戦争、なんていう余計な事に気を取られずにまた奴らの対策に専念できるのはいいんだが・・・
 あれは・・・落ち着いてるって言うよりあきらめたって言うんじゃないか?」


グラスに入った水を飲みながらディスプレイを見上げる『貞子』を横目に嶋田はホールの一角を見やる。

そこには宇宙怪獣対策に最新兵器の配備が優先的に行われているために、
サジタリウス方面の軍備が500年前の兵器を改修しながら使っている旧式兵器だと知って呆然とする者、
自棄酒、自棄食いする者、頭をかかえたり掻き毟る者、
我関せずとニコニコしながらココアを飲んでいたり、
「セイバーだっ俺は日本に移住するっ」と喚いて金髪と赤毛に殴られていたりする凡人っぽい雰囲気の帝国貴族、
他にも馬鹿笑いしていたりお通夜状態だったりする同盟軍人、
夢幻会の人間が改変した宇宙戦艦ヤマトのテーマが流れ、それにあわせて合唱していたりとカオスになっていた。

見なかった事にして嶋田は続ける。


「裕子殿下が試験航海に同行される事になったから近衛艦隊からも人を出すって話は聞いたか?」
「ええ、私を初めとして近衛さんや東条さん、山本さんに南雲さんも乗ります。ちょっとした同窓会ですね」
「2億人近い人員で長期間航行し前線に向かう、ある種の移民船団に皇族の同行はどうかと思うんだがなあ。
 何があるかわからんのに」
「いやいや、象徴として乗っていただけるだけで士気があがりますからね。
 それと何かあるかも、なんて言わないほうがいいですよ?フラグです」


まさかあ、と笑いながら会場から出て宇宙港に向かう嶋田は後に述懐する。
あれはフラグだった、と。

829 :2号:2012/02/23(木) 12:30:44



【大和】第1区画CIC発令所


活気に満ち溢れた報告とホロ文書が飛び交い、
様々な数値や図形の表示された空間ディスプレイが野球ドームのような広大なCICの空中に投影されていた。


「第1から第28までの波動機関に問題なし。出力、全機60パーセントで同期」
「補機、相転移炉1番から20000番の試験運転終了。現在、出力5パーセントで全機運転中」
「主、副、予備の光量子演算回路に動力伝達、補正完了。跳躍演算機、診断モードから待機モードになりました」
「各斥力場推進器、重力波推進器、問題なし」
「艦載艇400万隻、規定港に接舷完了を確認。各作業用工作車の収容完了。隔壁閉鎖まで1分」
「表層の島級時空歪曲場発生装置の出力、臨界に達しました。ワープ準備完了まで約3分」
「あ、嶋田君?艦載艇と艦載機のバブルボードシステムのチェックは終わったから、
 ローソン君のCPSの方に私も・・・あ、なにウーノ邪魔?やめプツッ・・・」
『集合神社の霊子精霊群による航海安全祈願、完了でちゅ』
『はなまる』『よくできました』『やったね!』
『がお~ん♪』
「おお、チェックが終わったか千早。今日も可愛いな」
「・・・AIと戯れてないで、新城君報告を」
「はっ嶋田閣下。準備完了、いつでもワープ行程に入れます」
「ん。殿下これより発進します」
「よしなに」


嶋田が人差し指で眉間を解し、隣のシートに腰掛ける女性に確認を取ると新城と呼ばれた強面の男に発進を命令、
さらに騒がしくなった発令所を見渡して、ふと左隣の空中に浮かぶ秋津洲が映るモニターを見て感慨に浸る。

その瞬間、CICが揺れた。

何重もの衝撃吸収処置が施されたため「揺れるはずがない」のに。
震度そのものは1か2程度のものだったがありえない事にどよめきがおき、
地震に慣れていない者は悲鳴を上げたり床にへたり込んでいる。
嶋田と隣の女性は平然としており状況を確かめるべく情報を呼び出し、
または慌てて駆けつけた護衛の男性や女性たちに対応する。このへんは地震に慣れた日本人の対応だろう。


「落ち着けっ!状況、知らせっ!」


嶋田のアップ映像と大声が全館放送され、静まり返るともう一度状況報告を促す今度は冷静な声が響き渡る。
その嶋田の冷静な表情と声に落ち着いたのかすぐに各所から報告が寄せられ始める。
異常なしだの食器が割れた、フィギュアが壊れただのと津波のように押し寄せてくる報告を捌いてゆく。
横から飛んでくる頼もしいものを見る視線を極力意識の外において情報を分析してゆく。
その結果ある結論が出る事になった。


「次元震が起きた?あのタイミングで?」
「ちょうどワープに入った時の事です。この為に目標座標がずれる可能性が高いという演算結果が出ています。
 それにしても絶妙なタイミングですよ。少しでもワープが早ければ問題なく目的地へ、遅ければワープ中止、と」
「よりにもよって・・・どこに出るかはわかるか?ローソン君」
「なんともいえません。別の恒星系へ飛ばされるのか?別の銀河に飛ばされるか?あるいは平行世界にでも?
 もしやタイムスリップでもしてしまうのか?簡単に言ってしまえば迷子ですね」
「はぁ・・・ワープアウトした先は宇宙怪獣の巣でした、という事もあるのか」


