573:弥次郎:2022/11/28(月) 00:00:52 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」8



  • C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア ビル 吹き抜けフロア



 突如として壁を割って、というか粉砕して出現した精肉屋に対し、九課の面々は即座に銃を向けた。
 すでに相手はこちらへの攻撃を行っており、もはややるかやられるかだ。その場の全員がそれを理解していた。
 幸いにして、懸案となりうる爆発物はすべて運び出されるか無力化されている。誘爆や誤射による爆発などはない。
処理が終わっているなら、遠慮なく弾を撃って戦うことができる。
とはいえ、それは単なる状況の要素の一つにすぎない。危険が減っているだけで、有利ではないのである。

「……」

 だが、精肉屋は瞬時に消えた。正確には、一瞬で身を低くして、中腰の体勢で移動したのだ。
 傍目には姿を消したように見えただろう。そのせいか、トグサは一瞬で標的を見失ってしまう。
 だが、義体化し、その一瞬の動きを終えた他のメンバーはその動きに合わせ、冷静に銃口の向きを編子することに成功していた。

『喰らえ!』

 そして、トリガー。バトーとボーマのライフルから吐き出された5.45mm×45弾は猛然と空間を進み、食らいつこうとする。
 だが、精肉屋はそれをギリギリのところで躱し、その手に持つ前装式銃を天井目がけ発砲した。

『バトー!』
『くそっ…!』

 傍目には普通の銃弾が撃ち込まれたかに見えたが、なんと天井の一部が崩落、重たい破片が降り注いだ。
ふざけた威力だ、と歯噛みする暇もない。バトーは射撃体勢を解除して回避に徹することを選ぶしかなかった。
 そして、さらにふざけたことに、精肉屋の拳銃はさらに連発され、的確に九課メンバーの頭の上の天井を破壊したのだ。
それも一瞬で、義体化しているかのような精密さと迷いのなさで、的確にこちらの動きを制限してきた。

『そっちに行ったぞ、バトー!』
『わかってる!』

 バトーの眠らない瞳は、信じがたいことに銃弾を剣で切り裂いて接近してくる精肉屋を捕らえていた。
 彼我の距離は一瞬で詰まる。ならばこそ、銃火器は役に立たない。天井の崩落を避けながらも、バトーは格闘戦に備えた。
引きつけながら片手でライフルを撃ちつつ、拳を構え、繰り出す。

「!?」

 腰の据わった鋭い一撃は、当たるかに思えた。実際、バトーの目は当たる直前まで捉えていた。
 だが、精肉屋はほんのわずか、バトーの義体化された拳一つ分だけを綺麗に体をずらし、さらに距離を踏み込んだ。
 ショートレンジからクロスレンジへ。大柄な体を持つバトーではやや不利になるその領域へと、一瞬で踏み込まれた。
まずい、とバトーの電脳化された脳は危険を察知するが、相手の方が速い。いつの間にか、相手の拳には武骨な塊がある。
それが何であるかはわからない。だが、ある種のメリケンサックのように見える。直感的に危険だと判断した。
 それはガラシャの拳と呼ばれるもの。極めて単純な鈍器。さりとて、人外の域に達している悠陽の筋力で使えば、恐ろしい凶器に変貌する。

「ぐぅ……!」

574:弥次郎:2022/11/28(月) 00:02:50 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 バトーが思った以上に重たい一撃が来た。殴られると判断し、とっさに衝撃に備えたのだが、想定以上だった。
 それどころか、バトーの身体がそのまま吹っ飛ばされ、壁まで叩きつけられてしまった。
 衝撃は体を襲い、義体化していても堪えられない重みと痛みが伴っていた。

「バトー!」
『大丈夫だ、生きてる!』
『カバーしろ、ワク!』
『了解!フラッシュバン!』

 なんて馬鹿力、と思いつつも、これまでの虐殺から考えてアレでもラッキーなくらいだとも理解する。
吹っ飛ばされたバトーは壁にめり込んだが、もがいて脱しようとしている。当然見逃すわけもなく拳銃が向けられるのを、何とか阻止しなくては。
 そのためにワクが投じたのは、スタングレネード。義体化していようが生身であろうが通用するそれを放り投げたのだ。
同時に通信でそれを告げると、自分たちはとっさに防御姿勢をとる。

「!」

 瞬間、炸裂。
 閃光と音響が相手を襲った。
 だが、まともに食らって動けないはずの相手は、なんと次の瞬間には襲い掛かってきたのだ。

『化け物めっ……!』

 精肉屋が襲い掛かったのは素子。とっさにライフルを構え、引き金を引こうとして、出来なかった。
 相手が手にした剣がなんと火を噴き、セブロC26Aを破壊したのだ。

『!?』

 銃を内蔵した剣。時代錯誤というか、もはやマニアックというべきもの。
 だが、驚愕しつつも素子は反対の手で対抗手段を引き抜いていた。コンバットナイフ。
原始的ではあるが、それでも未だに残り続けている装備であり、ツールとしてもつかわれるそれ。
銃を内蔵した剣に対して、自分の体目がけて繰り出されるそれに対応できるそれを、素子は一瞬の判断のもとに繰り出す。
 最初に生じたのは激突。
 銃剣---レイテルパラッシュと激突したコンバットナイフは、質量と使い手の筋力の差から押し負ける。
 だが、素子はそれを百も承知だ。押し負けながらも義体化した腕の筋力を瞬間的に開放、切っ先を逸らすことに成功する。
そして同時に、空になった手を精肉屋の腕に絡めつつ、もう一方の手でセカンドガンを引き抜いていたのだ。
拳銃を構えた状態での近接格闘、相手がそういう傾向にあると分かったからこそ、罠を張るようにしていたのだ。

