65:弥次郎:2022/12/02(金) 23:44:02 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 攻殻世界SS 「曼殊沙華の来訪者」9
- C.E.81 C.E.太陽系 融合惑星 β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 郊外 開拓エリア ビル
九課の突入班の無力化を完了した悠陽は、次のステップに移る。
このまま夢を経由して戻っても良いのであるが、裏の事情を疑われないようにアリバイを作っておかねばならない。
「ふっ……」
ビルの吹き抜けを利用し、一気に地上一階まで飛び降りる。
かなりの高度があったが、空中での舞空術や滞空するための体術を使えば何のこともない。
そして、一階のフロアへ着地した瞬間から外部からの銃撃の嵐が悠陽を歓迎した。何のことはない、公安九課の地上班の迎撃だ。
「……」
この世界特有の多脚自律戦車である思考戦車と歩兵の水平射撃で、建物への被害も考慮せずに撃ち込んでくる。
弾痕からするに7㎜クラスの機関銃と歩兵の5㎜クラスのアサルトライフル。ちらりと見えた限りではグレネードランチャーやロケットランチャーも。
だが、悠陽クラスの剣士を相手取るならばこれの十倍は持って来いという話だ。少なくとも、もっと強力なのが必須だ。
配置も大体理解できた。設置したバリスティックシールドと遮蔽物を利用した防御態勢をとりつつ、こちらを包囲している。
(それなりに手心は加えるとしましょうか)
フロアに点在している柱の一つに素早く隠れ、武器を変える。
それは一振りの剣---否、それは剣のみにあらず、仕掛け武器---「シモン」と呼ばれた狩人の用いた武具。
銃器を使うことを忌み嫌った彼の用いた、異端ともいえる武器の一つである。
その本質は剣であると同時に、それが弓に変じるということだ。レイテルパラッシュ同様に血質に依存する武器でもある。
銃となればレイテルパラッシュもそうであるし、強力な武器はいくらでもある。そも獣を相手にするなら並大抵の武器ではないのだし。
とはいえ、本気で使ってはまずい相手もいるわけで、やはりというか手心は必要だ。
タタタタタ!
ババババババ!
射撃は相変わらず隠れている柱に突き刺さるが、それに怯えはない。
怯え、竦み、稚拙な行動に出ることこそが最も戦場では忌むべきことなのだ。
大胆にして、繊細に---闇雲ではなく、裏打ちされた判断と予測を踏まえることが重要。
そして、悠陽は静かに耳を澄ます。機銃にしろライフルにしても、リロードなどはしなくてはならない。
狙いを付け直したり、リロードしたり、あるいは配置を変える瞬間には音が変わる。発信源の方向と距離が変わるのだ。
もしもこちらを殺す気でロケットランチャーなどを使うならば、相応に相手もアクションを行わざるを得ない。
そして、ついに生じた一瞬の空白。リロードの後に、これまでになかった重たい音が発生する。
その音と同時に身構え、刹那で生じた発砲音を合図に悠陽は体を跳ね上げる。
「なっ!?」
九課の人員が思わず叫びをあげるのも無理はない。
垂直に飛び上がり、そのまま上下がひっくり返った状態で、弓を構えていたのだ。
だが、相手は丁度ロケットランチャーを撃ったばかりで、硬直が生じている。その間は十分すぎる隙だった。
一瞬でシモンの弓剣の弓形態から獣を狩る矢が飛んでいく。空中にいる間に連発されたそれは3発。
猛然と距離を喰らうそれは、バリスティックシールドを吹き飛ばし、タチコマの一機のボディに突き刺さって大きくへこませた。
そして、残る一発は地面を穿ち、砕き割り、破片を飛び散らせて視界を奪い、同時に破片で攻撃を放つ。
「うぉ!?」
悠陽は空中でくるりおt姿勢を整えると、次の遮蔽物となる柱に身を隠す。
より出入り口側に近づいた形だ。彼我の距離は狭まり、より互いの攻撃が当たりやすくなる。
同時に、次の隙を作り出すために、手にした銃器を、その砲口を向けて噴射した。
「!?」
息を飲む音が聞こえる。当然だ、火炎放射器など埒外であろう。
獣を焼き尽くすためのそれ。生憎とここではさほど威力は望めない。
それでも、威圧効果はある。同時に派手な炎が展張することにより視界を覆い隠すことができるのだ。
一つ息を入れ、十全に動けることを確認し、悠陽は飛び出す。それは、獣を狩る獣の動き。俊敏に遮蔽物の合間を縫い、エントランスを突破。
ダダダダダダダダ!
