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憂鬱SRW ファンタジールートSS 「1944年9月、ペテルブルクにて」(修正版)



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 主観1944年9月 オーラシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地 ブリーフィングルーム



「納得いかねぇ」

 その声は、強い苛立ちを込めてテーブルにたたきつけられた拳と共に発せられた。
 声の主は扶桑皇国から502JFWに派遣されているウィッチ、管野直枝であった。
 朝に開かれる定例のブリーフィングにおいて、その事実は改めて502JFWの主戦力たるウィッチ達へと通達がなされたのだ。
 即ち、雁淵孝美の戦線離脱とそれに伴う戦力の空席の発生。そしてそれを埋め合わせるためのウィッチが一週間後に赴任するということである。

「どうして素人を派遣してくんだよ」
「落ち着け、管野」

 ラルは直枝を諫めるが、彼女は知ったことじゃないと鼻を鳴らす。

「孝美が離脱ってのはしょうがねぇ。やりあっていりゃ、怪我だってするしそれで離脱ってのもあるだろ。
 けどよ、孝美の穴埋めが繰り上げ卒業のペーペーってのは納得できねぇ」

 それは純然たる事実だ。ここは最前線にして、激戦区を任される部隊だ。必然的に精鋭が必要となる。
だからこそ実力のあるウィッチを各国から集め、編成し、戦闘団を結成してネウロイ相手の戦争をやっている。
そんな場だからこそ、足手まといになりかねない人材などいらないのだ。そのウィッチのみならず、隊を危険にさらすことになる。

「まだ派遣が決定されたわけじゃない。
 先ほども言ったように、訓練の後、実力を見たうえで決定される」
「んなの悠長に待っていられるかよ!それによ、一週間で変わるわけねぇだろうが!」
「カンノ、ちょっと落ち着いて……」

 隣の席に座るニッカ・エドワーディン・カタヤイネン---通称「『ツイてない』カタヤイネン」ことニパはそれを咎めた。
憤るのもわからなくもないのだが、上官相手にあんまりな態度と言動だ。実際、直枝の発言を目を閉じて聞いているラルは眉間にしわを寄せていた。
 だが、そんな程度で大人しくなるほど直枝は冷静ではいられなかったのだ。

「……言葉には注意しろ。
 それと、これは決定事項だ。一週間程度の訓練で篩にかけ、それでも駄目なら本国へ送還。
 502JFWに相応しい実力を身に着けていたなら配属になる。まだ保留段階ということ。
 これについては一介のウィッチが意見する権利は一切ない」

 これは政治も絡むからな、とラルは断言した。
 実際のところ、政治的力学が働いた。扶桑皇国から来たウィッチが502JFWに派遣されてくることが重要であって、腕前は余り斟酌しない。
統合航空戦闘団とは、各国が協力し合うことで結成され活動するが、それはどうやっても各国の思惑に左右されるのだ。
人員の補充ひとつをとっても、非常に繊細な判断が求められることになるのだ。故にこそ、直枝に口を挟む権利などない。

「それに、雁淵ひかり軍曹の教官を務めるのは、管野も知っているウィッチだ。
 リーゼロッテ・ヴェルクマイスター大佐。彼女とその麾下にいる実力者が教鞭をとり、鍛え上げると決めた」
「……ッ!」

 その名前に、直枝は表情を歪めた。何かを言いかけたようだが、結局口を閉じることを選んでいた。
 その様子を見て、ラルはリーゼロッテの助言が、自分の名前を出して説得しろという言葉が、見事に正しかったと実感する。
扶桑皇国において、直枝はリーゼロッテからの教導を受けていたと聞いていた。割と直情的な彼女も勝てない相手とよく理解しているのだ。

530:弥次郎:2022/12/28(水) 20:48:00 HOST:softbank060146109143.bbtec.net


「隊長」
「どうした?」

 ついで挙手をしたのは、アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉。仲間からはサーシャと呼ばれるウィッチであった。

「その、雁淵中尉の妹さんの実力は、それほどに足りていないのでしょうか?」

 その問いにラルは迷うことなく断言した。

「ああ。これはヴェルクマイスター大佐も認めていたが、実力は足りていない。
 先ほど皆に配った書類にもあるように、彼女は扶桑の訓練校を繰り上げ卒業したウィッチだ。
 本来ならばここではなく、スオムスのカウハバ基地へ派遣される予定だった。忌憚なく言えば、後方勤務で経験を積むための卒業だった」
「ええと……つまり」
「はっきり言えば、502JFWに来る人材ではないですね。
 訓練校時代の成績を見ても、彼女がとびぬけて優秀というわけでもないようですし、志願が通った結果、相応の配属先が用意された程度です」

 困り顔のサーシャに、バッサリとロスマンがぶった切った。
 彼女は扶桑からティル・ナ・ローグを経由して回されてきたひかりの経歴などに目を通しており、そのように判断していた。
歴戦のウィッチであり、502JFWにおける指導教官も務める彼女のお墨付きとあれば、その信頼性は嫌でも高かった。

「ですが、あのヴェルクマイスター大佐が目を付け、そして自ら鍛えると決めた。
 この事実は余りにも重たいのです。そうですね?」
「そういうことだ」

 そう、それだけの実績がリーゼロッテには存在していた。
 それに加え、このストパン世界各国に援助を行う地球連合という国家連合の後押しを受けているのが彼女なのだ。
リーゼロッテはその地球連合においては影響力を持ち、またストパン世界において権力を預けられている人物でもある。

「生々しい話ではありますが、502JFWの現状を支えているのも地球連合。
 その地球連合が言い出せばそれを拒否できませんしね」
「ああ。ストライカーユニットをはじめとした兵器や武器弾薬。このペテルブルグの防衛設備。
 この基地の福利厚生にかかわる施設とスタッフ。さらには『オーカ・ニエーバ』まで……我々には受け入れざるを得ない」

 その言葉に思い当たるところがあるのか、誰もが口を噤んだ。
 502JFWは、501JFWがそうであったように、多くの支援を受けているのだった。
 補給もそうであるし、ペテルブルグの防衛設備---市街地や軍事基地を守るエーテルバリア設備や迎撃システムなどは連合が設置していったものだ。
対空監視レーダーの充実もあり、ネウロイの行動をいち早く察知し、行動に移せるようになっているのは誰もが知っている。
ここにいる面子はすでに慣れっこになっているのであるが、即応力が高いのはほかならぬ地球連合のおかげなのである。
 だからこそ、地球連合が持つ統合航空戦闘団への発言力というのは大きいのだ。

「ともあれ、雁淵孝美の妹である雁淵ひかりの実力を確かめる試験はおよそ一週間後に行われる。
 それまでの訓練についての情報もこちらに送られることになっているから、それも合わせて、各員には確認をして判断してもらいたい」

 それは、とラルは言った。

「私やエディータは試験の評価を行う。
 同時に、皆にも判断してもらいたい。彼女が、雁淵ひかりが本当に実力を有しているかを」

 決して政治だけではない、本当に使える人材に来てほしいというラルの意志の表れであった。
 彼女らは人類の希望。ネウロイに立ち向かう力の持ち主。ウィッチなのだから。

531:弥次郎:2022/12/28(水) 20:49:17 HOST:softbank060146109143.bbtec.net
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最終更新:2023年11月03日 11:05