 しかし、精肉屋---悠陽もまた尋常な人間ではない。力による強引な拘束ではない、むしろこちらの力を利用する柔術で動きを止められたと即座に察知。
無理に抗うのではなく、あえて捕まえさせるままにした。このクロスレンジで、相手ができることもまた制限されているのだ。

(逃げない……?しまっ……!)

 動きが妙にされるがままだということに素子が気が付いた時にはもう遅い。
 逃げようとしたが、生憎と自分で相手の動きを拘束しているため、自分自身も拘束されているに等しい。
 そして、振りかぶられた悠陽の頭が素子の顔面へと叩きつけられる。
 カインの兜に覆われたそれは、すでに十分な鈍器であった。無論衝撃は悠陽にも来るが、分かっているのだから耐えきれる。

「くはっ……!」

575:弥次郎:2022/11/28(月) 00:04:21 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

 反対に、唐突の衝撃をまともに食らってしまった素子はそのまま飛ばされた。
 顔を構成するパーツが形状を失う。いや、失うどころではなく、砕けて内部構造が露わになってしまった。
 脳核が収められている上半分は無事だが、下半分、鼻から下は顎のところまで形状を失っている。

「……」

 発声機能を失い、素子は声を出せない。ただ、呼吸音のみが生じた。
 そして、拘束から解放されたレイテルパラッシュが一閃、素子の腕と足を切り飛ばし、行動能力を奪う。
 一瞬だった。九課における最高戦力の素子が、一瞬で戦闘能力を失わされてしまったのだ。

「素子ォ!」

 バトーの絶叫と、そして攻撃。
 だが、それは悠陽にとっては恐ろしいものではない。
 次の瞬間には、身を晒して援護攻撃を選んだバトーに対し、教会の連装銃が向けられて火を噴いた。
 生じた結果は、これまた悲惨であった。元々獣を狩るものだ、義体化されている程度の人間に向けてよいものではない。
 破壊というか炸裂が発生した。障害物に隠れていたのだが、その障害物を容易く砕き、ついでにバトーの両足を持っていった。

 まずい、という認識は九課の側にはあった。
 相手が想像以上に手慣れている、いや、強すぎる。
 残っているのはワク、トグサ、ボーマだ。このまま抗っても、勝てるビジョンが見えない。
 どうする、と思わず視線を味方に送ったトグサが、次に狙われた。

「このっ……!」

 セブロC26Aが連射されるが、しかし、金属音と共に悉く弾丸が弾かれる。
 弾かれるのはわかっているから、逃げようとする。だが、足止めにすらならないし、近接戦闘で勝てる気もしない。
 だが、死への恐怖がトグサを突き動かす。義体化をほとんどしていない分、頑丈ではないし、いざとなった時に替えが効かない。
それをわかっているからこそ、必死に逃げようとしていた。そしてボーマとワクも、必死にそれを援護する。

「畜生……!」

 だが、援護むなしく、トグサは懐に踏み込まれた。
 拳銃も使えないわけではないし、ナイフがないわけではない。ただ、純粋に相手が速すぎた。
 トグサは死を覚悟した。あるいは、死ななくとも今の身体を失うことを。
 だから、せめて相手を目で捉え続けた。相手の姿を、動きを、そこから窺える意志を。

(……え?)

 そして、トグサは自分の身に迫るものに目をむいた。
 刀でもない、鈍器でもない、相手は何と素手だ。といっても中世のそれを思わせる鎧の手甲に覆われている。
素手というのは武器を持っていないと、そういう状態だったのだ。確かに素子の義体を破壊する硬度や強度はあるのだろうが、それは---

「ぐっ、あ……」

 そこまで考えた時、鋭い衝撃が二回胴体に奔って、その痛みと共にトグサの意識は急激に闇に包まれていく。
胴体の感覚がない。深く残る痛みだけが、身体を、脳を満たしている。動きが取れない、倒れる。
誰かが自分の名を呼び、銃を打つ音が遠くに感じる。倒れ伏した地面の硬い感覚さえも遠のいていき、ついに気絶した。
そこからは、トグサの主観的な記憶は、数時間後に医務室での覚醒を待つこととなったのだった。

576:弥次郎:2022/11/28(月) 00:05:11 HOST:softbank060146109143.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
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最終更新:2023年01月24日 09:37