66:弥次郎:2022/12/02(金) 23:44:47 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
慌てた動きで、射撃が飛んでくるが怖いものではない。
エントランスを駆け抜けながら放った矢で相手の腕を射抜き、ついで、こちらにグレネードランチャーを向けた相手に牽制の一矢を放つ。
回避されることは見越していたので、次の矢の準備は整っており、つがえて引き絞ろうとした。
(……!?)
が、その動作は途中で中断せざるを得ない。同時に素早く身を翻して回避行動をする。
上空からの対地射撃が雨霰の様に降り注ぎ、悠陽を貫かんとしたのだ。
(武装ヘリに、ジガバチ……!)
独特の、ハチを思わせる造形の対地攻撃ヘリが30㎜という銃弾を叩き込んできたのだ。
こればかりは躱す必要がある。ライフル弾とは比較にならない重い銃弾を、上下左右に素早く移動することで照準を絞らせない。
センサーは悠陽の動きを追ってはいるものの、軍用サイボーグさえも凌ぐその俊敏さにはさすがについていけない。
そうしている間に、悠陽は手の武器を火炎放射器から貫通銃へと変え、今にも放たれようとしたロケットランチャーを的確に打ち抜く。
当然、内部構造を破壊されたそれは、炸薬などに引火し、刹那の間に爆発する。それこそ、ジガバチの姿勢が揺らぎ硬直するほどに。
そして、その隙さえあれば、悠陽には十分。晒された回転翼部分を銃弾が貫通し、破壊してのけたのだ。
「馬鹿な……!?」
手持ちの銃火器でジガバチが落とされる。それは九課の隊員のみならず、この世界の住人にとっては異常だ。
個人携行可能な武装では早々に落とせないのが対戦車自動爆撃ヘリ「ジガバチ」。堅牢な装甲と俊敏性を持ち合わせ、地上のユニットにとっては脅威。
それをただの銃だけで撃墜した?何の冗談だ。悪い夢でも見ているのか。目に侵入されたのかとまで疑う。
しかし、それは紛れもない事実だ。ヘリの装甲とヤーナムにたむろする獣、どちらが頑丈であるかなど語るまでもないことだ。
そして、そんな混乱をよそに悠陽は包囲網を突破する。
他のジガバチやヘリに矢を射かけて武装などを潰すと、流れるように武器を剣へと変形させ、なおも追いすがるタチコマを処理する。
元々対人戦くらいしか想定していないとはいえ、容易く思考戦車の装甲を切ったのだ。これにはタチコマのAIも驚愕するしかない。
「待て……!?」
包囲を突破し、信じられない俊足で駆ける悠陽に追いすがろうとした隊員たちだったが、即座に遮蔽物に引っ込むことを余儀なくされた。
放り投げられたのは、いくつもの手榴弾だった。悠陽が殲滅したテロリストから拝借した、対サイボーグ想定の強力なモノ。
置き土産の様に放り投げられたそれは、十個近くに及んでいた。当然、突っ込んでいけるほど無謀な人間はいなかった。
「……逃げられたか」
そして、爆発が収まり、爆炎と煙が晴れたころには、あれほど暴れまわった悠陽の姿は---精肉屋の姿はどこにもなかった。
既に損耗と負傷者を抱えている九課にとってはこれ以上の追跡などは不可能な状況であり、出来たのは救援要請を出すことだけであった。
感服無きまでの、敗北。
公安九課が、ついに接触したテロリストを狩るテロリスト「精肉屋」との対決で得たのは、敗北の二文字であったのだった。
67:弥次郎:2022/12/02(金) 23:45:30 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