ワープアウトしてすぐに戦闘できるように第一種戦闘態勢を取らせて嶋田はため息をついた。
どこへワープアウトするかはまだ、誰にも、わからない。





余談。

とある運命が変わった場所。


巡察艦ゴースロス

現在、皇帝の孫であった翔士修技生と伯爵公子を伝令として連絡艇で送り出し、
人類統合体の突撃艦群と戦闘中の巡察艦ゴースロスは撃破の危機に瀕していた。


「っと揺れたわね。被害は?」
「くっ、いえ被害は受けていません。最後の一隻を撃破しました。これは・・・時空震?」


体勢を立て直した副長が空識覚器官を通して状況を把握、
顔を顰めながら艦長へ報告する。


「敵は撃破しましたが時空泡の許容限界に近いため速度が低下、迅速に近くの「門」に行くべきかと」
「そう、しょうがないわね。可愛い子供たちを迎えに行きたかったんだけど。まあ、帝都で会えるでしょう」


戦闘が終わった安堵と子供を心配する母としての感情を秘めながら矢継ぎ早に指示を出してゆく。

本来の物語なら死んでいたはずの彼女が帝都のそばにある白い巨大惑星に首をかしげる少し前のことであった。

830 :2号:2012/02/23(木) 12:31:22



ペラリと紙をめくる音が部屋に響きパタンという音の後、はあ・・・とため息が漏れる。


「星界の紋章、ね。ああ、真耶さんお茶の御代わりを」
「はっここに。嶋田様もどうぞ」


しゅぱっと誰もいない筈の女性の背後に現れ、隣の嶋田のお茶の御代わりまで淹れ一礼してまたしゅぱっと消える。
漫画やアニメの忍者そのものな行動のメイドさんを微妙な笑みで見送ってこほんとひとつ咳払いをして本題に入る。


「(霊力や気を使った術や生体強化が普遍化したとはいえビックリするから普通にドアから入ってくれよ。
 なんでいつもうしろから・・・こわいじゃないか・・・)
 え~殿下にも状況把握をしていただいた所で現在の周辺情報の簡単なおさらいを」


そういって空中ディスプレイに【大和】周辺にある構造体の映像を投影する。
そこには警戒態勢に入っているらしい巨大な構造体を中心に陣形を組んだ艦隊が艦首を【大和】に向けている。


「中央の構造体は彼ら、アーヴの帝都ラクファカール。電子精霊群を使って情報の収集と解析を行った結果、
 ハイド伯爵公子を迎えるために人員が派遣されたとのことです。
 今は「アーヴによる人類帝国」「人類統合体」「ハニア連邦」「拡大アルコント共和国」「人民主権星系連合体」
 これら5大国のそれぞれの言語、文化、習慣、宗教の調査を行っています」


嶋田の説明が終わるとメンバーはそれぞれ好き勝手にしゃべり始める。


「アーヴも人類統合体も自分達の主義主張を押し付ける抑圧的な所があるから、あんまりかかわりたくないなあ」
「ですね東条さん。ハニア連邦も移民大量に押し付けて併合とか中国とかソ連っぽい感じがしますし。
 外の連中からの呼びかけに応えず、帰還する為の座標観測に専念すべきかと」
「私としても係わり合いにはなりたくないんだが・・・生のアーヴは見てみたいな!!そして映画の被写体にっ」
『むっずるいっ私も彼らの技術に興味があるんだ!!私もあ、なにウーノだまってrプツッ・・・』
「・・・あ~欲望に忠実な人たちは放って置いて、
 南雲さんの言うとおり帰還に専念すべきなんですが我々が現れた事で結構迷惑はかけたようですので、
 おわびの意味をこめた手土産として量子変換していた物資や資源を使った限定的な技術交流でもどうかと・・・
 辻さんもそのつもりのようですし。いやがらせですかその義体は」


ジト目で見る嶋田に対して『天晴』と書かれた扇子で口元を隠しつつ、
ニヤリと笑う『赤眼蒼髪ショートシャギーの少女』。


「もちろん。ゼロ魔の『金髪巨乳エルフ』にしようかと迷いましたけどね。まあ、ともかく。
 2次元宇宙などに関する技術は宇宙怪獣対策に使えるかもしれませんから是非入手したいですね」
「(面倒な事にならないといいなあ)では、そういうことで」


こうして夢幻会のアーヴへの接触が決定された。


ちなみに、接触の為に近衛に属する儀仗用の有人タイプの量産型長門級戦艦(全長75キロ)が出発した所で、
ラクファカールに攻め込んできた人類統合体に攻撃されて嶋田の危惧どおり面倒な事になるのだが、
それは、また、別のお話。




新城さん・・AIアニマル『千早』の飼い主。魔王と呼ばれそうな顔だが可愛い物好き。仕事場ではかなり優秀。
真耶さん・・裕子殿下の御付のメイドさん。忍者検定特一級所持者。同じ特一級所持者の従妹がいる。
ローソン君・・約200年前、日本帝国領に漂流転移してきた3つのチームの内の某チームのエンジニアの子孫。
       現在は艦戦レースの倉崎エスタナトレーヒ所属。
ウーノ(?)に通信切られた人・・神様と名乗る存在に技術チートの能力をもらって転生したという、
                夢幻会でも珍しい経歴を持つ。外見はJSさん。
                自作の実体化プログラム製『ウーノ』の尻に敷かれている。ウーノは常識人。
ココア飲んでたり凡人っぽい雰囲気の人・・具体的な描写してないから大丈夫だよね?

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最終更新:2012年02月29日 23:09