- β世界PRTO領域内 海洋都市群「カナン」 攻殻日本国 臨時首都東京 九課オフィス 課長室
荒巻は沈んだ表情で報告を受け取った。
テロリストの捕縛に投入されたのは、九課の抱える戦力でも精鋭。
元々九課が追いかけていたテロリスト集団「紅のS」は、ビル内部で構成員の全員の死亡が確認された。
残されていたデータからサルベージされた情報と、大量にあった肉片から回収された情報から得た結果だ。
また、「紅のS」の保有していた武器などは押収され、さらにテロのために用意されていた爆弾なども無力化あるいは回収に成功していた。
結果的に言えば、九課はテロリスト集団の一つを当初の目的通りに壊滅させることに成功したのだった。
「……」
だが、それを素直に喜べる状況ではないことを荒巻は理解していた。
壊滅させたとはいっても、それは「精肉屋」がやったことである。
そして、その「精肉屋」に関しては捕縛を試みたものの、相手から先手を打たれたとはいえ、まるで歯が立つことなく、逃走された。
如何に相手が義賊の如くテロリストを狩っていると言ってもそれはれっきとした犯罪である。
故にこそ捕縛を試みたのであるが、蓋を開けてみれば、九課の精鋭部隊がまるで歯が立つことなく蹴散らされた、という結果を得た。
幸いにして死者はいない。負傷者あるいは義体が破損した隊員はいたが、時間さえかければ復帰できるということだ。
しかし、そんな幸運も失態を覆い隠すものではない。ジガバチや武装ヘリまでも撃墜されたし、九課はしばらくの間戦力ダウンだ。
嘗てと違い、精鋭だけを集めた少数チームではなく、少数精鋭と数を補うメンバーという構成だからこそ、活動自体は続行できる。
それでも作戦を承認し、指示を出した荒巻としては責任を感じるしかないのだ。
どこかで情報が洩れ、その結果として稀少な人材を失うところであったという事実に変わりはない。
組織の防諜体制の見直し、活動できる人員への仕事の割り振りの見直し、負傷した隊員の復帰までのスケジュールの策定---やるべきことは多い。
ただでさえ、煌武院外交官の護衛という仕事を抱えているのだ。これに支障をきたすことは許されず、また九課本来の仕事もあるのだ。
(九課を信頼してくれた内務大臣や総理には言えないが……荷が重すぎる)
それが、偽りのない荒巻の思い。
今回の件で「精肉屋」に関する情報が少しでも手に入っているならば、少なからず意味はあったと言えるが、そうでなければ---
(……らしくないな)
感傷に浸りすぎた。
それで現実が変わるわけでもないというのに。
ともあれ、目下の行動指針は決まっているのだから、それを実行していくのみだ。
「精肉屋」の案件も重要だが、同時に煌武院外交官の方にも力を注いでいかねばならない。
殊更に草薙素子たちが義体の修復などで戦線離脱をせざるを得ないのであるし、そのことも報告せざるを得ないだろう。
ややあって、複雑な感情に一区切りをつけた荒巻は、自分の仕事をするべく動き出したのだった。
68:弥次郎:2022/12/02(金) 23:46:04 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ドンパチパートは終わったので、これから推理パートですかねぇ!↑
しかし、これ悠陽視点がない映像作品とかだと本当に九課の窮地ですよなぁ
我々はこれがそういうものとわかっていますが、本人たちはクソ真面目に対応しているわけですから…
今回の殿下の装備は趣味です、趣味です(大事なことなのでry
最終更新:2023年06月01日 23:10